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19 友だち

「高橋さん」

「ああ……。礼、だよな。あまり金に余裕があるわけじゃねえけど……」

「内緒にしてください」


 とりあえず、しっかり頭を下げておいた。わたしにできるのは、これしかないから。


「は……?」

「あんまり人に……知られたく、なくて……。だから、黙っていてくれると……嬉しい、です」


 反応は、ない。恐る恐る顔を上げると、高橋さんは呆れたような顔になっていた。


「変なやつ……。ずっと嫌がらせをしていた相手だぞ。仕返ししたいと思うだろ。脅すのも簡単だ」

「それは、したくないから……」

「なんで?」

「クラスメイト、だし……。高橋さんは、エスカレートしないように、気をつけてくれていたし……」


 確かにいろんな嫌がらせを受けていたけど……。一線は越えなかった、と思う。物を隠す時も必ず教室のどこかにあったし、ゴミ箱に入っていたこともない。

 机を汚されたりとかもしたけど、明らかに私物らしい掃除道具が教室の棚に入っていたりもした。

 そんなフォローをずっとしてくれていたから、あのトイレでの出来事は本当に心配してくれたんだと思う。


「高橋さんは……なんだろう。ちょっと、こう……。言葉にできないけど……。嫌いじゃない、よ?」

「…………」


 そう素直に伝えたら、何故か高橋さんは顔を赤くした。もしかして、照れてるのかな?


――あー……。青春ね!


 ちょっとリーナは空気を読んで黙っていてほしい。


――ひどい。


 ひどくない。

 高橋さんは短く息を吐いて、右手で頭をかいて、さらに大きなため息をついた。そうしてから、


「ごめん」


 深く頭を下げてきた。


「え」

「今までのこと、謝る。確かにコントロールはしていたつもりだったけど……。それで、あたしは悪くないってことにはならない。あと、綾瀬が魔女だってことも、絶対に人に言わない。約束する」

「あ、うん……」

「今後は……あいつらにも、やらせないようにする。本当に、悪かった」

「それは……。助かり、ます……。あの、でも……。嫌がらせって、結局どうしてあったの……? やっぱり、あの掃除当番?」

「あー……。それ、ただのきっかけ、だな……」


 高橋さんが言うには、掃除当番の交代を断ったのは、本当にただのきっかけだったらしい。高橋さんもいらっとしたけど、ちょっと悪口を言ってそれで終わり、のつもりだったのだとか。

 それなのに、いつの間にか仲間内でわたしに仕返しをするという空気ができあがっていたらしく……。高橋さんも止めきれずに、いじめの対象となってしまった、という流れ。


「あたしも、あいつらにとってかっこいいリーダーを演じておきたかったから……。その……」

「それはかっこわるいと思う」

「う……。マジでごめん……」


 まあ、もういいんだけど。なんだか、高橋さんも大変だなって思ってしまったから。


「それで……。話を戻すけど、今回の礼だ。どうすればいい?」

「え? いや、別に気にしなくても……」

「それだとあたしの気が収まらないんだよ。迷惑かけてきた上に、命まで助けてもらったんだ。何でも言ってくれ。金でも……がんばって貯めるから……」


 うん。お金はだめそう。もともと言うつもりもなかったけど。

 でも本当にどうしよう。お礼なんて気にしたことも……。


――菜月! 菜月! 私に考えがあるわ!


 うん。どうぞ、リーナ。


――この子、仲間にしましょう! 菜月に負い目があるならそうそう裏切らないでしょうし!


 いや……。仲間って。別にそんなものいなくても……。


――というかね! 私は日本の旅行にも行きたいのよ! お金があるからできるでしょう! 冬休みとか春休みとか! でも! 知らない人とまともに会話できないコミュ障ナメクジな菜月はホテルの予約とかできないでしょうが!


「はうあ……!?」

「え!? な、なんだ? どうしたんだ!?」

「な、なんでもない……」


 否定できないけど! その通りだけど! でも、さすがにその言い方はないと思う! わたしだって、がんばってるんだから……!


――せめて配達のお兄さんに挨拶できるようになってから言いなさい。


「うぐう……」

「だ、大丈夫か? 本当に大丈夫か? 誰か呼んでくるか?」

「だ、だいじょうぶ……!」


 くそう……。いつか、リーナを見返してやるんだから……!

 言ってみるだけ、言ってみるだけだからね!


――よしよし。ごーごー。


 くそう……。他人事だと思って……。


「あの……。高橋さん」

「あ、ああ……」

「その……。わたしと、お友達になってください」

「…………。はい?」

――仲間すっ飛ばして友だちにランクアップしている件。


 え? あ……。あれえええええ!?


「あ、いや、ちがくて……! 仲間! パーティ! 一緒にダンジョン! そんな感じ!」


 慌ててそう言い直す。高橋さんはぽかんとしていたけど、やがて小さく噴き出して、大きな声で笑い出した。


「あ、あはは……! マジか! そうきたか……!」

「え、えと……あの……」

「いや……。うん。いいぜ。友だちになろう。ダンジョンも、足手まといになるかもしれないけど……。付き合うよ」

「う、うん……! ありがとう! よろしく、陽葵!」

「お、おお……。いきなり名前呼びかあ……。よろしくな、菜月」

――距離の詰め方がえぐい。


 やった! 初めての友だちだ! いや初めての友だちで言えばリーナだけど、それでも初めて自分から作れた友だちだ! すっごく嬉しい!


――そしてあたしが照れるようなことも平気で言ってくる。これが天然か。


 きっかけはちょっと……とういかかなり変だったと思うけど、この繋がりは大切にしたいと思う。


「あ、でも、陽葵は、今のパーティは……」

「ああ……。まあ、リーダーがあんな感じだったから……。多分解散だよ」

「あー……」


 右腕、なくなっちゃったからね……。そういえば結局右腕も見つけられなかった。原型が分からないぐらいに噛まれたんだと思う。

 治癒魔法でも腕をはやすことはできない。こればっかりは、仕方ない。

 それに……。


「その……。言い方は、悪いけど……。リーダーには……」

「だよなあ……。ギルドでも言われたよ」


 上階への階段に向かいながら、陽葵と話す。

 ギルドでパーティのリーダーになる人には、かなり厳しく言われることがある。それは、大勢の命を預かる立場になる、ということ。

 ダンジョンは命がけだ。みんなが好き勝手に行動すると、それだけでパーティが壊滅しかねない。それを防ぐためにも、危ない時こそリーダーの判断に従い、団結して行動することになる。


 当然だけど……。その際の責任は、リーダーだ。失敗したからといって処分があるわけじゃないけど、それでもみんなの命を背負うことには変わりない。

 だから、時には何かを犠牲にして大勢を守る決断をしないといけないこともある。腕を食われた程度で、揺らいだらだめ。ましてやあんなのは、覚悟が足りない証だ。

 と……。わたしは偉そうに言える立場じゃない。リーナによって安全が保証されてるから。リーダーをしているみんなは、すごいと思う。


「腕は見つからなかったって言ったら……いろいろ言われそう……」

「まあ、さすがにギルドが仲裁してくれるだろ」


 そう思いたいかな。


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