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長かった水玉さんの話、あとちょっと

「つまり、人は、誰でも自分自身を正しく評価されたいし、評価された上で褒められたいのです。


 とにかく義務教育では、個人の才能をしっかり見つけて、どんどん評価して、褒めて、育ててあげてください。


『自分はお勉強ができない、駄目な人間だ』などと絶対に思わせてはいけません。


 人には向き不向きがあるのは当たり前です。


『自分には、自分だけの、この才能がある』と、自信を持たせてあげて欲しいのです。


 そうすることで、自分の存在が周囲の役に立つという、自分自身の存在意義を確認することができます。そして、精神的な安心感や満足感を得て、その才能は更に輝きを増し、成長することでしょう。


 というわけで、これからの義務教育では学校全体で一人一人の才能を見つける努力をし、進路に迷っている生徒がいたら、その生徒の性格と才能に合ったアドバイスをしてあげられるのが理想だと考えています。


 しかし、それはとても難しく大変なことです。


 何故なら、今はまだどうやって子供たちの才能を見つけ出し、育てるかといったノウハウが全く無いからです。


 なので、これから少しずつ皆さんで考えて、未来のある子供たち一人一人のそれぞれ素晴らしい才能をしっかり見極め、大事に育むためのシステムを作り上げるスタートになるわけです。


 せっかく科学がこんなに発達しているのです。


 ぜひ、子供たちのために、その能力を遺憾なく発揮していただきたいと期待しています」


 水玉さんは大きなため息をひとつついて、椅子にどっかりと座り直し、コップを手に取って、それを一口飲んだ。


「えーとですね、まあ、突然こんな提案をされても先生方から猛烈な反対があるのは承知しています。


 そもそも、今、学校の先生をやっておられる方々は、今の学校教育に全く疑問を持っていないし、むしろ、今の教育を正しいと評価されているから先生になっているのだと、ちゃんと理解しています。


 先生方のお仕事がお忙しいのも知っています。これ以上、仕事を増やすなというお怒りの声が聞こえてくるようです。


 なので、まあ、私の言っていることは今までの教育の全否定ですから、私の意見など真面目に取り合わない方が大半だというのは分かっていますが、ここはひとつご協力をお願いします。


 先ほどは『皆さんで考えて』と言いましたが、まだ最初なのでそんなに気張らないでほしいと思います。才能というものは、何がきっかけで見つかるかは、まだ、何も分からないのですから。


 とりあえず、まずは毎日の会話を有効活用してほしいと思っています。何が好きとか、楽しいとか、興味があるとか、積極的に話してください。


 そして、教師だけでなく、生徒達もお互いにお互いの才能や長所をどんどん見つけて欲しいのです。


 また、『他人の才能を見つけるのが上手い才能』というものもあるはずです。私はこの才能に、とても、期待しています。


 そしてまた、個人個人の才能は、比べるものではありません。大事なのは偏った才能だけを評価しないこと。


 どんな才能でも、その使い方次第でつまらないモノにもなるし、素晴らしいモノにもなると思います。


 それぞれの才能もまた、無限の可能性を秘めているのですから。


 そして、全ての子供たちが自分自身の才能を磨き伸ばすことを目標として成長し、その上でお互いの才能を尊重し、認め合える心が育まれれば、未来の世界の精神性はとてつもなく向上するはずです。


 それは、きっとたぶん、今の大人世代では理解できない程の高尚な精神世界が形成されることでしょう。


 そして、それが本来あるべき、未来の教育の姿だと、私は思うのです。


 少子化で子供の数が減ってしまっています。それなのに、その貴重な子供達を、間違った育て方をしていては勿体ないです。


 子供たち一人一人の才能をちゃんと評価してあげて、それぞれに合った方法で大事に育ててあげることが、これからの我々大人がすべきことではないでしょうか。


 それでは、全ての大人たちと子供たちに、私の思いが伝わることを心から願っています」


 水玉さんが深々と頭を下げて、そのまま画面が黒く変わった。


 長かった。


 今回の水玉さんの話は、前回と比べると緊張しているような、話しにくそうな、そんな感じが伝わった。


 つまり、水玉さんは今の学歴社会を全否定してくれたわけだ。


 オレはお勉強なんか嫌いだしラッキー程度にしか思っていないけど、学歴社会を絶対的に信じている人は沢山いるし、実はこれって世の中の価値観をひっくり返すような、そんな事態なのではないだろうか?


 これからの学校は本当に変わるのか?


 もしかしたら今、世の中の流れの変わる瞬間に立ち会っているのかもしれない、そんな思いに背筋がぞくぞくした。


「えー、というわけでお勉強の仕方が今後、今までとは変わっていくことになりました」


 神宮寺先生がサラッと言った。


「マジかー!」


 教室は狂喜乱舞と困惑の嵐だ。他の教室でも皆、盛り上がっている歓声が聞こえる。

 一通り喜んで落ち着いた頃合いを見計らって、神宮寺先生が話し始めた。


「はい、じゃあ大事な話をするから聞いてください」


 お勉強をしなくていい話なら、喜んで聞きます。


「今日、教育改革の学習面についてお話を聞きました。皆にとっては、大体が『もう、お勉強をそんなにしなくて良い』という解釈をしたと思います。

 そのことについて、ちゃんと先生から言っておいて欲しいというお話があるので聞いてください」


 神宮司先生はプリントを1枚、ピラピラさせながら言った。


「今からこのプリントを配ります、選択教科についてです。


 さっき水玉さんがお話の途中で言っていましたが、今までと同じ授業か、新しい改革後の授業を希望するか、どちらかを選んでもらいます。


 本当は本人に選んで欲しいけど、まだお試し期間だし、君たちのご両親が承諾してくれない場合が多々あると思うので、キチンと、ご両親と話し合ってください。


 まだ、実施されるのは先の話なので、今日聞いた話についてゆっくり考えて、しっかり決めてください。


 今の教育制度のまま続けたいという人は〈A〉の普通授業を選んで、お勉強以外の才能を見つけて伸ばしたい人は〈B〉にマルをつけてきてください」


 プリントが前から回ってきた。

 史也が振り向いて、プリントをオレに手渡しながら真顔で言った。


「今日、帰りに未知流ん家行っていい?」

「い、いいけど?」


 何だろう、何か用があるのかな? オレはイケメンの真顔にビビった。


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