子猫のキセキ
どうも、いらっしゃいませ
私、キセキ屋をやっている、ノリアキと申します
お代は、あなたの幸せと笑顔
飛んだお人好し気取りだって?
ふふふ、まあ、そうでしょうねぇ、綺麗事なんて、この世のなんの役に立ちませんから
キセキは自分で起こす物だって?
そのとうりですよ、私は気まぐれ、つまり、まあ、私を引き寄せるものがキセキを起こせるのです
そう、つまり奇跡が起こるかどうかは…
私の気分と、あなた次第なのです
さて、ここからはあなたに、私が売ってきたキセキをご覧にいれましょう
あなたも、キセキを見てみたいでしょう?
あなたが、人がキセキを起こして、幸せになっているところを見たいと思ったなら
あなたも、私と同類ですよ
…話が逸れましたね、まず最初にご覧に入れるのは、とある猫と少年のお話
さて、今回はどんなキセキが起こるのでしょうか?
〜The beginning of the miracle〜
目の前に見つけたのは、まぎれもない一つの命だった
もう、俺は一人のまま生きていくものだと思っていた
このまま孤独に死んでいくと思っていた
雨を防いでいた傘を離し、すっと一つの命を抱き上げた
びしょ濡れだ、俺も、こいつもそれなのになぜだか、暖かい…
道端に捨てられていた黒猫を拾った
それだけのことなのに、なぜか今まで自分の中になかった、幸せがこみ上げてきた
家に帰り、体を洗ってやった
実はなんでいきなりこいつを家に連れてきたか、自分でもわからず戸惑っている
引力、というものだろうか
「家族が一人増えた、か…」
いきなり勝手に連れてきて、こんなこと言う自分があほらしい
ふと、向こうでうろちょろしていた黒猫がこちらに来て、膝の上に座った
「人懐っこいな、こいつ」
家族を無くして、友達もいない俺にとって、この温もりは、久しぶりに感じるものだ
「名前は、どうしようか…」
わざとらしく悩む、実はもう出会ったときから決めていた
「うん、お前の名前は『マキ』だ」
久しぶりにこの名前を呼んだ
前に呼んだのは、二年ほど前だっただろうか
あまり、よく覚えていない
と、言うか、思い出したくない
「もう、失いたくないもんだな」
マキの頭を撫でて、そう呟いた
次の日、休むわけにもいかないので、マキを置いて、近所の高校に向かった
「マキ、行ってくるな」
その響きは、俺の心に響いた
『行ってらっしゃい』
そう、聞こえたような気がした
退屈な高校が終わり、走って家に帰った
いろいろ準備はしておいたが、大丈夫だろうか?
「ただいま」
また、懐かしい響きの言葉を言って、走ってマキの方へ行く
「ニャー」と鳴くマキの姿を見て、ホッとした
「いい子にしてたな」
また、鳴いたマキの頭を、撫でくりまわした
その日から、俺が無くしていたピースをはめてパズルを作っていくように、毎日が過ぎていった
そしてある日、妹の、命日の日
俺はお墓の前でしゃがんで、一人で、花を片手に、泣いていた
「マキ、マキ…」
涙をこぼしながら、名前を呼ぶたび、ニャーと声が聞こえる
そっと、マキを抱きしめた
俺が、守れなかったマキを、また、守るんだ
もう、こんな思いはしたくない
一つの大きなピースが、おれの心にはまった
…でも、そのパズルは完成しなかった
「マキ!」
赤信号に突っ込んできたトラック
そして、その前を歩くマキ
あの時の、妹の、マキを守れなかった時の景色が、目の前を埋め尽くした
『マキ!マキ!』
あの時の、守れなかった、守らなかった俺が
、妹の名を呼ぶ
頭から血を流し、倒れる妹は、もう…
もう…こんな思いを、したくないんだ
決めたんだ
「マキッ!」
体が、勝手に動いた
マキの体を抱き、そのまま…
起きた時、そこは病院だった
「マキ…?」
意識を戻してすぐに、俺はそう呼びかけた
返事は…なかった
それから一週間、入院生活が続き、やっと、病院から出ることができた
「また、一人か…」
路地裏に入った時、そう呟いた
『一緒にいた猫は!?』
看護婦さんや、警察の方に聞いても、なにもわからなかった
いやだ、もう
「いやだ、もう、ですか…」
!?
うつむいていた顔を上げると、そこには、おれと同じくらいの年の少年が立っていた
「どうも、私、キセキ屋ノリアキというものです」
キセキ屋、と名乗ったその少年は、少し笑った顔で、続けた
「さて、あなたは絶望から希望、そしてまた今絶望と、山あり谷ありです」
「なんだよ、おまえ」
突然で、意味の分からない話に、混乱した
「キセキ屋ですよ、キセキ屋」
「で、そのキセキ屋が何の用だ?」
「いえ、用は別にありません、ただ…」
あなたは、次は幸せにならなきゃいけないですよ
そう、言い残していった
あいつが何者かもわからないのに、なぜか、俺はあいつの言葉を信じた
俺は幸せにならなきゃいけない
そう心で唱えながら、引き寄せられるようにまた、この場所に来た
マキと、出会った場所
でも、そこにはなにもいなくて
一つの命も、なくて
「クッソ!!」
なにが幸せだよ、なにが!なにが!
塀を、いつの間にか殴っていた
涙が流れていることを、認めたくなかった
「俺は、幸せなんて…」
「どうしたんです?お兄さん?」
「…?」
突然、後ろから優しい声がした
でも、振り向きたくなかった
他人に、こんな顔見られたくない
「お兄さん、なんで泣いてるんですか?」
聞いて欲しくない、聞かないでくれ
「あの、お兄さん…」
「うるさい!!」
気持ちが、全て爆発した
そして、肩に置かれた手を、振り払った
そうやって、振り払って、振り返った
「あ…」
涙でぼやけた視界に飛び込んできたのは、黒髪の、どこか、なにか…
「君、名前は…?」
反射的に、そう聞いた
すると、少女は笑顔で
「なに言ってるの、お兄さんがつけてくれたんでしょ?『マキ』、だよ」
その笑顔は、どこか、あの黒猫のようで
あの、妹のようだった
〜The end of the miracle〜
さて、どうでしたか?
気に入っていただけたでしょうか?
あなたも、猫を拾ったら大切にしてあげたらいいでしょう
それでは、また次回お会いいたしましょう
あなたにも、キセキが訪れるといいですね
ではでは…