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前編

人魚が恋をするのは王子様

叶わない恋とは知りながら

人魚は王子様に愛をささやく


人魚が恋をするのは王子様

じゃあ、王子様が恋をするのはだあれ?



***




小さな(とは言っても、人一人は悠に入れる)水槽の中で、私は頭だけをちょこんと出した。

目の前には深い深ーいため息をする王子様。

あぁ、本当にカッコいいなぁ、すてきだなぁ、だなんて。

思っていても今は口に出せない状況らしい。


「なんで人魚がここにいるのかな……?」


うわぁ、怒ってらっしゃる……。

怖くて顔半分を水槽に入れるが、王子様は見ていたいので目だけは地上。

ブルーの髪に同じ色の瞳。

うわあ、もう、どうしようもなくカッコいい。

王子様の後ろに控えていた大きな男性は、大きい割にオタオタと狼狽えた。


「人魚さんが『王子様に会わせて』って言うもんですから……。こんな顔に言われたら男として断れないし……。この城に王子様といったらヴィンター様しかいらっしゃらないし……」


こんな顔とはどんな顔?

そんなに自分は切羽詰まった顔をしてたのかな……。

王子様は一切その人を振り返ることなく、私を見つめてまたため息をした。


「そ、それにほら!おとぎ話みたいだなぁ……、なんて……」

「君は今いくつだったっけ?僕よりも3つは上だったと思うけど。いつまでも童心を忘れない素敵な感性の持ち主だ、とでも褒めてもらいたいんなら他をあたってくれないか」

「う………」


王子様は静かに怒りを滲み出している様子。

私のせいなだけに、ものすごくいたたまれない。

いっそのこと、私に怒ってくれた方が何倍もいいのに……。

いや、むしろそうして欲しい。

まだ私、せっかく地上に来たのに、王子様と一言も喋ってないんですもの!


「ダインの話に乗るとしても、人魚姫は人の姿で、しかも声を無くして王子様に会うんじゃなかったっけ?」

「あ、私、王家の人魚ではないので、姫じゃないです」


怒っていても、私に対してはその感情をしまってくれる、この優しい王子様。

呆れてはいる様子で、困ったように私を見つめた。

あぁ、王子様とお話してるだなんて……!


「それに、人になるためには深海の魔女に頼まなければいけないんですけど、魔女ってとーっても怖いんですよ」


誰もが口をそろえて、魔女は恐ろしいと言っていた。

実際会ったことも見たこともないけれど、とても一人で会いに行けるような度胸は私にはない。

普通の人魚ならば、一生一度も会いたくないと言うほど遠ざけられているぐらいだもの。


「でも、人にならなくても王子様とは会えると思ったんです。だから来たんです」


そして本当に王子様に会うことができた。

なんて素晴らしいことなんだろう。

神様に感謝したって、感謝しきれないぐらい素晴らしいこと。

あぁ、私ってなんて幸せなんだろう!


「なぜ君は僕に会いたかったの?」


もちろん王子様だから。

人魚が人間に恋する場合は王子様にって、昔からの言い伝えがある。

私は恋がしたかった。

そして本当に王子様に恋をするのか、少し試してみたかったってのも理由の1つ。

人魚に恋することができなかった私は、きっと相手を間違えてしまっていたんだと思う。

それが今はよくわかった。


「王子様に恋するためです」

「は?」

「私はあなたに恋しました!好きです!」


男の人が何も飲んでいないのに咳き込み、王子様は目をぱちくりさせた。

何かおかしなこと言ったかなぁ?

王子様が私を見つめたまま動かないので、水槽から手を出して王子様へと伸ばした。

顔の前でヒラヒラさせようと思っただけなのに、王子様はぎょっとして後退りした。

ちょっとショックな反応……。


「恋したって……、今日が初対面だろう?」

「はい」

「いったいどのタイミングで?」


私と出会ってからこの方、王子様は一度だって笑顔にはなっていない。

ずっと怒った顔か呆れ顔だけれど、そんなのはどうでもよかった。

どこが、何が、と聞かれても困ってしまう。

一目見た瞬間、私の中の何かが音をたて、目が離せなくて、そばにいたいと思った。

これが世に言う、


「一目惚れです」


その瞬間、王子様は目を細めた。

なんだろう、すごく冷たい目をしているような……。

怒っているような、悲しんでいるような、そんな表情で私を見つめていた。

後ろの男の人は「あちゃー」という顔をして頭を振った。


「君も所詮は他の人と一緒だね」


え?

王子様は冷たく言い放つと、さっさと部屋を出ようとくるりと私に背を向けた。

さっきまで優しかった王子様が、まるで手の平を返したかのように冷たくなってしまった。

私、何か言っちゃいけないことでも言っちゃったのかな……。


「お、王子様っ」


部屋を出ようと、あっという間に扉に手を掛けた王子様の背に、あわてて声をかけた。

王子様は顔だけを私に振り向けた。

うわぁ、怖いお顔……。


「僕が君に恋することは、まったくもってありえない。わかったら海に帰るんだ。泡になって消えることもないんだしね」


王子様は大きな音を響かせて部屋を退出してしまった。


最後のあれは、皮肉……、なのかな……。

皮肉を言われるほど怒らせちゃったんだ、私。

嫌われちゃったのかな……。


「ええと……、すいません人魚さん」


大きな男の人は、私に向かってぺこりと頭を下げた。

褐色の肌は人魚界では珍しい。

だからってジロジロ見るのも失礼な気がして、男の人を直視できなかった。


「ルーアです。ルーアって呼んでください」

「ルーアさんですか。私はダインと言います。ヴィンター様の護衛兼傍遣いをしています」


見た目に反して、とても丁寧な人だと思った。

ダインさんはすまなそうに、もう一度頭を下げた。


「どうかヴィンター様を悪く思わないでやってください。悪気があったのでは……」

「わかってます。本当は優しい方なんですよね」


ダインさんは私を見つめ、ほっとしたように微笑んだ。

ダインさんは王子様を大切に思っているんだろうなぁ。

こんな優しい顔をするダインさんが護衛をしてるんだから、王子様が悪い人なわけがない。


「私が何かいけないことを言っちゃったんですよね……」

「えぇ、それなんですけど……。まぁ……、いろいろありまして……」

「いろいろ?」

「私の口から申して良いものかどうか……」


ダインさんは目尻を下げて頭を掻いた。

やっぱり言ってしまったんだ……。

それが何かは定かではないけど、でも……。

このまま海になんて引き返せない。

せめて王子様に私の想いをちゃんと伝えなくちゃ。

でなきゃやりきれない!


「すぐに海に帰れるよう手配を……」

「帰りません。ここにいます」

「え?」

「王子様にちゃんとこの気持ちが伝わるまで、帰りません!」


人魚の強い想いに、ダインさんは驚いていたようだった。

もしかしたら、呆れてただけなのかもしれないけど。


出会い編。

次話は歩み寄り編。


お読みいただき、ありがとうございます。


章管理にし、サブタイトルを変更しました。

誤字脱字、なにかありましたら見苦しいぞ!と怒ってください。

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