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戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方【完結済/続編有/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第4章:FIREへのエグジット

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第33話:家臣団のアウトソーシング

―― 優秀な部下たちを徳川家に「出向」させ、恩を売る。


1. 人材アセットの切り離し


「……私と殿の二人だけで、名護屋へ赴く。家臣は一人も連れていかん」


政貞が放ったその一言に、日本橋の小田邸に集まった重臣たちは、一斉に蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


常陸以来の忠臣である信太範宗が、身を乗り出して叫ぶ。


「正気か、政貞! 太閤殿下の直命による『海外事業の立て直し』なのだろう!? なぜ我らを置いていく! 敵地へ赴く主君を、丸腰で行かせるわけにはいかぬ!」


「そうだ! 北条の技術者たちも、お役に立ちたいと申している!」


菅谷家の若い血気盛んな将たちも、それに続いた。


政貞は、騒ぎ立てる彼らを片手で制し、冷徹な「人材ポートフォリオ」の図面を机に叩きつけた。


「……落ち着け。これは『見捨て』ではない。……『アセット(資産)の最適配置』だ」


広間が静まり返る。


「……よく考えろ。朝鮮での戦は、戦力(資本)を投入すればするほど赤字が膨らむ、歴史上最悪の不採算プロジェクトだ。そこに小田家の貴重な人的資本(家臣団)を突っ込んでみろ。……全滅するか、良くて過労死だ」


政貞の瞳には、一切の迷いがなかった。


「……大閤殿下が求めているのは、小田家の『兵力』ではない。私と殿の『知恵ソリューション』だ。ならば、現場で働く労働者は必要ない。……我々がやるべきは、小田家という組織の安全を完全に確保した上で、お前たちを『最も利回りの良い場所』へ投資することだ」


「利回りの良い場所……?」


守治が、父の言葉の意味を測るように呟く。


政貞はニヤリと笑い、地図の「江戸城」を指差した。


「……徳川家康殿のふところだ。お前たち全員、本日をもって徳川家へ『長期出向』してもらう」


どよめきが起こる。


「徳川家へ……出向?」


「そうだ。……お前たちは今日から、『小田家の家臣』でありながら、『徳川家の実務官僚』として働く」


政貞は、さらに続けた。


「……江戸は今、日本最大の成長市場だ。治水、物流、築城、港湾整備、貨幣流通。あらゆるインフラ需要が爆発している。……つまり、徳川家は今、人材不足という名の地獄にいる」


「そこへ、即戦力の我らを送り込む……」


守治が、ようやく意図を理解した。


「……その通り。お前たちは、ただ雇われるのではない。……徳川家中に、小田家という『人的ネットワーク』を埋め込むのだ」


政貞は、静かに笑った。


「……土地は奪われる。城は焼かれる。だが、人材と信用は、どこへでも持ち運べる。……これからの時代を生き残るのは、土地持ちではない。『情報』と『人脈』を支配する者だ」



2. 家康へのトップセールス


その夜。


政貞は、徳川家の最高権力者である家康、並びに本多正信と、密かに一室で対峙していた。


提示したのは、小田家の全家臣、並びに北条から引き抜いた高度技術者たち、総勢数百名に及ぶ「スキルマップ(職能目録)」である。


「……家康殿。これより私と殿は、太閤殿下の御命により名護屋へ参ります。……つきましては、留守中の我が家臣団、並びに工匠たちを、すべて徳川家で『お預かり』いただきたい」


家康は、差し出された書状をめくり、そのあまりの質の高さに目を細めた。


治水。


築城。


算術。


兵糧管理。


流通設計。


江戸開発に必要な「即戦力」が、そこには揃っていた。


「……これは素晴らしい人材だ。だが、政貞殿。これほどの手勢を徳川に預けるとは、実質的に小田家を徳川の『配下』にするという意味か?」


正信が、疑い深い目で政貞を睨む。


政貞は、首を横に振った。


「……いいえ、正信殿。これは『業務委託アウトソーシング』、あるいは『人材レンタル』です」


「……ほう?」


「……彼らの給与(知行)は徳川家で持っていただきますが、籍はあくまで『小田家』にあります。彼らが江戸の街を造り、関東を豊かにすれば、それは徳川家の手柄になる。……徳川家にとっては、採用コストも育成コストもゼロで、最強の労働力を手に入れられる『美味しい取引』のはずです」


家康は、ポンと膝を叩いた。


「……なるほど。私は彼らを使って江戸を大都市にし、その見返りとして、名護屋へ行くお前たちの『後ろ盾』になればよいのだな?」


「……左様です」


政貞は深く頷いた。


「……もし、私と殿が名護屋で太閤殿下の不興を買うようなことがあっても、徳川家が『小田の家臣団は関東のインフラ維持に不可欠である』と弁護してくだされば、小田家は滅びません」


「……私たちは、自分たちの命を人質に差し出す代わりに、家臣の命と小田家の未来を、徳川という『超巨大企業』のセーフティネットに組み込むのです」


家康は、政貞の冷徹かつ完璧なリスクヘッジに、心底感心したように笑った。


「……お前という男は、どこまで先を読む」


「……よし、乗った。小田の家臣団は、この家康が責任を持って、江戸で最高の役職に就けよう。……お前たちは、安心して名護屋で『戦を畳んで』こい」



3. 氏治の「ブランド」の最終調整


名護屋への出発前夜。


政貞は、氏治の部屋を訪れた。


部屋の中では、氏治が旅支度をしながら、楽しそうに荷物をまとめている。


その傍らには、丁寧に磨かれた愛用の釣り竿が立てかけられていた。


「……殿。名護屋は戦場ではありませんが、日本中の大名が殺気立っている『呪われた役員会議室』のような場所です。……くれぐれも、余計なことは喋らないでくださいよ」


「分かっている、分かっているぞ、政貞」


氏治は、屈託なく笑う。


「……わしはただ、九州の海にはどんな魚がいるのか、それだけが楽しみなのだ。戦のことなど、お前が全部ロジックで片付けるのだろう?」


政貞は、その笑顔を見て深く息を吐いた。


(……そうだ。この『阿呆さ』こそが、今回のプロジェクト最大の武器になる)


今の豊臣政権は、石田三成らの「正論」と、加藤清正らの「武力」が激突し、完全なデッドロックに陥っている。


そこへ投入するのが、ロジックもパワーも通用しない、氏治という「天然」だった。


(……狂ったCEOの目を覚まさせるには、正論では駄目だ。……必要なのは、この『ノイズ』なんだ)


政貞は、最後のシナリオを脳内で組み立てていた。


「よし、出発だ、政貞! 待っていろよ、九州のタイにヒラメ!」


氏治の能天気な号令とともに、小田家史上、最も奇妙な「二人だけの出陣」が始まった。



4. 肥前名護屋城:狂気のマーケット


文禄二年(1593年)。


九州最北端、肥前名護屋城。


そこに広がっていたのは、政貞の想像を超える「ブラック企業国家」の狂気だった。


山肌を埋め尽くす数十万の軍勢。


黄金に輝く天守。


大名たちは秀吉の機嫌を取るために能を舞い、茶会を開き、その裏で朝鮮から届く損害報告に顔を青ざめさせている。


「……これは、バブル崩壊直前の、誰も『撤退』と言い出せないワンマン企業の末路だな」


政貞は、大名たちの死んだような目を見て確信した。


小田家の陣屋――といっても、徳川家の敷地の隅に借りた小さな天幕だ――へ、最初の客が現れた。


石田三成である。


「……来たか、菅谷政貞。……して、小田家の兵はどこにいる? まさか遅れているわけではあるまいな?」


三成の鋭い視線。


政貞は、一歩も引かずに答えた。


「……兵など、一人も連れてきておりません。……我が家臣団はすべて、徳川殿の下で『江戸のインフラ開発』に従事しております」


「……何だと!?」


三成が激昂する。


「……太閤殿下の御命を愚弄するか! 改易に処されたいのか!」


だが、政貞は冷ややかに微笑んだ。


「……三成殿。これ以上、名護屋にコストを増やしてどうするのです?」


「……兵糧が足りず、船が足りず、連絡網も破綻しかけている。……今のあなた方に必要なのは、これ以上の『兵隊』ではなく、この最悪の事業をどうやって『損切り』するかという、出口戦略エグジットのはずだ」


三成は、言葉を失った。


それは、彼自身が誰より理解していながら、決して口にできなかった「真実」だったからだ。



5. 豊臣秀吉との「再対決」


名護屋城、本丸。


黄金の茶室。


奥に座る豊臣秀吉は、小田原の頃よりも明らかに老い、その瞳には焦燥と猜疑心が燃えていた。


「……氏治。政貞。……よく来た」


秀吉の震える手。


「……明国を従え、わしの名を大陸に轟かせる。……その方策を、お前たちの『知恵』で示せ。……できねば、小田家は今度こそ終わりだ」


加藤清正、福島正則ら武断派の将たちも、鋭い視線を向けている。


絶体絶命のプレゼン。


政貞は、ゆっくりと和紙の束を広げようとした。


だが――。


「……太閤殿下! お久しぶりですな!」


氏治が、満面の笑みで声を張り上げた。


政貞の背筋が凍る。


「……いやぁ、それにしても殿下、お顔の色が優れませぬな。そんなに異国のことばかり考えていては、身体に毒ですよ」


「……それより殿下! 名護屋の海で、すんごい大きなハゼが釣れたのです! これ、殿下に差し上げます!」


氏治は、懐から丁寧に包んだ布を取り出し、中の「生臭いハゼ」を黄金の畳の上へペタリと置いた。


「…………は?」


清正の顎が外れそうになり、三成は顔面蒼白で固まった。


秀吉は、無言のまま、ハゼと氏治の笑顔を交互に見つめている。


政貞は、心の中で絶叫した。


(……殿ーーー! ハゼって何だよ!)


(……せっかく『明国との限定貿易権による実利的和平スキーム』の資料を作ってきたのに!)


(……なんで一瞬で『漁村の土産物大会』に変えるんだよ!)


静寂。


秀吉の肩が、微かに震え始める。


それが激怒の前触れなのか、それとも――。


さて、まず最初にやるべきことは――。



第33話・ステータス報告


* ステータス: 肥前名護屋城への入府完了。家臣団の「徳川家への完全出向」成功。

* 主要成果: 徳川家康との「安全保障契約」締結。小田家の生存リスクをゼロ化。

* KPI:

* 本陣の兵力:2名(氏治・政貞のみ)

* 秀吉の血圧:限界値

* 政貞の胃痛:過去最高


政貞のメモ


「リスクヘッジは完璧だった。……家臣たちは江戸で安全に働き、小田家は滅びない。……だが、私のクライアント(殿)は、天下人の前でハゼを差し出すという『究極の奇策』に出た」


「……論理ロジックの通じない老いた独裁者に対し、この『ハゼ』がどう作用するか。……一歩間違えれば即座に死」


「……ここから、私の人生で最も危険な『ハゼの価値のプレゼンテーション』が始まる……!」



【次号:第34話:損切りの和平交渉 ―― 秀吉のメンツを保ち、泥沼の海外事業を畳むロジック。】


―― 「殿下、このハゼこそが、天下の『引き際』を示しております」


氏治のやらかしを、政貞はどう「世界最高峰の和平ロジック」へ変換するのか。


秀吉の狂気を宥め、戦国時代を本当の意味で終わらせる、命がけの「損切りピッチ」が幕を開ける!

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


「ブックマーク・評価」という施策を打てていない読者様、費用対効果は最高です。ワンクリック・5秒・無料。これ以上のROIはありません。


次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

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王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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