表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~  作者: 絢乃
第九章:サバイバル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/201

131 新たな平和

 結局、徘徊者は最後まで現れなかった。

 皆で仲良く食堂で駄弁っている間に4時を迎えたのだ。


「おっ」


「通知きたっすよー!」


「風斗の読み通りだったねー!」


 4時になった瞬間、全員のスマホが鳴った。


 通知のタイトルは『平和ウィーク開催のお知らせ』だった。

 期間は今日から一週間。

 基本的には前回と同じだが、一部変更点があるとのこと。


 それが魔物の出現について。

 前回は徘徊者だけでなく魔物も現れなくなった。

 しかし、今回は12時から0時までの半日間は出るそうだ。

 仕様変更の理由は「要望が多かったため」とのこと。


「今さら魔物を出現するようにしてもなぁ」


「手遅れって感じだよね」と麻衣。


 俺達は頷いた。

 もはや他所のギルドは魔物の狩りなどしていない。

 金策の手段は拠点に籠もっての酪農が中心になっていた。


「ま、何でもいいか。平和ウィークを満喫させてもらうとしよう」


 今は平和に過ごせたら何だっていい。

 脱出できるかどうかは手島重工のゲート生成にかかっているから。

 次の挑戦まで無事でいることが唯一のミッションだ。


「じゃ、私はお風呂に入って寝るねー!」


「私もっすー!」


「今日は麻衣タローの女体を心ゆくまで拝むぞー!」


「拝まんでいい! この変態!」


 女性陣が大浴場へ消えていく。

 その中には涼子と由香里も含まれている。

 俺が先に入浴を済ませたからだ。

 暇だったので、3時半頃に一番風呂を堪能させてもらった。


「俺は先に寝るとするか」


 動物たちを撫でてから食堂を出る。

 大階段を上って自室へ向かう。


(やっぱり平和ウィークは困った時の手段なんだな)


 前回の平和ウィークは、初めてゼネラルを倒した直後に開催された。

 で、今回は手島重工と連携して行った脱出計画が成功しかけた直後。

 どちらもXの意表を突くようなイベントが起きてすぐのことだ。


(俺がXならこの程度で困ることはないが……)


 Xは人や物を瞬間移動させることが可能だ。

 その超常的な力を使えば、そもそも隕石を降らせる必要すらなかった。


 霧に突っ込んだ俺達を島の付近に転移させれば済んでいた。

 俺達がいなければゲートは安定性を失い、手島の計画は失敗する。

 わざわざ隕石を降らせて阻止する必要はない。


 Xにもそのくらいのことは分かるはずだ。

 にもかかわらず隕石に頼ったのには何かしらの理由がある。

 それが分かれば大きな前進になるのだが、今の俺達に知る由はなかった。


(まだまだ点が足りないな……)


 点と点を結べば線になる。

 だが、現状では点が足りなくて線にできない。

 今はまだ点を集める段階だ。


「ま、なんだっていいか」


 ポツリと呟き、自室に入る。

 Xの思惑は気になるが、そこまで興味はない。


 手島重工のおかげで帰還の時がすぐ傍に迫っているから。

 もはや日本に戻るのは時間の問題だ。


 今は戻れるかどうかより、戻ったあとのことが気になる。

 Xによって再びこの島に転移させられないだろうか。

 鳴動高校の先人らと同じなら問題ないが、今回もそうとは限らない。


 色々考えたあと――。


「なるようになるか」


 俺はベッドにダイブした。


 ◇


 8月16日。

 朝、いつも通り〈アンケート〉に回答したあと、船で海に出た。


 久しぶりに本腰を入れてポイント稼ぎに取り組むためだ。

 最近はダンジョン攻略やら何やらで金策が疎かになっていた。


 とはいえ、別に切羽詰まっているわけではない。

 感覚を忘れないよう労働に精を出そうという考えだ。


「日本人って貯蓄が大好きだよなぁ。消費が苦手なだけかもしれんが」


「あー分かる。ウチのお母さんも口を開けば『貯金』だよ」


 カウンター席に座って麻衣と話す。

 麻衣はテーブルの向こう――厨房で調理している。

 チャーハンを作っているようだ。


「ポイントの貯蓄具合だって異常だぜ。脳天気な〈スポ軍〉の連中ですら必要最低限しか使っていない」


「私らの親世代がバブルの崩壊を味わっていてデフレ脳になっているんだよ。それが私らにまで伝染しているの。だから必要以上に貯め込んじゃうんだろうね」


「テレビの受け売りみたいなセリフだな」


「テレビの受け売りだからね」


「だと思ったぜ」と笑う。


 麻衣は「よいしょ!」と鍋を振った。

 油と卵をまとったパラパラの米が宙に舞う。

 それを一粒残らずフライパンで受け止めた。


「お見事」


「でしょー? ふふふ」


 その後も麻衣はテンポよく調理を進めていく。


「そういえば、平和ウィークのおかげでアロテの問題が解決したみたいだよ」


「アロテの問題? 強姦が横行しているっていうアレか?」


 麻衣は「そそ」と頷いた。


「被害を受けていた女子がギルドを抜けて〈サイエンス〉へ移ることにしたの」


「徘徊者が出ないならどうにでもなるもんな」


 矢尾率いる〈アローテール〉の拠点は島の東端付近にある。

 一方、〈サイエンス〉の拠点があるのは西端。

 自転車だとどうやっても数日かかる距離だ。


「それにしてもよく脱退金を払うことができたな。俺が矢尾なら脱退金を上限の100万ptに上げて抜けられなくするぜ。奴が選挙で男子票を集められたのは強姦黙認ルールがあったからだろうし」


「矢尾も実際に脱退金を引き上げたよ。それで止まると思っていたみたい」


「止まらなかったのか?」


「増田先生が立て替えたんだって。〈サイエンス〉の金庫には1億近いポイントがあるからそれを使ったみたい」


「なるほど。〈アローテール〉より戦力で勝る〈サイエンス〉だからこそできる荒業だな。なんにせよこれで矢尾は苦しい立場になったな」


「女子がいないんじゃ男子の支持を集められないし、またいじめられっ子に戻りそうだよね。ざまぁみろだよ」


「とりあえず来週の選挙で吉岡がマスターになるのは確定だろうな」


「だねー!」


「あ、でも、この件に関する話ってグループチャットで出ていないよな? それなのに増田先生が動いたってことは、麻衣と同じでどこかから情報を得ていたのかな」


「だろうね。私も頼ってきた子に『ウチじゃどうにもできないから増田先生に頼んでみて』って助言したし」


「正しい選択だな」


 話しながらグループチャットを確認する。

 やはり〈アローテール〉の件は話題に上がっていなかった。

 水面下で話し合いが行われ、関係者には箝口令が敷かれているようだ。

 被害を受けた女子たちを気遣ってのことだろう。

 それはさておき――。


「ちょっとまずいことになっているな……」


 グループチャットを見ていて望ましくない話題を見つけた。


「どうしたの?」と尋ねてくる麻衣。


「TYPプロジェクト第二弾に備えて他所のギルドが船を買い始めているんだ」


 TYPプロジェクトとは、手島の行う脱出計画のこと。

 いつの間にかメディアではそう呼ばれるようになっていた。


 ちなみに、TYPプロジェクトのTYPはTYP理論から来ている。

 TYP理論とは手島祐治パーフェクト理論の略称だ。

 なので、TYPプロジェクトの正式名称はこうなる。

 ――手島祐治パーフェクトプロジェクト。


「船を買い始めていることの何がまずいの? TYPプロジェクトはこちら側の参加者が多いほど助かるでしょ」


「プロジェクト的には多いほうがいいよ。ただ、船の所有者が増えると俺達の金策に悪影響を及ぼしかねない」


「あっ……」


 ハッとする麻衣。


「底引き網漁が快適なのは海を独占できているからだ。これだけ楽で儲かると知れ渡ったら他の奴等も真似するだろう。そうなると今ほど快適ではなくなるかもしれない」


「でもさ、ステータスの仕様が変わったのにわざわざ〈魚群探知〉を取った人なんているかな? 私達がそうであるように、他所の人らだってアビリティポイントの余裕なんかないでしょ」


「俺もそう思うけど、万が一の場合があるからなぁ」


「心配性だなー、風斗は」


「これでもリーダーなんでね」


 そこで一呼吸置き、俺は続けた。


「いつぞやのギルドクエストみたいなことがまたあるかもしれない。その時に底引き網漁ができなくても困るし、しばらく海から離れて別の手段でポイントを稼ぐとしよう」


「久しぶりに新たな金策を探すわけだ?」


「その通りだ」


 ちょうど平和ウィークで余裕がある。

 今日は漁に耽るとして、明日にでも色々と試してみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ