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02 彼女の目覚め


――なんだこれえええ!?

「うわあああ!?」


 学校の授業中、そんな声が頭の中で響いて、わたしは思わず立ち上がって叫んでしまった。周囲のクラスメイトや先生の視線が突き刺さるけど、それを気にしていられない。


――な、なんで!? なんでこんな変なことになってるの!?

「え、え、え……」


 声がずっと聞こえてる。それも、小さな声じゃない。誰かと普通に会話する程度の大きさで、ずっと聞こえてる。

 しかも、文字通り頭の中で聞こえてるというような、そんな感じで。すぐ隣で誰かが言っている、みたいな感じでもない。本当に自分の中で声が聞こえてるような、不思議な感覚だ。


「あ、綾瀬さん……。どうしたの?」


 隣の席のクラスメイトがそう聞いてくれる。なんだかすごく気遣われてると分かってしまって、ちょっと胃が痛くなりそう。


「あの……。変な声、聞こえない……ですか?」

「変な声……? 何も聞こえないけど……」

「綾瀬。どうした?」


 次は先生が聞いてくる。普通なら授業を中断した生徒にはしっかりと注意する先生だけど、今は心配そうな顔だ。多分、今までわたしが中断させたことなんてないからだと思う。


――私の意思じゃ動けない……? もしかして術式間違えた? 嘘でしょ?


 声は、ずっと聞こえ続けてる。ただわたしに話しかけているわけでもなく、何かを自問しているような感じ。ちょっと不気味だ。


「あの、先生……。すみ、ません……。頭が急に痛くなってきたので……」

「そ、そうか。じゃあ保健室に行きなさい。付き添いはいるか?」

「大丈夫、です……」

「ああ……。気をつけてな?」


 先生に小さく頭を下げて、教室を後にした。

 たくさんのクラスメイトの視線を感じる……。戻ってくるの、嫌だなあ……。




 教室を出て、保健室に入って、休ませてほしいことを伝えてベッドを使わせてもらう。実際にわたしの顔色も悪くなっているのか、わりとあっさりと許可をもらえた。とても助かる。

 ベッドに入って、シーツを頭から被って、小さな声で話しかけた。返事は、してもらえるのかな。


「あの……。聞こえますか……?」

――ああ、もう、記憶頼りだとどうにもできない……! せめて自由に動けたらなあ……!

「あの……! 変な声の……!」

――あー……。え? もしかして、私?

「そうです!」

――へえ……。私の声、聞こえてるんだ……。なにこれどういう状況?

「わたしが聞きたいですよ……!」


 わたしからすれば、いきなり変な声が頭の中で響いてる状態なんだ。しかも明らかに意思を持ってる。普通じゃない。正直、気が狂いそうだ。


――ふうむ……。お互いによく分からないってことね。

「そう、ですね……」


 ああ、本当になんなんだろう。もしかして、二重人格とか、かな? いやでも、図書室の本とかで見たやつだと、あれは本人に記憶はない、というか、直接会話なんてできなかったはず。


――なんとなく考えてることが分かるけど、二重人格じゃないはずよ。

「あ、そう、ですか……」


 なんとなくでも考えてることが分かるって嫌だなあ……。


――そうね……。とりあえず、自己紹介しましょう。話はそれからよ。

「わかりました……」

――あと敬語じゃなくていいから。

「あ、うん……」

――私は、リーナ。月の魔女よ。

「は?」


 しまった。思わず変な声が出てしまった。頭の中の声……リーナさんも苦笑いしているのが分かる。


――まあ、そういう反応にもなるでしょうね。ここ、地球でしょ?

「うん……。え? 月の魔女って、リーナさんは月に暮らしていたってこと?」

――そういうこと。あと呼び捨てでいいわよ。


 いやいや。いやいやいやいや。月で暮らしていたってなんですか意味が分からないです意味不明ですもう全部忘れて寝たい。


――混乱してるところ申し訳ないのだけど、せめて名前を教えてくれない?

「あ……。えと……。菜月、です。綾瀬菜月あやせなつき。大峰中学校の、一年生……」

――中学……。ごめん、分からないわ。何歳?

「あ、えと……。十二歳で……十月で、十三、だよ?」

――ふうん……。なるほど。


 なるほど、ということは、何か分かったのかな。正直、この状況は本当にどうにかしてほしい。この先もずっとこの声が聞こえ続けるなんて嫌だから。

 そう思ってしまったのが、案の定リーナにも伝わったらしい。なんだか申し訳なさそうな、そんな気配が伝わってきた。


――悪いわね。多分、どうにもならないかな。

「え……」

――巻き込むことになるから、私のこと伝えておくわね。


 そうして、リーナは自分のことを話してくれた。

 リーナは月の都市に住んでいた魔女、らしい。月に都市なんて、と思うけど、地球の人に気づかれないようにしているだけで、わりと大きな都市があるのだとか。

 そしてその月では、なんと魔法というものがあるらしい。


「魔法って……魔法?」

――魔法は魔法よ。ゲームの魔法をイメージしてくれたらいいわ。

「え。ゲームが分かるの……?」

――ごめんなさい。話しながらちょっと菜月の記憶をさらっと見せてもらったから。

「い、いつの間に……」


 さすがにそれはすっごく恥ずかしいんだけど……! わたしだって、隠しておきたいことというか、恥ずかしい思い出とかいろいろあるのに……!


――大丈夫大丈夫。幼稚園の遊戯会ではしゃいで年少組に突撃したなんてかわいいものだから。

「…………」


 しにたい。しかもトラウマピンポイント。


――話を戻すわね。


 リーナはその月の都市で、かなり凄腕の魔女だったのだとか。そして……ちょっと悪いことをして、追われる立場になっていた、らしい。ちょっと悪いことの内容は教えてくれなかったけど、月の政府から生死問わずで指名手配されていたのだとか。

 いや……。いやいや。それ、かなりの悪人では……?


――べ、別に人を殺した、というわけじゃないのよ? それだけは本当に。ただ、ちょっと月の禁忌に触れてしまう研究で……。ばれちゃって……。

「なんでそんな研究したの……?」

――んー……。好奇心?

「うわあ……」


 最悪だこの人。絶対にやばい人だ。


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