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魔魅  作者: 飛鷹 龍成
序章
4/4

契約

 


 ここはどこだろう・・・

 何もわからない、何も考えれない。

 頭が激しく痛む。

 いったいここはどこなんだ・・・

 

 

 

 目を開けると俺は立っていた。

 だが足元には地面がない。

 まるで宇宙空間の中に放り出されたような、薄暗い空間が永遠と続いている。

 少しずつ頭痛も治まってきたが、未だに思考力は低下したままである。自分がなぜこんなところにいるのかも考えることができない。

 ゆっくりと時間が過ぎていく・・・


  

 「目覚めたか」


  

 急にどこからともなく女の声が聞こえ、体がビクリと反応してしまった。どうやら体は動くらしいが今の声は・・・


  

 「だ・・・誰だ・・・」


  

 かすれた声が俺の口から出てくる。

 声を出したことによって、思考力が速い速度で回復していく。

 そうだ、俺はどうなったんだ・・・あの最後の瞬間・・・俺は死んだんじゃなかったのか・・・ならここは・・・

 一度思考力が回復すると、次から次へと思いが頭の中ではじける。


   

  親父・・・

  母さん・・・

  美咲・・・


  

 みんな死んでしまったのか?本当にあれは現実だったのか?なら俺はどうなった?今の俺はなんなんだ?俺も食われちまったのか?

 思考はだんだんと同じところをループしだす。

 ここはどこなんだよ!いったいどうなったんだ!俺は死んだのか!?皆も死んでしまったのか!?

 絶望。怒り。悲しみ。いろいろな感情が俺を支配する。


  

  「人間よ」


  

  「!!」


  

 また声が聞こえた。間違いない。誰かいる。


  

  「おい!誰なんだ!」


  

 無の空間に叫ぶと、急に辺りが光りだした。

 その光はとても強く、瞬時に目を閉じてしまった。

 その光は一瞬だったのだろう。瞼越しに感じる光は目を閉じた瞬間にはもうなくなっていた。

 俺はゆっくりと目を開いた。


 そこには、一人の女性が立っていた。だが、その奇抜な格好に俺は少しひるんでしまった。女性は西洋風の甲冑を身にまとっていたのだ。甲冑を着ているので体格のほどは予想するしかないが、線の細い女性だと感じる。身長は少し高く、俺とあまり変わらないから大体170cm前後であろう。頭には羽の付いたヘルメットをかぶり(いわゆる羽根つき帽子みたいなやつなのか)その隙間から、腰まである長い金色の髪が流れ落ちている。それに腰にはきっちりと剣が携えられている。


  

  「誰だ・・・」


  

 さっきから問いかけている質問をもう一度口にした。ただ、この言葉しか出てこなかっただけなのっだが。


  

  「人間よ。お前は理解しているか」


  

 女性はきれいな声をしていた。甲冑を着ていなければ何も違和感のない声だった。 


 

  「何をだ?」


  

  「お前は先ほど死んだ」


 

 女性の単調な声がいきなり確信をつく。

 やはりそうか。ほとんど予期していたことであったので、それほど驚くことはなかった。なるほど俺は死んでいるのか。じゃあなんだ?ここは天国だとでもいうのか?


 

  「なら、なんで俺はこんなところにいる?ここはどこなんだ?」


 

  「ここはヴァルハラ。オーディン様の館・・・」


 

  「オーディン・・・」


 

 オーディン!?オーディンだと!?

 そんな・・・そんな・・・まさか・・・

 オーディンはヨーロッパ神話などに出てくる神の名前だ。俺は夢でも見ているのか?神話だぞ?神話なんて人間が考え出した話だろう?。

 ・・・ダメだ。オーディンは知っていても、話の内容自体は全く無知に近い。


 

  「私の名はヴァルキリー。オーディン様の命により、神に敵対するもの、世界を滅ぼそうとするもの、そんな魔を滅ぼすための戦士を集めるものである。」


 

  「戦士を集めるって・・・」


 

  「そうだ。私の元々の目的は来る(きたる)最終戦争ラグナロクに向けて、単独で戦う戦士(エインヘリャル)と呼ばれる優秀な戦士を集めることであった。その後ラグナロクは終結し、オーディン様も狼神フェンリルに呑まれ命を失われてしまった。私の集めたエインヘリャル達も皆散っていった。しかし、ラグナロクは終結したが、悪魔達は死滅してはいなかったのだ。」



  「悪魔は滅びてはいなかったって、それじゃあこの世界にも悪魔は存在するのか?」

  


  「悪魔は存在する。ただ、お前たち人間の前には直接現れることは少ないだろう。私だってそうだ。お前たちは私という存在を現実で見たことがないであろう。我々神族も、悪魔達魔族も現世で肉体を模り行動を起こすというのは神力、魔力を多大に使うのだ。そこでだ・・・」



 ヴァルキリーはそう言うとゆっくりと右腕を上げ俺を指差した。



  「お前たち人間を使う。」



  「人間を使うだって?」



  「そうだ。特に悪魔達は人間を誘惑し乗っ取る。」



 そう言いながらヴァルキリーはゆっくりと右手を下していく。



  「乗っ取られるとどうなるんだ?」



  「もちろん悪魔のいいなりだ。これで悪魔は現世で好きなことができる。お前たち人間が殺戮したり、強姦したりするのは一部悪魔の仕業のでもある。」



  「じゃあ今の人間世界には悪魔が存在するっていうのか?」



  「もちろんそうだ。ただ、今まで現世に存在していた悪魔はどれも低級悪魔だ」



  「低級の悪魔・・・」


  

  「そうだ。低級悪魔は能力としてはさほど強くない。そのため人間に憑依したとしても数日としか持たない。だが最近上級悪魔が現世に降臨してしまった。上級悪魔は今までラグナロクで負った傷を癒していたのだ。上級悪魔が降臨したということは、近いうちに現世は滅びる」


  

  「世界が滅びるだって?」



  「今、現世に降臨したのは7体の上級悪魔。それは私の感知能力で知ることができる。ただ、その7体がどの悪魔なのかまでは知ることは出来ない、降臨した悪魔次第によっては現世は1年も持たないであろう」



  「そ・・・そんな・・・」



 俺の知らない世界がそこにはあった。人間たちの知らない本当の世界が生活の裏に潜んでいたのである。ではどうすればいいのか?なぜ俺はここに来ることになったのだ?ヴァルキリーは戦士を集めていると言った。俺が戦士になる?ただの人間だぞ?



  「お前が最後に見たものを覚えているか?」



  「あ・・・ああ。あれが悪魔か?」



  「あれはグール。悪魔ではない。」



  「あれが悪魔じゃないって?じゃあいったいなんなんだよ!」



  「グールは悪魔リッチによって具現化された怪物だ。グールは意志を持っていないただの人形だ。」



  「あいつはただの駒ってことか」



  「そういうことだ。リッチを死滅させなければ、グールを破壊することは出来ない。」



 あのゴリラはただの駒。あいつよりさらに強いやつがいるのか・・・そんなの俺にはどうしようもないじゃないか。

 


  「もういい!それで俺にどうしろっていうんだ!」



  「お前にはエインヘリャルになってもらう」



  「エインヘリャルってのは戦士になれってことだろ?こんなちんけな人間が戦士になったところで勝てるわけがないじゃないか!」



  「お前はもう人間でないことを忘れたのか?」



 人間でない?何を言っているんだ?俺はちゃんとした人間だ。神だとか悪魔だとかそんな化け物なんかじゃない!



  「何を言っている?俺は人間だ!」



  「違うな」



 間髪入れずに鋭い声が返ってくる。



  「もう忘れたのか?お前は死んだんだ。それでも人間だと言えるのか?」



 ぐっ・・・

 そうだった、俺はあの時死んだんだった。だとしたら今はこいつの言うとおり人間じゃない。だが肉体はここにあるということは、霊魂にはなっていないということだ。



  「俺がエインヘリャルにならなかったらどうなる」



  「その時は・・・」



 と、急に体が縛り付けられたように動かなくなった。まったく身動きが取れず、指先すら動かせない。



  「・・・・・・!!」



 心臓が締め付けられているような激痛が走る。息もまともにできない。



  「ぁっ・・・っっ」



  「エインヘリャルにならなかったならば、お前は死ぬのみ。本来お前はもう死んでいるのだからな」



 激痛はまだ続いている。ここで断れば死が訪れる。俺はなるしかないのかエインヘリャルに・・・



  「わ・・・わか・・・った」



 痛みが和らいでくる。どうやらここで死ぬことはないようだ。



  「では、契約しよう・・・」



 ヴァルキリーはそういうと剣を抜き、剣先を上にして体の前に構えた。



  「汝、ヴァルキリーの名により命ずる。神オーディン様に対し忠誠を誓い、我等聖なるものを勝利に導く戦士になられよ。」



 そう言い終わると、ヴァルキリーは持っていた剣を振りかざし、俺の胸に突き立てた。俺は動くことすらできなかった。痛みは意外にも感じなかったが意識はそのまま闇の底へと落ちて行った・・・




 






   


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