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第13話 メガネが曇る僕

 「角田おはよう!」


 田中くんだ。まぁ田中くんは修学旅行に行く前から話しかけてくれていたから、想定内だ。


 「おはよう…ございます」


 「元気無いじゃん。どうした?」


 地味な僕に元気と思われる時があったのか聞きたいぐらいだが、そんな僕の変化も気づくなんて、田中くんは優しいな…。


 「田中おはよう〜」

 「田中くんおはよう」


 零野さんと甘井さんだ。やっぱり、僕には挨拶が無い。良かった、期待しなくて。覚悟していたからショックも無い…はずなんだけど…。胸の奥がズキズキと痛み、喉の奥がキューっと閉まる。


 「田中おはよう」

 「田中くんおは〜」


 廻宮くん、その後ろから波風くんも登校してきた。そして、田中くんの後ろを通り過ぎていく。


 (ほら、僕なんか、修学旅行という場のノリで付き合ってくれただけだったんだ)


 「角田おはよう」


 (え?)


 僕に挨拶をしてくれた声が左から聞こえた。顔を上げると、


 「おはおは」


 廻宮くんと波風くんは、田中くんの後ろを通り過ぎた後、僕の横まで来ていたのだ。


 「お、はようございます」


 「何だそのびっくりした顔」

 「挨拶ぐらいするでしょ、普通」


 (そりゃあ、びっくりするでしょ。零野さんと甘井さんは何も言わずに通り過ぎたし…って、あれ)


 「カバンおっも。教科書持って帰らなかったら良かった。今日は絶対置き勉しよ〜」


 「葉月ちゃん、課題貯まってたもんね」


 と後ろから、零野さんと甘井さんがこっちに向かって来ている。ちなみに、葉月ちゃんとは、零野さんの名前だ。まさか、僕のところなんかに来るわけ…


 「角田おはよっ」

 「角田くんおはよう。あれ? メガネ…」


 (来ちゃったよ…)


 「おはようございます…」


 心にかかった霧がどんどんと晴れていくと共に、メガネがどんどん曇っていく。


 「角田、また顔赤いぞ? 女の免疫無くても、そろそろ零野と甘井には慣れろよ〜」


 廻宮くんが肩を寄せてくる。


 田中くんの方を見ると、僕の考えている事がバレているかの様に、口パクで


 『しんぱい、すんな』


 と、僕を宥めてくれた。その言葉によって、より照れてしまう僕だった。


 「そうそう、バスで話してたやつ! カラオケさ、明日行かない? 明日からクリスマス価格で安いんだって!」


 と、零野さんが提案する。


 「明日バイト休みだわ!」

 「俺も部活休み〜」

 「僕は… 明日、新しい豆おろそうとしてたけど、まぁいいよ」

 「私も明日予定ないから大丈夫だよ」


 僕は勇気を振り絞って…


 「僕も明日、大丈夫で…す…」


 と答えた途端、皆んなが僕を見た。


 (僕やってしまったのか? 聞かれてないのに答えたのまずかったかな…)


 「やっと聞かなくても角田から自分の意見言ってくれたな」


 田中くんは僕の頭をポンと叩き、くしゃくしゃっとした。残りの4人も、にんまりと笑って嬉しそうにしている。


 「た、田中くんっ。この頭ポンからのくしゃくしゃ、気安く女子にしたらダメですよ。勘違いされますよきっと」


 「え… ということは、角田、俺に惚れそうになったのか?」


 「馬鹿野郎! 違いますよ田中くん!」


 固まる田中くんに、僕は目を目一杯瞑って否定する。


 「ごめんごめんごめん、俺、友情としては男好きだけど、恋愛対象は女子なんだわ。悪ぃな」


 「はい?」


 手を合わせて謝ってくる田中くんに僕の眉が上がり驚きの顔をする僕。



 「違うのに、勘違いしてフラれる角田、可哀想」


 「そうだよ。違うって言ってても、そう言うセンシティブな事は慎重に言ったほうがいいよ」


 「私的には、田中角田カップル見たいかも」

 

 「私は男子カップルも良いし、角田くんが女の子とデートするところもちょっとみたいかも」


 皆んな色んな事を言って話がまとまらない。僕は、どうすれば良いか分からず


 「あ、あの! 明日、カラオケ行く話でしょっ。全員、明日行ける事が分かったので、皆んな席に戻ってください! もうすぐチャイムなりますよ!」


 と、僕に似合わない事をしてしまう。


 (角田のくせに生意気なって言われるのかな…)


 「はーい」


 (あれ?)


 皆んなは幼児のように手をあげて、席に戻った。


 (友達ってこんな感じなんだな…)


 僕はいつも言った後、後悔するが、思っていた反応と違う反応をされる。もっと気楽に行っても良いのかもしれない。



 そして、次の日の放課後。


 「さぁー歌うぞー!!」


 「はいはーい、皆んな何飲む? まとめてドリンク取りに行ってくるわ」


 「じゃあ私も行くわー」


 「私も」


 「いってらっしゃーい」


 画面にはアーティストが曲紹介をしている映像が流れていて、テレビでいつも見ているより音が大きい。廻宮くんはノリノリで曲を入れていき、田中くんは零野さんと甘井さんを連れて、ドリンクバーを取りに行き、波風くんは持参したコーヒーを飲んですでにまったりしている。


 (ど、どうすればいいのか分からない…)


 僕は何もせず、膝に手をつき、顔を動かさず目をキョロキョロ動かすだけだ。


 廻宮くんは早速、歌い出す。J-popの、男性歌手、はざま 夕季ゆうき、『スタートダッシュ』。この歌は、最近よくテレビで流れているから僕も聞いた事がある。明るく、弾けるような曲で、廻宮くんにピッタリ。


 廻宮くんが歌っている途中で、田中くん達がドリンクを持って帰ってきた。


 「お! もう歌ってる! じゃあ、俺は何歌おうかな〜…って、もうめっちゃ入ってんじゃん! とりま、流れる歌、知ってる奴が歌う感じで行こっか」


 その瞬間から僕はHIPHOPだけは流れるなと念じる。


 次は、アイドル曲だった。メンバー7人のcute Styleというグループ。『エモ×100』だ。この曲もよく歌番組で見た事があるが誰が歌うんだろうか。


 (零野さんか甘井さんかな?)


 「はーい、いきまーす」


 (え!? 波風くん?)


 アイドルなんか、男と女も好きになって良いものだけど、ずっとコーヒー飲んで何考えているのか分からない波風くんとは、予想外だった。


 凄く好きなのが伝わった歌唱力だった。振り付けも欠かさずやり、照れ臭がらず全力でやる波風くんは、8人目のcute Styleに見えた。


 どんどん盛り上がっていき、次の曲は…


 「HAKUはくじゃん! 最近HIPHOPも世代関係無く人気あるもんねー。これ歌える人かっこいいわ」


 と、零野さんは目をキラキラさせて、かっこよく歌ってもらうのを期待している。という事は、僕じゃダメだ。田中くんあたりが歌うんじゃないかな。


 「HAKUいいよなー。サビしか知らねぇから歌えねぇけど」


 (田中くん!?)


 「田中歌えねぇの? これめっちゃ流行ってんのに。波風はアイドル一択だし、女子2人も…」


 と、零野さんと甘井さんの方を見るが、2人とも手を振り、歌えないとの事。


 「じゃあ、角田… カラオケ初めてだから、こーいうのあんま聞かねぇよなぁ? 俺がまた歌うしか…」


 断りたかった。凄く。ここで歌って引かれるのは嫌だ。だけど、HAKUは、地上波に出てくる前からずっと好きだ。家でも口ずさむが、大きな声で歌ったことなんて一度も無い。さぁ、どうしようか…。

お読みになって頂きありがとうございます。

次回、最終話となります。

応援して頂けると幸いです。

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