第7話 気を遣う僕
タラタラ、ララ〜チャンッ! タラララ〜♪
華やかで、どこか儚げな音楽が流れながら、僕は黄色い立髪の白馬に乗っている。上下に揺れながら、軽快に回っている男4人組。
そう、僕が指を差したのは、メリーゴーランド、ではなく、ジェットコースターだった。何故メリーゴーランドになったのか。それは…
「ぼぼ、僕は、アレがいいです!」
目をギュッと瞑り、下を俯きながら指を差した先へ、皆の視線が行く。
「ん?どれ?」
零野さんが鋭く疑問を湧く。それもそうだ。今思えば、僕は指を差しただけで、何とは言っていない。
「チュロス… 食べたいの? 開園したばかりで、お昼までまだ時間あるし、今は乗り物乗った方が良い気もするんだけど…。み、皆んなが食べたかったら、それでも良いんだけど!」
甘井さんにも、僕の差した先は伝わっていなかった。
「うーん、ジェットコースターじゃね? さっき通ってたし」
(さすが廻宮くん! 運動神経が良いと瞬発能力がある。人の考えも直感で分かっちゃう人なんだなぁ。伝わって嬉しい…)
そう、僕はジェットコースターを選び、皆んなで並んでいる間にトイレで抜けようと思っていたのだ。
「廻宮くん分かっていないね。僕には分かるよ。きっとティータイムをしたいんだ」
「いや、それ、お前がコーヒー飲んでゆっくりしたいだけだろ」
波風くんの的外れな答えに、鋭く突っ込む零野さん。そのやり取りで、波風くんのコーヒー好きは、クラス中に広まっていたんだと知った。
「本当は何なの? 乗り物乗るなら、朝イチが一番並ばなくて済むんだから、今のうちだよ」
零野さんは怒っていないはずなのに、ハッキリした性格のせいで、僕には怖さを感じてドキドキしてしまう。と、その時… やっと彼が口を開いたのだ。
「そんなの、メリーゴーランド一択っしょ! 安心安全に乗馬体験できるんだから。な? そうだろ? 角田」
(ちがーーーう! 確かにジェットコースターのレールの真下にメリーゴーランドあるけど、朝イチにこれを選んだらノリが悪いって、ボッチの僕でも分かるよ!!)
「馬鹿野郎!! 田中くん違うんだ。 じぇ、ジェットコースター…なんだ、僕が指を差したのは」
それを聞いた廻宮くんはガッツポーズ。零野さんと甘井さんは、なるほどと言う顔で掌にポンッと拳を叩く。波風くんはどこから用意したのか片手にティーカップを持ち、コーヒーの匂いを嗅ぎご満悦。そして田中くんは、すでにメリーゴーランドの白馬に乗っていた。
(そうだろ? 角田。って言うんなら、人の話、聞いてから動けよ!! 本当自由人だな、あの人)
そして、僕たちはメリーゴーランドに乗る事になったのだが、
「私、写真撮るよ! 皆んなが乗ってしまったら、思い出に残せないし」
と、気を遣う甘井さん。
「じゃあ、私もパスで! 桃香が1人乗らないのに、私だけ乗るのもなんか嫌だし」
それに便乗する零野さん。女子メンバーが乗らないのならと、僕もゆっくりと見学組に行こうとしたのだが、波風くんと、廻宮くんに、
「抜け駆けは許さねぇ」
と、ズゴズゴ闇のあるオーラを放ちながら、首根っこを掴まれ、白馬に乗ることに。そうして、僕と田中くんは隣通りで白馬に。波風くんと廻宮くんはゴンドラに2人で仲良く座って、むさ苦しいメリーゴーランドが始まった。
意外と回転する速度が速いメリーゴーランドは、写真を撮ってくれている女子メンバーが見れるのは一瞬だ。男のむさ苦しさを、美女2人で癒されたかったが、一瞬だし、その一瞬カメラ目線だと恥ずかしいから僕は田中くんの方を見た。
「な、何してるの?」
僕の目に映ったのは、軽快に馬に合図を送っている田中くんだった。
「馬木騎手に似てるか??」
と、僕は競馬を見ないから誰の事を言っているのか分からない。
「競馬、好きなの?」
「好きって事も無いけど、毎週日曜日の昼のテレビって、面白い番組してないから、とりあえず競馬つけてるんだよ。じゃあさー、馬に乗るのカッケーなぁ!と思ってさ。ちょうど良かったよ角田。ありがとな、提案してくれて」
(そうだ。田中くんは僕の話を聞かずに先に行ってしまったから、僕はジェットコースターではなく、メリーゴーランドを選んだとまだ思い込んでいるんだ)
僕は、訂正をしたかったが、あまりの生き生きとしている姿に、
「うん。喜んでもらえてよかったよ」
と、人に気を遣う事を経験した。
(ん? 辺りが騒がしい…)
外を見ると、その光景に思わず、僕は引いてしまった。それは何故か。
「きゃー! かっこいい! 誰あの人?」
「リアル白馬の王子様じゃん」
「降りてきたら写真撮ってもらお〜」
と、トリマに遊びにきていた女性客が押し寄せていた。
(いやいや、この人、ちょけてるだけですよ!?)
田中くんと観客へ、目を行ったり来たりさせる僕。
「ちょっと手前の地味な男の子、邪魔だな〜」
「ほんとに。見えないからちょっと頭下げて〜」
(なんで僕がこんな事に気を遣わないといけないんだ)
と、文句が頭の中に出ていたが、観客の言う通り、頭を下げる。
「きゃーーー!! かっこいい!! こっち見て〜」
と、ピンク色の声一色。
チラッと観客の方を見て、汗をキラキラ輝かせて爽やかな笑顔で観客を見る田中くん。
(いや、ファンサしなくていいんだよ!君も! てか、もうやめろよ! じっと座っていない時点で、普通に、マナー違反だから)
僕が目で訴えると、スンッと電池が切れたように止まった。そして、田中くんの動きが止まったと同時に、メリーゴーランドもゆっくりと止まっていく。
「くそっ… 4位か。入賞はしたかったな」
と、呟く田中くん。
「いや、誰と戦ってたんだよ」
と、突っ込む僕。
「んー、己自身と… かな?」
「馬鹿野郎。 己何人いんだよ」
すると、
「ははっ。あはははっ」
と、田中くんはいきなり笑い出したのだ。
(なになになに。笑っているだけなのに、いちいちかっこいいし)
「何?」
僕は何故笑っているのか、田中くんに問う。
「はー、お腹痛い。いや、こんなアホな事しても、角田は優しく見守ってくれるんだなと思って。角田の優しさにウケる」
(僕の事、馬鹿にしてるよね… なんだ、田中くんは僕の事気にかけてくれていたんだと思っていたけど、結局は陰キャ代表の僕をおもちゃにしたいだけなんだ)
サーっと僕の胸が冷たくなり、周りの声が濁り、ボーッとする。
「ちょ、怒ってるのか? あ、いや、ウケるって言うのは、お前のことが面白くてじゃなくて、俺が必死なのが面白いってことな。角田を笑わせるためにやったのに、優しく見守らせてしまった俺にウケるってことだよ。これで伝わったか?」
「へ??」
「だからー、角田を笑わせたいんだよ。俺は」
「なん…」
僕は何故、笑わせたいのか凄く気になった。頭では揶揄うために僕に近づいたんだと分かっているが、恥ずかしいが何処かで僕と仲良くなりたいと言われるかも知れないと期待したのだ。だが、
「はい、終了です〜。ゆっくりと降りて出口に向かって下さーい」
と、スタッフが声がけをして、降りると有名人並みに写真を撮ってもらうようお願いされていく田中くん。僕はモヤモヤした気持ちを抱えながら、観客に捕まっている田中くんの写真会が終わるのを待つ5人だった。
気を遣う僕




