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 オッス、オラ悟空! さっきまで何をしてたか全然覚えてねえんだが、オラは今、大草原のど真ん中にいる。なんかこう、ヤギとかいそうな。そのヤギをユキちゃんと呼びたくなるような。そして自然とともに暮らすことの厳しさに、こたつの中でぬくぬくしながら軽薄な涙を流したくなるような。見渡す限り人っ子一人見当たらぬ、広大な草原。


 はて、そこは草原というより山地なのではないか。


 己のインスピレーションが何に依拠しているのか甚だ疑問であるが、ユキチャンは山育ちのヤギに相応しい名前らしい。

 記憶に靄がかかっているようで、なぜユキチャンのことを考えたのかわからない。草原にしろ山にしろ草が生えてて人が少ないことには変わりがないからだろうか。どうやらわたしの頭蓋に詰まっているのは、なんとも大雑把な脳みそである模様。


 しかしよくよく周りを観察してみると、本能がきちんと仕事をしていたことが判明した。ここは確かに山地である。なんか山のシルエットが近い。めっちゃ近い。そもそも地面が平らでない。山だわ。これは山にいますわ。寧ろ今まで気づかなかったのが不思議なくらい斜面ですわ。


 おまけにふと山裾を見下ろせば、結構な高さである。裾野にぽつぽつと見える家屋の屋根っぽいものが、まるでゴミのようである。……いや、本当にゴミかもしれない。視力にはそこまで自信がないし、砂漠で見る蜃気楼のように、山に入ると岩の影が怪物に見えるから。


 うっ、今何かを思い出しかけた……。イエティ、ビッグフット、ヒバゴン……一体なんの呪文だ。ひょっとしてわたしは呪術師なのだろうか。


 というか、いい加減無視できなくなってきたが、わたしはさっきまで何をしてたかどころか、自分が誰かもわからない。誰のものかもわからない名前なら勝手に脳裏に浮かぶというのに、オラは自分の名がわからぬ。


 たぶん、オラとか言ったこともなかった。この知識はなんなのだろう。わたしは他人に成りすます訓練でも受けたシノビ=ガールだったのだろうか。む、シノビとは一体? ……自分の正体が全く掴めない。


 おそらくこれは、いわゆる記憶喪失というものだ。まさかそんな事態が我が身に降り掛かるとは想像したこともなかったが、そういうネタはさすがに飽きたしその後の展開もオチも一話で把握しましたわ王道テンプレ乙、したくなるくらい聞き知っている。知っている、ということに自信はあるのだが、ちょっと自分でも何言ってるのかよくわからない。


 なぜか妙に気持ちが落ち着いていて、焦りも困惑も湧いてこないのはまだあまり実感がないからだろう。しばらくしたら一気に動揺が襲ってくるかもしれない。そうなる前に、調べられることは調べておこう。


 うむ、何やらカシコそうな思考である。きっと実際に賢かったのだろう。さすがわたし。


 手がかりを求めて、まずは持ち物を検めてみる。するといきなり大当たりである。背負った荷物の中に手紙が入っていた。おお! なんというヌルゲー。これはもう事件は解決したも同然である。


 だが、油断は禁物だ。主人公の所持アイテムに最初から謎の手紙が入っていたり、序盤のステージでなんとも思わせぶりで断片的な手紙や日記を見つけるのは、使い古されたセオリーでもある。だからそれはなんの話だ。


 とにかく今は手紙だ。これを確認しなければ何も始まらん。

 そう思って、まずは外装を確認した。


 が…………なんだ、これは。


 アヒ? ア……アッヒョ?


 まるで読めぬ。おかしい。わたしは賢いのではないのか。ここまで冷静に理知的な思考ができていながら、なぜ文字が読めぬのだ。文字を持たぬ民族の賢者だったのか。それは果たして本当に賢者なのか。


 さすがにいくらか焦りが生まれて、封蝋を雑に割って中を見る。やはり読めない。そんなばかな。二周目から文字が読めるようになるのか。冗談だ。さすがにそこまでゲーム脳でありたくない。だいたい二週目って、また記憶喪失になるじゃねーか。いくら賢慮に長けたわたしでも泰然と構えていられねーわ。


 ここに答えがあるかもしれないのに、設定的には史上稀に見るヌルゲーだったかもしれないのに、わたしの初期ステータスが低すぎて、なんの手がかりも得られなかった。


 いっそこんなもん破り捨ててやろうかと思ったけれど、賢いわたしは思いとどまる。


 わたしには文字が読めない。読めない以上、書けたはずもない。つまりこれは、わたしが書いたものでもなく、わたしに宛てられたものでもない。預かりものなのだ。……だというのに先ほど、迷いなく封蝋を割ってしまった気がする。これはよくない。やはり証拠隠滅しておくべきか。


 いやいや、ことが露見した場合はその方が罪状が重くなる。罪に罪を重ねて自滅するのはよくあるパターン。正直になるしか救われる道はない。きっと謝ればどうにかなるだろう。


 真っ当に働く灰色の脳細胞に満足して、手紙を仕舞い直す。誰に渡せばいいのかさっぱりわからないが、わからないなら尚更、とりあえず隠しとくのがいいと思ったのだ。


 袋の底に手紙を押し込んでから、もう一度荷物を確認する。食料と着替え、いくらかの硬貨、外套が入っている。一応どこかに出かける準備はしたらしいが、どう見ても野宿を想定してるとは思えない。何はともあれ、今は人家を見つけなければならないようだ。


 全く思い出せない自分の身元も不安だが、それ以上に今日の寝床が心配。葛藤の余地もなく、優先順位は当然そちらが上である。なんせ冷静で合理的な才媛なので。


 見える範囲に建物なり街道なり、いっそ獣道でもいいからとにかく何かあれば、ハリウッドみたいにわかりやすく感情的になる時間もとれたのだが、あいにくスケジュールがおしてる。役に立たない考えを弄んでる暇はない。


 さっさと今後の方針を決めると、草を踏みしめて歩き出す。眼下に建物のようなゴミのようなものがぽっつぽつあるのはどうにか確認できるので、上には行かない。上に行って何も収穫がなかった場合、日が暮れる前に麓まで下りられるかわからんからね。とは言え、ゴミのような家屋が本当に家なのかは自信がないので、まずは山の中腹っぽいこの辺りを少し調べてみようというわけだ。非常に理知的。


 陽の具合で時間を確認するのは諦めた。なんとなく『その知識を有していない』気がしたためである。まあ、無知の知というアレもあるからね、それを知らないことがわたしの知性の瑕疵になるわけではない。寧ろ更なる知性の高さを裏付けてしまった。


 ともあれ、自然現象から時間を計るのは難しそうなので、おおよその等高線に沿って右(と主観で決めた)に五千歩、そっから現在地に戻ってきたら左に五千歩を移動して、何も見つからなかったら山を下りることにする。わたしくらいのサイズの人間は、大体一時間で四キロから五キロは徒歩で進めるはずなので、一歩が四十センチと仮定すると一時間半で行程が歩ききれる計算だ。現在時刻はわからないがそのくらいの余裕はありそうだし、そのくらいは時間をかけないと、そもそも歩き回ることの意味がない。


 と、類稀なる知性に基づいて瞬時に計算し、歩数のカウントを始める。十歩目で既に激しい後悔に襲われている。今、人生で一番万歩計を欲している。


 それでもしばらくは数を数えることに集中していたのだが、百五歩目にして、自分が服の裾を引きずっているのに気がついた。なんか段々重くなると思ったら、草葉にたまった露を吸ったり、小枝や枯れ葉を引っ掛けたりしていやがった。なんだこの機能性をドブに捨てた布の塊は。


 どうやらもともとそのように作られている、つまりはそういうファッションのようなのだが、こんなもんを好んで着ていた事実が信じられん。機能性に真っ向から喧嘩を売った構造。貴族の道楽か。わたしともあろう賢女が、致命的なセンスの欠落を抱えていたのか。だとすれば闇に葬り去りたい忌まわしい過去だ。ひょっとすると、記憶を失ったことは却って幸運なのかもしれない。


 自分の身元を確かめることへの意欲はもうだだ下がりだ。今後、のっぴきならない事情と必要にかられることがない限り、過去に疑問を持つのは止めよう。つらい事実が掘り返されそうで、考えるだけで恐ろしい。


 たくし上げた衣服の裾を纏めて、ふくらはぎ辺りで縛る。多少歩幅には影響が出るが、寧ろ足は動かしやすくなった。本当に存在意義と選択の意図が問われる服装である。願わくは、誰かに選んでもらった服でありますように。


 それからまた歩数のカウントを再開し、黙々と歩き続ける。初めて見る景色に心を躍らせるような心のゆとりはなく、ただ足を動かし心中で数を唱えるだけの作業である。その数はようやく四千八百に達したが、人っ子一人出会わなかった。とうとう五千歩を踏破したが、見渡す限り大自然。いやあ空気が美味しいなあ! この辺の空気はいくらでも吸ったり吐いたりし放題だ!


 憮然とした気持ちで休憩をとり、荷物に入っていた水を飲んでから、元来た方へ引き返す。まずは五千歩。それで最初の場所に戻っ……戻…………山はどこも同じに見える。果たしてここが本当にスタート地点なのか、少々自信が持てない。シティガールにド田舎はつらい。


 嘘だ。わかっている。ここはスタート地点ではない。眼下に見えていたはずの屋根がどこにもなかった。いや、違う。あれは本当にゴミだったのだ。そうに違いない。そうでなければ、わたしはまっすぐ歩いただけで迷子になったことになる。そんなことがあるものか。わたしは稀代の才女である。


 都合の悪い現実は頑なに否定し、更に五千歩まっすぐに進む。一歩、二歩、三歩、ちょっと待て。


 わたしの目がおかしくなったのだろうか。進行方向に家が見える。残念ながら赤い屋根の大きなお家ではないし、三階建てのおしゃれなお家でもない、たぶん人間用の古ぼけた木造平屋だけど家は家だ。

 右に進んだ時は五千歩歩いても草と木と土と石しかなかったのに。そもそも初期位置でぐるっと辺りを見回しても、めぼしいものは何も見当たらなかったのに。


 ……ここが初期位置ではないことは、さすがに認めねばならないようだ。そうでなければ、このわたしがあまりに愚かな行動をしていたことになる。


 まあ、うっかり迷ったおかげで人家を見つけられたのだ。これぞ怪我の功名、寧ろわたしの本能が無意識に足をここに向かわせていたのかもしれない。さすがわたし。


 気合いを入れ直して歩いてゆくと、次第に騒がしい音と、何かの臭いが強くなっていった。たぶん動物だ。山の家だから、たぶん家畜でも飼っているのだ。かわいがるためじゃなく、暮らしのために。山の家だから。植え付けられたこの価値観がどこから来ているのか本当に謎であるが、間違ってはいない。


 近づくにつれて、何もかもがはっきりと見えてきた。丸太を打ち込んで作った広い広い囲いの中はいくつかの区画に分けられていて、ものすごく攻撃力高そうなヤギと、ものすごく防御力高そうな牛と、ものすごく穏やかそうな竜がいた。比率としては、ヤギと牛が一ずつ、竜が三くらい。そうそう、この辺は向こうと違って哺乳類の方が飼うのが大変だから。……向こうってどこだ。


 囲いよりもこちら側には、遠くからも見えていた家がどーんと建っている。まさに山の家といった趣きである。さっきは平屋と言ったけど、たぶん嘘だ。屋根裏とかあるぞ。だって山の家だから。軒先には野菜っぽいものや香草っぽいものが吊るしてある。まあそうだろうな、山の家だもんな。


 あちこちを観察しながら家の前につくと、ちょうど囲いの向こうにある厩舎から、人が出てきたところだった。結構な距離があるのだが、目が合ったのが互いにわかる。鼠色のスカートに汚れた生成りの前掛け、色彩の不足を補うように深い赤のベストを着ていて、どうやら女性のようだ。その人は、それぞれの手に持ったバケツとザルを揺らさないようにしながら、急ぎ足でこちらに向かってきた。


 一分も待てば女性が声の届く範囲に着いたので、軽く頭を下げて挨拶する。


「こんにちは、こちらの家の方ですか」


 というのは見ればわかることなのだが、まあ円滑な会話にはね。こういうアホみたいな口上も必要なのだ。

 女性は見たところ四十歳ほどだろうか、ほんのちょっと牛乳を足したコーヒーのようなくすんだ茶色の髪に、所々白髪が見える。目元や口元には皺があるが、日々しっかりと動いているのだろう、肌には張りがあってとても健康そうだ。


「そうだけんど、あんたどこから来たね? この辺りじゃ見かけん格好だが」


 ほう、これは重要な情報だ。わたしの出身地は『この辺り』でないし、この女性の行動範囲でもないということになる。結構遠くから来ていたらしい。

 臭いものに蓋方式で過去には触れないでおこうと思っている以上、地元から離れているのは好都合だ。


「ええと、少々事情があって遠くから来たんですけど、道に迷ったようでして。一晩屋根をお借りできませんか? それと、一番近い街まで案内してもらえると助かるんですが」

「一番近い街っちゅっても、コポナまでは三日掛かるよ。ハクロの村なら竜ん乗ったら半日で着くけんど、あそこは農家と蛇屋がいくつかあるっきりだ。あんたみたいな旅人が目的にする場所じゃなかろ。そもそも、この山住んでんのはウチだけだ。あんた、なんでこんなとこ迷い込んだね」


 どうやらわたしは、本当にとんでもないクソ田舎に訪れていたらしい。隣の家まで歩いて一時間とかいう田舎伝説が現実のものだったどころか、現実はそれ以上に恐ろしいことを知って震えが湧き上がる。このオバチャンをイケアに連れてったら二度と出てこられないんじゃないだろうか。いや、そんな明らかに地元臭のするところ絶対行かないけど。余計なことは思い出したくない。


 しかし、この山にはこの家しかないというのは、さすがに厳しい。道理でなんっもないと思った。道理で誰にも会わないと思った。ここに辿り着けたのは本当に幸運なことだった。


 というのは今は置いておいて。どうやら今、わたしは疑われている。当然だ。だがあんまり不審に見られてしまうと、きっと一晩の宿すら借りられない。どうするか。


 迷ったのは一瞬のことだった。理知的なわたしの頭は、すぐに答えをはじき出す。この場は無理に隠さない方が賢明。幸いオバチャンはいかにも純朴な田舎女性。いざとなったら舌先三寸で言いくるめて霊感商法にでも引っ掛けてやろう。おっといかん、今のはナシ。

 都会人らしくちらっと浮かんだあくどい考えは封印し、わたしは自分の記憶がはっきりしないことを語った。といっても、実情を理解してもらうのに必要な最低限の事実を、端的に述べるだけである。余計なことは言わない。都会人として、捨てきれない警戒心が心の底にあるのだ。


 語り終えて口を閉ざすと、オバチャンは難しそうな顔をして、わたしの顔をじっと見た。時折何かを確認するように、上から下まで目線を動かして全身を捉えようともしている。その目が胸元で何度か止まったので、気づかれないようにこっそりと、自分でもそこを確認する。目に入ったのは、綺麗な細工のピンである。


 ……ひょっとして、金を持っていそうかどうかの確認か。


 田舎の人はみんな正直、なんて幻想はわたしだって持っちゃいない。あんまり危なそうだったら、すぐに走って逃げ……るのはオバチャンの逞しい腕を見て無理そうだと悟るが、隙を見てどうにか逃げねばなるまい。


 どれくらい時間が経っただろうか、やがて、オバチャンは驚いたように目を見開いた。

 思わず身構えたわたしに、オバチャンは先ほどよりも高い声で叫び声を上げた。


「あんた、ひょっとしてヒュジィか!? 近いうちこっちに寄越すってカジナから手紙はあったけんど、こんな早く来るとは思っとらんかったよ! それに、最後に会ったんはあんたが三つのときだ。こんな別嬪さんになるたあ思ってなくて、どこの旅人かと思っちまったよ!」


 ど、どういうことだ?

 話に追いつけなくて目を白黒させながら、必死で今聞いた情報を整理する。

 つまり? わたしはこの女性の親類の娘? ではないかと女性は思っている? この人がわたしの親戚? 本当に? 最初から、ここがわたしの目的地だった?


「ああ、だけんど、その目。カジナにそっくりだよ。本当に記憶がないんかね? ひょっとして、お山のてっぺんの穴に近寄っちまったんじゃないか?」

「穴?」


 まだ状況は飲み込めないが、聞き覚えがあるような気がして首を傾げる。オバチャンは重々しく頷いた。


「近づくと頭がぼうっとしちまう穴が、上の方にあるんだよ。何年も前にお国のお偉いさんが、危ねえからってそこの周りを囲って行ったけんど、もともとここにはウチしか住んどらんからね。来るもんも限られてるし、特別注意してこなかったが、まさかあんたがそっちに迷い込んじまうとは」


 近づくと頭がぼうっとする穴。記憶をなくす穴。――誰かがそれを、ピットと呼んだ。


「わたしは、それで、記憶をなくした……?」


 無意識に呟いてしまうと、そうだよ、と肯定される。


「可哀想に、自分の名前も忘れちまったんだろ。あんたは、あたしの妹のカジナの、二番目の娘のヒュジィだ。歳はこの間十五になったとこだよ」


 ヒュジィ。十五歳。どうにもピンと来ない。でも、だからといってほかの名前が思いつくわけでもない。


「あんた、ちっちゃい頃から竜が好きで、カジナはやめさせようとしてたんだ。ボスカの方じゃ、女の子はそんな泥に汚れる趣味は持たん方がいい。でも、どうもならんでとうとう十五になっちまったから、しばらくウチにおいて竜の扱いを学ばせてほしいって、ひと月前に手紙が来たのさ」


 竜が好き。そうなのか? どっちかっつうと哺乳類の方が好きな気がする。でも、本当に?

 何を聞いても自信も確信も持てないまま、パンクした頭で胸元を指差す。思考はほとんど働いていない。


「あの、これ、さっき何度も見てた……」


 その理由を尋ねたいのだが、うまく言葉が出てこない。だが、女性はあやまたずその意味を悟ってくれて、力強く頷いた。


「それはあんたの五歳の祝いにあたしのおかあが贈ったもんだよ。あんたのおばあさんだね。ほんとに別嬪になっちまってあたしもすぐには気づかんかったけんど、それ見てやっとわかったよ」


 おばあさんからの、贈り物。

 そうだ、きっとそうだった。誰かの白い指が、優しくピンをとめてくれたのを、朧げだけど覚えている。

 ならばこの人は事実を語っていて、ここは確かにわたしの目的地だったのだろう。


「……おばさん?」


 躊躇いがちに呼んでみると、満面の笑みを向けられる。


「そうだよ。とんだ災難に遭っちまったようだけども、我が家へようこそ、ヒュジィ」


 どうやらわたしは、賢いだけでなくとてもツイている、らしい。

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