第14話 馬鹿野郎な僕
「ぼ、僕が…う、たうよ…」
(くぁーーーー、言ってしまったーー! でも、地上波に出てから好きになった人に歌われるよりは、僕が歌いたい!)
「え!! 角田いけんの!?」
皆んな、予想通り驚いている。周りの顔を見ないで行動に出るのはリスクがあるって事を、僕は改めて知った。
「やっぱり… やめておこうかな…」
一度持ったマイクを机に置こうとしたが、
「角田、歌ってみ。スッキリするぞ」
と、田中くんが僕の腕をギュッと持ち、机に置かない様にされた。
「HAKUで、『アイmy me』」
と、歌番組の曲紹介のように言って、始めた。
「Tステかよ!」
と、突っ込んでくれる廻宮くん。と、皆んながニヤッと笑ってくれた。
(良かった… 僕のボケを拾ってくれた…)
歌が始まり歌い始めると、合いの手を入れながら、僕の歌っている姿に注目される。恥ずかしい。恥ずかしいけど…
(楽しいーーー!)
好きな歌を、近所迷惑などの事を考えなくても思う存分に歌える、カラオケ。こんなに良い場所だとは、思ってもみなかった。
僕が歌い終えると、全員がスタンディングオベーション。
「角田かっこよすぎ!」
「角田くん、かっこよかったよ! すっごく!」
「うますぎだろ。ガチファンじゃん」
「推しにリスペクト。その感じ、僕好きだよ」
と、零野さん、甘井さん、廻宮くん、波風くんの順に褒めてくれた。そして田中くんは…
「何で泣いてるの?」
号泣だった。
「だってよー、カラオケ初めてって言ってたから、本心では嫌がってないかなーって心配してたのによう、そんなに楽しく歌ってくれると、俺、涙とまんねぇよぉ」
「大袈裟だって…」
と、僕が田中くんの背中を摩り、宥めた。
そして、次の曲がよりによって友達ソングという、タイミングの悪い順番が来た。
(しかも、田中くんが歌うのかよ。あーあーあー、鼻水)
泣きながら歌う田中くんの横で、ティッシュで鼻水を拭いてあげる僕。それを皆んながパシャパシャと写真を撮っている。
その後は、零野さんと甘井さんが、シンガーソングライターのRINと言う、女性歌手の、『初恋』と言う、甘酸っぱいラブソングを歌い、男子メンバーは癒された。
そんなこんなで、カラオケが終わり解散。
家に着くと、スマホの通知が鳴り止まない。『次はどこ行く?』、『明日も集まろうぜ』などの、カラオケの余韻が残りハイテンションな内容と、今日撮った写真だった。全員揃って撮った記念写真を開き、少しニヤけてしまう僕が姿見に映っていた。
それから、頻繁に遊ぶ様になった。全員が揃わなくても予定が合うメンバーで遊ぶ事もあり、部活もバイトもしていない僕はほとんど参加していた。断る理由が無いからね。決して、浮かれて行っているわけじゃ無いよ。浮かれているわけじゃ。気づけば、クリスマスパーティ、初詣、バレンタイン、ホワイトデー。リア充界隈の人達が行う事を、全て制覇していた。
そして、春が来た。僕達は高校3年生だ。新学年のクラス表を見ると、手の力が入らなくなり、スクールバッグを落とす僕が立ち尽くしていた。
「角田何組だった?」
耳の中に水が入っている様に、田中くんに話しかけられた言葉は、音がこもっていた。
「2組だったよ」
「まじかー。俺3組だった。廻宮と甘井も一緒。波風と零野は1組だって」
「そうなんだね… 」
「合間見て、2組にちょくちょく顔出すわ」
「いいよ、大丈夫。皆んな新しいクラスで、新しい友達ができるかもしれないし。僕だって、いつものメンバー以外でも友達が欲しいと思えたしね。だから、気を遣わなくても大丈夫だよ」
田中くんは、僕を気にかけてくれていたが、こうなる可能性は考えれていたのに、まだ受け止めきれていない僕には余裕が無く、1人で急ぐ様に教室へ向かった。いつもだったら田中くんは追いかけて来てくれていたが、きっと僕が突き放したから、そっとしておいてくれたんだろう。
(馬鹿野郎、田中くん… こう言う時は、追いかけて来てよ)
と、めんどくさい彼女の様な感情が芽生えている。
始業式が終わり、早速授業が始まった。短縮授業だけどね。この学校に2年いると、一昨年、去年とクラスが違っても顔見知りになるのか、自然とグループが出来て、ワイワイしている。そして、また僕は1人になった。誰も話しかけてこないし、僕も話しかける勇気なんか、無い。あのメンバーだったから、僕は人と話せるようになったけど、一から自分で始めるのは、ハードルが高すぎる。
(今頃、新しい友達と臨機応変に対応して仲良くなり始めているのかな…。だとしたら、下校は1人で帰らないとな。僕が待っていたら気を遣って、新しく出来た友達の誘いを断ったりしちゃったらダメだし)
と、皆んなの事を思い浮かべながら、机に寝そべる。そうしてその日の学校は終わった。スクールバッグを持ち、トボトボと1人で下駄箱に向かう僕。上靴を下駄箱に置き、下靴に履き替え、バッグの紐をギュッと握りしめ、下に俯きながら、門を出た。そこで…
「角田!!」
と、後ろから声が聞こえた。振り向くと、
「帰んのはえーよ」
(廻宮くん…)
「連絡しても繋がんないし」
(零野さん…)
「角田くんが居ないって聞いて、急いでいたらコーヒー、カバンにぶちまけちゃったよ」
(波風くん…)
「いっぱい探したんだから」
(甘井さん…)
「一緒に帰ろうぜ」
(田中くん…)
「いや、皆んなは、新しい友達と帰らなくていいの? 僕なら大丈夫だよ。元の生活に戻るだけだから。じゃあ、僕帰るね」
と、似合わない笑顔を取り繕って、皆んなに背を向けた。
すると、
「馬鹿野郎、角田!」
と、田中くんの大きな声が、校庭に鳴り響く。
僕は足を止めるが、振り向かない。すると、数人が後ろから走ってくる音が聞こえた。
「何が大丈夫だ。こんな顔して、大丈夫じゃねえだろ?」
皆んなが僕に駆け寄って来てくれて、飛びついて来たんだ。田中くんの優しい声で、我慢していた涙も溢れ出してくる。
「だ、だぁいじょうぶですよう。僕なんがに、気を遣わないでくだざい」
と、みっともない喋り方で話す僕。
甘井さんがハンカチで僕の涙を、零野さんが鼻水を拭いてくれて、波風くんは急いでコーヒーをカップに入れて僕に差し出し、背中を摩ってくれる廻宮くん。
「僕なんかって、なんだそれ。友達つってんだろ? 新しい友達が出来ても、俺らが友達なのは変わらねーよ。ほら行くぞっ」
と、田中くんは僕の背中を押して、皆んなで走る。理由も無く走る僕達は、何故か凄く楽しくてキラキラしていた。
「あのー、田中くん。今日バイトの日ですよね? 方向逆じゃないですか?」
と、僕の疑問に田中くんは、
「あー、なんかだるいから、休むわ」
「馬鹿野郎、田中くん! 人様に迷惑かけたらダメでしょ! そんな事をするんだったら、僕は1人で帰ります!」
「わ、分かったよー… 行く行く、行くから。明日からもよろしくな、角田」
と、初めて話しかけてくれた時の、くしゃっとした笑顔で僕を見た田中くんに、心の中で、
(ありがとう、田中くん)
と、呟いた。
最後まで、お読みになって頂きありがとうございます。
コメディ初挑戦でしたが、ウケを狙いに行くとなかなか難しいものですね。ですが、執筆中は楽しい気持ちになりながら執筆する事が出来ました。
これからもいろんなジャンルに挑戦して、沢山の人の目に映れる様、精進します。
投稿頻度が少なめですが、少しずつ進めていますので、他の作品も、良ければ読んでみてください。
応援して頂けると幸いです。




