15 よく分からない人
二人を無事に地上まで送り届けて、魔石の換金。税金を差し引いて、十万三千円。これなら来週まで、美味しいものをたくさん食べられるね。
――さあ、菜月! ダンジョン帰りの疲れた体に甘いものよ!
「あはは。何が食べたい?」
――ラングドシャでいいわよ! あとは、和菓子もいいわね!
「分かった」
いつもの商店街の、まずは洋菓子屋さん。ここのケーキはとても美味しいと評判だ。そしてラングドシャやバタークッキ―とかも売っていて、どれもが美味しい。
――ケーキも食べたい……。
「全種類とか言わないでよ?」
――くっ……! チョコケーキで……!
「なんで仕方なさそうなのかな?」
実際に食べるのはわたしだからね? 最近は本当に体重が心配だよ。体重計がないから分からないけど。
次に、和菓子屋さん。甘すぎないあんこが美味しいお店。リーナのお気に入りは、月餅だ。月を食べてるみたいで気分がいいらしい。どういうことだよと言いたくなる。
――月餅と……みたらし団子ね!
「はいはい」
――今更だけど菜月は選ばないの?
「そこまでこだわりないからね」
わたしからしても、未知の味が多いから。それならリーナが食べたいものを一緒に楽しんだ方がいいかなって思ってる。リーナが選ぶものもとても美味しいから。
お買い物を終えた後は、帰宅。晩ご飯は惣菜屋さんで買ったトンカツとサラダ、それにレトルトのパックご飯だ。
晩ご飯の時間までまだちょっと時間があるから、とりあえず甘いものを。
「ラングドシャのこの食感がいいよね」
――さくさくよりもまた軽い食感! くせになる!
「うんうん。チョコケーキも、濃厚な甘さがやみつきになる」
――和菓子の優しい甘さももちろんいいのだけど、このガツンとくる甘さもいいのよ。ええ、最高ね!
「でもやっぱり、甘さ控えめの和菓子も捨てがたい……」
――月餅のたっぷりあんこは最高だと思う。みたらし団子のたれももちろん最高。
「最高多すぎない?」
もぐもぐ食べながら、そんな感想を言い合って笑い合う。今では日課みたいになったこの会話が、わたしはとても大好きだ。
できれば、これからも毎日、こんな生活ができればいいのに……。心の底から、そう思う。
――できるわよ。
「リーナ?」
――あなたと私なら、ね。
「うん……!」
――私としてはあの口下手はどうにかしてほしいけど。無口キャラか。
「ぜ、善処します……」
そっちは望み薄かなあ……。
リーナとの気ままな食べ歩きが終わったら、また学校。嫌がらせもいつも通り。今日は教科書が一冊、見当たらなかった。窓際の棚にぽつんと置かれていただけだったけど。
――なんというか……中途半端ね。漫画だともっとこう、陰湿が極まっていたのに。
「うん……。わたしはむしろ、リーナが日本に順応しすぎていることがびっくりだよ……」
漫画って。いや確かに、漫画喫茶で一緒に読んだけど。さすがにあんな、教科書が使い物にならなくなるほどの嫌がらせだったら、わたしも考えると思う。
――つまり……成敗!?
「ううん、不登校で」
――十分力尽くでどうにかできるでしょうに……。
「リーナからもらった力は、リーナのために使うって決めてるから」
――その私が許可してるんだけど?
それはそれ、これはこれ、だよ。
そんな話をしながら、休み時間にトイレに向かって。
「あ」
「…………」
高橋さんと出くわしてしまった。
高橋さんはもう戻るところなのか、手を洗っているところ。その後ろを通ろうとして、その高橋さんに呼び止められてしまった。
「待て」
「……っ」
ど、どうしよう。できれば、会話なんてしたくないけど……。
「体調はどうだ?」
「え」
た、体調? 体調って、病気になってないか、とか……? でも、どうしてそんなことを聞いてくるの?
「水、ぶっかけられてただろ。風邪とか、ひいてないか?」
「え……。あ、うん……。大丈夫、だけど……」
「そう。なら良かった」
「ええ……」
高橋さんの様子から、どうやら本当に心配してくれていたんだということは分かる。でも、理由が分からない。だって高橋さんは、ずっとわたしに嫌がらせをしてきたグループのリーダーで……。
「悪かったね。あたしの見ていないところでやるなとは言ってるんだけどね」
「う、うん……」
「それだけだ。邪魔したな」
そう言って、高橋さんはさっさと出て行ってしまった。本当に、何だったんだろう?
「リーナ、どう思う?」
――実は優しい人だった、とか!
「ありきたりだなあ。さすがにないと思う」
――えー。
リーナは漫画の読み過ぎじゃないかな。いや、わたしも一緒に読んでるはずなんだけど……。影響の受けすぎ?
――失礼すぎる! 謝罪を要求します!
「その要求は却下されました」
――理不尽だー!
リーナの文句に小さく笑いながら、わたしもさっさと用を済ませた。
そして、火曜日からの日程にわたしは絶望した。テストを忘れていた、ということに……!
壁|w・)なお月餅は中国のお菓子です。