14 レアキャラ魔女さん
「わあ……。本当に魔女さんだ……!」
女の人も無事に目を覚ましていたらしい。ただ、なんだかわたしを見て興奮しているみたいだった。
「あの……目を覚まして、良かった……です……」
「かわいい!」
「わぷ」
何故か抱きしめられてしまった。え、なにこれ? どうしたらいいの? 引きはがしていいの? 怒られない? 怒られるよね? え? え?
た、助けてリーナ!
――あっはははは!
だめだ楽しんでる!
「ねえねえ、顔を見せてほしいな? フード、取ってもいい?」
「だ、だめ……! だめ、です!」
「えー」
制服と顔さえ分かれば個人なんて簡単に特定できてしまうと思う。それは嫌だ。わたしは学校側にも親にも何も言わずにダンジョンに潜ってるから……。
「やめなさい」
おじさんが女の人の頭を軽くチョップして、止めさせてくれた。最初は頼りないと思ってしまっていたけど、今はちょっと頼りがいがあるよ……!
「命の恩人に対して失礼だろう?」
「えー。でもお父さん、魔女さんと会えるのはこれが最初で最後かもしれないよ? 魔女さん、レアキャラだし」
「レアキャラ……」
そんな風に思われてたの……? 確かに週に一回しかダンジョンに潜らないから、出会う人は少ないと思うけど……。レアキャラ扱いはちょっと、変な感じだ。
「失礼だろう。まったく……。すまない、魔女さん。気分を害したなら謝るよ」
「いえ……。だい、じょうぶ、です……」
「ほら! 大丈夫だって!」
「こら」
おじさんが女の人をもう一度チョップすると、さすがにこれ以上は怒られると思ったのか女の人も黙ってくれた。残念、と呟いてるけど、本当に大丈夫だよね?
「それじゃあ……。四層まで、送ります、ので……。そこからは、大丈夫、ですか……?」
「ああ、もちろんだよ。ゴブリン程度なら問題ないから」
「同じく。というかさ。狼が強すぎるよ。難易度上がりすぎじゃない?」
それはわたしもそう思う。月の人は難易度調整がめちゃくちゃ下手だなって。命がけの場所で雑な調整はしないでほしいよね。ねえ、リーナ?
――私の故郷が本当に申し訳ない……。
リーナのそんな声に小さく笑いながら、わたしは二人の前を歩いて四層へと向かう。途中で出てくる狼はもちろん狩りながら。
「うわあ……。狼、結構固いのに、あんなにさくさく倒してる……」
「こうして見ると、なによりも攻撃力が足りなかった、という感じかな……」
「ねー。ぜんっぜん剣が通らなかったよね」
そういうもの、なのかな? わたしは狼相手にも特に苦労していないから、よく分からない。やっぱりちょっと、リーナの魔法はずるいと思う。
「狼の魔石からすっごく高くなるけど、その理由もよく分かるね」
「魔石が大きいのもそうだけど、倒すことすら難しくなる、ということだね……」
スライムはもちろん、ゴブリンも安いからね。ゴブリンは一体五百円あるかないかぐらい。命がけのわりにかなり安いけど、そもそもゴブリンは集団で出てこない限り弱いから。集団で出てきても、慣れればそれほど脅威じゃない。
狼の魔石は、通常個体が七千円、毒持ちが一万円ほど。わたしも今日はもうこれで帰ろうかなと思ってるけど、十万ちょっとの収入だ。
ここから自動的に税金が引かれたりするからもうちょっと少なくなるけど、それでも一日でこれだけ稼げるなら、わりと上等だと思う。
親子の会話を聞きながら歩いて、四層にたどり着いた。四層に上がった瞬間にゴブリンの集団と出くわしたけど、面倒だったのでわたしが殲滅だ。炎でどばっと。
「うっわ……。さすがにあんな瞬殺はできないよ……」
「改めて見ると本当にすごいな……」
「どうも……。ゴブリンの魔石は、持って帰って、ください……」
「え? いいの!?」
「わたしは……狼の魔石があるので……」
「わあ! ありがとう! 臨時収入だ!」
女の人は嬉しそうにそう言うと、早速とばかりに魔石を集めに行った。元気だなあ。
「こら! もっとちゃんとお礼を言いなさい! 魔女さん、本当にすまないね……」
「いえ……。大丈夫、です……」
むしろ、あんなに元気そうな姿を見たら安心できる。四層から上は大丈夫だって言ってたけど、やっぱりちょっと心配だし……。
うん。わたしも帰るわけだし、一緒に上まで行こう。
「あの……。地上まで、一緒に行き、ます?」
「え? いいのかい?」
「はい……。わたしも、そろそろ帰る、つもり、だったので……」
おじさんは申し訳なさそうにしていたけど、女の人は喜んでくれた。
そうして、改めて地上へと上がっていく。途中のゴブリンも殲滅しながら。さすがにずっと魔石をもらうのはって二人は遠慮していたけど、気にせず持って帰ってほしい。正直、ゴブリン十体分でも狼一匹には届かないから、あんまりいらない。
帰る途中には他の探索者さんとも何度もすれ違う。わたしが人を連れて歩いていることに驚く人も何人かいた。誰かを連れて歩くなんてほぼ初めてだからかも。
そうして、歩いて。三層でその人とすれ違った。
「あ……」
「あん?」
わたしが思わず声を上げてしまうと、すれ違った人が振り返ってきた。やっぱり……。高橋さんだ。あとは、知らない人が二人。三人パーティらしい。
「何か用っすか?」
「いえ……。お気を付けて……」
「どうも」
そう言って、高橋さんたちは歩いていってしまった。
――へえ……。あの子もダンジョン潜ってるのね。
「お金、ないのかな?」
――さあね。人それぞれ事情はあるでしょ。
「それもそう、だね」
わたしの事情はとびきりおかしいものだと思うけど、他の人もダンジョンに潜るということはそれなりに事情があるんだと思う。命がけで探索することになるんだから。
「魔女さん、どうかした?」
「いえ……。行きましょう」
不思議そうな女の人にそう言って、わたしはまた歩き始めた。