11 食べ歩き
――菜月! たこ焼きがある! あれにしましょう!
「はいはい」
歩いて行く先にたこ焼きの屋台が出ていた。あの屋台は不定期に商店街に来るから、毎日食べられるわけじゃない。もちろん他にもたこ焼きを食べられるお店はあるんだけど、あそこのたこ焼きはリーナのお気に入りだ。
あまり来ない美味しいたこ焼き、ということで、いつもたくさんの人が並んでる。あまり並ぶのは好きじゃないけど、リーナが喜ぶからがんばりたい。
列に並んで、少しして。わたしの順番になった。
「いらっしゃい」
たこ焼きは美味しいけど、店主さんは無愛想。ちょっと強面のお兄さんだ。
「おっと、嬢ちゃんか」
「え……。あの、わたしのこと、覚えて……?」
「ああ……。一人で二十個入りを買って側で完食する女の子なんて嬢ちゃんぐらいだ」
「…………」
なにそれ恥ずかしい。そうだよね! 普通はそんな二十個入りを一人で買って一人で食べていったりしないよね! どうしよう、顔から火が出そうなぐらいに恥ずかしい!
「美味しそうに食べてくれるから、俺としては嬉しいよ」
「あ……」
わたしの様子に、お兄さんは薄く苦笑いしてそう言ってくれた。見た目と違って、とても優しい人だ。人は見た目で判断しちゃいけない、てことだね。
「ほら。二個サービスしておいたぞ」
「ありがとうございます」
お兄さんにお金を支払って、側のベンチに座る。ここで食べるから覚えられたのかもしれないけど、ああ言ってくれたから避けるのも何か違うかなって。
――たっこやき! たっこやき!
そしてリーナは上機嫌です。謎の歌を歌ってる。
焼きたてだからか、外側はまだかりかりだ。たっぷりのソースとちょっとだけマヨネーズ。あのお店はソースが自慢だってどこかで聞いたことがある。
それじゃあ、まずは一口。
「はふ……はふ……」
――あっつい! けど美味しい!
かりかりのうちに食べたいから、熱いと分かっていても口に入れてしまう。外側はかりっとしていて、噛むととろっとした中身が出てくる。味付けをしているみたいで、ソースがなくても美味しいと思う。
でもやっぱりソース。ソースが違う。味付けされたたこ焼きとソースが絶妙に合っていて、とっても美味しい。
三個ほど食べると、かりかりはなくなってしまうけど……。でも、ふわふわのたこ焼きもまたいいものだ。むしろここからが本番だとも思う。
――いつも思うんだけど。
「もぐもぐ……。うん?」
――たこって必要?
「…………。隣の府の人に聞かれたら怒られるからやめようね……?」
大阪の人はたこ焼きに対して変な情熱を持ってる人が多いって聞くから、そういうのは絶対に言わない方がいいと思う。わたしのこれも偏見かもしれないけど。
「あそこは、一家に一台たこ焼き器があるらしいから」
――なにそれ、いつでもたこ焼きが食べられるじゃない! 羨ましい!
「リーナはそうだろうね」
ぶれないリーナには感心さえ覚えるよ。
とっても美味しいたこ焼きを完食して、ゴミを屋台の側のゴミ箱に入れる。帰り際、屋台のお兄さんと目が合って、にっと笑いかけられた。
とりあえずわたしも笑顔で頭を下げておいたけど……。ちゃんと、笑えていたかな?
――菜月はどこの悲しいモンスターなのよ。
意味が分からないよ。
そうして、ちょっと嫌がらせを受ける学校生活と食べ歩きを続けて、土曜日。お金を稼ぐ日になった。
――さあ、お金稼ぎよ!
「言い方がストレートすぎる……」
実際その通りだから否定はできないんだけど。
家を出る前の持ち物は、いつものセーラー服にリーナ謹製のポシェット。魔石を手に入れてお金が入った日に作ったもので、わたしの装備品が入ってる。ローブと杖。ローブと、杖。
何が言いたいかと言うと、見た目以上に物が入るということだ。なんだろう。ゲームのアイテムボックスみたいだよね。ちょっと興奮したのは内緒。
家を出て、まずは商店街へ。買うものは、お昼ご飯。
「今日は何にする?」
――メンチカツサンド美味しいわよね! ああ、でも、唐揚げ弁当も捨てがたい! いえここはちょっと捻って、ラップサンドとかブリトーでも……。
「すみません。このメンチカツサンドとサラダサンドをください」
――菜月!?
いやだって、リーナを待っていたら一時間以上かかりそうだし……。さすがに待ってられないよ。また帰りにいろいろ買って帰るから。
――うう……。絶対だからね……?
ちょっと、どころかかなり残念そうなリーナに苦笑しつつ、サンドイッチを受け取る。それもポシェットに入れて、今度こそダンジョンに向かう。
リーナと一緒に鍛えて、さらに魔力で身体強化なんてしているから、今では走って一時間ほどでギルドに着くようになった。本来は片道二時間だと思ったら、かなり時間に余裕ができたと思う。
受付に向かうと、最初に登録した時にいたお姉さんもいた。土曜日は必ずいるから、いつもその人の列に並ぶようにしてる。
受付のお姉さん、斉藤さんもわたしのことを覚えてくれていて、わたしが行くとにっこり笑って出迎えてくれる。それがちょっと嬉しい。
「ようこそ、綾瀬様」
「はい……あの……。ダンジョンに……」
「では身分証をお願いします」
「はい……」
身分証を渡すと、ダンジョンに入る許可証をもらえる。許可証はカードになっていて、通称ギルドカードだ。今の自分のランクも書かれている。帰りはまたこれと身分証を交換してもらう形。
「大丈夫だとは思いますが、お気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
最初は斉藤さんにもすごく心配されていたけど、一ヶ月も経つと安心してもらえるようになった。怪我を一度もしていないから、無理をしないように徹底してる、と思われてるのかもしれない。もしくは、Dランクを心配しても仕方ない、と思われてるのかも。
そう。Dランク。一ヶ月で上がってしまった。Eから一つ上がっただけとはいえ、ここからは一人前として扱ってもらえるみたい。まあ、扱いにそこまで差があるわけじゃないんだけど。
あとは探索者専用の更衣室で着替えてダンジョンに入るだけ。わたしも誰にも見られないように隅の方で着替えて、ダンジョンに入った。