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婚約破棄を従姉に奪われた愛蘭は、伯爵家を追放され、路頭で死そうになるが、皇都で後宮画家になり、イケメン上司原水と出会い、溺愛される!  作者: 山田 バルス


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閑話6 ブリテン帝国 キャサリンの断罪 

――愛を失った先で選ぶ形―― キャサリン=レスターナ視点



 アリスター殿下。

 現在二十二歳。

 第三王子にして、誰よりも優しく、誰よりも残酷な人。


 わたくしは、彼を愛していた。


 ――いいえ

 正確に言えば、「わたくしだけが彼を愛していた」


 その違いを理解したのは、すべてが終わってからだった。


 ◇ ◇ ◇


 彼は、美しくそれでいて優しい人だった。


 誰に対しても柔らかく、言葉を選び、決して声を荒げない。

 政治の場でも、社交の席でも、いつも穏やかで、思慮深い。


 そして――

 わたくしは、彼に近づく女性を排除するために、余念がなかった。

 彼に相応しいのは、わたくししかいない、そう信じていた。


(……だから)


 わたくしは、正しい行いをしたと、今でも自分の行動を恥じることはない。

 彼の優しさは、いつか特別なものに変わると。

 でも、違っていた。

 

 彼の前に特別な女性が現れたのだ。

 彼の愛を受けるその女性が憎かった。

 わたくしを選ばなかった彼も同じぐらいに憎かった。

 

 だから、彼の愛する女性を暗殺しようとした。

 しかし、計画は失敗に終わった。

 わたくしはすべてを失ったのだ。


 わたくしの愛は、届かなかった。

 だからこそ、わたくしの心は壊れた。


 ◇ ◇ ◇


 東国での計画も、失敗に終わった。


 劉原水殿下を虜にできなかった。

 阿片事件は露見し、わたくしは責任を問われた。


 けれど、それはどうでも良かった。


(……死に場所)


 アリスター殿下と結ばれない未来で、わたくしが欲しいものは……

 何もない。だから、今は生きているだけの屍。


 アリスター殿下の隣にいられないのなら、あとは死を待つだけ。


 彼は、優しかった。

 わたくしだけではなく、すべての人に優しかったのだ。

 それをわたくしは、勘違いしていた。

 あの爽やかな笑顔がわたくしだけのものだと。


(ああ……)


 彼の愛がわたくしにないと理解してしまった瞬間、

 胸の奥で、何かが静かに折れたわ。


 ◇ ◇ ◇


 生きる意味が、なくなった。


 それは、大げさな表現ではない。


 アリスター殿下と結ばれない人生。

 それは、わたくしにとって“無”と同義だった。


 爵位を保って生き延びることもできただろう。

 田舎に退がり、名ばかりの貴族として余生を送ることも。


 けれど。


(それは……わたくしではない)


 彼を想い続ける女として静かに生きる。

 そのようなことは、耐えられなかった。


 そして――


 一人で死ぬのも、嫌だった。


 ◇ ◇ ◇


(アリスター殿下を想って、ひっそりと死んだ)


 そんな物語にされるのは、耐え難かった。


 純愛の悲劇?

 いいえ、違う。


 それでは、最後まで「片想いの女」になってしまう。


 彼の記憶に残ることもなく、

 彼の人生に影を落とすこともなく、

 ただ勝手に想って死んだ女。


(……それは、屈辱ですわ)


 だから。


 別の“形”が、必要だった。


 ◇


 マイケル=フラム。


 帝国の外交官。

 冷静で、計算高く、そして――同じように切り捨てられた男。


 彼と心中する。


 それは、逃げではない。

 むしろ、最高の選択ではないかしら。


 わたくしは、アリスター王子への愛ゆえに死んだのではない。

 東国で出会ったブリテン帝国のマイケルとの愛のために人生を終わらせたの。


(……悪くないシナリオ)


 一人で、アリスター殿下を想いながら死ぬよりは。

 ずっと、ずっと良いかしら。


 ◇ ◇ ◇


 船室で、マイケルと向かい合った時。


 彼は、すべてを悟っていたわ。


「……怖いか?」


 そう問われ、わたくしは首を横に振った。


「いいえ、ただ、独りは嫌でしたわ」


 それだけが、本音だった。


 わたくしたちは、心中相手と口づけ一つ交わしていないなんてお洒落じゃないわ。


 だから、わたくしはマイケルと最後の口づけを交わしたわ。


 周りの監視官に見せびらかすように、それはとても情熱的に。



 ◇ ◇ ◇


 杯を取る。


 透明な毒。

 苦しみのない、穏やかな終わり。


(苦しまない死……)


 それだけは、望んだわ。


 アリスター殿下を想って泣きながら死ぬなど、真っ平かしら。


 マイケルと微笑み合いながら。

 まるで愛し合う者同士のように。


 ◇ ◇ ◇


 飲み干した瞬間、身体が少し軽くなる。


 マイケルの肩に、自然と身を預ける。


(……温かい)


 愛ではない。

 けれど、孤独でもない。


(これで……よかった)


 わたくしは、彼を愛していた。

 それは、事実。


 けれど――

 彼に選ばれない世界で生き続けるほど、

 わたくしは、強くありませんでした。


 だから、死を恐れませんわ。


 ただ。


 一人で、彼を思って死んだと思われるのは、嫌かしら。


 それだけのことですわ。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 記録には、こう残るはずですわ。


 ――東国で愛し合う男女が、身分差で結ばれないことを嘆き、無理心中した、と。


 そこに、

 第三王子の名は、どこにも出てこない。


 それで、いいのですわ。


 アリスター殿下は、

 何事もなかったかのように、生きていけばいいのです。


 そして、わたくしは。


 あなたの愛を失ったから、自分で選んだ形で、終わるわ。


 それが――

 キャサリン=レスターナという女の、

 最後の矜持かしら。



【次回から12時20分1日1回更新になります】



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