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戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方【完結済/続編有/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第5章:ログアウト

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第36話:関ヶ原のインサイダー・ディール

―― 東軍という「巨大JV(共同企業体)」の財務コンサルへ。


1. 巨大JV(共同企業体)のガバナンス不全


慶長五年(1600年)。


巨大ブラック企業であった豊臣ホールディングスは、創業者の急逝からわずか二年で、事実上の空中分解を迎えていた。


残された過労死専務・石田三成が率いる「西軍」と、筆頭株主・徳川家康が率いる「東軍」。


日本という市場を二分する敵対的買収合戦――世に言う『関ヶ原の戦い』の火蓋が、今まさに切られようとしていた。


「政貞! 大変だ! 三成の奴から『西軍の株主(味方)になれ。さもなくば改易だ』と脅し文句の連判状が届いたぞ! かと思えば、内府(家康)様からも『東軍のJV(共同企業体)に兵を出せ』と催促が来ている! 我らの不労所得ライフはどうなるのだ!?」


江戸桜田の小田邸。


ハゼ釣りの仕掛けを放り出し、うろたえる氏治の姿があった。


私は冷えた茶をすすりながら、机の上に日本全国の大名の配置図――もとい、両陣営の「相関図」を広げた。


「落ち着いてください、殿。これほどわかりやすいインサイダー取引(情報戦)の好機はありません。我が小田高家は、西軍にも東軍にも『兵(資本)』は一兵たりとも出しません」


「えっ!? どっちにも付かないのか? そんなことをしたら、勝った方に戦後処理で会社を清算(改易)されてしまうぞ!」


心配そうに顔を覗き込む氏治に、私はニヤリと笑ってみせた。


「殿、よく見てください。家康殿が率いる『東軍』という組織の実態を。これは一枚岩の軍隊ではありません。福島正則や黒田長政といった、旧豊臣系の武闘派大名たちを強引に巻き込んだ『時限付きの共同企業体(JV)』です。誰もが家康殿を信頼しているわけではなく、戦後の配当(恩賞)目当てで参加しているに過ぎない。つまり、ガバナンスが極めて脆弱なのです」


私は地図の一点、美濃国関ヶ原を指差した。


「兵を動かせばコストがかかり、戦死というリスクを伴います。ならば、我が社が提供すべきは兵力ではない。この脆弱なJVを勝利へと導く『非公開情報インサイダー』と『兵站のロジスティクス(物流インフラ)』です。これを家康殿に高く売りつけ、戦わずして『Aクラスの株主』としての権利を確定させます」



2. 内府へのシークレット・ピッチ


その夜。


私は下野国小山での軍議(小山評定)を終えて江戸へ戻っていた徳川家康、そして本多正信と、密かに一室で対峙していた。


周囲の大名たちが血気に逸る中、家康の表情には、巨大JVのCEOならではの深い焦燥が滲んでいる。


「……政貞殿。小田家からの兵の着到が遅れているようだが、一体どういうことだ。まさか、佐和山の三成と裏で通じているわけではあるまいな?」


正信が、蛇のような目で私を睨みつける。


私は懐から、一通の極秘データをまとめた書状を差し出した。


「滅相もない、正信殿。我が小田家は、徳川様がこの市場再編(関ヶ原)で100%勝利するための『戦略的インテリジェンス』を持参いたしました。……これをご覧ください。西軍に参加している五大老の一角、毛利輝元、および現場の総大将である毛利秀元、さらには吉川広家の『裏の財務状況』と、彼らが抱える本音のデータです」


家康の手がピタリと止まり、書状を開いた。


そこには、毛利家が抱える莫大な領地維持コストと、三成への不信感、そして――


「徳川が領地を安堵してくれるなら、戦場で一兵も動かさない」


という、彼らの裏の経営方針(不戦の誓い)が、ロジカルに分析されていた。


「これは……確かなのか?」


家康の目が、鋭く見開かれる。


「間違いありません。我が社の情報網(かつてばら撒いた商業ネットワーク)が掴んだ、確実なインサイダー情報です。


毛利は動きません。


さらに、小早川秀秋。彼は現在、西軍の資本(陣営)に身を置いていますが、その投資マインドは極めて流動的です。裏から適切な圧力をかければ、必ず東軍へと『鞍替え(寝返り)』します。そのための具体的な交渉ロジックもここに記してあります」


家康は書状を貪るように読み進め、やがてふっと深く息を吐いて、顔を上げた。


「……政貞殿。お前は本当に恐ろしい男だな。我らが命を賭けて戦おうとしている盤面を、まるで算盤の上の数字のように扱っておる」


「ビジネスも戦争も、情報格差アシンメトリーを制した者が勝つ。それが私の流儀です、内府様」



3. ロジスティクスの独占契約


「だが、政貞殿」


と、正信がなおも食い下がる。


「情報だけでは腹は膨らまぬ。我が東軍のJVは、前線への兵糧の補給、および弾薬の調達という、最悪のロジスティクス問題を抱えている。小田家が兵を出さぬというなら、この物流の遅れをどう責任取るつもりだ?」


待っていました、と私は心の中でガッツポーズを作った。


「それこそが、我が小田家が提供する第二のソリューションです。小田家の家臣団は現在、徳川様の御下で『江戸のインフラ開発』に従事しております。彼らの構築した関東の街道網、および常陸・北条から引き継いだ水運ルートをすべて、東軍の『専用物流ライン(サプライチェーン)』として開放いたします」


私はもう一冊の仕様書を提示した。


「前線で戦う福島殿や黒田殿の軍勢に対し、小田家の流通ネットワークを使って、どこよりも早く、正確に兵糧と弾薬をデリバリー(配送)します。


戦場で血を流す役目は彼らに任せ、我が社はそのバックオフィス(後方支援)を完全に独占する。


これなら、徳川様も兵站の心配をすることなく、前線に集中できるはずです」


家康は、じっと手元の仕様書と私を見比べ、やがて腹の底から響くような声で笑い出した。


「ハハハ! 面白い!


他の大名どもは『一番槍をつけ』『敵の首を上げろ』と泥臭い手柄ばかりを主張するが、お前だけは『物流の最適化で勝たせる』と言ってくるか!


良かろう、小田家の不参戦を許す。その代わり、前線への兵糧の未着は一粒たりとも許さぬぞ!」


「御意にございます。東軍という巨大JVの『最高財務・物流顧問』として、完璧なワークフローをお約束いたします」



4. 決戦前夜の「釣りバカ」とリスク管理


江戸への帰路。


私は小田邸の自室で、完璧に組み上がったサプライチェーンの図面を見つめていた。


これによって、我が小田家は関ヶ原という史上最大のデスマーチに巻き込まれることなく、東軍の「勝利の果実」だけを合法的に分配(配当)されるポジションを確立した。


――と、その時。


障子が勢いよく開き、氏治が満面の笑みで飛び込んできた。


「政貞! 見ろ! 新しいハゼの浮きを作ったぞ! これを関ヶ原の戦いが終わった瞬間に江戸湾に浮かべるのだ! 楽しみだのう!」


「……殿。日本中が天下を賭けて血を流そうとしている時に、世界で一番のんきな大名ですね、あなたは」


「何を言うか! お前が『リスクはすべて徳川にアウトソーシングした』と言ったのではないか!


ならばわしは、来たるべき完全なる隠居に向けて、趣味の解像度を上げるのが仕事であろう!」


氏治はそう言って、自作の浮きを大切そうに懐に仕舞った。


私はその姿を見て、ふっと張り詰めていた肩の力が抜けるのを感じた。


(……そうだ。この人が笑って釣りをしていられる世界を守るために、私は現代の知識を使って歴史をハックしてきたのだ。


史実の小田氏治は、関ヶ原の戦いの頃にはすでに大名ですらなくなっていた。


だが今、この人は徳川家康すらも一目を置く、最強の『不労所得者』としてここにいる)


あとは、私が組み立てたロジスティクスとインサイダー情報が、関ヶ原の戦場で機能するのを見届けるだけだ。



5. 関ヶ原の市場再編


慶長五年九月十五日。


美濃国関ヶ原。


朝霧が立ち込める中、東西合わせて十六万の軍勢が激突した。


しかし、その戦況は、私が家康殿に授けた「シナリオ」通りに冷徹に進んでいった。


西軍の主導権を握るはずの毛利軍は、吉川広家の『不戦の誓い』によって山の上に釘付けにされ、一歩も動けない。


東軍の前線には、小田家の物流ラインによって潤沢な兵糧と弾薬がリアルタイムで補給され、兵たちのモチベーションを最高潮に維持していた。


そして正午。


膠着する戦局の中、松尾山に陣取る小早川秀秋に対し、家康殿の催促の銃撃が放たれる。


私のロジック通り、自らの投資対効果(どちらに付くのが得か)を計算し尽くした秀秋は、一気に山を駆け下り、西軍の側面へと「敵対的買収(裏切り)」を仕掛けた。


勝負は、わずか半日で決した。


石田三成が率いた豊臣ホールディングスの守旧派(西軍)は完全崩壊。


市場の覇権は、名実ともに徳川家康の元へと一極集中したのである。


戦後、大坂城に入った家康殿から、江戸の小田邸へ一通の「配当原資(感状)」が届けられた。


そこには、小田家の高家としての格式の永続安堵、および江戸における地代収入の完全免税という、破格の条件が記されていた。


兵力を一切消耗せず、ただ情報と物流を売りつけるだけで、小田家は豊臣政権の崩壊という大荒れの市場を完全に生き抜いたのだ。


だが。


すべての戦後処理が終わり、いよいよ本当のログアウト(FIRE)を迎えようとしていた私たちの前に、最期の、そして最も厄介な「不良債権」が残されていた。


大坂城の奥深く、未だに「豊臣のブランド」という幻影に縋り付き、莫大な借金を抱えたまま破産を拒む、大坂の母子――淀殿と秀頼の存在である。


豊臣家というブラック企業の、本当の意味での「最終法的整理(清算)」。


それを見届けるまで、私のコンサルタントとしてのログアウトは、まだ許されないようだった。



第36話・ステータス報告


* ステータス:

関ヶ原の戦いにおける「後方支援・情報提供」の完遂。東軍JVへの貢献度:最高ランク。

* 主要成果:

徳川家康からの「高家格式の永続安堵」および「江戸地代の免税特権」の獲得。小田家の生存利回り:過去最高。

* KPI:

本陣の戦死者:0名。

前線への兵糧納品遅延率:0.0%(Amazon並みの即日配送)。

政貞のハゼ釣り解禁へのカウントダウン:あと一歩。

* 政貞のメモ:

「関ヶ原という名の巨大な市場再編(M&A)は、私のインサイダー情報とロジスティクス戦略によって、極めてローリスク・ハイリターンに決着した。……兵を動かさず、血も流さず、ただシステムを提供しただけで、我が小田家は将来の江戸幕府における『永久不換紙幣(絶対的安全地位)』を手に入れたのだ。


 ……殿も新しいハゼの浮きが完成してご満悦の様子。


 ……だが、市場の完全なる安定のためには、大坂城に残された『豊臣家』という名の巨大な不良債権を、法的に破産整理(改易)しなければならない。


 ……次が本当に、私の最後の仕事デスマーチになるだろう」



【次号:第37話:大坂の陣のリーガル・マインド


―― 豊臣家という不良債権の最終法的整理。】


―― 「豊臣ホールディングス、これより法的倒産手続き(大坂の陣)へと移行します」


未だに過去の栄光ブランドに囚われ、ガバナンスを無視して浪人(不良資産)を雇い入れる大坂城の豊臣家。


家康からの最後の依頼を受け、政貞は大坂の陣を「戦」ではなく、冷徹な「民事再生・会社更生手続き」として処理する法的スキームを立ち上げる!


世紀の最終清算ディール、ついに開幕!

【読者の皆様へ】


『戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます』をお読みいただき、本当にありがとうございます!


 九度落城する最弱大名を、


「どう勝つか」ではなく、

「どう倒産しないか」


という視点で立て直していく、小田家の事業再生プロジェクト。


 少しでも楽しんでいただけていましたら嬉しいです!


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【シリーズ新作・連載中!】


『【悲報】転生先でも定時退社できない。――過労死会計士、劉邦のCFO・蕭何になる』


 今度の舞台は中国古代。


 過労死した公認会計士が、劉邦陣営のCFO・蕭何に転生。


 軍資金ゼロ。

 終わらない赤字。

 暴走する天才たち。


 そんな地獄みたいな天下統一プロジェクトを、“数字”だけで支える中華内政デスマーチです!


 第1話はこちらです!


https://ncode.syosetu.com/n2221mf/1/


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 もし「小田家おもしろい!」と思っていただけましたら、ぜひ新作のブックマークや評価でも応援いただけると嬉しいです!


 それでは、次回もよろしくお願いいたします!


 筑紫隼人

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