5◆王城勤務?
◆王城勤務?
── 将軍たちの推薦で、王城の侍従見習いとして勤務することになったデューだったが ──
デューが王宮に現れた数日後から、奇妙なことが起こり始めた。
最初に出会った……と言うより。将軍の伝手の上官の1人の侍従見習いとして、宰相室まで連れて行かれて、大公でもあるアハティヒ宰相に紹介されることになったからだ。普段は多忙で、最悪、書類運びで出会えばいいと言う話だったのに。
しかし、丁度休憩中だったようで、昼食を持ってきた大公夫人と、宰相補佐官であり、大公家嫡子の大公子息ともお目通りする破目になった。
どう見ても夫妻の様子からは愛妻家としか思えないが、最初は政略結婚だったというから、これだから人の縁とは侮れない。とデューは感じた。
「宰相閣下。本日はご休憩中なのに、お時間を割いてしまい、申し訳ありません。
この子がゼヒティヒ将軍宅で世話になっている、ダークロード準男爵家のデューと言う少年です。宰相室へも書類運びで何かと世話になると思いますので、目をかけてやってください」
まあこの上官は、将軍から任された自分を、親切で宰相に目合わせたのだろうが。果たして宰相は、私の髪色と目の色を見て、どう思われるだろうかな?
「あら。可愛らしい少年じゃないの。このような年から見習いをするものなの?」
大公婦人は、大公家を担う豪胆な女性だと上司がいっていたが、想像と違い、黒髪青目の華奢な見た目で儚そうだがおっとりした可愛らしい人だった。性格は豪胆で闊達な正直者みたいだけどね。悪意は全く感じられない。
「へえ? 水色の髪とは珍しいね」
大公子息様は、髪色は大公似だが、瞳と全体的な容貌は奥様寄りなようだ。性格は、ゼクス殿下みたいに裏表は然程ないが、王太子となった兄に変わって大公家を担う責任感を背負っている感じだ。それは多少腹黒いとこもないとね。
でもいい意味で、悪意のある腹に一物と言うより、策略家肌みたいだ。
「ふむ……それにその瞳……これはまた面白い……ところで。もしや其方の親戚に、フィルティヒ伯爵所縁の者でもいたことはあるまいか?」
「いえ。失礼ながら宰相閣下。先ほども上官から紹介されました通り、ゼヒティヒ侯爵家の遠戚の末端貴族の出身故……
あ! でも……もしかしたら祖父だったか祖母あたりに、今は理由があって没落だか滅亡したか。どこぞの辺境伯と所縁の者がいたとかいないとか……」
「……辺境伯か……そうか……」
(……では隔世遺伝か。もしくは辺境伯の血筋が混ざったか。あるいは亡き先代国王の……)
おや? 大公は、今の陛下の血ではなく、違う血筋からのご落胤による隔世遺伝だと考えたのか。なるほど。そう言うこともあり得るかもしれないもんね。
「それでは宰相閣下。夫人に子息様にもお時間を取らせてしまいました。職務がありますゆえ、我々は一度部署に戻ります」
「宰相閣下。大公夫人。大公子様。お会いして下さり、ありがとうございました」
「……む。そうだな。デューと申したな」
「はい」
「仕事以外でも困ったことがあれば、儂の元へ来い。其方とは何か不思議な縁を感じる……」
「宰相閣下に気にかけていただき、光栄でございます。もし何か本当に困った時は、頼らせていただきますね。では失礼いたします」
とりあえず、大公家の3人からは悪意は感じなかったな。いつか利用させてもらうかもしれないけどね……
*****
次に書類運びをしている途中で、父親の大公閣下似の王太子アハトールが、この水色髪の侍従見習いに強い関心を示したようだ。
「お前……どこかで会ったような気がする」
王太子はデューをじっと見つめて言った。
デューは俯いて
「王家の星である王太子殿下に拝謁でき、とても光栄でございます。恐れながら殿下。私のような一介の侍従見習いに見覚えがあるなど、そんなはずはありません」
と答えたが、内心では分析していた。王太子の記憶には、幼少期に会ったというシルヴィアの面影が残っている。彼女の母親のディアンヌの血が、遠縁ながらも繋がっていたからか。
「ふむ……気のせいか? ……それならいいのだが……まあいいか。そう言えばお前の名前は?」
「はい。ゼヒティヒ侯爵家の遠戚の者で、将軍より推薦されて侍従見習いとなったデュー・ダークロードと申します」
「ほう? 将軍の推薦なら、人柄や性格には問題ないはずだな。それに一応準男爵家とは言え、貴族には間違いないか……」
将軍からは、末席の辺境の準男爵家の家名を名乗るように言われたけど。さすが王太子。全ての貴族の名簿が頭に入ってるのか。
「決めた! 侍従見習いなら、下仕えと変わらんよな……ふむ。お前、俺付きの侍従に成れ。
ちょうど先日まで仕えててくれた優秀な侍従がいたのだが、彼の妹が婚約者候補となるはずだったのだがな……身内に不幸が出たのと、領地の方が忙しくなったので辞めてしまったのだよ。
ああ、もちろん。お前の今の上司には俺から断り入れとくから、安心して働いてくれ」
デューが変身したとはいえ、表面上の見た目はクリスタルの姿だ。国王陛下の娘と知りながら、自分の隠し子として息子たちには勘違いさせたままでいる、人の好い将軍。
その彼から推薦されたからには、暫くはクリスタルの願いの復讐は置いて、人間の世界での規律は守らないとならないだろう。
「……かしこまりました」
それからしばらく王太子の身辺で、王宮内で働く使用人や、派閥、誰が誰の間諜か、シルヴィアやクリスタル達を疎んでいる王妃派以外にもいないか。情報を探るのには王太子の侍従はとても都合が良かった。
まさか王太子は知ってて? ……というわけではなさそうだな。将軍の息子たちとも仲が良いみたいだし……好奇心が勝ったってところか。
*****
今度は、王妃ジープツェインが動いた。デューは王妃ジープツェインを観察した。45歳だが、娼婦上がりの娘らしい妖艶さを保っている。
「水色髪……しかも王家特有の碧眼ではないかっ!……」
王妃はデューを見て蒼白になった。
「まさか、あの女の……子供は生きていた?……」
デューは王妃の思考を読み取った。王妃は、シルヴィアと子どもが完全に消えたと思っていた。しかし王妃はシルヴィアの子どもが、娘か息子かまでは把握できていなかったようだ。ただ、水色髪は、シルヴィアが母親ディアンヌから聞いた亡帝国の皇族の特徴に一致していた。
「……しかしどう見ても15歳くらいの少年……年数が合わない……本当に偶然か? 他人の空似?……」
思考の海に入り込んだ王妃の様子を見て、ここは退散一択だと判断したデュー。
「あ……麗しい王家の月であらせられます王妃殿下にご拝謁賜りましたこと、恐悦至極にございます。王太子殿下より急用を言い渡されておりますので、御前、失礼させていただきます」
逃っげろ~っ! とばかりにデューは王妃が放心している間に隠蔽魔法を使ってさっさと退散した。
しかし去り際にその記憶をしっかり読んでいた。
シルヴィアめ……あの女さえいなければ、私が国王の唯一の愛人だったのに。そしてその子供……国王の実の子なんて、許せない!
デューの拳がわずかに震えた。こんな下らない嫉妬のために、彼女たちは暗殺されたのか。
*****
デューが王太子付きの侍従にされて数週間後。
「あー王宮パーティか……」
「如何成されました、殿下?」
「ん……毎回、こういう大規模で、しかも王家主催の行事になるとさ、王太子である俺の参加は必須でさ。それは仕方ないのだが……
婚約者候補たちとの顔合わせが面倒なんだよ。しかも誰が俺とのファーストダンスを踊るかで必ず揉めるし……あー誰か代わってくれないかな……」
「しかし殿下。最低限そこさえ乗り切れば、後はいつもご自由に過ごしてらっしゃるではありませんか。いっそくじ引きかジャンケン……はだめですよね。やはり爵位順と家格順だとはっきり事前にお伝えしておいたらどうです?
殿下もいらぬ波風立てたいわけでないのでしょう?」
「むう……そうだなあ……デューは侍従として俺の傍でへばりついてるだけだから、そんな他人事でいられるんだよ。俺にとっては毎回死活問題なのに」
「あはは。殿下。それは他人事でいないと、こっちにとばっちりがくるじゃないですか。おかげでこの前なんか、花瓶と料理皿持ったご婚約者候補のご令嬢たちの仲裁に入らされて、頭から色々かけられる破目になったんですから。
ダメですよ。今回は徹底的に一歩下がって侍従としても他人事で傍観者でいますからね」
「……その割には、あの時は全く濡れても汚れてもいなかったようだがな……」
「殿下の気のせいですよ。いやだなあ」
執務机の散らばって不要になった紙屑をさっと片付けて、ほど良い味加減と温度のお茶を王太子に出すと、じっとデューの横顔を殿下が見つめた。
「ふむ……顔立ちは悪くない……いいことを思い付いた」
王太子は愉快そうににやりと笑った。
デューは会う者全ての記憶をぽんぽん読むわけではない。意識して使う場合は別だが。悪意があったり負の感情を持つ者に対しては、勝手に察知して使ってしまうことがあるから。しかし王太子の場合はどちらとも違うため、ただ表層思考を感じ取って嫌な予感がした。
「お前、パーティで俺の新しい婚約者候補の1人として紹介するから、他の婚約者候補たちの内情を探ってこい」
「はあ? ……あのう……自分は男なんですよ?」
「小柄だし、その顔立ちなら女装しても、誰も男だなんて気付かんよ。そういうことで。早速着替えてもらおう。パーティで他の婚約者たちを見極めてきてくれ。ああもちろん。招待状はちゃんとお前の分も用意しとく」
「えええ~っ! そんな強引な……」
有無を言わせず、王太子に引っ張られて碧地に黒の刺し色の入ったドレスを用意され、おまけにご丁寧にも偶然、長い銀髪のかつらまで用意されて女装させられることになった。
おいおい……これ……何でサイズがぴったり合ってるんだよ! しかも思いっきり王太子の色入ってるじゃないか? そうかそうか。つまり婚約者候補たちに嫉妬させて、わざと波風立たせようってことかよ。
え? 裸を使用人たちに見られなかったのかって? そこは認識阻害魔法で少年の上半身に見えるようにしたから大丈夫さ。下履きは、まあわかりにくいトラウザースとか履いてたし。
*****
無茶な提案する悪戯好き王太子楽しいw
しかし、「何でサイズがぴったり合ってるんだよ!」…なんでだろ? 王太子の特殊異能能力か?
…冗談はともかく。王太子殿下独自の情報網でクリスタルと将軍と陛下の秘密を知ったか? または知らなくとも鋭い観察眼か? 王太子の異能に関しては触れないけど彼の能力かも? で、性別と本当の年齢をあえて判った上で…遊んでた?w




