第5話 特別サービスを受ける僕
部屋の中に入ると、田中くん以外に、2人、中で寛いでいた。1人は、家から持って来たコーヒーメーカーでコーヒーを入れている、波風くん、もう1人の廻宮くんは、ベッドを巧みに使い、体操選手の様にクルクル回って技を繰り出している。
(このメンバー、何だかしんどそう…)
と、先が思いやられる僕だった。
荷物を置いて宴会場に向かい、学年全体で夕食を頂くことに。席は、部屋のメンバー毎に決められていて、隣には廻宮くん、向かいに波風くん、田中くんと言う席順だ。学年全体が集まっているから、騒がしい声が何だか落ち着かない僕。
「さっきは悪かったよ。そんなにスナック菓子が食べたかったのなら、帰ったらまた菓子パ(お菓子パーティー)しようぜ」
「いや、いいよ。僕の方こそ、ムキになってごめん…」
パンッ!
「よし!湿ったい空気は終わり! 食うぞ!」
と言った田中くんは、平然と僕の用意された大海老フライを口へ運ぶ。
「いや、それ僕の!!」
「なかにゃおりのふがふがふが〜(仲直りの海老フライだ)」
すると、僕に何かを差し出す。
(大海老フライを取っておいて、隣に用意されている近江牛のステーキをくれるのか… 僕は魚より肉派なの知っていたのかなぁ…)
と、フワフワとした気持ちで差し出されたものを食べると、
「ば、馬鹿野郎!! こんにゃくの佃煮渡してるんじゃないよー!! 絶対、嫌いなやつ渡してきたでしょ!」
僕の分と田中くんの分までの大海老フライを平らげ、喉を鳴らしながらゴクリと飲み込んだ、田中くんは、
「あ、それ肉じゃなかった? わりぃわりぃ、俺の肉あげるわ… って、もう食ってたわ。本当ごめんな」
「絶対わざとだろ」
(はぁ… 結局、修学旅行に来ても、こうやって虐められるんだ。こんな思いするぐらいなら、あのまま存在を消して過ごしている方がマシだったな…)
田中くんに託されたこんにゃくの佃煮を噛み締めていると、甘く、全身を撫で回されるような優しい声が右横から聞こえてくる。
「あの… これ、もしよかったら…」
右に顔を向けると、シャンプーの匂いなのか、甘くフルーティーな匂いがする女子が僕の口元へ、大海老フライを持ってきている。
「あ、あの…」
僕が口を開けると、
「あーん」
の声と共に、大海老フライが口の中へ飛び込んできた。
「あ、ありあとうごばいましゅ…(ありがとうございます)」
大海老フライを口に挟みながら、僕はお礼を言った。顔をよくよく見ると、クラスでは静かで、あまり目立たないが、目が大きく、小顔で、とにかく胸が大きい甘井さんだった。そんな可愛い女子にあーんをされた事実が、俺の顔をハバネロのように赤くする。
「顔が赤いけど、大丈夫!? 海老フライ、欲しそうにしていたし、私、二つ入っていて、ホテルの人に返すのは申し訳ないし、でも、二つ食べるのも申し訳ないなと思っていて… ごめんなさい、強引になっちゃって。迷惑だったよね…」
ゆっくり味わいところだったが、急いで尻尾まで食べ切り、ゴクリと飲み込んだ僕。
「め、めめめめ迷惑じゃかったですよ! 僕が用意されていた大海老フライより、甘井さんがくれた大海老フライの方が絶対美味しかったです! なんなら、ご褒美というか…。って、いやいや何でもない…です…」
「あ、そう? なら良かったぁ」
(終わった。今の完全に変態宣言だったよ。笑っているけど、すぐに僕から目を逸らして前を向いたし…)
コツンッ!
「痛っ!」
頭を指でパチンと叩かれた。叩かれた方を見ると、その犯人は田中くんだった。
割り箸の袋にペンで書いた文字を読んでと、指を指している。そこには、
『修学旅行来て良かったな』
と、書いていて、海老の真似なのか、両手をピースしてニカッと笑う田中くん。
「それ、どちらかと言うと、蟹のポーズですよ」
と、冷たくあしらうと、
「なーに、細かい事言ってんだぁ、この野郎〜」
ピースした指で僕の頭をグリグリ。そこで、
「あ、僕の大海老フライが無い…」
と、波風くんがキョトンとする。
わざとらしく田中くんはそっぽを向き口笛を吹く。その行動を見て、僕は悟った。甘井さんの所に二つあったのは、田中くんのせいなんだと…。
波風くんには申し訳ないので、僕の近江牛のステーキをあげる。波風くんは何故貰えるのか不思議そうにしていたが、僕に遠慮無く口へ運んだ。
1日目から色々あったが、少しは修学旅行に来て良かったと思ってしまう自分が居て恥ずかしくなる。
「角田、何、にやけているんだ?」
「に、にやけてない!!」
「にやけてたよ〜。さ、っ、き、の、思い出したのか〜?」
「ち、ちちち違うって!」
「必死に否定すると余計にそうだと思っちゃうけどな〜」
揶揄われるのに慣れてない僕は、
(あー…やっぱり、来なきゃよかった…)
と、また思うのであった。
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