表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第三話

 夢の中に美咲が出てきた。見ただけでわかる。髪の毛が肩に届いていないのは、まだ魔法少女になれると信じていた時の彼女だということが。数えていないけれども、もしかしたら昔の美咲の方が夢によく出てきているかもしれない。それだけ昔の彼女の方がよかったと思っているということか。何かを引きずっているのはこちらも同じのようだ。

 美咲は既に起きていて、しかしまだ布団の中にいて、こちらの寝顔を観察していた。平日の彼女は黙っている。彼女は遅刻しそうな時間になっても、ずっとそうしていて起こしてはくれない。何しても手遅れな時間に起きてしまうのを期待しているのだろう。そうしたら「もう仕方ないよね」と言って一日中くっ付いているつもりなのだ。時計を見る。いつも通りの時間に起きることができた。「おはよう」と美咲は笑みを作る。「おはよう」もっと素直な朝なら、こちらも笑顔を作れそうなものなのに。どうしても今の美咲には抵抗がある。

 彼女は僕が起きてから朝食を作り始める。本当は大学に行かせたくないのと思っているのだが、弁当も一緒に作る。それは謙虚さではなく、トラブルを避けたいとこちらの顔色をうかがいながら、仲のいいカップルを装える最善策を実行しているだけなのだ。それでもご飯を用意してくれるのはありがたい。前のように無理やり引き止めるようなことはしなくなったという点もある。不満を持つよりも感謝するようにしている。

「行ってらっしゃい」今日の彼女はうつむいていた。沈んでいるようだ。「行ってきます」しかし励ます手段は、できるだけ明るく返事をすることくらいしかない。彼女の活力を僕の手で取り戻すのは難しい。しかしその難しさは、自分に向けられた好意の価値と表裏一体なのだ。受けなくてはいけない罰のようなもの。

 朝は人の少ないコスプレ街に一人の影。僕よりも二倍くらい年を重ねた顔が「よう」と片手を上げた。「どうも」と頭を下げる。あまり顔を合わせたくない人というのは、嫌いな人間のみを指すのではないのだと最近知った。須山さんはいい人なのだけれども、あまりにも世話になってしまったせいで気が引けてしまう。「珍しいですね、こっちにいるなんて。何かの発売日ですか?」そう聞くと「いや」と答えられる。どうしてもここじゃないと手に入らない限定版を買うために来たのだったらよかったのに、と思いながら「最近ここらで不穏が動きがあってな」と須山さんが話すのを聞く。

「よくこんな所で活動しようと思いますね、その人」と言うと「むしろここは都合がいい場所だろうな」と返してくる。「そうなんですか?嫉妬で何されるかわからないって」須山さんは前にそう語っていたはずだ。ここには魔法使いになることを挫折した人が少なからずいるから、魔法使いの自分としてはあまり立ち寄りたくないと。事実、そういう彼女を持っている身としてはあまり魔法使いの人と立ち話をしていたくないと思ってしまう。不運が重なってばれたら何を言われるかわからない。

 不穏な動きを見せている人にとって都合がいいということについて「ここなら変な格好をしていても目立たない」と須山さんは話した。「変な格好、してるんですか」須山さんは、うむ、と頷いた。そして「どうやら魔物がうろついているらしい」と小さい声で言った。「何を言っているんですか」反射的に冷たい目線を投げかけてしまう。魔物なんてゲームの中にしかいない。そんなファンタジーめいた物なんてあるわけがないのだ。「作った、と聞いた。魔法でな」魔法を使って魔物を作った。なるほど。それなら可能かもしれない。「でもかなり珍しい魔法ですよね」須山さんは大きく頷いて「全くだ。俺もそういうの欲しいくらいだ」と返してくる。この人が使えるのは、空を飛んだり力を強くしたりビームを撃ったりと、アニメで頻繁に見かけるようなメジャーな魔法ばかり。彼自身の持っているヒーロー像にマッチしていて気に入ってはいるそうだが、数年前から他にも芸が欲しいと思っていて、まだそんなことを言っているということは何も習得できていないみたいだ。

「そういうわけで、それらしいのを見つけたらぜひ捕まえてほしい」色々教えてくれるなあ、と思ったらこんなことを言ってきた。とんでもない。「いや、逃げますよ」普通はそうするものだろう。もしかしたら魔物とすれ違っているかもしれないんだよな、と考えるとぞくっとする。それからいつか見た悪魔の格好をした女性のことを思い出した。「まあ逃げてもいいが、連絡くれるとありがたい」と言う須山さんに「わかりました」と返しながら悪魔のことを考える。もし記憶に残っている中にいるとするなら、間違いなくあの人だ。もう須山さんと話し続けるような気分ではなくなって「それじゃあまた」と言って会話を切り上げて、歩きながら脳みそを動かすことに集中する。羽や尻尾が動いていたのは凄い仕組みで制御していたのではなくて、あれも肉体の一部だったからだと考えると自然な気がして恐ろしくなる。美咲はそんなのと知り合いで。うわあ、と声が漏れそうになる。予想が的中していて、そしてあの悪魔が僕らの関係に手を突っ込んできたら、大変なことになるかもしれない。とっとと見つけて須山さんに捕まえてもらった方がいいかも、と思った。それなら須山さんに教えないと。話したことのある知り合いを魔物扱いするのはどうかと思うけど、美咲のためだし後で連絡しよう。

 昼食にまた田中。彼はうどんをずるずる食べている。「なあ、彼女って夏休み前と夏休み中、どっちの方が出来やすいかな」と聞いてきた。彼に恋人が出来ないうちはこうやって昼食を共にできて、気楽に弁当を食べられるというわけだ。そういうわけで僕は「知らないよそんなの」と考えることを放棄した。「お前はいつだったんだ?」参考になるものじゃないだろうにと思いながら「二学期の途中。休みとか関係無かった」と答える。懐かしい。高校生になって、段々と現実を見つめろと周りから言われる年齢になっても、美咲は魔法少女になることを諦めていなかった。最初は何となく気が合う綺麗なクラスメイトという感じだったが、彼女の夢を聞き出してから印象が変わった。その彼女の照れを頬に含ませながらも夢を追おうとする笑顔は巨大な鐘の音のように僕の心に響いた。自分の中には無いものを見つけたと感じて、それから半ば付きまとうような形で僕は美咲の傍にいた。夏休みの時もよく会って、そして秋に向こうから告白された。当時のことを思い出せば自分の間違いばかりが浮かんできて小さな針が刺さる。

「彼女欲しいなあ」と溜め息のように言う田中。「彼女が出来る魔法でもレンタルしたらどうだ」と冗談で言ってやると「あるのか?」と食い付いてきた。魔法使いは自分の魔力を他人に与えることができる。実際は余った分をプレゼントする形なのだが、自分の能力を一時的に貸しているように見えるからレンタルと言われている。それでお金を稼ぐ魔法使いもいる。「探せばあるかもね」と言うと田中はすぐさま携帯端末を左手に持って検索し始める。同時に右手に持った箸でうどんを食べる。忙しいやつだ。「やっぱ魔法使いってずるいな。何でもできるじゃねえか」田中の言う通りだ。魔法使いはずるい。「でもまあ、そういうのレアだから、見つからないだろうし、仮にあっても超高いだろうね。ぼったくりだよ」一回分で十万円とか取られそうだ。

「っていうかあれなのか?」画面を見つめながら田中が聞いてくる。「魔法使いでさ、歌が上手くなる魔法を使って歌手デビューとかそういうこともできたりしちゃう?」もしかしたらできちゃうかも。そう答えると「うわあ、酷いなそれ」と田中は顔をしかめた。しわを思い切り寄せる眉が不快だと主張していた。「あのさあ、今テレビで魔法使いのアイドルがいるんだけどさ、そいつが妙に歌上手いんだよな。もしかしたらあれ魔法で上手くなってんのかもな」でもそれって嫌だよな、と田中は続けた。「俺たちがこうやって大学行って勉強してるのとか、凄く馬鹿らしく思えてくるじゃん。あいつらは魔法使えば勉強なんていらないんだから」それを聞いて、もし今後魔法の仕組みが解明されたら勉強は魔法で行うってこともあるのかな、とふと思った。

「うっわ、もしかしたらゆみちゃんも魔法でルックスよくしてるとかか?天才魔法少女だから自分を美少女にするなんて簡単そうだよな」妄想の羽をどんどん広げていく田中。暴走気味なので現実に戻してあげる。「まあまあ。魔法使えるからって、そう何でもできないって。彼女が出来る魔法のレンタルがそこらに転がってないだろ?それに魔法使いの全員が空を飛べるわけじゃないんだし、できないことはいっぱいあるって」となだめていく。実例として須山さんを見せてやりたいと思った。あの人、腕はいいけれども使える魔法の種類が少ないから、田中の嫉妬も萎むに違いない。実際にそうするわけにはいかないけれども。「そうか、ゆみちゃんは元から可愛かったというわけだな」既に機嫌が直っていたようだった。ちょろい。「ゆみちゃんって前言ってた小四の子だっけ」そう、と田中は頷く。「今日テレビに出るからチェックすべし」と番組名と時間と放送局を教えてくる。「いや見ないから」うちには二段の弁当を作ってくれた人がいる。魔法少女、それも小学生のが出ている番組なんて見られるはずがない。「見ないとか人生損してるでしょ」よっぽど気に入っているらしい。別の番組で見せた可愛さについて語ってくれたが、僕はそれを聞き流して卵焼きを口に入れた。

 帰る途中。空を見上げる。青い。もうすぐ夏休み。きっと美咲とずっと一緒にいることになるだろうから、しばらく空を見ることができなくなる。探してみるが今日は飛んでいる魔法使いの姿が無かった。そういう時もある。中学生の頃は飛んでみたいとよく思っていた。空を飛んだらきっと気持ちがいいだろう。自分が飛んだせいで誰かが不幸になることも無いだろう。そういうお気楽な魔法が欲しかった。でも今はもう飛べないとわかっている。けれど高校の三年間を過ごし大学生になった今でも代わりの夢は生まれていない。僕は惰性で空を見ている。こんなことしていたところで飛べるわけがない。けれど綺麗だ。空があんなに綺麗な青色を出すのだから、僕らの生きている世界にも素晴らしいことがあるような気がしてくる。そして美咲にまだ魔法使いになりたいと思う気持ちがあるのなら、僕の代わりに飛んでほしいと思うのだ。

 電車の中で魔法使いについての情報を集めてみる。魔法使いになる方法について何か新しい発見はあるだろうか。今わかっている中で最も有効なのはレンタルだ。他人から魔力をもらって、それを実際に使ってみる。そうやって練習していくうちに使えるようになるかもしれない、という方法。それよりも簡単で確実な方法や人間が魔法を扱うメカニズムが発見されれば美咲をやる気にさせられるかもしれない。しかし今日もそんなものは見つからず、電車は大きな箱の中へ入っていった。

 猫耳を着けたメイドさん。猫耳とメイド服。強い物を二つ一緒にすればさらに強い、と言わんばかりの格好だ。駅から出てすぐに目に入ったその人のおかげで今朝の会話を思い出した。悪魔を探さないと。首を左に右に動かしてコスプレしている人たちの中から、異質な人間を探す。須山さんは魔物と言っていた。だからもしかしたら獣人だったりするかもしれない。とにかくあの亜紀さんのように不自然な人を探せばいい。

「にゃんにゃん。ティッシュどうぞだにゃん」猫耳のティッシュ配り。前もいたな。同じ人だろうか?覚えていないが猫耳の色が違う気がした。前は確か黒。今日は白。「ありがとにゃん」猫の耳が動いていた。ぎょっとしたがよく見ると大きめのカチューシャで、脳波を感知して動くやつだった。このコスプレ街で買える物だ。「びっくりした」安堵して呟く。あのアイテムは不審者発見の障害になりそうだ。なるほどと思う。この街なら魔物は見つかりにくい。コスプレ街に慣れていない人が見たら、全員が魔物に見えるかもしれない。須山さんなら大丈夫だろうけど。「大変だな」誰にも聞こえないくらい小さな声でもう一度呟いた。

 亜紀さんは見つからなかった。寄り道せずに帰る途中できょろきょろしていただけだ。そう都合よくはいかないものだろう。ちょっぴり残念だ。まあそういうことはヒーローにお任せしよう。悪い魔法使いをやっつける正義の魔法使いだからヒーロー。実際の活動はアニメや漫画の中のヒーローのように派手ではないからそう呼ばれるのを嫌う人もいるようだが、須山さんのように胸を張って生きていいと思う。魔法使いなんて普通の人間では手に負えないのだ。魔法で悪さをしてはいけない。魔法は人の人生を簡単に壊してしまうものなのだ。

「ただいま」ドアを開けてそう言うと、切羽詰ったような声が「おかえり」と言う。様子が変だ。どうしたのだろう、とこちらが様子をうかがう前に、突進するようにこっちに来て飛び付いてきた。ぎゅうっと強い力で抱き締められる。どうしてしまったのか。わからないまま唇を押し付けられた。有無を言わさない勢いがあって、いつもとだいぶ様子の違う美咲がいつも通りを装って性行為を進めていく。何があったのか、波のように不安定な瞳から読み解こうとするものの、彼女の目を黒くしている感情の文字列は読み取れない。一体そこに何が書いてあるのかわからないまま僕は美咲を抱き締めなければならなかった。彼女の吐息は重かった。

 快感で何度か体と心を制御できなくして美咲は激しく動くのをやめた。性欲を刺激する風でもなくただ無言で抱き付いてくる。さっきまで暴風のようだったのに。しばらくして「ごめん」と言って彼女は僕から離れた。美咲の方から離れるなんて本当におかしい。どうしてしまったのか。脱ぎ捨てたパジャマを拾ってそれを着た美咲は玄関からリビングへと逃げていく。こちらも理性的な格好になってから「どうしたの」と追いかけて尋ねる。うつむいていて表情が見えない美咲はしばらく黙っていた。凍りついているかのようだったが、背中まで伸びた髪が主の僅かな動きを教えてくれていた。彼女の黒い髪は震えていた。こういう時、どう接してあげればいいのだろう。人の心に優しく触れる術を僕は知らない。力加減がわからなくて動けない。美咲と同じように固まってしまい、ただ視線をさまよわせるだけだった。それでも美咲の力になりたいから言葉を押し出すが「ええと」くらいしか出てこない。それがどう繋がったのかわからないが、美咲はぺたんとベッドに腰掛けた。そして十秒くらいかけてやっと「怖い」とかすれた声を出した。

「怖いって何が?」ゆっくりと美咲の横に腰掛けて、目の高さを合わせてみる。しかし彼女の方を見ても視線は交差しない。遠い。「自分に価値が無いんじゃないかって思うと怖くて死にたくなる」美咲の目は床に向けられていて、まるで独り言のよう。「結局魔法使いになんてなれないで、大学に行くのもやめちゃって、行こうって思っても何だか怖くて無理で」ぽつりぽつりと床に落としていく思考を拾っていく。「料理とか色々するけれど、でもやっぱりこんな自分に価値が無いんじゃないかって考えちゃって。それが凄く気持ち悪い。霧みたいに消えることができたら、ってよく思うんだけど、でも死ぬのも、怖い」沈んでいく。「どうすればいいのかな」美咲は恐る恐るこっちを見た。やっと僕を見てくれた。

 僕が答えてはいけない。ここで「じゃあ魔法使いになるために頑張ってみようか」と言ってしまっては、彼女の意思を無視することになってしまいそうで恐ろしい。彼女が自分の意思で見つけなくては駄目だ。だから答える代わりに「何をやったら、美咲は自分に価値があるって感じるの?」と彼女の心を掘り出してみる。美咲は躊躇いながらも「魔法が使えたら」と言った。まるで初めて彼女が僕に夢を語った時のように。やっぱりそれがあるんだな、と感じた。「でもたぶん私には使えないんだと思う」彼女はまた下を向く。「でも使いたいんでしょ?」と聞くと、こくんと頷いた。「ならやれるだけやってみてもいいんじゃないかな。それで使えなかったとしても、僕は美咲のことを価値が無いなんて思ったりしないよ」と言うと「本当に?」と美咲の顔が少し明るくなった。「うん。だから今度レンタルとかしてみようよ」と誘う。「うん、わかった。ありがとう」まだ表情に暗雲が立ち込めていたが、それでも美咲は笑顔を見せてくれた。よかった。でも自分の台詞が気にかかる。今のは彼女を誘導したことにはならないだろうか。彼女が前を向いた喜びと同時に自分の言動への不安も感じてしまう。彼女を操り人形にはしたくない。

 やっと重りを下ろすことのできた美咲がゆっくりと夕飯を作り始めた。包丁の音が時計の音のように小さく優しい。手枷が出来てしまったかのように大人しくなった。今まで彼女の中には焦燥感のようなものがあったのだろう。「手伝おうか?」と数ヶ月ぶりに聞いてみる。美咲は僕の顔を見て、少し悩んでから「ううん、やっぱいい」と言ってから、ごめんね、と謝ってきた。「うん、わかった」素直に身を引く。一瞬で全てが綺麗に元通り、とはならない。魔法じゃないんだから。少しだけ高校の頃のような関係に戻ることができたと思う。嬉しい。純粋に夕飯が楽しみだと思えたのはいつぶりだろう。

 夕飯はいつもより遅くなった。それでもいつもと同じように、彼女が元々一人暮らしをするのに使っていた小さなテーブルを料理で賑やかにしている。「なんかのんびり作っちゃった」と照れ笑いを浮かべる美咲はどこか楽しそうだった。「いただきます」今日は彼女の声が重ならなかった。僕が言った後に「いただきます」と手を合わせた。彼女のタイミングだ。味噌汁を飲む。「うまい」食事する度にうまいうまいと言ってはご機嫌を取ることもできない、といざという時のために取っておいた台詞だったが、今日は素直にそう言っていい気がした。やっと失敗して歪んだ分を正常に持っていく流れが出来た。このまま全てのマイナスを取り払いたい。夕飯の中に幸せを投影して食べてみた。今日のはただの栄養源じゃない。

 昨日までは夜を貪るようだったけれど今日は砂時計のように会話を重ねることができた。「久々に見たくなっちゃった」と美咲は視界に入らないようにしていたアニメのボックスを取り出した。僕らが小さい時にやっていた魔法少女ものだ。一緒に見る。美咲はあれこれと喋る。「私これに憧れて、魔法使いになりたいって思ったんだよねえ」アニメの世界は魔法使いにとっての憧れだ。あんな風になりたいと思って魔法使いを目指すのだ。「私もこんな風になれるのかな」人々を助けて、世界を救う女の子。「魔法が使えなくたって、きっとなれるよ」僕の言葉を気休めと思ったみたいだ。美咲は「そうだといいね」と笑った。でも僕は魔法なんて大切なものじゃないと思うのだ。どうだろう、彼女に伝わるだろうか、この感じ。ちゃんと言葉にできそうにないから言わなかったが、いつかわかってくれたらいいなと思った。

 おやすみと言い合って目を閉じる。寝る前までセックスをしていたのを習慣のようなものだと体は思っていたらしい。ずっと美咲が傍にいるのに何もせずにいるのがもどかしいと感じていた。彼女の肉体に触れたいと思ってしまうのを叱りつけるようにして抑える。これからはこんな関係を続けるのだ。もう性行為に頼らなくていい。だから我慢しろ。そう自分に言い聞かせる。なかなか寝付けなかった。深呼吸をしたり寝息を立てる振りをしたりしているうちにどうにか睡魔を呼び寄せることができた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ