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戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方  作者: 筑紫隼人
第3章:巨大資本「織田(ODA)」との遭遇

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第17話:大手企業の買収提案 ―― 秀吉の執拗な「子会社化」攻勢

1. 「人たらし」の営業戦略


 

岐阜での信長公との謁見から数週間。常陸の土浦城に、再びあの「猿」のような男が現れた。


 

織田家の急成長を支える最前線の営業部長、羽柴秀吉である。


 

しかし、前回の偵察的な来訪とは、まとう空気が違っていた。


 

彼の背後には、織田家の威光を象徴するような、磨き上げられた武装の近習たちが整然と控えている。


 

それは、織田という「巨大ブランド」の圧力を背景にした、本格的な商談の始まりを意味していた。


 

「いやはや、政貞殿! 岐阜では見事なプレゼン……いや、弁舌にございましたな。あの気難しき信長公をあそこまで唸らせるとは、わが羽柴藤吉郎、感服いたしましたぞ!」


 

秀吉は、以前にも増して人懐っこい笑みを浮かべ、政貞の肩を親しげに叩いた。


 

現代のビジネスシーンであれば、最も警戒すべき「懐に入り込むのが天才的に上手いトップ営業マン」の仕草である。


 

「秀吉様、過分なお言葉、恐縮にございます。……して、本日は織田公からの正式な『契約書』をお持ちいただけたのでしょうか?」


 

政貞が事務的に問い返すと、秀吉はわざとらしく左右を見回し、声を潜めた。


 

「まあまあ、そう急ぎなさんな。実はですな、政貞殿。わしは個人的に、小田家という『会社』を、実にもったいないと思っておるのです。……これほどの知恵者がいながら、常陸という地方の、それもいつ崩れるか分からぬ三つ巴のバッファでくすぶっておられる。……どうですな、いっそ織田家の『フランチャイズ』……すなわち、わが羽柴軍団の与力として、織田グループの完全なる一員になられませぬか?」


 

ついに来た。


 

単なる提携ではなく、経営権の譲渡(臣従)を伴う「買収提案」である。


 

2. 「メリット」という名の毒饅頭


 

秀吉が提示した「買収条件」は、戦国大名からすれば夢のようなものであった。


 

「いいですか、政貞殿。小田家が織田の『直系子会社』になれば、まず資金力が違います。尾張・美濃から最新の鉄砲を無制限に供給しましょう。さらに、北条や佐竹が手出しをすれば、織田の軍団が即座に『コンプライアンス違反』として彼らを叩き潰す。……殿(氏治)には、小田城の安堵だけでなく、播磨や但馬あたりに新たな『支店(領地)』をご用意してもよいと、公はおっしゃっておりますぞ」


 

秀吉の提案は、小田家を地方の個人商店から、巨大コンツェルンの「幹部候補」へと引き上げるという、魅惑的な内容だった。


 

土浦城の広間でこれを聞いていた氏治は、目を輝かせた。


 

「ほ、本当か、秀吉殿! 播磨といえば、海に面した豊かな土地ではないか! 城も新しくしてくれると? それは……それは素晴らしい話ではないか、政貞!」


 

(……ダメだ、社長。それは『退職金代わりの左遷』だ)


 

政貞は、氏治の浮足立った心に冷水を浴びせるように、冷静に口を開いた。


 

「秀吉様、非常に魅力的なご提案です。……しかし、その『子会社化』には、我々が守り抜いてきた『独自資産』の放棄が含まれているのではありませんか?」


 

「独自資産、とは?」


 

「我々の自由な意思決定権、そして、この常陸というマーケットで築いた『中立』という名の信用です。織田家の一員になれば、我々は自動的に北条や上杉、佐竹の『敵』となる。……そうなれば、我々が提供している『バッファ・サービス』は停止し、常陸は再び血みどろの抗争に逆戻りです。それは、織田家にとっても、東国進出のコストを増大させる結果になりませんか?」


 

秀吉の目が、わずかに細まった。


 

「……政貞殿。お主は相変わらず、理屈が勝ちすぎる。ビジネスにおいて、最後は『規模の利益スケールメリット』だ。小さな独自性など、巨大な時代の流れの前には無力。……公は、小田家を『生かして使う』と決めた。だが、それは織田のルールに従うことが前提だ」


 

3. ロジックの衝突:独立系か、系列か


 

秀吉の攻勢は、昼夜を問わず続いた。


 

ある時は、氏治を酒宴に誘い出し、「織田家に入れば、どれほど贅沢な暮らしができるか」を耳元で囁き、


 

ある時は政貞に対し、「お主ほどの才能があれば、織田家の常務……いや、軍師として天下を動かせる」と、立身出世を餌に揺さぶりをかける。


 

現代でいえば、大企業がベンチャー企業の創業者を、莫大な買収金額と「役員ポスト」で懐柔しようとする、古典的だが最も強力な手法である。


 

しかし、政貞は知っていた。


 

織田信長というCEOの本質を。


 

信長にとって、子会社(家臣)とは「代替可能な部品」に過ぎない。


 

成果を出せば報われるが、期待値を下回れば即座に「減損処理(追放あるいは切腹)」が待っている。


 

(……このオファーを受ければ、小田家というブランドは消滅し、氏治様は『名前だけの名誉顧問』として、信長公の不興を買う日を怯えて暮らすことになる。それは、私の目指すFIRE――すなわち、安定した不労所得と安全な隠居生活とは正反対の道だ)


 

政貞は、秀吉が土浦に滞在する間に、ある「デモンストレーション」を見せることにした。


 

「秀吉様。明日の朝、わが領内の『流通センター(物流拠点)』をご案内しましょう。そこを見てから、もう一度お話しさせてください」


 

翌朝。


 

政貞が秀吉を連れて行ったのは、土浦の港と街道が交差する、巨大な集積場だった。


 

そこには、小田家の旗だけでなく、北条、佐竹、さらにははるか北の伊達家の紋章をつけた商会までが、規律正しく荷を捌いていた。


 

「ご覧ください。ここで動いているのは『武力』ではなく『契約』です。我々が独立した存在であり、誰の味方でもないからこそ、これほど多様な勢力の富が集まる。……もし、ここに織田の旗を立てれば、北条や佐竹の商人は、即座にここを去るでしょう。そうなれば、ここにある『情報』も『富』も、一瞬で枯渇します」


 

政貞は、秀吉の目の前に、現在の土浦がもたらしている「利益のフロー」と、織田傘下に入った場合の「機会損失」を比較した、巨大な図解入りの書付(スライドの代わり)を広げた。


 

「秀吉様。織田家が欲しいのは、小田家という『名前』ですか? それとも、ここから上がる『莫大な手数料収入(通行料)』と、東国の生きた『情報』ですか?」


 

4. 秀吉の「査定」と政貞の「逆提案」


 

秀吉は、沈黙した。


 

彼は天才的な勘を持つ男だ。


 

政貞が言っているのは、単なる言い逃れではない。


 

小田家を「織田家の一部」にしてしまえば、小田家が持つ最大の付加価値である「中立性という機能」が損なわれる。


 

それは、金の卵を産む鶏を、肉にするために殺すようなものだ。


 

「……なるほど。お主は、自分たちを『織田の社員』ではなく、『織田から業務を請け負う独立ベンダー』として契約し続けたいというわけか」


 

「左様です。……その代わり、我々は織田公に対し、他家が提供できない『特別なバリュー』を提供します」


 

政貞は、声を低くして続けた。


 

「……織田公が進軍される際、我々は敵地の内部に構築した『秘密の代理店網(調略済み家臣)』を通じて、無血開城の道筋をつけましょう。これは、織田軍が正面から戦うよりも、遥かにコストを抑えられます。……つまり、我々は織田家の『外注の調略・兵站部門』として、成果報酬型で働かせていただきたいのです」


 

秀吉は、膝を打った。


 

「ははは! 成果報酬型ときたか! 政貞殿、お主、本当に武士か? 商人よりも強欲で、計算高いわい!」


 

秀吉は、政貞の提案に、ある種の「共鳴」を感じていた。


 

自らも「底辺からの叩き上げ」として、既存のルールを破壊して成果を出してきた男だ。


 

政貞の「ロジックで戦国をハックする」姿勢は、秀吉自身のやり方と、どこか通じるものがあったのだ。


 

「……よかろう。公には、わしから上手く伝えておく。『小田家を傘下に入れるのは、今はこのまま独立させて働かせたほうが、織田家の利益は最大化する』とな。……ただし、政貞殿。ノルマはきついですぞ? 成果が出せねば、わしが公に叱られる。そうなれば、今度こそこの城を『強制買収』しに来るからな」


 

「承知しております、秀吉様。……最高のパフォーマンスをお約束しましょう」


 

5. 巨大資本との「共生」


 

秀吉の一団が、嵐のように去っていった。


 

土浦城の広間には、静寂と、少しばかりの疲労感が漂っていた。


 

「政貞……またお主、難しい話をして追い返したのか。播磨の城の話、少しは聞きたかったのだがな」


 

氏治が、残念そうに呟く。


 

「殿。播磨に行けば、殿は毎日、信長公からの『目標達成報告書』に追われ、一歩間違えれば処刑される日々を送ることになります。……ここ土浦にいれば、三巨頭の機嫌を取りながら、美味しいお握りを食べて、のんびり昼寝ができる。……どちらが、真に『社長』らしい暮らしですか?」


 

氏治は、一瞬考え、大きく頷いた。


 

「……そうだな! わしは、ここがいい! 政貞、よくぞ断ってくれた!」


 

政貞は、安堵の息をつきながら、手元の帳簿に新たな項目を加えた。


 

「織田家:重要クライアント(優先度S)」


 

(……これで、当面の独立性は確保した。だが、これは終わりの始まりだ。巨大資本と提携するということは、その『巨大な渦』に常に巻き込まれ続けるということだ)


 

政貞の脳裏に、前職での苦い経験が蘇る。


 

大手企業との提携後、無理な納期と要求に振り回され、社員たちが疲弊していったあの光景。


 

(……同じ轍は踏まない。私は、小田家という組織を『織田に食わせる』のではなく、『織田を動かす歯車』に変えてみせる。……さあ、次は織田軍団の『内部監査』だ。彼らのシステムの脆弱性を探し、我々の介在価値をさらに高めてやる)


 

政貞の戦いは、戦場から「交渉」と「監査」の場へと、その舞台を移していた。


 

常陸の「東のオダ」は、西の巨人を相手に、一歩も引かない独自の立ち位置を築き始めていた。


 

第17話・ステータス報告


 

ステータス:


 

羽柴秀吉による「M&A提案」を回避。


 

「業務委託・独立系パートナー」としての地位を死守。


 

主要成果:


 

「中立性という機能」の価値を秀吉に認めさせ、子会社化を撤回させることに成功。


 

KPI:


 

独立維持率:100%。


 

対織田家ロイヤリティ:外向きには最高、内向きには戦略的警戒。


 

政貞のメモ:


 

「秀吉様は、交渉相手としては最も手強い。情に訴え、利を説き、最後は圧力をかける。だが、彼もまた『合理性の塊』だ。小田家を独立させておく方が、織田家にとって経済的・軍事的に得であるというエビデンス(証拠)を突きつければ、必ず引く。……さあ、次は織田家の内部に深く入り込み、彼らの『ブラックな部分』を分析して、リスクヘッジの材料にするぞ」


 

次号:第18話:織田軍団の監査オーディット


 

「提携条件に基づき、政貞が織田軍の軍事システムを『内部監査』。そこで見えてきた、信長が作り上げたあまりにもホワイト、かつあまりにも残酷な効率主義の正体とは?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


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次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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