4
小学生からの恋心に、高校生になってからやっと気づいたのに。
女の子として見てもらえてないどころか、ただのライバル。
しかもそのライバルの座でさえ、武が力をつけてきた今は危うい。
もし、私が負けたら…なんとなく想像してみる。
「飛鳥、勝負!」
びしばしっ
「きゃーっ、やられたあ!」
「なんだ、案外あっけないな。これで飛鳥を超える事ができたし。お前にもう用はない。じゃあな」
「そ、そんな、武っ!」
待っでよお゛ぉーー!!
鼻水垂らして追いかけそうだ…
怖い。そんな未来考えたくない。今まで当たり前に一緒にいたけど、私達の関係はひどく危うい事に気づかされる。
私が負けたら、この関係は終わり…
この恋がもう終わっているのは、解った。……でも、武の傍にいたい。
だから私は、負けるわけにはいかない。なんとしてでも、武に勝ち続けなければ。私はかたく、決意した。
「あすか…飛鳥!」
「あっ…なに、お兄ちゃん」
そういえば、朝ごはん食べてる途中だった。
心配そうに私を見る兄、平安の視線に気づかないふりをしながら、箸を動かす。
鮭、冷めてる。どれくらいぼーっとしてたんだ私。
「考え事?もしかして、武君の事かな?」
「うぐほっ」
お兄ちゃんが、ぴしゃりと言い当てるものだから、鮭とご飯が喉に詰まってしまった。
「ほれ、水じゃ」
「げほっ、んぐ、ごくごく…ぷは、ありがとう。じいちゃん」
ばあちゃんが綺麗な川のほとりで、洗濯してるの見えてしまった。
「武の坊主は、まだ飛鳥に勝ててないようじゃの。今朝もしょげて帰っていきおった」
「あらら、残念だね武君」
「ちょっと、残念じゃないでしょ!孫と妹の勝利を祝ってよ!」
かーっかっか!と馬鹿笑いして食卓につくじいちゃん。どうでもいいけど、広げた新聞逆さまだけど。
「でも僕は武君を応援しちゃうなあ」
お兄ちゃんは食べ終わって、食後のティータイムにありつくようだ。ごつい指で繊細なカップを持つ姿は、いつ見てもこめかみがむず痒くなる。
今日も加賀家は自由だ。ちなみにお父さんとお母さんは、去年福引きで世界一週旅行を当てて旅行中。とっくに旅行終わってるはずだけど、まだ帰ってこない。1度「ラブラブです。もう少し愛を確かめあってから帰ります。ちゅっ」とハートまみれのエアメールが来たから、全然心配してない。
「武の応援なんてしなくていいよ。妹の応援してよ!」
私、絶対負けるわけにはいかないんだし!
「わしは飛鳥を応援しとるぞ」
さすがはじいちゃん。私の1番の味方なんじゃないか。
「勝負で敵わんようでは、飛鳥を押し倒す事もできんからな。手込めにもできんわい」
「ちょ、ちょっと、何言ってるの!朝から下ネタやめてっ!」
かーっ、と顔に熱が集まってるのが分かる。頭が真っ白になって、意味もなくじいちゃんの新聞をビリビリに破く。
「ごちそうさまっ」
ガチャン、と乱暴にシンクに食器を置いて、2階の自室に引っ込む。
部屋のドアを閉める直前まで、じいちゃんの泣き言と、お兄ちゃんの面白がる声が聞こえて、ふすまを
ばしんっっ
と思いっきり閉めてやった。
ベッドに座り込みながら、ふうっ、と息を吐く。
「押し倒されるどころか、女の子扱いもされてないっつーの…」
ごろん、と横になる。今日は土曜日で休みだし、また寝ちゃおうか…
私は目を閉じて、体の力を抜いた。