表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄を従姉に奪われた愛蘭は、伯爵家を追放され、路頭で死そうになるが、皇都で後宮画家になり、イケメン上司原水と出会い、溺愛される!  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/41

閑話3 沈琳道視点 愛蘭への謝罪、そして、断罪のはじまり

沈琳道視点  ――最後の賭け



 帝の別荘兼、公務施設は、緑港伯領の海沿いにあった。


 白い外壁。

 海風に対応するために、低くめに抑えられた屋根。

 本来、私が“緑伯家の婿”になっていれば、出入りするはずだった施設。


(愛蘭、お前は……ここに、いるのだな)


 喉が、ごくりと鳴った。

 緊張ではない。

 これは――期待だ。


 私は、正門の受付に進み、名を告げた。


「私は沈琳道だ。愛蘭殿に――取り次いで欲しい」


 受付の役人は、一瞬、怪訝な顔をした。

 だが、淡々と確認を取り、奥へ引っ込む。


(よし)


 拒絶されなかった。

 それだけで、胸が軽くなる。


 ほどなくして、案内が来た。


「短時間のみです。

 愛蘭殿は、公務の合間にお会いになります」


 十分だ。

 いや、十分すぎる。


◆ ◆ ◆


 部屋に入ると、愛蘭がいた。


 以前と変わらぬ姿。

 静かで、凛としていて――

 だが、私を見る目は、はっきりと“冷たい”。


「……要件は?」


 挨拶も、感情もない。

 事務的な声。


(……そうだ。まずは謝罪だ)


「愛蘭。

 あの時は――本当に、すまなかった」


 頭を下げる。

 深く。

 誠意を込めている“つもり”で。


「君を傷つけるつもりはなかった。

 俺は、麗香に騙されていたんだ」


 私も麗香に騙された仲間をアピールする。

 あの女のせいにすれば、同情を引けて、共感を得られるはずだ。


 だが――

 愛蘭の表情は、変わらない。


「……謝罪は、受け取りました」


 それだけ。


「本日は、それで終わりですか?」


 終わり?

 そんなはずがない。


(まだだ)


「待ってくれ」


 思わず、声が出る。


「君だって、分かっているはずだ。

 緑港伯家は、再建が必要だろう」


 愛蘭が、わずかに眉をひそめる。


「そのためには、婿が必要だ」


 私は、胸を張った。


「元々、俺は君の婚約者だった。

 今からでも遅くない」


 言葉を、選んだ。


「――俺が、君と結婚して“あげる”」


 その瞬間。


 愛蘭の目が、はっきりと変わった。


 嫌悪。

 軽蔑。

 そして、失望。


「……お断りします」


 きっぱりと。


「あなたと、やり直すつもりはありません」


 胸が、ざわつく。


(なぜだ)


「冗談だろう?」


 思わず、笑ってしまう。


「今の君に、俺は必要なはずだ。

 貴族社会のしがらみも、政治も――」


「必要ありません」


 遮られた。


「私にあなたは必要ありません」


 その言葉が、理解できなかった。


「……強がるな」


 声が、低くなる。


「君は、俺がいないと――」


「それ以上、言わないでください」


 愛蘭は、椅子から立ち上がった。


「これで、終わりです」


(終わらせる?)


 胸の奥で、何かが崩れた。


(このままでは――)


 私は、すべてを失う。


 沈家にも、緑港家にも戻れない。

 皇族の縁も、未来も。


(それだけは、駄目だ)


「……待て」


 無意識に、腕を伸ばしていた。


「離してください」


 愛蘭が、嫌悪を露わにする。


「大丈夫だ」


 自分に言い聞かせるように。


「今は、混乱しているだけだ」


 近づく。


「夫婦になれば、逆らえなくなる」


 口から出た言葉に、

 自分でも一瞬、息が詰まった。


「……お前を、手籠めにしてしまえば」


 言った瞬間、

 愛蘭が、はっきりと怯えた。


「やめて!」


 その声で、我に返る――

 はずだった。


 だが、止まれなかった。


(これしか、道がない)


 その時。


「――そこまでだ」


 低く、凛とした声。


 振り向くと、

 入口に、劉原水が立っていた。


 静かな怒りを宿した目。


「ちょうど良い」


 彼は、淡々と告げる。


「この者を、捕らえよ」


 次の瞬間、

 背後から腕を取られ、床に押さえつけられた。


「な、何を――!」


「沈琳道」


 劉原水の声は、冷たかった。


「皇族への脅迫、暴行未遂」


 抵抗しようとしても、動けない。


「違う! これは、話し合いだ!」


「話し合い?」


 劉原水は、愛蘭を一瞥する。


「彼女の顔を見ろ」


 私は、初めて気づいた。


 愛蘭は、震えながらも、私を見る眼差しは恐ろしいほどに冷たかった。

 はっきりとこちらを拒絶していた。


「……連れて行け」


 その一言で、すべてが終わった。


◆ ◆ ◆


 冷たい鉄の感触。


 牢の中で、私は膝を抱えた。


(……なぜだ)


 何が、間違っていた?


 私は、正しい選択をしたはずだ。

 生き残るために。


 だが――

 あの目。


 愛蘭の、軽蔑するような目が、

 何度も脳裏に浮かぶ。


(……違う)


 そう思いたかった。


 だが、もう誰も、

 私の言葉を聞く者はいない。


 沈琳道の最後の賭けは、

 こうして、音もなく崩れ落ちた。


 そして私は、初めて知った。


 一度失った信用は、取り戻せない。ということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ