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婚約破棄を従姉に奪われた愛蘭は、伯爵家を追放され、路頭で死そうになるが、皇都で後宮画家になり、イケメン上司原水と出会い、溺愛される!  作者: 山田 バルス


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おまけその4 ソフィアの母視点 お互いの成長

ソフィアの母視点――一番、全部わかっていた人


 


 わたくしは、公爵夫人です。ですので、色々な世界が見えています。


 だからでしょうか。

 人の心の揺れというものが、

 言葉よりも、表情よりも、沈黙から伝わってくるのです。


 


 アンソニー様を初めてお屋敷にお迎えした日のことを、よく覚えています。


 背筋がまっすぐで、無駄な言葉を話さない少年。

 礼儀は完璧。

 けれど――どこか、心を置いてきたような目をしていました。


 その横で、ソフィアは。


 まるで春の光をそのまま抱きしめたような顔で、彼を見つめていました。


 ああ、この子は、

 この方に恋をしているのね。


 わたくしは、その時点で理解しました。


 


 夫は、公爵です。


 責任を重んじ、感情よりも理を優先する人。

 だからこそ、アンソニー様の無表情を、不安に思ったのでしょう。


 けれど、わたくしは違いました。


 あの少年は、感情が薄いのではありません。

 感情を、奥深くに沈めているだけ。


 ――そして。


 沈めているものほど、一度動けば、抗えない。


 


 アカデミーに愛蘭様という女性が現れたと聞いた時。


 夫は眉をひそめましたが、

 わたくしは、胸の奥がひやりと冷えました。


 なぜなら。


 アンソニー様の「沈めていたもの」が、

 初めて水面に近づいたのだと、直感したからです。


 


 案の定でした。


 ソフィアは、何も言いませんでした。

 ただ、少しだけ、笑顔が減りました。


 そして、ある日。


 彼女はわたくしの膝に頭を預け、

 ぽつりと、こう言ったのです。


「……お母様。恋って、報われなくても、尊いものなのでしょうか」


 その言葉で、すべて察しました。


 わたくしは、髪を撫でながら答えました。


「ええ。けれどね、ソフィア」


 静かに。


「あなたは、報われない恋を選ぶ子ではありませんよ」


 娘は、驚いたように目を見開き、

 それから、少しだけ笑いました。


 


 アンソニー様が東国へ渡ったと聞いた日。


 夫は怒り、

 ソフィアは、覚悟を決めました。


 三年待つ、と。


 その背中は、

 あまりにも真っ直ぐで、あまりにも危うかった。


 だから、わたくしは、夫の隣で何も言いませんでした。


 止めるのではなく、

 支えると決めたのです。


 


 三年後。


 アンソニー様は、英雄として帰ってきました。


 ――ですが。


 わたくしは、港に向かうソフィアの横顔を見て、思いました。


 この子は、もう、

 「待つ娘」ではない。


 選ぶ女になったのだと。


 


 祝典の夜会。


 ソフィアがバルコニーへ向かったと聞いたとき。


 わたくしは、胸騒ぎと同時に、確信もしていました。


 ああ。

 決着がつく。


 


 少しして、ソフィアが気を失ったと報告を受けた時。


 わたくしは、真っ先に医師へ確認しました。


 命に別状はない。

 幸福による一時的な失神。


 ……思わず、笑ってしまいました。


 まったく。

 この子は、本当に、感情に正直なのですから。


 


 その夜。


 アンソニー様が結婚を申し入れに来た時。


 わたくしは、夫よりも先に、彼の目を見ました。


 逃げ場のない目。


 覚悟を決めた男の目。


 ――やっと、ここまで来ましたね。


 そう、心の中で呟きました。


 


 結婚式の日。


 ソフィアは、世界で一番幸せな花嫁でした。


 夫は不機嫌そうでしたが、

 わたくしにはわかっていました。


 あの人は、娘の幸せに、

 きちんと向き合ったのです。


 


 そして。


 わたくしは、気づいていました。


 ソフィアの身体の、ほんの小さな変化に。


 ええ。

 母親ですもの。


 夫よりも、ずっと前から。


 


 式の後。


 ソフィアは、わたくしにだけ、そっと耳打ちしました。


「……お母様。まだ、内緒ですわ」


 わたくしは微笑みました。


「ええ。あなたが話したい時でいいのよ」


 


 娘が幸せになる道は、

 いつだって、まっすぐではありません。


 遠回りも、痛みも、涙もある。


 それでも。


 自分で選んだ道なら、

 それは、きっと正解です。


 


 夫には言いません。


 アンソニー様が最初から、

 完全にソフィアのものになる運命だったなどと。


 そんなことを言えば、

 あの人は、きっと、また難しい顔をするでしょうから。


 


 ただ。


 わたくしは、今日も思うのです。


 あの三年間は、

 娘を強くしました。

 待つだけではいけないと。


 男はいつまでも過去にこだわるものです。

 そんなうじうじした男には、女から動かないといけません。

 いつまでも待たされてしまいます。


 夫を育てるのも、妻の仕事なのです。

 大きな子供なのですから……

 もちろん、わたくしも夫や娘に育てられています。


 そして。


 アンソニー様のことで、家族は、一段と深く、絆が結び直されました。


 これから娘は、婿のアンソニー様を育てていくのです。

 そして、娘もアンソニー様に育てられるのです。

 もちろん、産まれてくる子供を通して、ソフィアも成長するでしょう。


 これで安心です。


 わたくしの本音として、

 家族の幸せが何よりも大切なのですから。

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