第2話 戸惑う僕
それからは、毎日話しかけてくる様になった田中くん。この一年やってきた事が、一瞬で無駄になった。
「なぁー、角田。お前って本好きなの?」
「ふ、普通です…」
一応受け答えする僕だが、全然気は許してない。むしろまだ怒っている。
次の日も。
「なぁー、角田。お前って目悪いの?」
「はい、両目0.3なので、メガネは必須です…」
その次の日も。
「なぁー、角田。お前ってシャンプー何使ってるの?」
「母が買ってきたものを使っているので、今はSULSULで… って、興味ありますか?毎日質問してきますが」
僕は田中くんの目を見て、まるで血の通っていない目をして質問返しをする。すると当たり前の様な顔で、
「あるよ」
と、言ったのだ。無いと言われると思っていた僕は、びっくりして頬を赤くする。
「何照れてんだよ、ずっと喋ってなかったんだから、まずは聞かないと分かんないだろ」
「そ、そうですね…。でも、今回は宇宙人とか冗談抜きで、僕のこと本当に見えていたんですか?」
それを聞いた田中くんは後退りをしながらこう言ったのだ。
「も、ももももしかして、透明人間になれるのか!? それを俺が見える能力があって… そう言うことか!?」
(またまたご冗談を。結局ノリでって言われるんだろうな)
「馬鹿野郎」
「そう…なんだ…。角田すげぇな!」
(ん?んんん? いや、この馬鹿野郎は僕の中でツッコミを入れたつもりなんですけど!?)
「馬鹿野郎!!」
いちいち声が大きい田中くんは、僕が透明人間になれると思っている痛い男だと、クラス中に呼びかけられている様な気がして、顔を赤くし、目を閉じて怒ってしまう僕。
「ご、ごめんごめん。隠していたんだもんな、声のボリュームには気をつけるよ」
田中くんは、後退りをした所から歩いて戻ってきながら、こう言ったのだが、分かっているようで全然理解していない。
それから僕がしっかりと説明して、やっと分かってくれた後、とんでもない事を言い出した。
「なぁ、今週末の修学旅行、来るよな? いつも来てないみたいだけど」
(行くわけないだろ!!)
と、言いたかったが、心の中に押さえ込み、
「行きますよ。体調が良ければ…」
と、伝えた。そう、嘘は言っていない。体調が良ければ行くのだ。いつも決まってそういう日には、何だかお腹が痛い気、がするんだから。
「絶対来いよ!」
田中くんの優しい笑顔を見て、少し胸が痛む。
(いやいや、田中くんは友達いっぱいだし、僕が行っても行かなくても、困ることなんて一つもない… そう、僕は決まってお腹が痛くなるのだから…)
次の日。
「角田ー、修学旅行の日、雨予報なのだるいな〜」
「そ、そうだね…」
その次の日。
「角田ー、てるてる坊主作ろうぜー」
「は、はい…」
修学旅行の日に雨が降らないようにと願掛けのてるてる坊主をティッシュと輪ゴムで作り、黒板の横に吊り下げた。
(僕は一体何を…)
また次の日。
「角田ー! 修学旅行の日、晴れ予報に変わってたぞ! 昨日のてるてる坊主、効果抜群だな!」
「そ、それはよかったですね…」
「なんだ? 来る気ねぇのか?」
(しまった。行くつもりしていないから、つい他人事に喋ってしまった)
「いや、行きますよ。体調が良ければ…」
「風邪引いてるのか?」
「いや、引いてませんけど…」
「じゃあ、来れるなっ」
また、太陽が昇るような優しい笑顔に、胸が痛む。
「そう言えば、連絡先知らなかったよな。連絡先教えてよ」
「あ、はい…」
(は、ははは初めての連絡先交換… )
そう、友達の出来たことが無い僕のスマホには、両親の連絡先しか入っていない。
「QRコード出すから、これ読み込んで」
田中くんのスマホに映ったQRコードを目の前にして、手が震える。
「ど、どうしたんだ? 寒いのか?」
慌てて着ていた学ランを脱いで、僕に被せようとするが、僕の潤んだ目を見て、田中くんは
「フッ。学ランを脱いでかけてあげる俺の優しさに涙が溢れてきたんだな」
と、言った。
「馬鹿野郎。違いますよ」
田中くんは、僕にかけた学ランを寒そうにしながら回収し、ボタンをつけながら
「じゃあ、どうしたんだ?」
と、何も分かっていないようだ。
(鈍感なヤツ。だから陽キャは嫌いなんだ)
「何もありませんよ。あくびが出そうになって涙が出てきそうになったんじゃないですか」
僕は人の好意を無碍にする様な言い方をして、スマホをポケットに直そうとする。
だが、
「ちょっ!」
直そうとしていたスマホを田中くんから取り上げられ、QRコードを読み取り、連絡先を追加したのだ。追加するだけ追加しておいて、田中くんは何も言わず去って行った。
(本当、強引な人だな…)
学校が終わり、いつもの様に寝る準備を整えて、ベッドに入り、明日の修学旅行を、ズルで休む罪悪感を抱えながら眠りにつこうとする僕。
ピコンッ。
(ん、母さんかな… 家にいるのに何でわざわざ)
通知が来たスマホを開けると、2人で作ったてるてる坊主の写真と、
『明日、俺はスナック菓子を持って行くから、角田は甘い系のお菓子担当な』
と、クリエイターが制作した、なんとも言えないウサギのスタンプが送られてきていた。
(こんな事しても、僕は絶対に行かない。絶対にお腹が痛くなって休むんだから)
そう、心に決めた僕は眠りについた。
朝になり、時計を見つめる。薄々、僕は休むと気づいている母が、僕の部屋までの階段を登る足音が聞こえて来た。
コンコンコン。ガチャッ…
「充ー…」
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