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144 ヒョウの群れ

 四方八方から威嚇してくるヒョウの群れ。

 鋭い牙をちらつかせて低い声で唸っている。


「襲ってはこないようだな」


 警戒しているのだろう。

 奴等は俺達のライオンハントを目撃していた。

 だから数で勝っていても迂闊(うかつ)には攻めてこない。


「漆田少年、指示を頼む」


 涼子は槍を構えてヒョウを睨む。

 由香里も臨戦態勢だ。


「無事に済むかは分からないが撤退しよう」


 ここで戦闘を始めても得るものがない。

 俺達は臨戦態勢を維持したまま西に向かって後退を始めた。


「「「ガルァ……!」」」


 ヒョウは変わらず威嚇を続けている。

 常に一定の距離を保っていて離れない。


(ライオンを狩った時よりもきついな)


 ヘルススコアは下降の一途を辿っていた。

 今は52点しかない。

 過度な緊張とストレスは減点要因になるようだ。


「襲ってこないね」


「奴等も戦闘は避けたいのだろう。すると目的は――」


 ほどなくして、ヒョウはついてこなくなった。

 踵を返して去っていく。


「やっぱり本命は強奪だったか」


 奴等の狙いはオスライオンの肉だった。

 口の周りを血に染めて美味しそうに食べている。


 俺は「ふぅ」と安堵の息を吐いた。


「今の内に離脱しよう!」


「「了解!」」


 臨戦態勢を解いて駆け足で西に向かう。

 やれやれ、自然界は大変だ。


 ◇


 拠点に着いたのは夕暮れになる直前だった。


「おかえりー! ライオンはどうだった? 狩れた?」


 麻衣が迎えてくれる。

 他の三人も含めてちょうど一休みしていたようだ。


「楽勝だったよ。由香里と涼子が頑張ったからね」


「やっぱり由香里はすごいねー!」


「問題はライオンよりもそのあとだな。ヒョウの群れに絡まれたよ」


「うそ!? やばいじゃん!」


「大丈夫でしたか?」と不安そうな美咲。


「どうにか」


 俺は「それよりも」と周囲に目を向ける。


「ずいぶん頑張ったものだな」


 ハンモックの近くに荷物置き場ができていた。

 さらに石斧や釣り竿、石包丁や槍などの道具が増えている。

 薪も補充されていていい感じだ。


「何をしたらいいか分からなかったから色々と作ってみたの!」


 どんなもんよ、と誇らしげな麻衣。


「いいじゃないか。あとはメシの調達くらいか」


「そだねー! ちょうど今から果物の収穫に行こうと思っていたとこ」


「俺も手伝おう。ライオンハントではまるで役に立たなかったからな」


「じゃ、風斗と美咲にはバナナを任せるね!」


「了解。すると麻衣はマンゴー狩りか?」


 周辺の果物といえばその二つになる。


「そそ! 行くよー琴子!」


「了解ですともー!」


「私だけ楽させてもらって悪いっすー!」


 燈花が申し訳なさそうに頭をペコリ。


「気にしないで! 生理の時は休まないと!」


 麻衣は琴子を連れて「じゃあねー」と離れていく。


「俺達も行くか」


「はい!」


 俺は美咲と一緒にバナナの調達へ。


「風斗君、知っていますか? バナナの葉は何かと使えるのですよ」


「前に料理で使っていなかったっけ? 肉を包んで蒸していた気がする」


「そうですね。料理に使うことが多いです。他にはお皿として使うこともありますよ」


「ほう」


「バナナの葉に限った話ではありませんが、大きな葉というのは、こういった環境だと無限の可能性を秘めています」


「工夫次第で何にでも使えるということか」


「はい」


「参考になるなぁ」


 目的地に着くまで、否、着いたあとも話し続けた。

 面白いことに、会話をしているとヘルススコアが上がった。

 美咲の声やおっとりした口調に癒やされているのだろう。


 そんなこんなで二日目も無事に終わる――はずだった。


 ◇


 問題が起きたのは夜だ。

 雨が降ったわけでもないのに湿度が上がり始めた。

 しかも気温は日中と変わらぬクソみたいな暑さ。


 最悪の高温多湿だ。

 そのせいで寝苦しいったらありゃしない。

 蒸し暑さによる不快感から何度も目を覚ました。

 俺だけでなく全員がそんな有様だった。


 そして――三日目の朝を迎えた。


「やっぱり……」


 全員のヘルススコアを確認して項垂れる。

 就寝前は80に迫ろうとしていたスコアが70点を切っているのだ。

 今の状態だとグループスコアは65点前後になる。


「環境は他所のグループも同じなんだし大丈夫っしょ!」


 そう言ってマンゴーを囓る麻衣。

 元気そうに振る舞っているが、ヘルスバンドはごまかせない。

 彼女のスコアは今もなお70点を下回っている。


「他所のスコアが低いという保証はないし対策を考えないとな」


 常に高いスコアを維持する必要はない。

 測定が行われる12時00分のスコアさえ高ければそれでいい。


「なら海で泳ぐというのはどうだい?」


 涼子は提案するとバナナを口に含んだ。

 その際、何故かバナナを舐め上げてから頬張った。

 何故かグイッと上がる俺のヘルススコア。一瞬だけだったが。


「いいじゃないっすか? 夏といえば海っすよ!」


「海の中ならひんやりしていてスコアが上がりそうですとも!」


「悪くないが……リスクが高すぎないか?」


「リスクって?」と由香里。


「海で泳ぐのって肉体的な疲労が相当だろう。あと、海にはクラゲが生息している。クラゲに刺されたらスコアの低下は避けられないし、それでなくても危険だと思う」


 たしかに、と口を揃える女性陣。


「漆田少年、ようやくいつもの冴えが戻ってきたな!」


 俺は「どうだろうな」と笑う。


(体を冷やすという行為自体はアリだ。瞬間的にはスコアが大幅に上昇するだろう。海で泳ぐのではなく、何か別の手段が……)


 そこまで考えた時だった。


「いいことを閃いたぞ!」


 名案が降ってきた。


「出た! 風斗の奇策!」


「流石です、風斗君」


 詳細を話す前から盛り上がる女性陣。

 ま、その期待を裏切ることはないだろう。

 自信がある。


「それで漆田少年、何を閃いたのだい!?」


 大袈裟に鼻息を荒くする涼子。


「ふっふっふ、それはだな――」

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