2
浮遊感。取り囲む何か。
俺には家族がいた。妹がいた。仲間がいた。
なのに、解らない。
「助けて、お兄ちゃん」
「!?」
汗が酷い。涙まで流している。
何かうなされていた気がする。昔のこと?俺の昔なんて平凡すぎて語る事すらない。
じゃあ何でこんな…
うん、まあ、今は良い。季節は秋の暮れ。今日は新しい小説でも買いに行くとしよう。
*
「うーん…やっぱりこれか…新作がある…」
独り言を呟きながら本を探す。周りの目なんて気にしない。気にしたって仕方が無い。俺は地味だし、どうせ居ても居なくても変わらない。世界になんの影響も出ないし。
「うわわっ」
ガタガタッ!
隣の棚の児童書コーナーから凄い音が聞こえた。
5、6冊落ちた本に埋もれた…幼女。
見れば足首に痣を作っている。さっきの児童書が足に当たったんだろう。
「大丈夫か?」
「…はい」
「そうか…」
少女は苦笑いをしながら、足から本をどかしていく。
俺も少し手伝った。
「片付いたな」
「はい…っう」
少女は足が痛むようだった。我慢せずとも、俺がおぶって…いや、俺からは絶対言わない。絶対。
「あの、おぶってくれませんか?」
「んう?…あ、ああ」
幼女相手に動揺して、なんなんだ俺は。
背中に小さな温もりを感じる…
あれ、これどっかで
『お兄ちゃん』
「…」
思い出せない。思い出せないというか、思い出したくないような気持ち。なんだこの気持ちは。
背中に1つの温もり。なのに、何故か不安が胸を掠める。
腹が減っているせいなんだ、きっと。
そう思い込んでいたんだ。
*
「学生は大変だよな…しにたい」
俺の本業は高校生である。ニートでも良いのだが、やはり将来も考えなきゃいけない、でも面倒だ。
あの幼女、俺はあれっきり会ってない。幼女は公園で下ろせと命じた。下ろして帰った。それだけだ。もう未練も残すまい。
あくびを噛み殺しながら、それのことばかり考えていた。
「眠いな」
昼。友人は一応いる。そいつと食べる。
「お前さ、それ以外話題ないわけ?聞き飽きたんだけど」
「じゃあ謎の幼女の話」
「俺まで同類になりそうだから嫌だ」
「くっそ、器の小さい男は嫌われるぞ」
「お前がひねくれすぎなんだよ」
おにぎりは塩がきいていた。これって、作り方誰に教わったんだっけ?
「俺、何か忘れてる気がする…」
「あーっ、てかさ、決めたの?」
「何が」
「お前の妹、明日誕生日なんだろ」
友人は、俺を見ているようで、見ていなかった。
俺は、意識の中でしか『俺』を形成していなく、主観的な、あるいは客観的な、良く分からない視点で話を聴いていたことに、今更気付いたのだ。
午後5時、あの場所で君を待つ。
意識だけを連れて。