2-14
余計なことを考えなくていいよう、がむしゃらに走って、走って、走って――
未確認現象調査局に戻ってきた。
だって、ちょっと必死に走ってみたらめちゃくちゃ動きづらかった。だぼだぼと纏わり付く布やずるずると地面に擦れる布のせいで余計な体力を使うわ、その割に進めてる気はしないわ、だというのに既に四回転んだわで、向こう見ずな勢いなど削げてしまった。迸る十代の葛藤と反発に任せなりふり構わず街中を駆け回るには、相応のアドレナリンが必要なんだ。わーって叫びながら見えない明日に向かって走り出すのは、腹ごしらえを済ませてからでも十分間に合う。
とは言え、既にわーっと叫んで駆け出す瞬間を見られてしまったレレイなんとかとだけは鉢合わせたくない。わたしにだってプライドというものはあるのでな。わーって叫んだ五分後に平気な顔して出戻ってきたとは思われたくない。実際には冷静かつ合理的な判断の結果引き返してきたわけだが、あのお坊ちゃまがそんなこと理解するとは思えんからな。
従って、わたしは慎重に慎重を重ね、辺りを警戒し身を潜めながら食堂を目指さねば――
「あれー、ジオちゃん何してんの? 鬼ごっこ?」
「うっおおい、ばかな!」
突如、背後から声がかけられて体が跳ねた。それを隠すために華麗なステップを踏んで振り向くと、微妙な笑顔のままで固まっているモニアさんがいた。わ、笑うなら笑ってくれ。覚悟はできてる。
しかし、レレイなんとかのように無礼でもなければユミルさんのように図太くもないモニアさんは、すぐに表情筋を緩め、普段通りの笑顔になった。
「いやあ、ごめんねー。買い物から戻ってきたら、なんだかこそこそしてる後ろ姿が見えたんで、ついからかっちゃった。まさかこんなに驚かせるとは思ってなかったんだー」
「えっ、いや、別に、いいですけど!」
笑われると構えていたせいか、ごく当たり前の良識的な謝罪を受けたような気がするのに、もの凄く焦ってしまった。まさかこんな大人の対応がとれる人間がここにいたとは……えっわたし今までそんなに劣悪な環境で生活していたんだろうか。いや自己主張の激しい人々との共同生活を余儀なくされている自覚はあったけれど、まさかそんな、常識的な価値観を破壊するほど酷い環境だったとは……。
なんて考えてみてら、押し込めていた嫌な気分が、隙をうかがっていたかのように一瞬でぶり返してきた。
酷い環境。
そうだ、酷いんだ。ユミルさんはいい人だけどデリカシーに欠けるしクノンさんは厨二病だしレレイなんとかは我が侭放題な高慢ちきだし、ミューネちゃんは優しいのに本当のことを言ってるのかどうかわかんないし、悪の研究員は小姑なのにピンブローチの本来の所有者だし。……わたしの、記憶は。どこまでが『残った』もので、何が本当に『思い出した』もので、どれくらい外から植え付けられてしまったのか、全くわからないのだ。
気を抜いたら目とか鼻とかから漏れていきそうな嫌な気分を唇を噛んで押し止めていると、ぽんと頭に重みが載せられた。
「んー、なんかあったみたいだねえ。わたしでよければ、話を聞くけど」
どうする? と穏やかに笑うモニアさんは、相変わらず櫛も通してなさそうなもじゃもじゃ頭で分厚くて大振りな丸眼鏡も曇り気味で職員用の白い外長衣は汚れだらけだし襟もよれていて、干物っぷりが凄まじい。けれど、内面に宿る最も重要な女子力は、熟女力マックスのグエルさんに劣らず持ちあわせている。
わたしはついつい我慢を忘れて泣かされてしまい、子供みたいに抱き上げられて、子供みたいにあやされながら、自室へと運ばれてしまった。涙ってものは、優しくされればされるほど付け上がってぼろぼろこぼれてくるので、わたしはモニアさんの首に縋り付いて馬鹿みたいに泣いてしまった。たぶんあとで思い返したら恥ずか死にたくなるシチュエーション。溢れ出る母性が憎い。でも、今はこれでほっとしてるから構わないのだ。わたしは今を生きる女なのだ。
二人並んでベッドに腰掛け、えぐえぐしゃくり上げながら背中をさすってもらっているうちに少しずつ気分が落ち着き、ようやく呼吸が落ち着いてきた頃、モニアさんがそっと首を傾げた。
「何か、やなことでもあった?」
嫌なこと。嫌なこと。――嫌なこと、だらけだ。
何から話したらいいのか全くわからない。全部話してしまおうか。でもそれじゃあ、まるでまとまりがなくて、きっと理解してもらえない。
それでも、納得できる答えを探したくていちいち全部を訴えていくわたしの声に、モニアさんは真剣に耳を傾けてくれた。
「なんかもう、全然、わかんなくて」
「うん」
「記憶がないことだけは、本当だけど、それ以外、何もわかんなくて。そんなのめちゃくちゃ曖昧な存在じゃないすか。自分が本当に『ジオ』なのか、本当に『ヒュジィ』じゃなかったのかも、わかんない。……いや、ヒュジィに戻って、モルルの家に連れ戻されるのはご免ですけど」
それは本当に嫌だ。ライにはいつかまた会いたいけど、その他二名には二度と近づきたくない。でも、それを拒める立場だったのかも、もうよくわからないのだ。
「あのおばさんは本当に、わたしを利用しようとしてたんだろうけど……でも別に、それって血縁関係にあっても起こりうる話なわけで。ライが赤の他人だって言うんだから、そうなのかもしれないけど」
でも、あのときあの場で、一番の決め手になったのは、ライの言葉ではない。
「……ミューネちゃんが、本当のわたしを知ってるって言うから、信じたんですよ。わたしのこと、ずっと必死で探してたって言うから、信じたんですよ。わたしだって馬鹿じゃないんで、ていうか天才なので、レレイ……なんとかが吐いた暴言の如くなんでもかんでも信じるわけじゃないんすよ」
「いやそれはどうか……いや、ジオちゃんにはジオちゃんの判断基準があるんだよね。ごめんね、続けて?」
「……知ってるって、言うから、信じたのに。このピン、わたしのじゃないんすよ。これをわたしの身の証明にしたのに、わたしのではなかったんですよ。なのにそのこと、全然説明してくれなかったんですよ。おまけに、悪人だって――」
レレイなんとかの前から走り去ったときから、ずっと握ったままだった手を開く。汗でやや湿ってしまった、透かし彫りと青い石の細工が、掌に情けなく貼り付いている。
「そもそもこれは悪の研究員の持ち物だと、聞いてしまったんですよ、わたしは。だから、お貴族様で、身元がはっきりわかっているのも、わしではない。でも、ミューネちゃんはそんなこと言わないで……あいつについては嫌なやつとしか教えてくれなかった。いやわたしも、何かにつけてうるさく口出しするしなんとなく陰湿だしやたらと付け回してくるし、本当に嫌味でぞっとする女だとは思うんですけど」
「……ん?」
「でも、じゃあ、なんで身の証にできるようなものをくれたのか、意味がわかんないじゃないですか。妹がいるとか言ってたのが、わたしかも……とは、さすがにこのわたしもね、思わないですよ。あの顔面偏差値おばけみたいなやつが姉だったら、とっくに絶望して命を絶っているか縁を絶っているかですよ。こんなもん持ってないですよ」
「……うーん?」
「だけど、そしたら……本当に、なんであいつがこれをくれたのかわかんないし、ミューネちゃんが本当のことを言ってくれなかった理由もわかんないし……ミューネちゃんがこれまで教えてくれたことの、どこまでが本当だか、全然わかんないんです」
理解してもらえているのかも確認しないまま、そこまで言い終えて言葉を切る。半分も伝わってないかもしれない。確実に伝わったのは、わたしが混乱していて、馬鹿みたいに猜疑心を膨らませているということだけだろう。
モニアさんは眼鏡のブリッジを人差し指と中指で押さえながら、どこか難しそうな顔をしていたが、ややあって、ゆっくりと息を吐き出した。
「まあ……うん、そうだね。ミューネは、恣意的に情報を隠していたと思うよ」
「で、すよ、ねえ……」
「ただ、嫉妬と言うか、ジオちゃんを独り占めしたくて黙ってところもあるんだよねー。それにジオちゃんが、なんだっけ? 悪の研究員? あの人を嫌がってたのも本当だし」
あっけらかんと言うモニアさんに、わたしは唖然としてしまった。
「ま、待ってください。そこは本当なんですか。そんじゃあなぜわたしはやつからこのピンを……」
「うーん、たぶん、あの人が勝手に押し付けたんじゃないかなー」
「なんだと」
上げればいいのか下げればいいのかわからない株価が、ぐねぐねとうねったまま宙を漂っている。投資家にはいい迷惑。
「ジオちゃん、ココルって知ってる?」
唐突に話が変わって、一瞬何を訊かれたかわからなかったが、すぐに頷く。最後にヒュジィだった日にミューネちゃんから聞かされ、ここに来てからはあの美術品じみたツラから説教まじりに滔々と叩き込まれたもの。
簡易信号通信導石。予め信号を刻み込まれた魔導石に魔力を通すと対になっている石にその信号が届くという、メールの五世代くらい前の感がある魔導器だ。ポケベルよりも前だし、なんなら電報よりも前。わたしの知っていた文明より四百年くらい遅れている気がする、と思ったけれど、天才のわたしは四百年後の未来を生きる発明家であり日々技術の覚束なさに歯噛みしてたのかもしれない天才ってつらい、と悦に入ってたのを覚えている。
「あれってね、昔はこんな――両手で抱えるようなサイズの石しか作れなかったんだけど、少し前に小型化に成功してね、携行型のココルっていう握りこぶしくらいのものができたんだよ。ま、全部リアオーネスの専売なんだけど」
「はあ……」
脈絡が掴めなくて、やや気のない返事をしてしまったが、モニアさんは構わずに続けた。
「自らもう一度通過者になる、なんていう酔狂な研究に協力してくれる人たちには、それを持たせてるんだよね。届く信号は単一だけど、大体の発信源が特定できるから」
「はっ?」
変な声が出た。なんかこう、喉の上の方から何かが出た。
ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな便利な……そこそこ便利なものを持たされた覚えは……いやまさか、このピンが?
そう思ってしげしげと掌に目を向けると、モニアさんが笑うけはいがした。
「ジオちゃんにはそれを、持たせなかったんだよねー」
「な、なぜだ!」
「ココルを飛ばすには、魔力が必要だからね」
……なるほどそうだった。なんか腹が立つし悔しいけど、それは確かに、わたしには無用の長物。だがしかし、悔しいもんは悔しい。
それが顔に出ていたのか、宥めるように頭を撫でられた。
「魔力を使えないジオちゃんに持たせても、結局、誰かに頼んで魔力を通してもらわなきゃ用を成さない。そうなると、記憶喪失の推定通過者を見つけましたーって誰かが役所に届け出るのと手間も時間も大して差がないし――ココルって高価なんだよね。携行型となると更に稀少だから、盗難、というより強奪の可能性がある。それは、あるいは命の危機にも繋がりかねないわけだよ。だったら、持たせない方がいいかなーって」
コストカットの対象にされたのは間違いないんだが、モニアさんの――調査局の言い分は非常に理にかなっていて、ぐうの音も出ない。魔力格差がこんなところにも現れていたとは。くそくそ、だからユミルさんはあんなにお気楽な様子で二十数回『通過』しているとか話せたんだな。そりゃあ気楽に飛び込んでいける。
「まあだから、その代わりのつもりで、少しでも円滑に手続きが行われるようイルナントの家紋が入ったこれを渡したんだろうねー。一般市民と貴族とじゃ、お役人も気合いの入れようが変わるから」
言いながら、ひょい、とピンをつまみ取られる。汗付いてるから! とか言う暇もなかった。やばい、あんまり触んないで欲しいし見ないで欲しい。
そんな願いは届かず、モニアさんは先ほどのレレイなんとかと同じように、矯めつ眇めつあらゆる角度からそれを眺めて、ぷっと吹き出した。やめてください顔から火が出そう比喩でなく。今なら魔力が使えてしまいそう。
「――というのが、たぶん正解だと思うんだけど、これ、隠し紋だよねえ。こんなの、相手もそれなりの身分でなきゃ気づいてくれないって。こういうとこ、やっぱりあの人世間知らずなんだよねー」
笑ったのは、あの芸術品に対してか。顔面に集まりかけていた熱が一気に散っていくのを感じながら、ほっと胸を撫で下ろす。汗のことじゃなくてよかった。
「今もこうしてジオちゃんを泣かせることになってるし、ほんと、精一杯やってるつもりでぜーんぶ空回りしてて、可哀想で可愛いよねー」
「……そっすか」
それはどうかなー。明らかに二十歳は超えているしわたしの所感では二十五も超えてそうだし、愛想の欠片もない表情筋の死に絶えた小姑が、可愛いっていうのはどうかなー。
モニアさんの発言には同意しかねて死んだような顔でそんなことを考えたけれど、最前と比べ物にならないほど、気持ちが落ち着いているのがわかった。
なんだ、そんなに気にするほどのことでもなかったのか。わかってしまえば、なんてことはないのか。
「じゃ、わたしがあいつを嫌ってたのって、単純に、人としてそりが合わなかったからってだけですか」
凪いだ気持ちでそう訊くと、モニアさんはちょっと考え込んだ。
「んー、そうだねー。解剖されるって思ってたのもあるんじゃないかなあ」
「や、やはりマッドサイエンティストか!」
すわ絆されるところであった! と、動揺してベッドから立ち上がると、モニアさんがけらけらと笑った。
「いやー、解剖はね、わたしだってしたいと思ってるから」
「う、うわああ嫌だ! 助けて! おまわりさん! ドアが開かない! うわああ!」
「あはは、したいとは思うけど、きっと何もわからないからしないよー。だって、どこを開いて何を見たらいいかもわからないんだよ? そんなやり方で体を探ってうっかり命を落とされてしまうより、何度か通過してもらってデータを重ねた方がよっぽどいいよ。ジオちゃんが言い出さなければ、解剖なんて思いつきもしなかったし」
「わたしの死亡までシュミレートされた末の結論だと言われると妙に説得感があります冷静になりました。でもどうしてだか、とても気分が悪いです」
「被験者、って聞いて、即座に解剖されると思い込む風習が故郷にあるんだろうに、その割には繊細だよねー」
「貶されているのかなんなのかわかりませんね」
未だにばくばくと早鐘を打つ胸元を押さえながら、ベッドに戻る。まさかモニアさんも解剖フェチかと思って本気でビビってしまった。あ、でも。
「……ってことは、あいつも、別に解剖しようとしてなかったんすかね」
「まあねえ」
「そうか……」
わたしの思い込み。
あいつへの悪感情は――まあ、直近のあいつの振る舞いを見ていて度々苛立っていたことからして、以前も好きになれなかったのかもしれないが、でも、解剖されるかもしれないという先入観で嫌っていた面もだいぶあるんだろう。それが中途半端に残って、『今』に引き継がれてしまった。
……あいつ、わたしが記憶喪失だからって、我慢してたのかもしれない。面と向かって悪人呼ばわりされるのに、耐えてくれてたのかもしれない。
ど、どうしよう。生理的に受け付けないとかそりが合わないとかいうのがあるにせよ、それは単にわたしとあいつが仲良くできない星の下に生まれついてしまったというだけのことで、年増とかお局様とかマッドサイエンティストとか、人格攻撃をしていい理由にはならない。わたしはなんということを。
不安が取り除かれ、気づいてしまった事実に取り乱していると、モニアさんがゆっくりとわたしの肩を引いた。顔と顔が向き合うように上半身を捻らされ、おろおろしたまま、分厚い眼鏡の向こうを見る。
「謝りたい?」
誰に、とは訊かない。聞かなくてもわかっている。
「……それ、は」
お互いのためにも、謝るべきではある。だがしかし、わたしとあいつの相性がよろしくないことは事実なのだ。謝ったからって、次の日から仲良くしたいわけでもないのだ。
答えあぐねていると、モニアさんはにいっと口の端をつり上げた。
「じゃ、やり直さない?」
「は?」
意味がわからず、目を丸くした、が。すぐに思い出す。――わたしが、わたしたちが、『研究』に協力している立場だということを。
「今更謝るのも気まずいかもしれないけど、かといって、次に会ったときに今までと同じ態度もとりづらいでしょー? じゃいっそのこと、一度リセットしちゃおうよ。ミューネともさ、そろそろもう一度お願いしようかーって話してたんだよね」
「……通過、ですよ、ね」
「そうだよー。丁度いま、こんな異常事態が起こっててさ、穴に何か変化があったのか調べたいとこでもあるし。ま、ミューネがいないうちにお願いしちゃうのはちょっとお行儀が悪いんだけどさ。通過者の心の安定が一番大事だしねー。ジオちゃんさえ望めば、今すぐでも問題なし! もちろん、嫌なら断ってくれていいよー」
……まるで悪魔の囁きである。
しかし、それでいいんじゃね? と思っている自分がいるのも確かだ。
だって、そういう狂った取り組みに協力しているということは、以前から受け入れていたのだし。従って、いつかはまた通過するのだという意識も、頭の隅っこにはあったのだし。ちょっと予想以上に早くその機会がやってきたけれど、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいことになっていた今日までの振る舞いをなかったことにしてしまうには、最適の手段なのでは?
まあ少々卑怯かもしれないが、こちとら記憶と引き換えの自爆もどきである。わたしだって不利益を被るのだから、痛み分けというやつになるはずである。
うむ、何も問題ない。
「モニアさん、わたし、行きます!」
思い立ったが吉日だ。ミューネちゃんが帰ってくるまで待って、明日の朝イチで出発して、なんて悠長なことはしないほうがいい。たぶん抱き潰されてしまうから。圧で。そしてこのやる気はしぼんで皺くちゃになってゴミのように打ち捨てられてしまう。それはよくない。わたしは逃げたいのだ。あっ違う。前向きにやり直したいのだ。
別れの挨拶ができないのは不義理な話ではあるが、また会えるんだから大丈夫。そのときにでも、思う存分殴ってもらおう。きっとそれで許してくれるはず。頑張れ、未来のわたしの肉体。
「りょうかーい。じゃ、通過の旅立ちセット用意するから、一緒に備品室行こっか」
「モニアさん、次にわたしを見つけたとき、ミューネちゃんとか、あのマッド……お貴族研究員様が全てを詳らかにしてくれなくても、モニアさんがきっちり教えてくださいね!」
「うんうん、任せといて。次にここに戻ってきたときは、今回のような不安を抱くことがないよう、わたしがしっかり対応するからねー」
なんと頼もしい。これなら次は、非常に安定した日々を送れそうである。
「つ、ついでに、もし手があいてたらクートになってもらってもいいですか」
「うーん、それはどうかなー」
……さすがに、この申し出は振られてしまったが、現在通過者が大量発生していることを鑑みれば致し方のないことだろう。今も多数の職員が、複数の通過者とクートにならなければいけない状態らしいし。
「ま、今度はきっと素早く見つけてみせるからさ、できたらジオちゃんも、わたしたちのこと覚えておいてよ」
「努力します!」
そう、心の底からそう思って元気な返事をして。
わたしは、未確認現象調査局から旅立つことにしたのだった。




