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婚約破棄を従姉に奪われた愛蘭は、伯爵家を追放され、路頭で死そうになるが、皇都で後宮画家になり、イケメン上司原水と出会い、溺愛される!  作者: 山田 バルス


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閑話1 緑麗香(れいか)視点 愛蘭からすべてを奪った喜び!

 緑麗香れいか視点


――あの女を、幸福にしてやるつもりはなかった


 空は重たく曇っていた。

 けれど、あの日の私は、ひどく晴れやかな気分だった。


 愛蘭あいらんから婚約者を奪い、婚約破棄され、緑港伯爵家から追い出される日。

 ――私が、長年待ち望んでいた日。


 あの女が嫌いだった。

 理由? そんなもの、数え切れないほどある。


 まず、顔だ。

 腹立たしいほど、整っている。


 フラン人とのハーフのため東国の女にしては珍しい、はっきりした目鼻立ち。

 少し色の薄い瞳。

 笑えば、男たちは一様に、息を止めたような顔で彼女を見る。


 子供の頃から、そうだった。


 年下のくせに。

 ただそこに立っているだけで、視線を奪う。


 ――気に入らなかった。


 さらに腹立たしかったのは、祖父だ。

 あの頑固で冷たい祖父が、愛蘭にだけは甘かった。


 父親がいないから。

 母親を十歳で亡くしたから。


 そんな理由で、あの女を不憫がった。


 だから私は、意地悪をした。

 ここぞとばかりに。


 言葉で。

 視線で。

 ささやかな嫌がらせで。


 泣きそうな顔をするのを見ると、胸がすっとした。

 私の方が、上だと思えたから。


 ――なのに。


 祖父は、あろうことか、愛蘭に婚約者を与えた。


 相手は、しん琳道りんどう

 愛蘭より二歳上で、家柄も容姿も良く素敵な男性だ。


 彼は、分かりやすかった。

 愛蘭の顔に、満足しているのが。


 その視線を、私は見逃さなかった。


 けれど、当時の私は余裕があった。

 私にも婚約者がいたからだ。


 諸葛仲達しょかつ・ちゅうたつ

 名家の嫡男。

 誰もが羨む縁談。


 だから、その時は思った。

 ――まあいい。いずれ差はつく。


 だが、時は残酷だった。


 愛蘭が十四の時、突然、家から消えた。


 屋敷は大騒ぎになった。

 誘拐だの、事故だの、様々な憶測が飛び交った。


 けれど、やがて真相は明らかになった。


 祖父の持つフラン王国との貿易船に、密航していた。

 それを手引きしたのが、関翼徳かん・よくとく


 祖父は、納得した顔をしていた。


 ――父親を探しに行ったのだろう、と。


 ……甘い。

 本当に、甘い。


 それでも、私は安心した。

 あの女は、いなくなったのだ。


 この家から。

 私の視界から。


 ところが、人生とは皮肉なものだ。


 数年後。

 私の婚姻が近づいていた、ある日。


 諸葛仲達が――消えた。


 書き置きもなく。

 説明もなく。


 駆け落ちだった。


 頭が、真っ白になった。

 噂は瞬く間に広がる。


 ――緑麗香は、婚約者に捨てられた。


 笑われた。

 憐れまれた。


 その時、脳裏に浮かんだのが――

 愛蘭だった。


 フランで勉学を終え、

 帰国し、結婚するという知らせ。


 沈琳道と。


 ――あの女は、幸せになる。


 一方、私は?


 婚約者に逃げられ、

 笑いものになり、

 年齢だけが重なる。


 そんな結末、許されるはずがない。


 だから、私は動いた。


 沈琳道に、寄り添った。

 理解者を装った。

「可哀想なのは、あなたよ」と囁いた。

 年頃の男性など、色香に弱い。

 愛蘭がいないからこそ、誑かすのは簡単だった。


 男など、単純だ。

 沈琳道に甘い言葉を囁きながら、彼の腕に胸を押し当てるだけで良い。

 すぐにこちらを見て、その夜のうちに体の関係になった。


 それからは簡単だった。

 このことを愛蘭に知られたらあなたは破滅だと囁く。

 だから、彼は決断するしかなかった。


 愛蘭を捨て、私を選ぶ選択を。


 ――その瞬間、勝利を確信した。


 そして、今日。


 誕生日だというのに、

 大広間に立たされ、

 小さな荷物袋ひとつで追い出される愛蘭。


 真実を告げた時の、あの顔。


 理解できず、

 怒りも泣き声もなく、

 ただ、静かに壊れていく表情。


 無様だった。

 滑稽だった。


 笑いそうになるのを、必死で堪えたほどだ。


 こうして私は、

 幼い頃から邪魔だった存在を、

 完璧に、不幸の底へ落とした。


 あの女は、家族を失い、

 居場所を失い、

 守るものをすべて失った。


 ――満足だった。


 これで、もう、私の前に現れることはない。


 そう、思っていた。


 この先、

 一人の絵師として、

 あの女が再び立ち上がるなどとは――


 その時の私は、

 まだ、知る由もなかった。

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