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戦国最弱・小田家、外資コンサルがV字回復させます――九度落城でも倒産しない会社の作り方  作者: 筑紫隼人
第2章:V字回復の奪還ロジック

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12/20

第12話:アジャイル型奪還戦 ―― 失敗を前提とした軍事運用

1. 絶望の「ポストモーテム」


 永禄十二年、冬。

 常陸を吹き抜ける空っ風が、土浦城の古びた板戸をガタガタと震わせていた。


 城内の大広間には、底冷えのする空気と、それ以上に冷え切った絶望が充満している。


 先日、手這坂の戦いで佐竹・真壁連合軍に完膚なきまでに叩きのめされた小田家の将兵たちは、泥と血に汚れた装束のまま、幽鬼のように座り込んでいた。


「……また、だ。また奪われた。あの城を、先祖代々の小田城を」


 一人の老臣が、ひび割れた声で呟いた。

 その言葉は、誰に届くでもなく虚空に消える。


 小田氏治という男は、この戦国において「最も城を落とす男」として知られ始めている。

 だが、当事者である家臣たちにとって、それは決して笑い事ではない。


 一度の敗北は――

 領地の喪失を意味し、

 家族の飢えを意味し、

 武士としての誇りの完全なる失墜を意味する。


「政貞様、何か、何かお言葉を……」


 信太が、縋るような目で傍らの男を見た。


 菅谷政貞――

 中身は現代のブラック企業を渡り歩いてきたコンサルタント、佐藤である男は、腕を組み、冷徹な目で広間を見渡していた。


 その表情には、落胆も怒りもない。

 ただ、目の前の惨状を「不採算部門の失敗報告」として処理しているような、奇妙な無機質さだけがあった。


「言葉? そんな無意味なコストをかけてどうする」


 政貞は淡々と言い放つ。


「今は、今回の『失敗』という名の貴重なユーザーフィードバックを元に、次期スプリントの計画を立てる時間だ」


 そして、声を鋭く張り上げた。


「……全員、面を上げろ。

 **『ポストモーテム(事後検証)』**を開始する」


 凍てついた広間に、その声が突き刺さる。


 政貞は用意させていた巨大な木板の前に立ち、炭を握った。


「諸君、勘違いするな。我々は負けたのではない」


 一拍。


「今回の一戦を通じて、『佐竹軍の現在のスペック』と『我々の組織的なバグ』を洗い出すための実証実験を終えただけだ」


 ざわめきが走る。


「一回で勝とうとするから絶望する。

 一回で完璧な製品が作れないように、戦もまた、改善の積み重ねなしに完成(勝利)はあり得ない」


 炭が、板を叩く。


 ――【PDCA】


「今日からこの組織は、一度の勝敗に一喜一憂する『ウォーターフォール型』の古い思考を捨てる」


 そして、言い切る。


「導入するのは、**『アジャイル型奪還戦』**だ」


「失敗を前提とし、小さなトライ&エラーを爆速で繰り返す。

 一週間後には、今より強いバージョンで、再び小田城を叩くぞ」



2. 「バグ」の特定とナレッジ共有


「さて、まずは情報の吸い上げだ。感情論はいらん」


 政貞の声は冷たい。


「気合が足りなかったとか、運が悪かったとかいう報告をした奴は、即座に減俸にする」


 家臣たちが息を呑む。


「信太」


 名指し。


「右翼が真壁の騎馬隊に突破された瞬間、お前の視界に何が入った?」


「……砂煙です」


 絞り出す声。


「敵の動きが見えず、伝令を送るタイミングが、ほんの数秒遅れました」


「よし」


 即答。


「『通信遅延ラグ』の発生だ。記録しろ。他には?」


「火縄銃の音が重なり、殿の号令が聞こえませんでした」


「『UIの視認性・可聴性不良』だな」


 政貞は、戦場の混乱を「事象」として分解していく。


 恐怖は、分解された瞬間に「課題」へと変わる。


 やがて家臣たちは気づき始める。

 これは叱責ではない。改善のための整理だと。


「見てみろ」


 板を叩く。


「今回の敗北だけで、これだけの『バグ報告』が集まった。これこそが資産だ」


「これを修正せずに次の戦いに挑むのは、穴の開いた船で海に出るのと同じだ」


 一呼吸。


「だが――この全てにパッチを当てて明日また攻めれば、勝率は確実に上がる」


 不敵な笑み。


「一週間後に第一スプリントを実行する。目標は奪還ではない。脆弱性の発見だ」


「負けてもいい。生きてデータを持ち帰った奴にはボーナスを出す」



3. 第一スプリント:検証のための夜襲


 一週間後。


 政貞が放ったのは、わずか三十名の軽装兵だった。


 常識なら自殺行為。

 だがこれは「負荷テスト」だった。


「接近したら騒げ。矢を放て。

 敵が集まったら即撤退」


「目的は反応時間と配置の測定だ」


 夜。


 暗闇の中――鬨の声。


 佐竹軍は過剰に反応した。


「小田の残党だ! 全軍、北門へ!」


 城内が混乱する。


 その様子を、偵察兵が冷静に記録する。


「集結三百秒……火縄準備二百四十秒……東門が空いた」


 撤退。


 翌朝。


「大慌てでしたぞ!」


「上出来だ」


 政貞は即断する。


「意思決定は『過剰反応型』。攪乱で崩せる」



4. 継続的デリバリーと「心理的磨耗」


 一ヶ月後。


 佐竹軍は壊れかけていた。


 毎日来る小規模な嫌がらせ。

 勝っても終わらない。


「……何なのだ、奴らは」


 真壁久幹が呻く。


 小田軍は――


 負けても笑って帰る。


 翌日には改善して戻る。


 防御側だけが、消耗する。


 それが構造だった。


「政貞、少し可哀想になってきたぞ」


 氏治が苦笑する。


「殿、これは市場競争です」


 即答。


「……そろそろ最終スプリントです」



5. リリースの朝


 永禄十三年、正月。


 佐竹軍は限界だった。


 政貞は地図を広げる。


「本番リリースだ」


「目標は一つ。小田城奪還」


 氏治を見る。


「どう見ましたか?」


 氏治は言う。


「……これは敗北ではない。工程だ」


 政貞、笑う。


「その通りです、社長」


「では回収する。今夜だ」



 総攻撃。


 これまでと違う。


 完全な連携。


 誤認した瞬間――崩壊。


 兵たちは恐れていない。


 失敗しても、次があると知っているから。



 夜明け前。


 卍の旗が翻る。


「勝った……!」


「違います」


 政貞は即答する。


「フェーズ完了です」



6. 幕間の独白


 静かな場所。


 算盤と日誌。


(失敗を許容する文化……)


(戦国の方が、よほど合理的だ)


 氏治という男。


 弱さが、組織を支えている。


「……面白い」


 政貞は笑う。


「次は同盟だ」



第12話・ステータス報告


* ステータス:

 アジャイル型軍事運用の完遂。小田城奪還(十一度目)成功。

* 主要成果:

 失敗の資産化。敵の精神的リソース枯渇。

* 組織力:

 レジリエンス向上。現場自律化。

* 政貞のメモ:

 「百の改善は、一度の勝利に勝る」



【次号予告】


第13話:上杉・北条のパワーアライアンス


「戦国は、ついに“外交フェーズ”へ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

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