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浮遊感。取り囲む何か。

俺には家族がいた。妹がいた。仲間がいた。

なのに、解らない。


「助けて、お兄ちゃん」


「!?」

汗が酷い。涙まで流している。

何かうなされていた気がする。昔のこと?俺の昔なんて平凡すぎて語る事すらない。

じゃあ何でこんな…


うん、まあ、今は良い。季節は秋の暮れ。今日は新しい小説でも買いに行くとしよう。


*

「うーん…やっぱりこれか…新作がある…」

独り言を呟きながら本を探す。周りの目なんて気にしない。気にしたって仕方が無い。俺は地味だし、どうせ居ても居なくても変わらない。世界になんの影響も出ないし。


「うわわっ」

ガタガタッ!

隣の棚の児童書コーナーから凄い音が聞こえた。

5、6冊落ちた本に埋もれた…幼女。

見れば足首に痣を作っている。さっきの児童書が足に当たったんだろう。

「大丈夫か?」

「…はい」

「そうか…」

少女は苦笑いをしながら、足から本をどかしていく。

俺も少し手伝った。

「片付いたな」

「はい…っう」

少女は足が痛むようだった。我慢せずとも、俺がおぶって…いや、俺からは絶対言わない。絶対。

「あの、おぶってくれませんか?」

「んう?…あ、ああ」

幼女相手に動揺して、なんなんだ俺は。

背中に小さな温もりを感じる…

あれ、これどっかで


『お兄ちゃん』


「…」

思い出せない。思い出せないというか、思い出したくないような気持ち。なんだこの気持ちは。

背中に1つの温もり。なのに、何故か不安が胸を掠める。

腹が減っているせいなんだ、きっと。

そう思い込んでいたんだ。


*

「学生は大変だよな…しにたい」

俺の本業は高校生である。ニートでも良いのだが、やはり将来も考えなきゃいけない、でも面倒だ。

あの幼女、俺はあれっきり会ってない。幼女は公園で下ろせと命じた。下ろして帰った。それだけだ。もう未練も残すまい。

あくびを噛み殺しながら、それのことばかり考えていた。


「眠いな」

昼。友人は一応いる。そいつと食べる。

「お前さ、それ以外話題ないわけ?聞き飽きたんだけど」

「じゃあ謎の幼女の話」

「俺まで同類になりそうだから嫌だ」

「くっそ、器の小さい男は嫌われるぞ」

「お前がひねくれすぎなんだよ」

おにぎりは塩がきいていた。これって、作り方誰に教わったんだっけ?

「俺、何か忘れてる気がする…」

「あーっ、てかさ、決めたの?」

「何が」


「お前の妹、明日誕生日なんだろ」


友人は、俺を見ているようで、見ていなかった。

俺は、意識の中でしか『俺』を形成していなく、主観的な、あるいは客観的な、良く分からない視点で話を聴いていたことに、今更気付いたのだ。


午後5時、あの場所で君を待つ。

意識だけを連れて。

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