第一話「神様、世界をひっちゃかめっちゃかにする」
◇
どもー、どもども、えっと確か君の名前は神崎隆浩君だよね。
はじめまして、この世界の神様やってるものです。
「……は?」
まあ、そうだよね。その反応が当たり前だよね。
状況を説明してあげよう。
君は約70億人いる人間の中から僕が選んだ、『選ばれし存在』!
やったねぇ~
選ばれし存在、だよ
かっこいいねぇ
憧れちゃう、神様これにはさすがに憧れちゃうよ
そんで、選ばれし君には―
「ちょ、ちょっと待て!」
ん、どうしたの?
あ、ちなみに頭の中で会話できるから。
この神様の声は君にしか聞こえないから、そのままだと一人で喋ってるカワイソウナ人になるからね。
(こ、こうか…)
そうそう、ばっちりだよ。
いやー、君けっこう早く順応するね。
普通ならもっと慌てふためくと思うんだよねー。
まぁそれはこっちとしても好都合だ。
流石、選ばれし存在!
そんでね、君にはこれから君の人生をモニタリングするからよろしく。
以上、状況説明終了!
(………え?)
君の人生はこれからずっとモニタリングするんだ、よろしく。
(待て待て待て!どういうことだよ、モニタリング?)
そうモニタリング。
あれこういう場合、モニタリングでいいのかな。
うーん、砕けて言えば『24時間365日監視生活』って感じかな。
(いや、いやいや、待て、待ってくれ。冷静にさせてくれ)
うん、いいよ。
(これは夢か?)
違います、現実です!
とはいっても今は君の夢の中にいるんだけどね。
夢が覚めてからモニタリング生活スタートだ。
(…冗談だよな)
冗談じゃないよ、マジだよマジ。
超大真面目。
(俺のプライバシーは?)
無いよ。
(なんでだよ!おかしいだろ、誰もが当然にある権利だっていうのにそれが無いのかよ)
うん、無いよ。
だって僕神様だし、そんな権利知らないもん。
(あんた本当に神様かよ!そうだよ、そもそもあんた本当に神様かよ!これは夢なんだろ、こんなの現実であってたまるか!)
まあ信じられないよね。
でも本当に現実でそうなるから、よろしく。
今のうちになんか質問する?
(ちょっと待て、待て!俺に拒否権は?)
無いよ。
(なんでさも当然そうに言うんだよ!なんで拒否権無いんだよ!!)
だって僕神様、君人間、イコール君の権利は無し。
以上。
(以上、じゃねぇよ!いい加減にしろ!)
ああ、ごめんごめん。
でも君にとってはこれからの人生ハッピーになること間違いなし!
(どこがハッピーなんだよ!24時間365日監視生活のどこがハッピーになれるっていうんだよ!)
あ、そうだ大事なこと伝え忘れてた。
これから僕の台本通りに君が動いてくれれば君の人生は大成功間違いなしだ。
石油王にだってなれるよ?
(せ、石油王…だと?)
そう、石油王。
そうなったらお金に困ることも無いし、世界中の可愛い女の子だって君の思う通りさ。
どうよ、かなり魅力的でしょ?
(……でも24時間365日監視生活なんだろ?)
もちろん。
(…もうちょっと詳しく聞いてもいいですか、神様?)
お、興味湧いてきた?
しかも急に敬語だし。でもいいよ、神様自分の欲望に忠実な子は大好きだよ。
神様、いまなら赤字覚悟で何でも答えちゃうよ。
(モニタリング生活ってことは誰かに俺の生活を見られるってことですよね?)
そうだね。
ああ、君の生活を見る対象が誰なのかを知りたい?
(はい)
了解。
ちょっと待ってね。
……
…
あ、もしもし。いつもお世話になっております。
第128634287621238642388975483783268123683158378番目の世界管理者の神です。
今、お時間よろしいですか?
はい、実はですね、『神様が俺の世界をひっちゃかめっちゃかにしてもう訳が分からない』の対象となった彼が誰にモニタリングされるかを確認したいということでですね。
はい、……はい。
ああ、あの資料に確認事項の項目がありましたか。
はい。はい。
あー、そうですか。
承知いたしました。はい、ありがとうございます。
はい、では失礼いたします。
あははは、そうですね時間があればまた一杯。
はい、では失礼いたします。
……
…
ふぅ、お待たせ。
(………今電話してましたか?)
そうだよ。
あ、あった。
えーっと、267ページね。
267、267っと
(なんですか、『神様が俺の世界をひっちゃかめっちゃかにしてもう訳が分からない』って?すごいラノベみたいなタイトルでしたが?)
んー、あー、ごめん、それには答えられないみたい。
でも観察する側の対象は教えていいみたい。
えっと、なんだよ、それに対応しているページが載ってないじゃん。
つっかえんなぁ、誰だよこの資料作成したの?
(もしかしてこれラノベなんですか?)
ごめんよ、それには答えられないんだ。
あ、あった。23ページ。
えっと、『観察対象の世界とはまた別の世界に存在する不特定多数の人間』だって。
少なくとも君の世界、じゃなくて僕の世界の住人には見られないみたいだよ。
(……分かりました。色々と聞きたいですがかえって怖くなりそうだからいいです)
ほんとう?それだけでいいの?
まあ、また機会があれば説明してあげるよ。
それじゃあ、あと数分で君はこの夢から覚める。
それでモニタリング生活スタート。
おっけー?
(……はい)
◇
「……ん、………くん、」
「んぁ?」
「タッくん!もういつまで寝てるのよ!!遅刻しちゃうよ!」
「………は?」
(ちょ、ちょおおおおおおおおお、神様、神様!!)
んー、どうしたの?
(だれですか、この子?)
君の幼馴染の宮下晴海ちゃんだよ。
(誰だよ!!全く知らないよ!幼馴染なんて俺にはいないぞ!!)
うん、そうだね、いなかったね。
「ほら、タッくん。ボサッとしてないで早く着替える!」
だって君、女っ気が全くないじゃん。
だから神様から素敵なプレゼント。
女の子の幼馴染なんて素敵じゃん?
(うそおおおおおおおおおおお!)
「タッくん!」
(この子はいったいどこから連れてきたんですか!)
連れてきたも何も、僕がさっき作ったんだよ。
ああ、それに合わせて世界もいい感じに改変しといたから。
(なんじゃそりゃああああああ!!)
「タッくん!!」
「うるせぇ!今こっちは大パニックじゃ!少し黙ってろ!」
「ひうっ!」
あー、いけないんだ。
女の子相手に怒鳴ったよこの人。
(うるせぇ!怒鳴らせるような状況を作ったあんたが悪いんだろうがよ!)
えー、責任転嫁?
怒鳴ったのは君の方じゃん。君が悪いのは明確ですよ?
「あ、あの、ご、ごめ…んね、ごめんねタッくん」
ほら、晴海ちゃん今にも泣きだしそうだよ?
かわいそー。
毎朝起こしに来てくれる女の子なのに、なかしたー
さいてー
(毎朝じゃねぇよ!昨日まで自分一人で起きてたわ!!目覚ましで起きてたわ!!)
そんなことより、謝りなって。
いつまで晴海ちゃん放置しておくの?
(う、それはそうだな)
「え、えっとごめんな。急に怒鳴ったりして」
「う、ううん、私が悪いの。勝手にタッくんの部屋に入ったりして。それじゃあタッくんも驚いて怒鳴りたくなっちゃうよ。でもでも、私は毎朝タッくんを起こすのが日課。毎朝タッくんの可愛い寝顔を見ないと元気が出ないの。だからこの日課を止めろなんて言っても私は止めない。それがタッくんのお父さんでもお母さんでも中島君でも小雪ちゃんでも絶対に止めたりはしないんだから。あ、でもタッくんが本当に嫌だったらそれはちゃんと言ってほしいな。私タッくんに嫌われちゃったらもう生きていけないもの。そうだそうだ、今日私お弁当作ってきたんだ。タッくんの好きな唐揚げにサトイモ。あと炒めたピーマンにコショウをかけたものがあるからね。タッくん全然お野菜食べないんだもん。ちゃんとお野菜食べないと体が弱くなっちゃうよ。今日は絶対にピーマン食べてもらうんだからね。そうそう、昨日お弁当の材料を買うのに商店街のお肉屋さんに立ち寄ったのね。ほら、中島君のお父さんとお母さんがやってる中島精肉。あそこのお肉すごく美味しいんだよ。だからお弁当の材料として買ってきたんだ。あれ、話が脱線しちゃった。いつも私ったらお話し脱線しちゃうのよね。それでねお肉を買おうとして中島君のお母さんと少しお話しちゃったの。それで中島君のお母さんったら「あれ晴海ちゃん。タカ坊にまた弁当作ってあげるのかい?幸せもんだねタカ坊も、こんな綺麗な女の子の手作りお弁当を食べれるなんて。早いことタカ坊の胃をゲットするんだよ」って言われちゃったのー。ねえねえ、もう私の料理はタッくんの胃をゲットできたかな?タッくんのお弁当を作り始めてもう三年になるけど、もうタッくんの胃は私の料理にメロメロかな?あとできちんと私のお弁当食べてね。それとできれば感想が欲しいな。あ、ごめんね、いっつも美味しいよって言ってくれるのには本当に嬉しいの。でももうちょっと感想が欲しいの。いっつも美味しいだけの感想じゃ不安になってきちゃうの。本当に私のお弁当は美味しいのかなって。あ、ううん、違うの。タッくんが悪いって言ってるんじゃないの。ただ、具体的な感想が欲しいの。もっともっとタッくんに美味しいって思ってくれるようになってもらいたいの。だからこれは少し味が薄かったなとか、この揚げ物の衣がいつもよりサクサクで美味しかったとか、どんなに些細な感想でもいいの。お願いね、タッくん。あ、そうだ今日、数学の授業あったよね?ちゃんと宿題やってきた?もう数学の先生ってばいっつも在りえない量の宿題だすよね。やってなかったら私の写していいからね。本当はいけないけど、タッくんが困ってたら私としては見放すことなんてできないから。たとえタッくんが多額の借金があってもお金に苦しんでも絶対に私は見捨てたりはしないからね。だから、だからね。えっと、あ、あのね。だから私、た、タッくんも私から、は、離れてほしくないな、なんて…覚えてる?私が5歳の時、公園で男の子たちに私が大切にしていたお人形さんに酷いことしていたこと。それをタッくんが男の子たちから奪い返してくれて、私に返してくれたこと。本当に嬉しかった。かっこよかったよ、タッくん。だからね、私はタッくんが辛いこと、悲しいことが起こったとき、絶対私に相談してね。私も一緒に考えてあげるから。だって私、タッくんの一番でありたいの。私の中でタッくんが一番であるように、タッくんもタッくんの中で私が一番であってほしいの。ああ、ついに私言っちゃった。そう、そうなの。私はタッくんが好き。大好き。この世界中の誰よりも愛しているの。たとえタッくんのお母さんがタッくんを愛している以上に私はタッくんを愛しているってはっきりと言えるわ。だっていつでもタッくんの事しか考えられないんだもの。タッくんはこんな重い女いやかな?確かにいつでもタッくんの側にべったりはおかしいよね。私でも分かっているの。朝タッくんを起こして制服に着替えるのを手伝ってあげて、顔を洗うのも、寝癖を直すのも私がやってるよね。それに朝ご飯も一緒に食べちゃってるね。でもそれはタッくんのお母さんが言うんだから仕方ないよね。未来の私のお義母さんだもん。それから学校に登校、クラスの座席も隣だなんて私は運命だと思ったわ。私とタッくんの間には切っても切れない赤い糸が結ばれているんだわ。あと、選択授業が偶然一緒だなんて思いもよらなかったわ。そしてその選択授業でも席が隣だもんね。うふふ、赤い糸って本当にあるのね。授業が終わったらいつもの屋上で私と二人っきりのお昼ご飯。さっきも言ったように私のお弁当の感想も聞かせてね。お昼ご飯が終わったら、タッくんいつも眠くなっちゃっうんだよね。それでいつも私の膝枕で寝てくれる。全然迷惑じゃないからね。むしろまたタッくんの可愛い寝顔が見れてとても幸せなの。いつまでもそうしていたいけど時間って残酷よね。そんな楽しい時間もすぐ終わっちゃう。でも午後の授業が終わればまた私の楽しい時間。タッくんと一緒に下校。あ、そうそう今日寄り道してもいいかな?今日開店するアイス屋さんがあるんだって。そこでアイス食べていきましょう?え、また太る?もう!女の子に向かって何てこと言うのよ!そういうデリカシーの無いタッくんは嫌いよ。あ、ごめんなさい嫌いなんて言って。信じてほしいの、嫌いって言っても全然嫌いじゃないからね。さっきも言ったように私はタッくんが世界中の誰よりも愛しているの。それに嘘偽りなんてないから。それこそ神様に誓ってもいいわ。私の命を賭けてもいい。私はタッくんが世界中の誰よりも一番好き。私はタッくんが世界中の誰よりも大好き。私はタッくんが世界中の誰よりも愛している。だからね、タッくんも言ってほしいな。私の事を好きって。あ、ごめんなさい。強要するつもりはないの。タッくんが私以外の誰かを好きになるのもしょうがないこと。ただ、覚えておいてほしいな。私がタッくんを愛していることを。な、なんか少し暗い話になっちゃったね。ごめんねタッくん。ああ、大変!もうこんな時間。タッくん、学校に遅刻しちゃうわ!私先に部屋出るね。家の前で待ってるから、早く来てね」
「………」
………
(………)
………
「………」
………
(………)
……さあ、タッくん。学校に遅刻してしまうぞ。
(さらっと流してんじゃねーよ!!!!!!なになになになに、さっきのアレなに!?怖い、怖すぎるんだけど!!!!)
うん、……
あれはちょっとヤバいわ。
神様でもちょっとチビッタ。
(あれ、下手すると俺死ぬ可能性あるよな!!なあ、その可能性あるよな!!?)
うん、ありまくるね。
少しでも選択をミスるとBADEND直行だと思う。
(ふざけんじゃねぇよおおおおおおおおお!!!!誰があんな核爆弾みたいな幼馴染を欲しいって言ったよ!!)
核爆弾どころの話じゃないね。
あれブラックホール爆弾だありゃ。
(光の速度で逃げても絶対に捕えてみせるってか、やかましいわ!!!!どうすんだよあれ、人の生死がかかってるんだぞ!!!というより、俺の命がかかってるんだぞ!!なんとかならないのかよ神様よ!!!)
あっれー、っかしいな。あんな変な風に設定したつもりはないんだけどなぁ。
なにミスったんだろう。
(少し落ち着こう。全然落ち着けないけど落ち着こう。神様、お願いします。このままだと俺はそう遠くない未来で死んでしまう。この際、神様の世界改変の力を頼るしかない。登場させるならもう少しましな幼馴染を登場させてください)
うん、それには全面的に同意するよ。
僕も血みどろ展開なんて見たくないからね。
それじゃあ世界を改変するよ。
もう一度君が起きたところからやり直しになるけどいいかい?
(全然いいです。むしろしてください)
オッケー、オッケー。
次はまともな幼馴染を用意するから。
期待しといてね。
レッツ、ゴー