表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方  作者: 筑紫隼人
第3章:巨大資本「織田(ODA)」との遭遇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/27

第22話:軍需物資のサプライチェーン改革 ―― 堺の商人を巻き込んだ物流最適化と「中抜き」の排除

1. どんぶり勘定の「兵站」を監査せよ


天正の年号が定まり、織田信長という巨大な「太陽」が天下を照らし始めた頃。


その光の届かぬ東国の隅、常陸土浦城において、一人の男が深夜まで算盤と格闘していた。


菅谷政貞。


かつて現代日本で「過労死」するまで働かされたコンサルタント・佐藤の転生した姿である。


彼の目の前にあるのは、山積みになった「着到状」や「兵糧受取書」の束だ。


それらは、小田家の軍事活動を支えるはずの「兵站ロジスティクス」の記録であったが、政貞のプロの目から見れば、それは単なる「粉飾と横領の温床」に過ぎなかった。


「……信じられん。これが『戦国大名』の経理実態か」


政貞は、溜息とともに筆を置いた。


彼が数ヶ月かけて独自に調査した結果、小田家の軍需物資調達コストは、現代のビジネス感覚からすれば「異常」の一言に尽きた。


例えば、鉄砲一挺の調達だ。


堺の市場価格では銀五枚から六枚とされる種子島が、数多の商人を経由して常陸に届く頃には、なぜか銀十五枚から十八枚という法外な価格に跳ね上がっている。


「三倍か。……しかも、届いた物の三割は、錆びているか、部品が欠けている『不良品』だ」


政貞は、現代の管理会計で使われる「ウォーターフォール・チャート(水落ち図)」を墨で描き出し、コストの流出先を特定していった。


そこには、驚くほど重層的な「中抜き」の構造が横たわっていた。


まず、堺から京へ運ぶ際の「仲介料」。


近江の街道を抜ける際の「関銭(通行料)」。


美濃や尾張の問屋が乗せる「管理費」。


さらに、関東に入ってからも、佐竹や北条といった近隣勢力と通じた地元の「座」の商人たちが、それぞれ一割から二割の手数料を掠め取っていく。


そして最後に、運搬を担当する足軽や小者が「運搬中の目減り」と称して、兵糧の米を二割ほど抜き取り、闇市で換金している。


「殿、これを見てください」


翌朝、政貞は氏治にその図を見せた。


氏治は、お握りを頬張りながら、不思議そうに図を覗き込んだ。


「政貞、これは何だ? 扇の壊れたものか?」


「いえ、これは殿の蔵から消えていった『逃げた魚』のリストです。……今の小田家は、巨大な穴の開いたバケツで水を汲んでいるようなものです。利益の七割が、我々のコントロールできない場所で、他人の懐に消えている。……これでは、いくら領地を広げても、小田家は永遠に豊かになれません。当然、私の『FIRE(早期退職)』も夢のまた夢です」


「……FIRE? 火事か? それは困るな」


「いえ、私の隠居生活のことです。……殿、私は決めました。今日から、小田家のサプライチェーン(供給網)を根底から作り直します。……キーワードは『中抜きの排除』と『プラットフォームの独占』。……戦わずして勝つための、経済的な防波堤を築きます」


2. 堺の豪商との「戦略的提携」


政貞が最初に着手したのは、供給源ソースの確保だった。


彼は織田家との「代理店契約」を利用し、信長お抱えの商人である今井宗久の門下から、一人の若手商人を引き抜くような形で招請した。


名は、次郎兵衛。


堺の「納屋」に連なる、新進気鋭の商売人である。


土浦の湿った空気に顔を顰めながらやってきた次郎兵衛に対し、政貞は城下の一室で、いきなり「経営計画書」を突きつけた。


「次郎兵衛殿。単刀直入に言う。……小田家と堺を直結する、独自の『海運ルート』を構築したい」


次郎兵衛は、鼻で笑った。


「政貞様、ご冗談を。堺から東国へは、東海道を陸路で行くのが『常識』です。海路など、紀州の荒波や遠州灘の風、そして何より鹿島灘の『地獄の潮』がある。船を一つ失えば、商人は破産です。陸路で関銭を払う方が、よほど『安上がり』ですよ」


政貞は、現代の「リスク・マネジメント」の論理で反論した。


「それは『点』の議論です。……陸路には、数え切れないほどの『不確定要素』がある。関所の閉鎖、地域紛争、そして強盗。……対して海路は、確かに自然の驚威はあるが、それは『予測可能(予見性)』なリスクだ。……私が提案するのは、小田家の権力を用いた『インフラ整備』とのセット商品です」


政貞は、土浦を起点とした「東廻り海運」の構想を熱弁した。


小田家が資金を出し、土浦の港を浚渫して大型船が入港可能にする。


沿岸の漁村と契約し、夜間でも航行可能な「篝火ライトハウス」を整備する。


さらに、小田家の水軍を「警備会社」として再編し、海賊行為を徹底的に取り締まる。


「次郎兵衛殿、あなたは荷を運ぶだけではない。……この『安全な航路』というプラットフォームの、唯一の指定業者になるのです。……関銭は不要。中抜きもさせない。……物流コストを現状の半分以下に抑え、その差益を私とあなたで折半する。……悪い話ではないはずだ」


次郎兵衛の、商人としての計算高い瞳が揺れた。


「……しかし、それには莫大な初期投資が必要だ。小田家に、それだけのキャッシュ(現金)があるのですか?」


「ありますよ。……これまで『中抜き』されていた分を回収すれば、お釣りが来ます」


政貞の言葉には、確かな殺気がこもっていた。


3. 「中抜き」勢力との全面戦争


計画が発表されると、当然、既存の利権構造にどっぷりと浸かっていた者たちが牙を剥いた。


その急先鋒は、常陸の街道沿いに割拠する「小田四天王」の一角や、代々物資の仲介を担ってきた「常陸座」の商頭たちである。


「政貞様! 堺の商人を直接入れるなど、我ら常陸の商人を殺す気か!」


「我ら武士が関銭を取るのは、この地を守っている対価だ! 船で荷を運ぶなど、掟破りも甚だしい!」


城の広間に詰めかけた彼らに対し、政貞は表情一つ変えず、一通の書類を提示した。


それは、過去三年にわたる「物資紛失リスト」と「過剰請求」の証拠資料だった。


「……信太殿。あなたは昨年の兵糧運搬において、『雨で腐敗した』として米百俵を廃棄したと報告している。……だが、実際にはその米は、隣国の佐竹領の市場で売られていた。……証拠は挙がっています」


「な……! それは……!」


「他の皆さんも同じです。……『掟』や『面目』を語る前に、まずは自分たちの『横領』というコンプライアンス違反を説明していただきたい」


静まり返る広間。


政貞は、ここで現代の「チェンジマネジメント」の手法を用いた。


ただ切り捨てるのではなく、彼らに「新しい逃げ道」を与えるのだ。


「……私は、皆さんの仕事を奪いたいわけではない。……これまでの『掠め取る仕事』を、これからの『価値を生む仕事』に転換してほしいのです。……海路で届いた大量の物資を、各砦や村々へ迅速に配送する『ラストワンマイル(二次配送)』の役割。……これからは、運んだ量と速度に応じて、正当な『成果報酬』を支払います。……不当な中抜きではなく、適正なサービス料で稼ぐ。……それが、これからの小田家のスタンダードです」


政貞の冷徹な「証拠の提示」と、同時に差し出された「新しい利権」。


反対派の面々は、互いの顔を見合わせ、最後には政貞の足元に平伏した。


これが、戦国という野蛮な時代に「合理性」という名の劇薬を投下した瞬間であった。


4. 実行:SCMサプライチェーン・マネジメントの完成


天正五年、夏。


土浦の港に、常陸の歴史始まって以来の壮観な光景が広がった。


堺から太平洋を北上してきた三隻の大型安宅船が、真っ白い帆を畳み、新造された桟橋へと接岸したのである。


「……荷揚げ開始!」


政貞の合図とともに、訓練された人足たちが一斉に動き出す。


船から降ろされたのは、堺の最新式鉄砲三百挺。


東南アジアから輸入された硝石と硫黄。


そして、保存食としての高品質な塩と、当時としては超高級品だった砂糖。


政貞は、岸壁に設けた「検品所」で、一点一点の物資を厳格に監査していった。


「……鉄砲のシリアルナンバーを確認。……硝石の純度、良し。……兵糧の欠損率、0.5%以下。……目標達成だ」


この「海運ルート」の確立により、小田家の物資調達コストは、以前の45%削減に成功した。


さらに、物資の到着時間が予測可能になったことで、「ジャスト・イン・タイム」での軍備増強が可能となったのである。


「政貞、すごいぞ! 蔵が米ではなく、見たこともない銀貨や鉄砲で埋まっていく! これなら、わしの隠居生活も、相当な豪華客船の旅のようなものになるのではないか?」


氏治が、揚がってくる荷物を見ながら目を輝かせる。


「殿。……これが『経済』の力です。……刀を振るって土地を奪うより、物の流れを握る方が、はるかに効率的に支配を広げられる。……これで小田家は、東国において『最もキャッシュリッチな組織』になりました」


5. 織田信長からの「評価」と「恐怖」


だが、この「物流革命」の成功は、思わぬ場所で火種を生むことになった。


岐阜城において、東国の情勢報告を受けていた織田信長が、小田家の変貌に目を留めたのである。


「……常陸の小田。わずか一年で、堺の物資を独占し、独自の海運網を築いたというのか」


信長は、報告書を執拗に読み返した。


彼自身、物流の重要性を誰よりも理解している「天才経営者」である。


だからこそ、地方の一大名に過ぎない小田家が、自分と同じ、あるいは自分を越える「ロジスティクス」の概念を持ち始めたことに、本能的な警戒を抱いた。


「……この『菅谷政貞』という男。……ただの守銭奴か、それとも天下を『銭』で塗り替えるつもりか」


信長の呟きは、不気味な予兆を孕んでいた。


政貞の「効率化」は、あまりにも優秀すぎた。


それは、信長という巨大な親会社にとって、頼もしい子会社であると同時に、「いつか親会社を食い破るライバル」に見え始めたのである。


6. FIREへのカウントダウンと「歴史の足音」


土浦の平穏な夕暮れ。


政貞は、活気付く港を眺めながら、自室で一通の「極秘ファイル(手書きのノート)」を開いた。


そこには、現代の歴史知識から逆算した、ある「Xデー」の記録があった。


「……1582年。本能寺の変」


あと数年。


信長という巨大なパラソルが消え、日本中が「債務超過」と「連鎖倒産(戦乱)」の渦に叩き落とされる瞬間が、確実にやってくる。


どれほど物流を整え、富を蓄えても、その「巨大なショック」に巻き込まれれば、小田家も自分もひとたまりもない。


(……サプライチェーンは整った。……だが、これはあくまで『逃走資金』を稼ぐための手段に過ぎない。……私の本当の目的は、この富を使って、本能寺の衝撃波から自分と殿を『完全隔離オフショア』することだ)


政貞は、窓の外を飛ぶカモメを見つめた。


「……殿。そろそろ、本格的に『出口エグジット』の準備を始めますよ」


「出口? どこかへ遊びに行くのか、政貞?」


「ええ。……歴史の濁流を飛び越えて、永遠の安息(FIRE)へと至る、最高のバカンスです」


政貞の瞳は、数年後に迫る「歴史の特異点」を、冷徹に見据えていた。


軍需物資のサプライチェーン改革。


それは、きたるべき大崩壊を生き抜くための、莫大な「逃走資金」を蓄えるための、政務という名の聖域であった。


第22話・ステータス報告


ステータス:


「東廻り海運」の開設により、物流コストを45%削減。常陸の経済ハブとしての地位を確立。


主要成果:


中間マージン(中抜き)を排除した「D2C(Direct to Castle)」調達網の構築。堺の商人との強固なアライアンス。


KPI:


営業利益率:38%向上。鉄砲保有数:常陸随一(織田軍の供給源としても機能)。


政貞のメモ:


「商売の基本はコストカットだ。だが、本当に難しいのは、カットされた側の怨嗟をどう処理するかだ。……彼らに『新しい利権』を提示することで、組織の敵を味方に変えた。……さて、資金は貯まった。……次は、歴史上最大の『不祥事(本能寺)』に備えた、最悪のシナリオ・プランニングだ。……信長公、あなたのカリスマ性は素晴らしい。……だが、私はあなたの破滅に付き合うつもりはないよ」


【次号:第23話:本能寺の変・リスクヘッジ ―― 歴史の特異点。佐藤は「エグジット」の準備を加速させる。】

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


「ブックマーク・評価」という施策を打てていない読者様、費用対効果は最高です。ワンクリック・5秒・無料。これ以上のROIはありません。


次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ