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3◆王家の秘密

orz ほらあ、将軍邸から過去歴史説明とで変な構成に…しかも今回もやたら長くなって、さらに時間軸もずれておりますがご容赦を…


 ◆王家の秘密


 ── 辺境伯の領地と国境を挟んで王国がフンダート藩国との戦争中に、看護師のような医者や怪我人の見舞いと手伝いの為に派遣されてきたのが辺境伯の息女だった少女の母親だった ──






 ドライスィヒ辺境伯の妻であり、少女の祖母でもある、少女の母親と同じ水色の髪と紫目のディアンヌ・ドライスィヒは、当時戦争を仕掛けてきていた藩国と敵対するツヴェルフ帝国の元王女の一人だった。


 つまり少女の母親は帝国から嫁いだ王女の直系の子孫の一人であり娘。当然、少女も帝国の王女の孫。


 帝国は辺境伯に嫁いだ王女一人の縁で、多少の帝国兵や医薬品・武器・兵糧・資金など援助して王国を支援していた。


 現在のプラチナブロンドの髪と王家特有の碧眼のタウゼント国王陛下は、当時は第二王子として戦争をなんとか早く終結させるためにと、当時の国王陛下である父親の命令で兵士たちと共に戦地にいた。


 第二王子は自分や兵士たちの怪我の手当や食事の世話を淡々と誠実にこなす辺境伯令嬢に仄かな恋心を抱き、二人の仲が燃え上がるのにそう時間はかからなかった。


 第二王子は和平が成れば辺境伯令嬢と婚約しようと口約束を交わした。






 *****






 しかし第二王子であった国王陛下は、この戦争で下半身と背骨に大怪我を負い、しかしそのおかげか戦争は無事に終結し、藩国とは和平条約が結ばれた。


 第二王子だった国王陛下の怪我は、時間を掛ければ普通に歩き生活できるようにはなったが、子を設ける機能を失った。


 ただし、この事実を知っているのは当時側近で護衛騎士筆頭であった現在の将軍と、年老いて引退したフォンフ老医師だけ。


 弟の第二王子よりも濃い金髪と碧眼のジーベン・タウゼント王太子が健在なため、二人はこの事実を墓場まで持ち込むと決意。






 *****






 しかし、流行病が流行った時期に、王太子は最も被害が多い地域に見舞いに行き、そこで流行病に感染し、優秀な医師団の腕をもってしても、回復叶わず儚くなった。


 病の淵で


『弟よ。武骨で頭を使うのが苦手だと言うお前は、武力ではお前に叶わないわたしを支えようと危険な戦地や凶悪な魔獣を相手によく前線で戦い、わたしの治政を盤石にせんと今まで武力で支えてきてくれた。


 しかしもういいのだ。


 知力はお前の周囲の部下や、宰相である優秀なもう一人の弟の第三王子(後のアハティヒ大公)が支えて補ってくれるだろう。可愛い弟の一人のお前には重い荷を背負わせてしまうが、お前の部下に対する優しさや、戦地で采配を振った戦略を、今度は国の為に活かしてほしい』


 そう言い残したため、当時の国王陛下も第二王子の才能を認め、王太子を第二王子に改め、立太子させた。


 ここで浮いてしまったのが、故・前王太子の婚約者だったジープティヒ公爵家の公爵令嬢だ。国王陛下も王妃も公爵令嬢をとても気に入っていたし、故・前王太子とは愛し合っていたのかもしれないが、政略とはそういうものであると話し合った。


 戦争締結で和平が成るまでは戦場でいつ死んでもおかしくないからと婚約者を持たなかったため、そのまま第二王子の婚約に挿げ替えられた。


 しかしこの公爵令嬢、実は藩国王の茶髪の娼婦だった女性が愛妾となり産んだ娘だった。


 娼婦であり愛妾という弱い立場だったため藩国では正妃や正妃と結託した側妃たちや貴族たちの一派に暗殺されそうになり、戦争締結のための和平の使者として訪問していた当時の外交官の筆頭であった公爵に藩国王自らが保護を頼んだのだ。


 その時には既に公爵家第二夫人となった元愛妾は、藩国王の娘ジープツェイン・ジープティヒを宿していた。


 公爵令嬢が生まれた時期や目が緑色のことから公爵は藩国王の血を引いているとわかったが、藩国の正妃一派から狙われ暗殺されるのを守るためと、藩国王との約束もあり、自分の正式な娘でありまた万が一の為に正当な公爵家の長女としても出生届を提出した。


 一方、藩国王も密かに王国内を探らせていた密偵から、愛妾から生まれた自分の血を引く娘が生まれたことを知っており、愛情ではなく政略として王国内を自分の血を引く娘を橋渡しに内部から王国を乗っ取ろうと画策し、密かに元愛妾と、さらに娘が物事の判断が付くようになってからは娘とも連絡を取り続けた。


 こうして王国の王太子となった第二王子は辺境伯令嬢との口約束が果たされることがなくなり、またさらに辺境伯も戦争で命を失っていたが、和平条約の条件の中に、藩国兵士に最も甚大な被害を与えたとして王国へ爵位を返上、帝国に領地を献上されることになったのである。


 辺境伯を継ぐはずであった嫡子、少女の伯父で母の兄でもある、水色髪と紫目のノイン・ドライスィヒは、代わりに褒章としてフィルティヒ伯爵位を陞爵。戦争で亡くなった他の貴族の領地を与えられて治めることになった。






 *****






 しかし数年後、ある大雨の日に不用意に急いでいたのか崖下に転落し、事故死した。


 また、王妃になった公爵家派閥が隆盛を誇り、敵対派閥の一つであった伯爵家は、ないことないこと罪を擦り付けられて、残された伯爵の妹と幼い少女は邸宅も領地も没収され、没落させられた。






 *****






 また、王太子だった第一王子がなくなった流行り病で当時の王妃まで儚くなり、王族にしては珍しく恋愛結婚だった国王陛下は、愛する息子の一人と伴侶を失くした心労がたたり、新王太子となった第二王子に王位を譲渡。


 離宮に下がって亡第一王子と妻の思い出に浸りながら、黄金髪と碧眼の第三王子であり後の大公となった新国王の弟に、第二子が生まれた時に祝福を与えるとほっと気が緩んだのか、眠るように後を頼むと息を引き取った。






 *****






 一方、新国王となった元第二王子は、正妃となる令嬢との間にはなかなか子ができなかった。新国王と正妃が婚姻して3年目に、先に結婚していた王弟であり大公の、5歳になった息子で母親譲りの黒髪と王家の碧眼を持つアハトール・アハティヒを養子にして立太子させた。


 つまり、国王陛下の正当な血を引き継いでいるのは実は少女以外あり得なかった。いや、王家の血を引いていればよいのだから、アハトールでよいはずなのだが、正妃は自分の子でないのが許せなかったようだ。


 しかし正妃は自分の子ができないのを焦り、国王陛下によく似た髪色と瞳を持った騎士の一人と関係を持ち、国王陛下には、国内の視察を提案して、たびたび王城を開けさせた。


『戦争がやっと終わり平和になりましたが、代わりに国内の貴族たちが自分たちの領地内で良からぬ政策をして領民たちを苦しめておるようです。


 幸いにも陛下が優秀な人材を登用したおかげで陛下が国内を視察しに城内から離れていようとも、なんとか政策はまわせますし、周辺諸国との関係も思い切って優秀な宰相である大公や外相に任せてみるのは如何でしょうか』


 と言葉巧みに国王陛下を城外へおいやり、その間に子を孕み、産んだのが王妃の息子であり、第二王子となる母親似だがやや明るめの茶髪と爽やかな緑目のゼクス・タウゼントであった。


 しかしその後、辺境で小競り合いが起こり、愛人の騎士も将軍たちと参加したが、将軍の身を守るために犠牲になり、重傷を負って息を引き取った。いや、もしかしたらそれさえも、正妃が証拠隠滅のために画策して戦場のどさくさに紛れて始末するように、何かしら手を打ったのかもしれない。死人に口なしで、憶測でしかないが。


 しかしゼクス王子が不義の子であると気付いたのは、引退して王城を既に去っていた老医師以外では、将軍だけ。だが、なぜ不義の子だと証明できるのかと問われれば国王陛下の秘密も明かさねばならず、将軍は一人悶々と過ごし苦しんだ。


 しかし、実は国王陛下も王妃の目を盗んで、伯爵家没落後、市井で細々と暮らしていた愛人と娘を密かに保護し、これまた没落した他の低位貴族の邸を老医師の遠戚の名を拝借して購入させ、引退したかつて信頼を置いていた側近の老夫妻をつけて、住まわせていたのだ。そうしておいて、各領地や市井を視察と言っては愛人の元へ通っていた。


 しかし戦地から共に背中を預け合った仲である戦友だった国王は、将軍には隠し事が出来なかったようだ。各領地や市井を視察する際、国王陛下程の護衛なら、自分や腕に覚えのある近衞か優秀な護衛騎士がつかないとおかしい。


『では自分が護衛につきましょうか?』


 と進言しても、


『将軍には他に仕事が入っておろう。多忙なお前に、たかが視察程度で護衛なんぞいらんいらん。適当な騎士を付けるから構うな』


 と。


 しかしその様子が常になくおかしいと思った将軍は、ある日、恐れながらと国王陛下に詰め寄った。2人きりになった機会だからと、国王はとうとう将軍に秘密を吐露した。


『……わかった。但しここで話すからには将軍よ、1つ頼まれてくれぬか? その返事を聞くまでは、余の行動について真実を打ち明けることは出来ぬ』


 こうして将軍は、元辺境伯令嬢とその娘の面倒や様子を見る役目を果たすことになった。


 将軍と言う共犯者ができたことで堂々と2人の様子を任せることができるようになったのである ──






 *****






 ── そして現在。


 クリスタル達が馬車の事故にみせかけて暗殺される数日前。


 タウゼント王城では、55歳の国王が玉座の間で書類に目を通していた。白金髪は所々に銀が混じり、碧眼には深い疲労の影がある。


「陛下、ゼヒティヒ侯爵がご挨拶に」


 近侍の声にうなずき、赤髪の将軍が入室する。五十六歳のゼヒティヒ侯爵は、かつて国王と共に戦場を駆け抜けた戦友だ。


「陛下、今日もご健勝で」


「将軍か。どうした、その表情は」


 二人きりになると、将軍の顔が曇った。


「……シルヴィア様とクリスタル姫の件でございます。最近、不審な人物が屋敷の周囲をうろついているとの報告が」


 国王の手が止まる。


「ジープティヒ公爵の手下か?」


「おそらく。公爵は未だにシルヴィア様に執着しております。没落させた今も、監視を続けているのでしょう」


 国王は深く息を吐いた。45歳の正妃ジープツェインは、ジープティヒ公爵の娘だ。茶髪に緑眼の彼女は、外見は優雅だが、内に強かな野心を秘めている。


「将軍、あの二人を守り抜くと約束したな」


「はい。戦場で共に死線をくぐった陛下との約束、決して忘れません」


 国王の目が遠くを見つめる。約20年前、フンダート藩国との戦争で、彼は下半身に重傷を負った。その傷がもとで、子を設ける機能を失った ── この秘密を知るのは、将軍と引退した老医師フォンフだけだ。


「陛下、一つ気がかりなことが」


「何だ?」


「クリスタル姫が19歳になりました。彼女の存在が、もし宮中に知れ渡れば…」


 国王の顔が強張る。クリスタルは彼の実の娘だ。戦地で出会ったシルヴィアとの間に生まれた、唯一の血を引く子。しかし、その事実は王国の安定を揺るがす危険な秘密だった。


「正妃の息子、ゼクス王子は16歳になったが……」


 将軍が言葉を詰まらせる。第二王子ゼクスは、国王に似ていない。茶髪に緑眼 ── 正妃の特徴を強く受け継いでいる。宮中では囁かれている。国王が長期間、城外に視察に出ている間に生まれた子だと。


「将軍、余は気付いておったよ」


「陛下……!」


「あの子が余の血を引いていないことを」


 国王の声は静かだが、痛みに満ちていた。


 戦友の国王陛下には隠し事が出来ないようだ。2人きりになった機会だからと、将軍はとうとう国王陛下に秘密を吐露した。


「……そうか。とんだ重荷を背負わせてしまったな……


 しかし案ずるな。王妃の子はわたしの子に間違いあるまい。あれにも長いこと酷なことを強いている……


 だが、幸いなのか不幸なのか、ゼクスは優しすぎるが故に早々に継承権を破棄してくれてる点だな。未だに傭兵だの、冒険者だのと、ふらふらと放浪しておる」


「それは、自分の末子も同様です。上2人に厳しくし過ぎた反動か、甘やかせすぎたようで。


 ですがそこが親バカで。放浪しながら、周辺諸国の動静を良く調べては情報を持ち帰ってくれます。ゼクス王子も、きっと外交方面で王太子殿下を支えようと考慮しておられるのやも。義兄弟として血が繋がらなくとも……」


「しかし、それらを公にすれば、王国が乱れる。王太子アハトールは良き君主になるだろう。余の弟アハティヒ大公が宰相として支え、ゼクスが外交官として支えてくれるのなら」


「ですが、正当な王位継承権を持つのは──」


「クリスタルだな」


 国王は窓辺に歩み寄り、遠くの街並みを見下ろした。


「だが、彼女を王位に就ければ、彼女とシルヴィアは真っ先に命を狙われる。あの平和な暮らしを奪いたくない」






 *****






 ── その夜。


 王都の貴族街にあるジープティヒ公爵邸の書斎で、59歳の公爵がワイングラスを傾けていた。茶髪は白髪交じりになり、琥珀色の瞳には冷たさが宿る。


「まだあの女に未練があるのですか、兄上」


 フュンフツェインが不満げに言った。彼女は異父姉である正妃の実家を頻繁に訪れていた。


「未練ではない、フュンフツェインよ。シルヴィア・フィルティヒは危険な存在だ」


「没落した元伯爵家の令嬢が?  笑止千万」


 公爵の目が細くなる。


「お前は何も知らん。あの女の母方の家系は、ツヴェルフ帝国の元皇女だ。つまりシルヴィアは帝国皇帝の孫、そしてその娘クリスタルは曾孫にあたる」


 フュンフツェインの顔から血の気が引く。


「帝国の血筋が、この王国に……?」


「しかも、だ」


 公爵の声が低くなる。


「噂では、シルヴィアには戦争中、ある人物との間に子供がいたという。時期からして、それは ──」


「国王陛下では?」


 フュンフツェインが息をのむ。


 公爵はゆっくりとうなずいた。


「もしそれが事実なら、クリスタルは正当な王位継承権を持つ。甥のゼクスの立場が危うくなる」


 フュンフツェインの目に野心の炎が灯った。甥は第二王子であるのに。彼女も異父姉も、王太子アハトールが養子であることを内心快く思っていない。甥のゼクスこそが正妃の実子として王位に就くべきだと信じていた。


 ゼクスが早々に継承権を放棄しているのは、王太子派や貴族派との確執を失くすための賢い選択なのだと信じて疑わない。


「どうすれば?」


「まずは証拠を集める。そして、適切な時期に……」


 公爵の言葉の続きは、闇に消えた。






 *****


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