39 精神世界にて
壁|w・)ここから第五話のイメージ。
「あ、ここか……」
わたしがいるのは、夜の草原だった。確か、わたしの精神世界。精神世界が夜の草原ってどういうことなんだって言いたくなるけど、でもここに来られるのはちょっと嬉しい。
周囲を見回してみると、すぐにその姿を見つけることができた。
「リーナ!」
「うん? ああ、菜月。また来たんだ」
ぼんやりと空を見上げていたリーナがいた。わたしとうり二つの女の子。違うのは、髪の色ぐらい。いや、性格もだけど。
「リーナが呼んだの?」
「いや、知らないわよ。菜月が自分で来たんじゃないの?」
「やり方を知ってたら毎日来るよ?」
「あ、そ、そう。まあ、ここは悪くない場所で……」
「リーナと会うために、だけど?」
「う……」
何故か顔を真っ赤にするリーナはとてもかわいいと思う。
そんなことよりも、だ。
「せっかく来れたんだし、ちょっとお話ししようよ」
「…………。そうね」
気乗りしない返事……じゃない、かな。ちょと辛そうな顔だ。理由は、よく分からない。
そう思っていたら、リーナが唐突に頭を下げてきた。
「ごめんなさい」
「え、え? なにが?」
「あなたを、巻き込んだことに」
わたしが思っていたよりも、リーナは気にしてるらしい。わたしは本当に気にしてなかったんだけど……。
いや。さすがに、気にしてないとも言えなくなってきたかも。だって、月の住人が本当に来てしまったから。
まだあの子の目的は分からない。追っ手かどうかすら分からない。なんならリーナのことを知っているかも分からない。だって、多分年齢で言えば小学校低学年ぐらいだから。
月からリーナが逃げたのは、どれだけ近く考えてもわたしが生まれた時だと思う。保護したあの子は、もっと幼い。リーナの存在すら知らない可能性だってある。
だから、リーナとは無関係の可能性ももちろんあるんだけど……。
「さすがにないと思うわよ。ただの一般人に、地球への道を使わせるはずがないから」
「管理されてるの?」
「されてないわけがないでしょう」
それもそっか。じゃあ、やっぱりリーナ関係であることは間違い無いんだ。
「今は危険がどうかも分からない。でも、それでも……。巻き込んだ事実は変わらないから」
「あー……」
「だから、ごめんなさい」
わたしは、どうしたらいいんだろう。巻き込まれたのは、そうかもしれない。でも……。それでもやっぱり、わたしはリーナを責める気にはなれない。
だって。リーナがいなかったら、わたしはまだひとりぼっちだっただろうから。
「リーナがいてくれたから、今のわたしがあるんだよ」
月の魔法を教えてくれたから、ダンジョン探索でお金稼ぎなんてこともできるようになった。一人で食べるごはんはすごくつまらないけど、リーナがいてくれるから今は美味しく食べられる。
まあ、確かにずっとリーナと一緒なのはプライバシーとかの面でちょっと困る時もあるけど……。それよりも、何よりも。いつでもおしゃべりできるというのは、本当に、とても、楽しいんだ。
今までは、薄暗い部屋で一人きり。でも今は、いつでもリーナがいてくれる。それが、どれだけ心の支えになっていることか。
「正直なところ、リーナがいなかったら、多分わたしはどこかで壊れてたよ」
「さすがにそれはないでしょ」
「いやあ……。わりと限界が近かったんだよ?」
中学生になったら、誰か帰ってくるかも……なんて、そんな幻想もあったぐらいだからね。
「リーナとの出会いは、神様がくれたプレゼントだった、なんて思ったりも」
「…………」
「リーナ?」
なぜか、リーナは顔を歪めてしまった。わたし、何か変なこと言ったかな?
「リーナ?」
「気にしないで。なんでもないから」
「う、うん……」
気にするな、と言われてはいそうですかなんて言えないんだけど。すごく辛そうな顔だから。
「あの……。わたしができることがあれば、言ってね? なんでもやるから」
「…………。なんでも?」
「なんでも」
わたしはいつももらってばかりだから、リーナのためなら本当になんでもやろうと思う。今ならお金もいっぱいあるからね。ちょっとした旅行に行くのもいいかも。今の時期は寒いし、沖縄とかいいんじゃないかな?
「何か食べたいものとかある? 旅行行こう」
そう提案してみたら、リーナはちょっとぽかんとした後、何故か楽しそうに笑い始めた。最初は小さく、やがて声を上げて。何か笑われること言ったかな?
「ふふ……。菜月の中で、私はどんなキャラになってるのよ」
「食いしん坊?」
「否定できないわね」
美味しいものが大好きな子、というイメージだよね。そこも含めて、わたしのかわいい相棒だ。
「そう、ね……」
リーナは小さく頷いて、わたしに言った。
「ちょっと考えさせて。またいずれ言うから」
「ん……。分かった。なんでも言ってね」
「ええ」
どんなお願いが来るかな。ちょっと楽しみ、だね。
・・・・・
菜月が眠りに落ちて、その場からいなくなって。私は、知らずため息をついていた。
菜月は私と一緒にいることを喜んでくれている。それは素直に、とても嬉しいと思う。私も、菜月と一緒にいるのは楽しいから。友だちってこういうものだったなって。
でも。だからこそ。色々と、複雑だ。
菜月の体は、私とうり二つ。そして私のこの姿は、月にいた時と、その若い頃と、ほとんど同じだ。そんなことが、偶然であり得るのか。
ない、と思う。そんな偶然があるはずがない。世間には自分と似た顔の人が三人いる、だっけ。そんな言葉を聞いたことがあるけど私と菜月がそうだなんて偶然にしてもできすぎだし、それ以上に似すぎているから。
だから。可能性があるとすれば。
私が憑依する時に菜月の体に影響が出て姿が変わってしまったか。
もしくは、私の魔法で作られた体に菜月が入ってきたのか。
正解は分からない。分かるはずもない。分かりたくもない。これは、はっきりとさせてはいけないことだ。
もちろん、例え後者だとしても、私が菜月を恨むことはない。私は今の状態で、菜月との関係で、もう十分満足しているから。
でも。菜月は、どう思う? あの子の性格なら、間違い無く自分を責める。それも、かなり強く。きっと何度も謝ってくると思う。そんなものを私は求めていないとしても。
はっきり言うと、可能性として高いのは、実は後者だったりする。何度調べても、私が最後に使った魔法に間違いはなかった。魔法も正しく発動していた。
だから……。その魔法がちゃんと発動した以上、何らかの原因で菜月が私の体を乗っ取ったということに……。
「違う……!」
乗っ取った、なんて言うな。言いたくない。あの子は、大切な親友だ。
だからこれは心に秘める。菜月が知る必要はないことだから。
懸念は……あの、保護された子。もしあの子が本当に月の住人で、そして私の知り合いだとしたら。私の、菜月の姿を見て、気付かないはずがない。
ああ、本当に……憂鬱だ。
願わくば。何事もなく、今の関係が続きますように。
そう願いながら、私は目を閉じた。
・・・・・




