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学校改革、始まる

 初めて書いた小説なので、読みにくいところが多々あるかと思います、ごめんなさい。

 予定では全46回連載になります。

 一応ラストまで書き終えているので、何かトラブルがない限り、毎日上げていきたいと思っていますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。宜しくお願いいたします!


 人の話は、ちゃんと聞かないといけない。


 ある一人のおっさんが、国営放送のニュースの時間に、何やらこの国を動かすようなことを言っていたらしい。

 我が家でも、母親がおやつをポリポリ食べながら見ていたけど、その時のオレは、ただなんとなく朝礼の校長先生の話みたいだなあとしか思わず、何も聞いていなかったのだ。


 そして、そのことを今もずっと、後悔している。



★ ★ ★




 今年度から突然、1人のおっさんの勝手な思いつきによって、学校改革というものが始められることになってしまった。


 しかし、いきなり全国で一斉に始めるには反対意見が多いということで、全国で何校かがお試しで、先行して始めることになった。


 その何校かの1校に、何の変哲もない公立のうちの小学校が選ばれてしまった。


 あのおっさんがどんなに偉い人かは知らないけど、振り回される生徒としてはいい迷惑だ。


「ほら、早く食べないと学校に遅れちゃうよ!」


「……」


「今日は始業式だから、学校に行ったら先に新しいクラスの確認もするんでしょ?いつもより早く行かなくちゃいけないんじゃないの?」


 母親の言うことって、いちいち正しくて何故か腹が立つ。これが反抗期というものなのか。


「うるさいなあ」


 返事をした反動で、チーズトーストに目玉焼きの黄身の部分と焼いたハムをのせた最後のいいところの一口を、味わわずに飲み込んでしまったことを後悔する。


 家での幸せな時間をギリギリまで満喫していたいのに。


 できれば、ずっと家に居たい。誰にも会いたくない。毎日お休みならいいのに。


 だって、学校に行って良いことなんて、何もないもん。


 母親は、オレが学校でいじめられていることを知らない。オレは学校で、ふつうに上手くやっていると思っている。


 何故なら、オレが学校でいじめられていることを、母親には絶対に言わないから。


 だってなんか、恥ずかしいし。


 だから、本当のことを知られないために、とりあえず毎日ふつうに学校に行かなくてはならないのだ。


 しかも、今日は始業式。今日から6年生だ。新しいクラスに、新しい担任の先生。


 その上、学校改革だ。


 オレは他人と話すのが苦手だ。


 その上、背も低いし体も小さい。筋肉もない。


 そして何故か、いつもクラスで一番目立つうるさいヤツに目をつけられ、いじめのターゲットとしてロックオンされるのだ。


 ……あああ、今年はどんなやつにいじめられるのか。


 気が重い。


 学校になんか、行きたくない。


 なんて考えているうちに、校門に着いてしまった。家から学校は近いのだ。


 昇降口はすでに人だらけだった。


 学年ごとに靴箱の位置が決まっていて、その入り口の外側にクラス表が張り出してあるので、それぞれ学年別の人だかりが出来ている。


 「よかった、一緒のクラスだね」とか、「またお前と一緒かよ!」とか、楽しそうな笑い声があたりに満ちている。


 友達がいる人は、クラス替えも楽しいのかな? という、永遠に答えが出ない疑問に、また更に気が重くなる。


 6年生の教室は第2校舎なので、入り口も他の学年とは離れている。


 オレは重い足取りで第2校舎に向かった。


 第2校舎の入り口にも、もちろん人だかりが出来ている。


 自分のクラスを確認した後、友達のクラスも探している人がいるのが混んでいる原因だけど、そんなことに文句を言っても仕方がない。


 とりあえず、今は大勢の人の向こう側にチラッと見えるクラス表から、自分の名前を見つけなければならないのだ。


 オレの名前は〈古井戸ふるいど 未知流みちる〉、そこそこのキラキラネームだ。


 『未だ知りえぬ流れをもたらす者』という、仰々しい意味が込められているらしいが、名前負けの典型例だ。


 親の期待に応えられなくて申し訳ないけど、まあ、そこは仕方がない。文句は自分達の遺伝子に言ってほしい。


 6年生は4クラス。なんとか4組に名前があることを確認して、教室に向かった。


 第2校舎は古い木造の校舎で独特の匂いがする。オレの好きな匂いだ。


 1階は家庭科室、理科室、パソコンルーム等の特別教室があり、階段は第2校舎の両端にある。


 そして、6年の教室は2階だ。靴箱から近い階段を上がると一番手前が1組で、4組は一番奥にあった。


 1組から順に教室の前を通りすぎると、中から仲良くなった新しいクラスメイトと楽しそうに話す、はしゃいだ声がオレの焦燥感を煽る。


 全く関係ないんだけど、オレはこの『しょうそうかんをあおる』という言葉の響きが好きだ。こういう、文章でしか使われないようなカッコイイ言葉って、いいなあと思う。どんどん使いたい。


 『家に帰りたい、教室に入りたくない』とか考えているうちに、4組の教室の入り口に立っていた。


 教室の中にいた何人かが一瞬こっちを見たが、『なんだ、こいつか』と、がっかりした表情をしてから顔を背けて、今まで話していた相手と話しの続きを始めた。


 オレはこわばった体から力が抜けて、小さなため息をついた。


 机を見ると、それぞれの席に名前が貼ってあった。どうやら出席番号順になっているらしい。


 オレの席は廊下側から3列目の後ろから2番目だった。


 オレが自分の席を探している間にも、教室には次々と生徒が入ってきては、「おっ、やっと来た! 一緒のクラスじゃん!」とか、「よかったー!」とか、「なんだよ、お前もいるのかよ」とか、「うるせーよ」とか、楽しそうな笑い声であふれている。


 オレが座ろうとイスに手をかけた時、ひとりの女子が入り口に立った。


 体が小さくて、前髪が長すぎて目が見えない上に、妙におどおどしている。


 教室にまた、『なんだ、こいつか』の空気が流れた。


 『オレと同類か』と思って見ていたら、目が合ってしまった。いや、正確には前髪で見えないので、目が合ったような気がした。


 オレは慌てて顔を背けて、イスを引いた。


 ふと、イスを引いた手元を見ると、後ろの席の〈穂坂ほさか かける〉と書かれた名前に気がついた。


 オレは、恐怖した。


 何故なら、4年生のある日突然、オレをいじめ始めたヤツだからだ。


 2年前の悪夢の日々が、脳裏を駆け巡る。あああああ、またあの悪夢がこの一年間、繰り返されるのは確定だ。


 今年のいじめっ子は〈穂坂 駆〉で決まった。オレは絶望し、よろめくようにイスに座って頭を抱えた。


 その時。


「おはよー!」


 教室の入り口で、涼やかな声がした。


「あっ、由姫! また一緒だね」


 仲の良い女子たちが、ぴょんぴょん跳ねながら一緒のクラスになったことを喜んでいる。


 彼女は〈城所きどころ 由姫ゆき〉。クラスで、いや、学年で一番の美人、というか可愛い子だ。


 髪が長くて、頭もいいし、スポーツも万能で欠点が見当たらない。


 3年生の時も同じクラスだったんだけど、掃除当番の時にたまたまオレと彼女の二人しかいなくて、二人で焼却炉までゴミを運んだ時も、オレなんかを相手に嫌な顔ひとつしないで、しかも話しまでしてくれた。


 確か、大好きなアイドルグループの話しで内容はまったく覚えて無いんだけど、なんていうか、すごく良い子だった印象しかない。


 オレも心の中で一緒に跳ねて喜んでいた、その時だった。


「なんだ? 目の前に邪魔なのがいるな」


 不機嫌な声が、真後ろから聞こえた。


 オレの全身はカチコチに固まり、冷や汗が全身から噴き出したような気がした。悪夢を超えた、これ以上は無いというくらい最悪の状況だ。


 これから毎日、2年前の悪夢が繰り返される中、これからの6年生としての1年間、学校に通える自信が全くない……


 彼の横を通っただけで、足を引っ掛けられて転ばされたり、プロレスごっこだと言っては様々な技をかけられたり、給食のゼリーやプリンを取りあげられる、あの日々が……


 いや、あれから2年も経っているんだし、彼も成長して、もうそんないじめみたいなことはしないかも知れない。


 と、儚い希望を抱いた瞬間、『ダン!』というでかい音と共に、オレはちょっと宙に浮いた。イスの下から、力一杯蹴り上げられたのだ。


 オレは絶望した。駄目だ。彼は変わっていない。むしろ、2年成長したことによって更に凶暴になっている……オレは泣きそうになって手で口を抑えた。


 そして、なるべく彼の視界に入らないように震える身体を縮めた。人生最悪の日だ。


「はい、席についてー!」


 先生が教室に入ってきた。何かちょっと頼りない雰囲気のひょろっとした若い男の先生だ。


 だ、大丈夫かな? この先生は、オレの味方になってくれるのだろうか……?


「このクラスの担任の神宮司です。先生になったばかりの新米なのに、クラス担任も受け持つことになったので、とても緊張しています。クラス全員、皆で仲良く楽しくこの1年やっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします!」


 イキナリ、無茶なことを言う先生だ。言葉通りに緊張しているみたいで、少し声がうわずっている。


「それから、もう知っていると思うけど、学校改革が始まります! 今年度からこの学校では、全国に先駆けて実施されることになりました。皆も先生たちも初めてのことなので、どうなるか分かりませんが、皆で協力してがんばりましょう!」


 と、本当に何も分かっていないらしいことが良く伝わる先生の言葉に、更に不安がつのった。


「では、この後すぐ、その学校改革を考案した方から全国の実施校の生徒達に向けてのお話があるそうなので、テレビをつけますね」


 先生はそう言いながら、黒板の上からテレビのモニターを降ろして、スイッチを入れた。画面は黒いままだった。


「はい、このまま待ちます」


 教室は生徒達の期待と不安の入り混じった空気でいっぱいだった。


「ねえ、何をやるのか知ってる?」


「勉強はやる量が減るって聞いたけど?」


「私は休み時間が無くなるって聞いたよ?」


「え? どっちなの?」


 皆が心配そうに話している中、先生はひとり忙しそうに動き回っている。


「プリントを配るから、後ろに回してー」


 と、言いながら先生が列の先頭の席に、列の人数分のプリントを数えながら置いていく。


 先頭の席の生徒がそのプリントを見て、「先生、これ何?」と、聞くと、「この後の説明で使うそうだよ」と、答えていた。


 オレの前の席の人が、まったくこっちを見ないで手だけ後ろに出してプリントを渡してきた。


 オレには振り向く価値も無いということか、とか考えながら手を伸ばして2枚のプリントを受け取った。


 そして、1枚を自分の机に置いて、最後の1枚を後ろに渡すために振り向いた。


「そのムカツク顔をこっちに向けるな!」


 怒った顔の〈穂坂 駆〉が、そう言いながらプリントを取り上げたので、ビリッと端が少し破れてしまった。


 すると、「お前のせいで破けた」と言って、オレの机にあったプリントと取り替えられてしまった。プリントを1枚回すだけでこれでは、本当にこの先、思いやられる。


 小さなため息をついて端の破れたプリントを見ると、そこにはクラス全員の名前が出席番号順に書かれていて、その横に空欄があるだけだった。


 個人について、いろいろ書くということだろうか? オレはこういうプリントは嫌な思い出しかない。


 ちなみに、このプリントによるとオレの前の席の人は〈日比野ひびの 史也ふみや〉というらしい。同じクラスになるのは、初めての人だ。


「そろそろ始まる時間だよ」


 先生が左腕の時計を見ながら言った。


 大きなテレビ画面に一人のおっさんが映し出された。白髪交じりの短髪で、頭頂部がちょっと薄いぽっちゃり系のおっさんだ。


 袖をまくった水色のワイシャツに、黄色地に大きいピンクの水玉模様のネクタイが曲がってつけられている。その派手なネクタイ以外にこれといった特徴の無いおっさんだ。


 まだ、準備が出来ていないらしく、立ったり座ったりしながら、横にいるらしい見えない誰かと何か話している。


「え、何? もう、これ始まっているの? なんだ、早く言ってよ」


 おっさんは笑いながら座り直した。なんか人の良さそうなおっさんだ。


 そして、テーブルの上で手を組んでまっすぐテレビ目線でこちら側に話しかけてきた。


「おはよう、諸君!」


 

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