掌編 ゴミ箱
活動報告でちょこちょこ言ってた短編とは違うものです。そっちが思った以上に進まないので、この話を投稿しようかなと思いまして。
「ねえねえお母さん、見て見て」
折り紙を脇に抱え、眉毛と同じ長さに切り揃えられた前髪を揺らしながら少女は言った。母親の前に掲げたのは、赤色の鶴。
「おぉ~、上手に折れたじゃん」
「でしょでしょ!!」
キャッキャとはしゃぐ。全身を使って喜びを表現し終えたところで、母親はやさしく言う。
「じゃ、お片付けしようね」
母親はリビングの机を指差した。青に緑に黄にピンク、紫。不格好な鶴や紙飛行機が、子供用の小さく背の低い机一杯に散らかっていた。
「えー、めんどくさい!これからまた遊ぶしいいじゃん」
「ダメだよ。そう言っていっつも片付けないんだから」
少女は口を尖らせ、「はーい」とムスッとした声で言った。
少女は自分で作った物たちをかき集め、大きなゴミ箱に入れた。
「お母さん」
両手を後ろに隠した少女を見て、母親は首を傾げる。
「これあげる!」
先程の赤い鶴だ。
「ありがとね」
「お母さん」
高校生の娘に呼ばれ、母親は首を傾げた。
「んー、何?」
「今家に折り紙ってある?」
「たぶんないんじゃないかな。最近は誰も使わないし、ちょうど昨日、余ってたのもゴミ箱に捨てちゃったし」
「それもそっかー」
「でも、どうして」
母親が訊くと、娘は笑う。
「彼氏にプレゼント」
「彼氏くん同い年でしょ?折り紙なんて貰っても嬉しくないでしょ」
「ただの折り紙じゃないよ」
よくわからず、つい顔をしかめてしまう。実際何を言いたいのかがわからなかったのだから、当然といえば当然の反応だった。
「ほら、よくあるやつだよ。白い部分にメッセージ書いて、鶴とか折るあれ」
「あぁ、なるほどね」
ハッとしたことを押し込めて、娘に笑いかける。
「がんばってね」
「うん」
その夜、母親はゴミ箱を漁った。娘と二人暮らしなことも幸いしてか、ゴミは昨夜とさほど変わりない。
やっとの思いで、赤い鶴を見つけた。昔娘から貰ったもの。ゆっくりとそれを開くと、やはり白い面に文字がある。
「大好き」という幼い文字が、そこにはあった。
朝目が覚めて、机で眠る娘の傍にある赤い花の形に折られた折り紙をみて、母親はつい、笑顔を溢した。
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