第8話 田中くんを知れた僕
「はぁー、やっと終わったなぁ」
と、廻宮くん。
「本当よくやるよねー。私だったら集合写真一枚で終わらすわ」
と零野さん。
「あはは… 田中くん学校でも、上位に来るぐらいモテてるもんね」
と、甘井さん。その後ろに波風くんが、コーヒーの入ったティーカップを片手に黄昏ている。
(この人、コーヒー、どこから持ってきて何杯目だ?)
波風くんは僕の視線に気付き、コートに隠れていた水筒を僕に見せる。
「カフェインレスコーヒー。カフェインの取りすぎは良くないからね、日中はこれに限るね。角田くんもどう?」
「い、良いです… 何かすみません…」
見ていただけで、何も言っていないのに、僕の疑問に答えてくれた波風くんは、エスパーなのかもしれない。
「みんなごめんな。さぁー!次は何行く?」
田中くんが皆に謝り、背中を押す様に次のアトラクションを探す。
(さっき僕がジェットコースターを選んだくだりは終わったし、上下に動くアトラクション、ホップステップジャンプかな)
「そりゃあ、次はジェットコースターだろ!」
(え…)
「そうだね、角田が乗りたいって言ってたし、良いんじゃない?」
(え、え!!)
「私あまり得意じゃないけど、こんな機会しか乗れるタイミング無いし、挑戦してみようかな…」
「ズズズズ…」
(えぇーーーー!! 何で僕の案が通っているの? あ、そっか。ジェットコースターは定番だし、僕が言った事とは関係ないよね。建前で僕が言ってたしって言っているけど、普通に乗りたかっただけだ皆んな)
少し僕を受け入れてくれたんだと期待したが、すぐに自分の立場を思い出し、下を俯きながら前に進む。
「え、角田、ジェットコースターだったのさっき…」
と、今更気づく田中くん。
僕が突っ込もうとした時、
「今更〜?」
「え、あれ、ガチでメリーゴーランドだと思ってたの?」
と、零野さんと廻宮くんがすかさず突っ込んでくれ、僕は、何だか胸がムズムズした。このムズムズは何なのか…。
「マジでごめん。俺勘違いして、馬木騎手の真似してたの? マジ痛い奴じゃん」
皆が一斉に田中くんの方をじろっと見る。
「え、なになに。怖い。何かあるなら言葉で伝えて」
(きっと、『今に始まった事じゃないだろ』って、皆んな思ったんだろうな)
「角田〜、皆んな無視なんだけど。お前は違うよなぁ〜」
僕の腕に絡まりつく田中くん。
(ん? 田中くんの腕にカメムシ…)
絡まりつかれた腕をスッと抜くと、
「うわーーん、角田まで俺を無視するのかぁー?」
と、腕をブンブン振りながら僕の方へ走ってくる。カメムシも必死にしがみついているので、田中くんから逃げる様に走った。
「ちょ、そんなに逃げなくてもさ〜!」
「ち、違うんです。腕、腕が!」
「腕が何だよ〜、俺に触れられるのも嫌になったのか〜!?」
「だから違いますって! か、め、む、し!」
「え? かめ寿司? あの、高級寿司店の、かめ寿司を奢らないといけないのかー!? バイトの1ヶ月分の給料、1日で吹っ飛ぶんだけどぉぉぉ」
僕と田中くんが追いかけっこをしていると、廻宮くんが、
「ぅあちょーーーぅ!!」
と、素早い動きで払い、田中くんの腕に止まっているカメムシが飛んで行った。
カメムシが飛んで行ったのを確認すると、僕はスピードを緩め、歩き出す。田中くんはカメムシがついていた事も気づいていないから、廻宮くんに払われてもちょけているだけだと思い、走り続けていた。
そして、いきなり歩き出した僕に驚き、田中くんは対応出来ずに、僕が下敷きになり重なり合う。ここで男女であれば、ドキドキポイントかもしれないが、恋愛感情の無い男同士の重なり合いは、見てられない。
皆が、見て見ぬ振りをしてジェットコースターへ向かって行った。
「角田、ごめん、本当に。俺、本当に角田に喜んでもらいたくて…」
「別に怒ってませんよ。本来なら、こんな所にも来る事はなかったですし、クラスメイトと言葉を交わすなんて、初めての経験が出来て、良かったですよ」
「角田…」
と、向かい合いながら重なり合う僕と田中くんだが、田中くんの顔がどんどん近付いてくる。
「いーーやっ、馬鹿野郎!!」
「あはははっ!」
僕は田中くんを押し返し、その場で座り込む。
「ごめんごめん。馬鹿野郎待ちだった」
また、女がイチコロになるような、くしゃっとした笑顔で見てくる田中くん。そんな笑顔を見ていると、胸のモヤモヤが再出現。何故、こんな僕なんかと関わりたがるのか…
「田中くん、初めて話した時、何で僕に話しかけたりしたんですか?」
(しまった。少し言葉に棘があったかな…)
勢いで聞いたが、後から後悔してくる僕。
「仲良くなりたいと思ったからだよ」
「いや、だから何で…」
(くどいな僕…。でも、このモヤモヤをスッキリさせたい気持ちもある)
「あー…。 俺さ、高デなんだよ。高校デビュー」
「え?」
「驚くよなぁ。今では女にはモテて、男からも好かれていて、昔から陽キャでやってきてんだろうなって思ってたよな」
(高校デビューは良くある話で、おかしい事は無いけど、この田中くんが!?)
僕は何と返したらいいか分からず、
「そ、そうなんだ…」
と、引いていると勘違いされる様な言葉をかけてしまった。
「ははっ。驚きすぎ。俺、中学校の時、めっちゃ地味だったんだ。気を悪くしたら悪いけど、本当に今までの角田みたいな感じ。虐められることは無いけど、相手にもされない。そして、俺は、その時何も出来ずに卒業したんだ。春休みの時に、家族と出かけた時があってよ、その時に、すっごい楽しそうな高校生達を見かけて、いいなって、羨ましいなって。そこから俺はどうしたいのか考えた先が、今の俺」
「そう…だったんだ…」
(田中くんも色々あったんだな… でも…)
「だけど、僕とは違うよ。田中くんは努力して自分で変えようと行動に移せてるんだから。僕にはそんな勇気もない。今の田中くんが田中くんに合ってたんだから、本当、凄いなぁ」
僕は伸びをしながら立ち上がる。田中くんは下を俯き、まだ座ったままだ。
「皆んな待ってるかもしれないし、行かないとね」
僕は田中くんに声を掛けたが、返事がない。
「田中くん?」
田中くんは俯いていた顔をあげ、
「正直、今の俺と過去の俺、どっちが正解なのか分かんないんだ」
と、目の周りを赤くして、無理に笑顔を作る。
「僕はずっとボッチだから、何もアドバイスなんか出来ないけど、正解なんか無いと思うよ。今の田中くんが苦しくないんだったら、今はそれでいいし、しんどくなったら無理に元気を装わなくても良い思う。考えても答えなんて分からないんだから、その時々で、自分のやりたいようにやればいいんだよ。きっと」
また下を俯く田中くん。
(なに語ってんだ? 僕。恥ずかしいぃー…。ん? 何か田中くん揺れてる…?)
「ックック… んふふぁははっ。何真剣に話してるんだよーっ、角田!」
揺れていたのは笑っていたからだった。後ろに手を着き、立ち上がった僕の顔を見上げるように見る田中くん。
「そっちが何か悩んでそうだったからさぁー、もう良いです! 先に行きますね!」
僕は顔が赤くなり、両手に拳を作りながら、90度向きを変えて、早歩きで田中くんから離れる。
「ちょ、角田待ってよー!」
と、追いかけてくる田中くんだが、後ろを振り向くと、
「何で田中くんまで早歩きなんだよ! そこは走って追いかけてくるんじゃないのか、馬鹿野郎!」
いつもの田中くんに戻っていた。
それから、ジェットコースターの乗り場に急いで向かったのだが、皆んなの様子がなんだかおかしい…。
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