小説の表紙は溺愛してくる皇太子殿下?真実の愛はどうなった?絶対に結婚したくないので陥れます。
「ええええ?ここは、“アリグ帝国の英雄ファディス皇太子に溺愛されているわたくしは、真実の愛の相手ではありません。それでもいいと、溺愛してくるのでとても幸せです。”の世界なのーーー」
アレンシアはベッドの上で叫んだ。
そう、アレンシア・アシェルテ公爵令嬢、17歳。
それが自分の名前だ。そして、前世の記憶がよみがえってしまった。
ここは小説の世界。キラキラのファディス皇太子の隣で、幸せそうに微笑むアレンシア。
その背後で、ハンカチを口で引っ張り悔しそうな顔をしているピンクの髪の男爵令嬢。
その表紙を良く覚えている。
しかし、しかしだ。このファディス皇太子。凄い女性にモテるのではなかった?
いや、今現在だって、アレンシアという婚約者がいるのに、前世の小説の背後でハンカチを口で引っ張っている男爵令嬢と仲良く、浮気をしている最中である。
それなのに小説の表紙は何故?ええと、どういう話だったっけ?
真実の愛の相手はどうなった?
何故、ハンカチを口で引っ張って悔しそうな顔をしているのだ?
現在、まさにあんな幸せそうな顔をして、中庭で仲睦まじく皇太子殿下と話をしているあのピンクの髪の男爵令嬢。
それが、何故?アレンシアである自分を溺愛モードに変わった?
思い出せない。思い出せなくてもいい。小説をしっかりと読んでいなかったのかもしれない。
しかし、いくら、顔がよろしくても、いくら帝国の英雄でも、浮気は駄目だろうーー?
それがあっさりと自分と溺愛モード。
冗談じゃない。
前世を思い出す前のアレンシアは、まったくもって、普通に接していた。
交流のお茶会だって、お互い、差しさわりのない話をして。
愛なんてまさに互いにない感じで。
だったら、婚約解消できねーのか?
いやまて、それは無理だ。だって、皇帝陛下自ら、決めた婚約だ。
アシェリテ公爵家の後ろ盾が欲しいのだろう婚約だ。
残念ながら、アシェリテ公爵家の他に、公爵家の令嬢はすでに婚約しているか、結婚しているか、幼いかのどれかで、自分以外に釣り合う身分の女性もいない。
だから、だからなのか?溺愛モードになったのは???
ていうことは真実の愛の相手は遊びなのか?遊びであんなに仲良くしているのか?
でもでも、あれは浮気じゃねーの?
ああ、前世の悪い言葉遣いが出てしまいましたわ。
わたくし、浮気者は大嫌い。
だって、前世の恋人は、ベッドで浮気相手とアンアンしていて、それを見てしまった自分は思いっきり浮気相手を蹴り飛ばし、恋人を殴り倒し。(女ながら、格闘技をやっていて、筋肉隆々で恋人より強かった)
泣きながらアパートの階段を下りようとして、転がり落ちたんだった。前世の死因。
幸いにも、今世も公爵令嬢ながら、鍛えている。
あんなのと結婚するのは嫌なので、溺愛モードに入る前に、真実の愛に目覚めて貰いましょうか。そうアレンシアは決意した。
怪しげな魔女に話をつけて、男爵令嬢の手に、強力な媚薬が渡るように何気に手配した。
男爵令嬢は見事に学園でその媚薬を使い、二人で空き教室で事に及んでいる所を、偶然を装って、取り巻き達と共にその現場を目撃した。
悲鳴を上げる男爵令嬢。
真っ赤になって慌てるファディス皇太子殿下。
わざとらしくアレンシアも悲鳴を上げて。
「不埒ですわ不埒ですわっーーー。こんな所で素っ裸で絡み合っているだなんて」
ファディス皇太子は言い訳をする。
「いやもう、何だか身体が熱くなってだな」
「繋がりながら言わないで下さいませっーーーー」
わざとらしく泣きながらその場を去るアレンシア。他の取り巻き達も、口々に悲鳴を上げて。
「淫らですわ」
「本当に、聖なる学園でこのようなっ」
「もう、たまりませんわっーー」
若干、変なのも混じっていたけれども、この騒ぎは学園中、いや、帝国中に知れ渡ってしまい。
無事、婚約は解消されました。
「アリグ帝国の英雄ファディス皇太子に溺愛されているわたくしは、真実の愛の相手ではありません。それでもいいと、溺愛してくるのでとても幸せです。」
何が溺愛してくるんで幸せよっーーー。
いや、ハンカチを口にして、きぃいいいとしている男爵令嬢と廃籍されて、男爵家に婿に入る事になったファディス様。いいじゃないーー。男爵令嬢を溺愛してどうぞ幸せになって下さいませーー。
さぁ、わたくしを溺愛してくれるちゃんとした殿方は現れるのかしら。
だなんて思っていたら。
「やだな。私の存在、忘れないでよ」
え?貴方の事、知らないですけど?
「アリグ帝国のアレス皇太子に溺愛されているわたくしは、真実の愛に目覚めました。溺愛してくるのでとても幸せです。」
頭の中に、ぱぁっと浮かび上がった小説の表紙。
アレス第二皇子殿下。確か、留学していたんだっけ。
長年いなかったものだから、すっかり忘れていたわ。
今はアレス皇太子殿下になったのですわね。
アレス皇太子殿下は跪いて、
「ずっと君の事が忘れられなかった。君は幼い私が蜘蛛を怖がって震えていたところを、そっと首元にいた蜘蛛を取ってくれた。そんな優しい君が好きだ」
あれ?そんな事、あったかしら。前世を思い出す前のわたくしはとても優しい女性だったから。今だったら。どうかしら。
蜘蛛ごときでがたがた、言うんじゃねーーー。自分でなんとかしろやーー
って言いそうですわね。って、この皇太子、ちょっとか弱くて頼りない感じで。
だったら、ビシバシと鍛えるしかないですわ。
「わたくしと結婚したいのなら、逞しくなって下さいませ。ビシバシとわたくしが鍛えて差し上げますわ」
「ビシバシですか?が、頑張りますっ」
それから、わたくしはアレス皇太子殿下と鍛錬に励みましたの。
か弱い男性は好きではありませんし、こんな線が細かったら、帝国の皇帝として馬鹿にされますわ。
一生懸命、鍛錬に励むアレス様が、最近、何だか愛しくて。
「アリグ帝国のアレス皇太子を溺愛しているわたくしは、真実の愛に目覚めました。溺愛している時間がとても幸せです。」
最近の楽しみは、アレス皇太子殿下を抱き寄せて、お口にあーんとクッキーを食べさせる、おやつ時間。そして、ちゅっと頬にキスをして差し上げて、愛しているわって囁くの。
ああ、そうしたら、小説の表紙絵が、ムキムキの公爵令嬢にお姫様抱っこされて、溺愛されている皇太子殿下に代わってしまったんですけれども。いや、まだアレス様をお姫様抱っこしていませんけれども、時間の問題ですし、別に大した変わりようではないから、かまいませんわよね。
最近、更に鍛錬に励んだものですから、腕に筋肉がついてしまって。
アレス皇太子殿下ぐらいなら軽々お姫様抱っこ出来るようになりましたわ。
そして、無事にアレス皇太子殿下と結婚して、わたくし皇太子妃になりましたの。
そしてそして、この間、魔物が王都に団体さんで押し掛ける事件があったのですけれども、騎士団の先頭に立って、戦ったわたくしが、何故か英雄呼ばわりされていて。
何だか、小説の表紙絵がどう変わったのか、怖いのですけれども。
小説の表紙絵がどう変わろうとも、わたくしは真実の愛を、愛しい人を見つけたので、もうどうでもいいのですわ。
え?元婚約者のファディス様はどうなったかですって?
なんか、結婚したわたくしに会いに来て、
「私は間違っていた。やり直したい」
だなんて、超おバカなことを言っていたので、不敬として、とある騎士団へ差し出しておきましたわ。
そこは変態騎士団だから、きっと性の対象として可愛がられている事でしょうね。
ああ、今日も愛しいアレス様をお姫様抱っこして、溺愛するわたくしはとてもとても幸せです。