4◆将軍家の息子たち?
orz ここから一応第2話の続きです。わかりにくかったらすみません。
◆将軍家の息子たち?
── あの事故の後。
将軍の末息子ドライのおかげで将軍邸で、隠し子として過ごすことになったデューだったが……
それから数日後。
デューは将軍の息子たちの剣術稽古に参加することになった。
長男アインスは多忙な勤務の合間を縫って、短い時間でデューと打ち合いたがった。彼の剣は実戦的で無駄がなく、デューにとっても良い勉強になった。
「其方、随分と変わった剣さばきをするな」
ある日の稽古後、アインスが言った。
「どこで学んだ?」
「旅の途中で、様々な人から教わりました」
デューは曖昧に答えた。真実を話すわけにはいかない。長い時間を過ごすために暇潰しで身に付いた我流だとは。そして ── 自分に流れる血がもたらす本能のようなものまで、全てを隠さなければならない。
次男ツヴァイヘンダーは、何度もデューを試そうとした。
「お前、本当に父上の隠し子なのか?」
ある日、彼はデューを壁に押し付けながら問い詰めた。
「時期が合わない。お前が15歳なら、ドライが生まれてから約1年から2年の間ということになる。その頃父上は辺境の小競り合いの紛争を治めるために戦場にいたはずだぞ」
「……母は、将軍様のことを恩人だと申しておりました」
デューは冷静に答えた。
「詳しい事情は、将軍様にお尋ねください」
ツヴァイヘンダーはデューの瞳をしばらく見つめた後、離した。
「……すまなかった。余計なことを聞いた」
彼は去り際に、小声で呟いた。
「ただ、この屋敷には様々な思惑が渦巻いている。気をつけろ」
三男ドライはというと、すぐに弟のようにデューを可愛がり始めた。冒険者としての経験談を聞かせたり、王都の裏話を教えたり。
「お前、結構面白いやつだな」
ある夜、二人で屋上に上がり、星空を見上げながらドライが言った。
「最初はただの可哀想な子だと思ってたけど、剣の腕もいいし、話していて飽きない」
「……ありがとうございます」
「敬語やめろよ。兄弟なんだからさ」
兄弟。その言葉に、デューの胸に小さな棘が刺さった。彼女は彼らの本当の姉妹ではない。偽りの仮面を被り、この屋敷に潜り込んだのだから。
*****
日が経つにつれ、デューは将軍邸に出入りする様々な人々と接触する機会が増えた。貴族、商人、使用人、そして ── 時折訪れる謎の人物たち。
記憶読みの能力を使い、デューは少しずつ情報を集めていった。そして確信を深めていった。暗殺者を雇った黒幕は、将軍の妻フュンフツェインであると。
彼女は、シルヴィアが国王の愛人であり、クリスタルが王の子であることを知った。
最初は月に1度出掛ける将軍の浮気を疑ったのだろう。しかし浮気相手ではなく全然別の可能性に気付き、王妃の地位を脅かす存在を、妹である自分が抹殺することで、王妃派の勢力を強化しようとしたのだ。
ある夜、デューは屋敷を抜け出した。記憶読みで得た情報を頼りに、王都の暗部へと向かった。
貧民街の奥にある質素な酒場。看板もなく、通りすがりの者には単なる倉庫にしか見えない。デューは影に身を潜め、中から漏れる声に耳を澄ました。
「次の標的はフュンフティヒ侯爵令嬢だ。王太子の筆頭婚約者候補を消せ」
低く嗄れた男の声。デューは息を殺して聞いた。
「報酬は前払いで半分。成功後に残りだ」
「了解した」
もう一人の声。冷たく、感情を排した響き。
デューは窓の隙間から中を覗いた。灰色の髪をした男が、数人の男たちに指示を与えている。その男の記憶を読む ──
(シルヴィア……クリスタル……崖から落とす……)
デューの呼吸が乱れた。この灰色の男こそ、母親を殺した張本人だった。
酒場を後にし、デューは屋敷の屋根に立った。銀色の月が雲間から顔を出し、彼女の左半身を照らす。その肌には、微かに鱗の紋様が浮かび上がっていた。
(シルヴィア、クリスタル……)
デューは夜空を見上げ、囁いた。
(大丈夫。必ず全てを暴くから)
次の標的がフュンフティヒ侯爵令嬢 ── 王太子の筆頭婚約者候補であるなら、王妃派の陰謀はまだ続いている。デューは屋根を伝い、静かに自室へと戻った。
窓から部屋に入ると、机の上に一枚の紙が置かれているのに気づいた。それは将軍からの手紙だった。
『明日、書斎に来い。話がある』
短い文面だが、その筆跡には緊迫感が滲んでいた。デューは手紙を握りしめ、窓の外を見つめた。
王都の夜景は美しく、無数の灯りが星のように輝いている。しかしその美しさの裏側で、権力を巡る醜い争いが渦巻いていた。
(将軍……)
デューは胸中で問う。
(あなたは、どこまで真相をご存知なのか)
夜風が窓から吹き込み、デューの水色の髪を揺らした。彼女は机の前に座り、明日の対面に備えて心を整えた。
シルヴィアたちの仇。王国の陰謀。そして自分が呼ばれた運命。
全てが絡み合い、彼女を渦中へと引きずり込んでいく。
デューは目を閉じた。左半身の鱗の紋様が微かに熱を帯びているのを感じながら。古からの力の証だった。
やがて夜明けが訪れ、新たな一日が始まる。将軍との対話が、全てを動かす起点となるだろう。
デューは静かに息を吐き、決意を新たにした。
(必ず、真実を明らかにしてやるさ)
その言葉は、闇に消えることなく、彼女の胸に深く刻まれた。
*****
翌日。デューは将軍から呼び出され、書斎を訪れた。
「クリスタル嬢……いや、デュー殿。其方は自分のところにきて、実際は何をするつもりだ? 本当にただ身を寄せて生計を立てるためだけに頼ってきたのか? それとも……仇討ちや復讐を目論んでおるのか?」
はあ……将軍に隠し事をするのは悪手の様だな。
「私は……事故を装わせて怖い目に合わされました。だから実は、その真相も、理由も知りたい。そしてもちろん叶うなら、復讐して、仇討ちしたい……」
「……そうか。覚悟して自分のところまで来てくれたのだな……
わかった。元より自分の上司から頼まれた仕事だ。王城への伝手を繋げる準備が調うまでは、今少し待て」
上司……ってことは国王陛下以外いないじゃないかよ。
「いえ、そこまで将軍のお手を煩わせるわけには……」
「構わん。乗り掛かった舟だ。最後まで面倒を見ようとは考えていた。それに、母親のシルヴィア様を守れなかった罪滅びもしたい」
「……ありがとうございます。将軍……」
*****
デューが将軍に呼び出されてから、さらに数日後。
ドライがデューを連れて王都の市場へ出かけた。
「今日は従弟のゼクスに会うんだ。第二王子様だが、気取らないいい奴だよ」
傭兵自由ギルドの前で、茶髪の少年が手を振っていた。ゼクス・タウゼントは、確かに王子というより冒険者といった風貌だった。
「やあドライ! こっちが新しい義弟か?」
……本当の性別と年齢で言えば、義姉になるんだけどね。騙してごめんよ。とデューは内なる少女との約束が成るまで秘密を飲み込んだ。
「デューだ。よろしく」
三人はギルド内のカフェに入った。ゼクスが最近の冒険話をしているうちに、デューは彼の記憶にそっと触れた。
── 王太子アハトールを支えたい。
── 継承権争いをしたくない。
── 母である王妃の行動に疑問を感じている。
「ゼクス様」
デューはふと口を開いた。
「王太子様は、どんな方ですか?」
ゼクスの表情が柔らかくなった。
「義兄上は真面目で、王国のことを第一に考えている。でも……最近、母上の影響で判断を誤ることが多い」
「王妃様の影響ですか?」
「うん。父王が病床についてから、母上の発言力が強くなった。ジープティヒ公爵家も勢いを増している。しわ寄せで、大公閣下が多忙になったから、母上のやっておられることにまで手が回せないみたいだし」
デューの頭の中で、ピースがはまった。王妃とその実家が、国王の病を利用して権力を握ろうとしている。そのために、国王の実の娘であるクリスタルと、その母シルヴィアが邪魔だった。
「デュー、どうした? 顔色が悪いぞ」
ドライが心配そうに声をかけた。
「いえ、ただ……王国が大変な時期なのですね」
*****
さらに数週間後。
将軍は、デューをしばらく自分の周囲の雑事や、執事の家政の補佐をさせて、彼(実際は彼女だが)の適性を見極めた。その様子から、王城に売り込むために自分が繋げられる知り合いの伝手から、引きこもりがちな書類仕事より、他人と接することの多い補佐や見習いなどの方がいいだろうと考えた。
ただ、自分の伝手では文官に知り合いが少なく、衛兵や騎士などしか紹介できない。武官の団長クラスを説得するには、剣の実力を見せた方がいいな。
将軍は、自分の知り合いやアインスやツヴァイヘンダーの上司たちを非番の日に良く呼び寄せる親睦会で、不自然さを感じさせないようにさりげなく息子たちや同僚や後輩たちに混ざって訓練するデューの剣技を見せた。おかげで剣の腕前を認められた。
こうして、将軍と他の団長たちの口利きと、デューの中の少女『クリスタル自身』の希望により、彼女はタウゼント王宮に王宮内勤務の衛兵の侍従見習いとして出仕することになった。
「いいか、これだけは忘れるなよ。王宮はとても危険だということを」
将軍は心配そうに言った。
「お前のような無垢な子供(少女)が、あの毒蛇の巣窟で……」
「大丈夫です」
デューは無邪気に微笑んだ。
「将軍が心配してくださるだけで、幸せです」
内心では別の考えが巡っていた。王宮こそが、復讐の舞台にふさわしい。
*****
タウゼント王宮は、彼女が想像していた以上に歪んでいた。書類整理をしながら気付いたのは、国王は決して天才ではなかったが無能ではない。しかし陛下付きの近侍や近衛騎士からの情報によると、近頃病で寝込んでいる。
恐らく、陛下が寝込む原因の一旦は、老夫婦がシルヴィアたちの事故死、または暗殺を報告したためだ。最愛の女性を失った……そのショックと、その原因の所在が何処の誰にあるのか朧げに悟ったせいだろう。
しかしそれから数か月は経っている。
それなのに陛下がなかなか回復しないのは、将軍が、娘であるクリスタル(実際はデューが化けている姿だが)だけでも生きていることを報せないせいだ。
将軍の考えを読んだら、クリスタルが暗殺者に再び狙われる危険を危惧して、生存していることを隠すことに決めたと。妻に対してさえ、性別と年齢を偽って教えたおかげで、妖しいと疑っていても、今のところ間接的にも直接的にも手を出してこないのがその証拠。
しかしそのままでは、暗殺者や黒幕たちがどう動くか読めない。彼らが慌てて動いてボロが出るよう引っ掻き回す役目を、王宮に出仕させた年齢と性別を誤魔化したデューにさせたいようだ。
ただ当分は、本当の父親に合わせてやれそうにないな……心の内でクリスタルに謝りながら、仕方あるまい。情に絆されて本来の目的を失くしても困る。接する人々の記憶を読み、情報収集に努めることに決めた。
陛下不在中の間の実権は、宰相であるアハティヒ大公と、その背後で暗躍するジープツェイン正妃が握っている。
挨拶はまだできていないが、遠くから見かけた王太子アハトールの記憶から、王太子も有能だが、婚約者候補筆頭のゼヒツェイン・フュンフティヒ侯爵令嬢との政略婚約に不満を抱き、弟である第二王子ゼクスに王位継承権を譲りたいと考えているようだ。
ゼクス王子も冒険者ギルドに登録していて、従兄であるドライ・ゼヒティヒと共に各地を旅することが多い。彼もまた、王位争いを嫌い継承権を放棄している。
王宮の出仕を終えて将軍宅に帰ったデューは、夕飯までに一汗流そうと訓練場で木剣をふるっていた。
そこに帰って来たドライがため息をつきながら言った。
「王太子殿下も大変だよな。婚約者候補筆頭のフュンフティヒ侯爵令嬢との政略婚約が迫っているし」
デューの目が輝いた。
「婚約者候補……ですか」
「ああ。候補だけなら確かに全部で5人いるが、出来レースなんだよ。筆頭の侯爵令嬢で、ほぼ本決まりと言う話だ。病で倒れた陛下はともかく、宰相である大公閣下も、元老も、神殿も納得ずくだ。
まあ多分、金をばらまいたか、権力使ったか……とにかく、他に相応しい令嬢もいないからね」
「……なるほどね」
*****




