16 事件のかおり?
「はあ……」
――まあまあ。元気出しなさいって。
「そうは言ってもね……」
土曜日、いつものダンジョン。わたしはそれなりに落ち込んで歩いていた。理由は単純、テストが散々だったから。
来週に返却される予定だけど……。あまり見たくないなあ。
――テストが悪いと何かあるの?
「進学に影響するよ」
――進学するの?
「…………」
そうだ。進学、とか。わたしができるんだろうか。だって、両親は月に一度も顔を見せない。そんな両親だ。進学なんて許してくれるとは思えない。
じゃあ、就職? でも……現実味がない……。
――ねえ、菜月。大人に相談しなさい。菜月の今の状況はおかしいから。
「でも……。両親に、迷惑がかかるから……」
――これ、育児放棄ってやつじゃないの? 月でも普通に罰せられるわよ。
「うう……」
分かってる。分かっては、いる。でも、それでも、あんな親でも、わたしの両親だから……。
――まあ、菜月の人生だから好きにすればいいけど……。就職も、探索者でいいでしょう。毎日探索すれば、十分生きていけるわよ。むしろ贅沢できるんじゃないの?
「確かに……!」
そうだよね。別に進学とか就職とかしなくても、ダンジョン探索で十分生きていけるだけのお金はもらえてる。だったら、もう探索者でいいんじゃないかなって思える。
実際に探索者で生きている人も大勢いるから。ただ、長生きできないって言われてるし、引退の時期を間違えると当然無事では済まないけど。
「でも……リーナのための魔法だし……」
――何度も言うけど、今は菜月の魔法だから。好きに使いなさい。
「むむぅ……」
いいのかな? 本当に、自分のために使ってもいいのかな……?
――菜月。来たわよ。
「あ、うん」
襲いかかってきた狼に氷の槍を打ち込んで、倒す。そうして魔石を回収して、次の獲物を探して歩いていく。
――バーサーカーみたいね。
「ひどくない?」
獲物を求めてさまよい歩く、なんて考えたら確かにちょっとしたバーサーカーだけど……。もうちょっと、何かあるんじゃないかな……。
「ん……。戦闘音?」
そうして歩いていたら、戦ってる音が聞こえてきた。いや、戦ってる音、というか……。罵声、かな? 言い争ってる声が聞こえてくる。
何の争いか分からないけど、正気とは思えない。だって、そんな大声でケンカをしたら、間違いなく狼が集まってくるから。
基本的には単独行動する狼たちだけど、分かりやすい獲物がいるとなったら周りから集まってくる。そういうものだ。
――バカね。バカがいるわ。
「こればっかりは否定できないね」
それとも、狼ぐらい余裕なパーティ、とか?
分からないけど、とりあえずその罵声の方に向かうことにした。やっぱり、もしもの時はあると思うから。
壁|w・)かなり短いですが、次が他人視点なので……。きりよく、ということで……。