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【閑話】エラムルス公爵家の双子

エリザベスとエラムルス公爵家の双子の出会いのお話です。

ラインハルトが恋に落ちた出来事、リーゼロッテがエリザベス大好きになった経緯をお楽しみください(^^)

「坊っちゃま、お嬢様!!おやめください!」

「「きゃははははっ」」


エラムルス公爵邸はいつも双子によって様々な悪戯が横行していた。


初めは些細な悪戯であった。

嫌いな食べ物を残し、この服は嫌だと癇癪を起こす程度の。

両親が忙しく構ってもらえない反動であろうと初めは屋敷の者たちも優しく言い聞かせるに留めていたが、だんだんと看過できないものに変わっていった。


庭師が丹精込めて育てた庭園のバラが大量に手折られたり、図書室の本が本棚から落とされていたり、厨房の野菜が廊下に転がされることもあった。

その時はメイドが野菜に気が付かず踏んでしまい、転んで怪我をする事態になった。


余りにも目に余る悪戯が増え、とうとう公爵夫妻へ報告が入った。


双子は夫妻に叱られたが、それでも悪戯は止まなかった。

公爵家の大人達は頭を抱えた。


ちょうど四大公爵家が集まる時期であったこともあり、公爵夫妻は双子が変わるきっかけを作ろうと子供たちも招待し、お茶会を開くことにした。

同じ年頃の子供たちと会うことで何か変わればと期待を込めてのことだった。


突然のお茶会開催に公爵家の使用人たちは慌てたが、双子が変わるきっかけになるのならばと皆気合を入れて準備をした。



お茶会当日、公爵夫妻は出迎えの為に玄関で招待客を待っていた。

最初は双子も共に待っていたが、すぐに飽きていなくなってしまった。

いつもの事ながら夫妻は項垂れるしかなかった。


しばらくすると馬車が到着した。

馬車からはリンファンダマーク家の夫妻とご子息が降りてきた。


「お忙しい中お越しいただきありがとうございます」


エラムルス公爵はお礼の言葉を述べ、夫人も隣で微笑んだ。


「いや、私もそろそろ集まらねばと考えていたのでな。」

「ご招待ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


真面目なリンファンダマーク家らしい挨拶を順番に返される。

双子と二歳しか変わらないご子息も元気にお礼を述べることができるとは、と夫妻は感心した。

執事へ会場にご案内をと指示を出し、次の馬車を待つ。


続いてすぐにブローディア公爵家の馬車が到着した。

夫妻とご子息、ご息女が降りてくる。


「やあ!二人とも久しぶり!」


すぐにヨハンが手を上げて挨拶をしてきた。

ブローディア公爵夫妻は学園で同級生だったこともあり、気やすい関係だ。

妻たちも「久しぶりね」と笑顔で挨拶を交わしている。

そしてご子息とご息女が紹介された。


「息子のミハエルだ」

「ミハエルです。ご招待いただきありがとうございます」


とても自分達の子供と一歳しか違わないとは思えないしっかりした挨拶をされ、驚いてしまった。


「こっちは娘のエリザベス」


ご息女は馬車を降りてからじっと植え込みを見ていたが、父親に呼ばれてこちらに向き直った。


「お初にお目にかかります。エリザベスと申します。ご招待ありがとうございます」


なんと!ご息女は双子と同い年のはずであるなのに、大人顔負けの挨拶を返してきた。


ニコリと微笑む笑顔とカーテシーも完璧であり、まさに小さな淑女がそこに居た。


「まぁ……。エリザベス様はお小さいのに立派な淑女でいらっしゃるのね……」


公爵夫人は心底驚いて思わず呟いた。


「ふふふ、可愛いでしょう?エリザベスは真面目でとっても勉強家なのよっ」


ハリエットの発言は親バカだが、実際本当に小さな淑女なので頷くしかなかった。


ブローディア家と挨拶を交わしているとダイアンサス家もやってきた。

馬車からは夫妻のみが降りてきた。


「やぁ、エラムルス。招待ありがとう」

「ダイアンサス、来てくれて嬉しいよ」


ぽんぽんと抱擁と共にお互い肩を叩き合う。

そして馬車が立ち去ってしまったので思わず聞いた。


「おや?君のところはご子息が居なかったか?」

「ロートは今日デートがあるから行けないと断られてしまったよ」


ダイアンサス公爵は肩を竦めると、はははっと軽く笑って困ったものだねと夫人の肩を抱く。

夫人は嫌味を返した。


「誰に似たのですかね」


デート……。

確かうちの子達と二つしか変わらない歳のはず。

さすがダイアンサスの子と言うべきか。


「そうか。残念だが仕方ないね」


そう言い、ブローディア家、ダイアンサス家の面々と共にお茶会会場へ向かった。


「エリザベス行くよ!」


ブローディア家のご息女はまた植え込みをじっと見て、そちらに向かって今度はにっこりと微笑んでいた。

蝶でも飛んでいたのだろうか。

しかしヨハンに呼ばれると慌ててついてきた。


この時、実は双子がこっそり覗いていたことに誰も気が付かなかった。

たった一人を除いて。


「お兄様、みんなとてもれいぎ正しくごあいさつしていましたね……。それにあの女の子はこちらを見て笑っていたけれど、もしかして私たちに気づいたのかしら」

「…………。」

「とっても可愛い子でしたね」

「…………。」

「私、あの子とお友達になりたいです!……お友達になるなら同じようにごあいさつできないとだめでしょうか……?」

「…………。」

「お兄様……?」


リーゼロッテが兄を見遣ると、ラインハルトは真っ赤な顔で固まっていた。


「お、お兄様どうなさったの?」


声をかけるが、ラインハルトは無言のまま立ち上がりお茶会の会場へ向かって歩き始めた。

リーゼロッテは慌てて兄の跡を追った。


「お兄様、待ってください!」



四大公爵家のお茶会は中庭で行われていた。

春の花が咲き誇り、ふわりと花の香りが鼻孔をくすぐる。

今回は子供達も参加するとあって、堅苦しいものではなく和やかな会になるようにとブッフェ形式となっていた。

しかし立食では子供たちが疲れてしまうかもとテーブル席も用意されていた。


お茶会の会場につくとラインハルトは木の影から中を覗いた。

リーゼロッテも追いつき、同じように覗き込む。


「お兄様。デザートがたくさん。おいしそうですね」


お茶会の為に作られたデザートは普段おやつの時間に出されているものとは違っていて、さっと見ただけでもお花の飾りやたっぷりのクリームが載っていて、リーゼロッテにはキラキラと輝いて見えた。


「あっ!お花の形のケーキにくまさんのプリンもあります!」


リーゼロッテは兄の服をぐいぐいと引っ張りながらデザートのテーブルに釘付けだった。

しかし兄は微動だにせず一点をみつめていた。


「お兄様何を見ているの?」


視線の先を辿ると先程玄関でこちらを見ていた女の子が居た。

デザートをチラチラと見ながらお母様らしき女性の横に立っている。


きっとデザートを取りに行きたいけれど、行っても良いものか悩んでいるのだろう。


「私なら取りに行っちゃうのに、えらいのね」


リーゼロッテは知らず知らずのうちに女の子と自分を比べていた。

するとラインハルトが急にスタスタと歩き出した。

突然のことにリーゼロッテが驚いていると、ラインハルトはデザートを皿に盛り始めた。

お花ケーキにくまさんのプリン、チョコにクッキー、クリームたっぷりのマフィンにマドレーヌ。


そんなにデザートが食べたかったのかしらとリーゼロッテが見ていると、ラインハルトは女の子の方へ向かって歩き始めた。

そしてその皿を女の子に無言で差し出した。


「…………。」


女の子は突然差し出された皿とラインハルトを交互に見遣る。


「私にくれるの……?」


女の子が問いかけるが無言のまま皿を突き出す。

困惑しているが女の子は皿を受け取った。


「…………。」

「ありがとう、デザート食べたいなって思っていたの」


受け取った女の子はふんわりと花が咲くように笑った。

ラインハルトはこぼれ落ちてしまうんじゃないかというくらいに目を見開いた。


すると女の子のお母様が気づき、お礼を言われた。


「あら、デザートを持ってきてくれたの?ありがとう」

「まぁ!ラインハルト、いつの間に」


気づかれたラインハルトは少しバツが悪そうな顔をした。


「お母様!いただいたデザートを食べてもよろしいですか?」

「ええ、あちらのテーブルに座っていただきなさい」


許可をもらった女の子はとっても嬉しそうに向き直るとお礼を述べ、それだけでなくラインハルトを誘ってくれた。


「ラインハルト様、ありがとうございます!よろしければご一緒に召し上がりませんか?」


きっとその時のラインハルトはキャパオーバーだったのだろう。

エリザベスの笑顔に。

しかも名前を呼んでもらい、あまつさえ一緒に食べようと誘われて。


「……っ!お前みたいなちんちくりんと一緒に食べるわけねーだろっ!!」


ラインハルトの叫びに会場内がしーんと静まり返った。

言ってしまったラインハルトもマズイという顔をしたが、すぐに目を逸らし顔を背けた。


一番最初に動いたのはリーゼロッテだった。

ラインハルトと女の子の間に走っていき、女の子を庇うように立ち塞がった。


「お兄様なんてことを言うのですか!せっかく誘ってくださったのに!謝ってくださいませ!!」

「〜〜〜〜っ!!」


これまで一緒に悪戯をしてきた二人が初めて敵対した瞬間であった。

しかしリーゼロッテも兄の本当の気持ちはわかっていた。

だからこそ早く謝れば今なら取り返しがつくとこう言ったのだ。


けれどラインハルトは未だ自分の気持ちを持て余していた。

ぐちゃぐちゃな気持ちを抱え、泣き出しそうな顔をしたと思うと屋敷へ一目散に駆け出した。


「お兄様っ!!!」


リーゼロッテの声が響き渡ったが、ラインハルトは一度も振り向くことなく屋敷の中へ消えていった。


「あ、あの……。」


女の子は困り果てた顔でリーゼロッテに声をかけた。


「お兄様が申し訳ありません。私はラインハルトの双子の妹でリーゼロッテと申します。お兄様に代わって謝罪いたしますわ」

「あ、ご挨拶ありがとうございます。私はエリザベスです。あの、どうぞお気になさらないでください」


困ったように眉を垂らしながらにこっとエリザベスは笑った。

そして今度はリーゼロッテを誘ってくれた。


「リーゼロッテ様、よかったら私と一緒にデザートを食べませんか?」

「よ、よろしいのですか?私は双子の妹ですのよ?」

「???」

「あんなことを言ったお兄様が嫌いになったのではなくて?」

「え……と、リーゼロッテ様とラインハルト様は双子とはいえ別人ではありませんか。何も問題はありませんよ。それにラインハルト様のことは嫌っていません。私を気遣ってデザートを持ってきてくださいましたし。」


お兄様は暴言を吐いたのに。

それに双子であるリーゼロッテにもこんなにも優しくしてくださるなんて。

しかもお兄様を嫌っていない?!

なんて……なんて素敵な方。

この方のように私も完璧でいなければ隣には立てないわ!


そう思ったリーゼロッテはこの時からリーゼロッテに心酔するようになった。

そしてラインハルトも初恋を拗らせることになったのであった。


特段何か事件があったわけではなく、簡単に恋に落ちました。

リーゼロッテはエリザベスに近づきたいとこの後かなり勉強しました。


次回は王太子の話です。


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