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大分間が空いてしまいました、すみません。
髪を撫でられてる感触。
優しく撫で付ける手は大きい。
「お兄ちゃん…?」
まどろみの中、うっすらとまぶたを開いて、その姿を探す。
でも、目に映ったのは兄じゃなかった。
そこに居るだけで絵になる美形。
「…武?なんで…」
不思議そうにする私に、武は優しく微笑んだ。
武の私に向けられた笑顔を、久しぶりに見た気がする。
…これは、夢なんだろう。普段、拳を交えてばかりの私たちからしたら こんなに穏やかな時間は ありえないのに。
私は、夢にまでみるほどに武に優しくしてほしい、女の子の扱いをしてほしいと願っていたのだろうか。
…夢なら、少しくらい甘えてみてもいいのか…?
「武…」
名前を呼んでみると、彼は何?と言わんばかりに、私に顔を少し近づけた。
「さわっても、いい?」
途端に、ぴきりと武が固まったように見えたけれど、気にするものか。これは夢だ。私の夢の中の武なら、大人しく私にさわられていろ。
そっと手を伸ばして、頬に触れる。小さい頃は ぷにぷにマシュマロのようだった白い肌が、今では張りのある日に焼けた茶色になっている。こうしてさわってみると、無駄な肉が全くついていないのに腹が立つ。同じ頬でも、私の頬は ぷにぷにしているというのに。
羨ましくも憎たらしくなって、思いっきり頬をつねってやる。
すると、
「いって…?!」
つねられた武が、声をあげて痛がった。
おかしい。これは夢のはず。そういえば、つねった肉の感触とか、やけにリアルだ。
ぱっと手を離して、もしかして と頭の片隅で思い始めた時。
「婚前交渉禁止じゃいっ!」
ふすまをぶち破らん勢いで、じいちゃんが部屋に乱入してきた。
その騒ぎで、私は反射的にベッドから飛び起きる。
「この青二才が!未婚の女子の寝入っている隙に不埒な真似を働こうとは!約束を忘れたか!」
「誤解です!俺は何も…」
「黙れ小僧!そこになおれい!」
じいちゃんに正座で説教される武を ぼうっと、見ながら、私は徐々に頭が覚醒していった。
「夢じゃ、なかったの…?」
言葉に出すのと、理解するのは同時だった。
私は、なんてことをしたのか。頭を撫でられて舞い上がり、さわっていいか等と言って、武の頬をなで回したのだ。
羞恥と後悔と、色んな感情がない交ぜになって、私は悲鳴をあげた。
「どうしたっ?」
説教されながらも、私の悲鳴が耳に入ったのか、武が焦った様子で私に振り返った。
その方頬が、赤くなっていた。
私だ。私がつねったから赤くなっているんだ。
これはいよいよ、夢ではなかったのだと追い討ちをかけられてしまった。
穴があったら入りたい。まさにそんな心境の私は、混乱するままに武の服の胸元を力任せに掴んだ。
目を見開く じいちゃんと武。あまりにも唐突な私の行動の先が読めないからだろう。
服を捕まれ、正座から膝立ちになった武をひた と睨み据え、
「明日の正午、道場に来なさい!最後の試合をする!」
一方的に試合を申し付けた私は、振り切るように服から手を離し、道場に走った。