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第3話 引き返したい僕

 ピポッ、ピポッ…


 音響式信号機の音が流れながら、学ランに大きめのリュックを背負い、コンビニの袋を手に持っている、男子校生が横断歩道を渡っている所だ。


 (こ、これは、一旦外に出て、お腹が痛くなったから家に帰ったという、口実を作る為… よし、家に戻ろ…)

 

 「おー!角田!」


 僕は聞こえないふりをして、家の方向へ急ぎ足で進む。


 (あー、家から出るんじゃなかった。何で行かないのに準備までしたんだ? 口実? 言い訳にしては苦しいか。何処かで浮かれていたのかな。登校中の同級生の声が聞こえただけで、行きたく無い気持ちがどんどんと湧き出てくる)


 だが、


 パンッ。


 後ろから腕を掴まれ、とうとう捕まってしまった。

 

 「ごめん、田中くん… 僕お腹が痛くて…」


 と、振り返ると、


 「え、誰?」


 朝のジョギングをしている格好の男の人がにっこりと笑って僕の腕を握っている。


 (いやいやいや、怖いって普通に。誰だよ、こんな朝っぱらから何の用だ?)


 「おーい、角田! 横断歩道を渡り切って、走ってくる田中くん」


 (田中くんは分かるけど、この人本当に誰? 虹色のレンズだから、僕が映って、目が見えないから、余計に怖い)


 田中くんが僕のところに辿り着き、息を切らしながら声をかけて来た。


 「何で逃げるんだ。学校そっちじゃないだろ」


 (あー、何て言おう。あ…)


 僕の腕を掴んでいる男の人をじろっと見て、田中に質問する。


 「この人は?」


 「あー! そうだ。すみません、僕が言い終わる前に走って行っちゃったんで、最後まで言えてなかったんですが、この男子校生の親戚の親戚が、グラビアアイドルの『うらら はな』って言いたかったんです」


 すると、腕を掴んでいた男の人は、スッと手を離し、


 「なーんだ、そうだったんだ。親戚の親戚ならサインはもらえないか。じゃ、私はこの後仕事なので、行きますね!」


 「本当、すみませーん! 仕事頑張ってくださいねー!」


 と、男の人は去って行った。



 (どうなっているんだ?状況が読めない)


 「あの…」


 僕が田中くんに話し始めるその瞬間…


 パッ…


 「行くぞ」


 次は田中くんが僕の腕を引っ張って、走り出す。


 (ちょっと! この方向って…)


 「はぁ、はぁ…」

 「だぁ… だぁ…」


 田中くんは少し息が荒れるぐらいだったが、僕には体力なんて皆無。練習せずにフルマラソンを走った後ぐらいに、息が荒れている。


 そう、来てしまったのだ。


 「行くぞ! 修学旅行!!」


 田中くんは輪の真ん中で、陽キャ達と集って眩しいほど、キャピキャピしている。



 (あー、本当にお腹が痛くなって来た…)

 

 いつもは嘘だが、本当に腹痛が来て、家を出たことに後悔する僕だった。



 はしゃいでいる田中くんは、僕と目が合い、輪の中から出てくる。


 「腹、痛てーのか?」


 僕は俯きながら浅く頷く。田中くんはゴソゴソ何かを探している様だ。


 「あ、あった!」


 僕の手を掴み、渡されたのは、


 「下剤?」


 「おう! どうせ、腹痛いとか言って来ようとしないと思ってたから、買っといた」


 また、誰もがトキメク様なクシャッとした笑顔で僕を見てくる。腹痛を理由に休もうとしていた事が、バレていたのには驚いたが…

 

 「いらない」


 「え?飲めよ! こっからバス乗るんだから、トイレ行く時間ねぇぞ」


 「か、買ってくれたのはありがとうだけど。今下剤飲んだら、トイレとお友達になってバスに乗るどころか置いていかれちゃうよ!!」


 田中くんはキョトンとした顔をして僕の指を指した方向を見る。


 「はーい、バス出発しますよー。乗ってない人が居たら、早く乗ってくださいねー」


 また僕の顔に視線が移った時には、田中くんは引きずった顔をしていた。


 「ふ、袋あるぞ… 最悪、これにすればいいんじゃね? 妹のオムツの消臭袋だしこれ…」


 「嫌だわ! モラル的にも絶対に駄目だろ!」


 苦し紛れの対処法を見つける田中くんに、


 (馬鹿野郎、田中くん!)


 と、心の中で叫んだ僕だった。

お読みになって頂き、ありがとうございます。

引き続き頑張りますので、宜しくお願い致します。

応援していただけたら幸いです。

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