攻略対象者とは関わりたくないっ!
最新話です。よろしくお願いします。
翌日、教室に入ろうとして早速頭が痛くなった。
私の隣の席に王太子様が座っている…。
なぜ…。
座席は名前順だったはず。
昨日は違う人が座っていたのに。
教室に入ろうとしてその様子に気がついた私は扉の陰に隠れていた。
早く自分の席に戻れ〜と王太子様にこっそり念を送っていると、カーラが登校してきた。
「リズ様?おはようございます。こんなところでどうされたのですか?」
「カーラぁ…」
私は涙目でカーラに訴えた。
王太子様が私の席の隣に座っていて…とそちらに視線をやると、それを聞いたカーラは眉間に皺を寄せた。
そしてリズ様はここでお待ちくださいねと笑顔で言うとズンズンと教室に入って行った。
「おはようございます王太子殿下。そちらは殿下のお席ではないと思うのですが?」
カーラは腰に手を当て仁王立ちで王太子様に向かって言い放った。
つ、強い。
「やぁ、おはようダイアンサス嬢。この席に座っていた子から譲ってもらったから、今日からここは僕の席になったんだ」
王太子様の言葉に私の喉がひゅっとなった。
え、譲るとかあり?
それなら私もあなたの隣になってしまったその席をどなたかにお譲りしたい。
きっと座りたがっているご令嬢は山ほどいるはず!
私にはその気持ちはまったくわからないけれど。
「まぁ!王太子殿下それはいけませんわ!ご事情があるにせよ、そんなことを王太子殿下だけがされては王族だけが許される特権のようではありませんか?まさか平等を謳う学園でそのようなこと王太子殿下がされるはずありませんよね?」
目を細めてわざとらしく大声で話すカーラの言葉に王太子殿下はひくっと口端を引きつらせた。
周囲もなんだなんだ?と二人に注目する。
その様子に明らかに気まずそうにし始めた王太子様。
「……ぼ、僕もそう思っていてね。返そうとしていたところだよ」
カーラはにっこりと笑ってそうでしたか、と言うが目が笑っていない。
怖い。怖すぎる。
そして元々座っていた人に席が返され、カーラから目で合図された私は何もなかったように教室に入った。
ありがとうカーラ。
あのままだったら私は登校拒否するしか無くなっていた。
昼休み、カーラと学食でランチを食べていた私は朝のお礼を言った。
「カーラありがとう!どうしようかと思っていたから本当に助かったわ」
「いいえ!あんな卑怯な方だとは思いませんでした!困った時はいつでも私に言ってくださいね!絶対にリズ様をお守りしますから!」
とっても頼もしい味方ができてうれしい。
と、二人で楽しくランチをしていると突然声をかけられた。
「カーラ!友達が出来たなら俺に紹介しろよ」
「ロート兄様……」
カーラより少し薄い赤髪を肩のあたりでゆるく一つに結んだ黒い吊り目の男性が突然私の背後に現れた。
男性は私の座っている椅子に手をかけ、覗き込んでくる。
近い…怖い…。やめてほしい。
私のそんな気持ちに気がついたのか、カーラは睨みつけながら言った。
「おやめくださいロート兄様。リズ様が驚いていらっしゃいますわ」
「へぇ、リズって言うのか。なかなか可愛い顔してるじゃないか」
ロート様は私の顎を掴んでグイっと自分の方に向けた。
ひぃっ!
顔の良い人怖い!強引な人はもっと怖い!!
「ロート兄様!!!!!」
私が本気で怖がり顔を青くして引き攣らせているので、カーラが立ち上がって怒鳴った。
すると彼はパッと手を離した。
「ははっ!怖い、怖い!じゃあまたな、リズ」
ロート様はそう言うとウインクをして去っていった。
めちゃくちゃチャラい。
あの人絶対攻略対象者だと思う。
「リズ様……。お気づきの通り兄は攻略対象者です。お気を付けください。ほんっとーにお気を付けください。ちょうどその話をしようと思っていたところだったのに、もう!」
やっぱりカーラのお兄様は攻略対象者だった。
今後は絶対に、ぜぇーったいに近づかないようにしようと心に決めた。
チャラ男怖すぎる。
「ねぇ、そういえばカーラは『花恋』を全クリしたの?」
私は気になっていたことを聞いてみた。
「ええ!隠しキャラまで全てクリアしました!リズ様は王太子殿下しか攻略されていないと先日伺いましたので、平穏な毎日の為にも攻略対象者を全員教えてさしあげなければと思っていたのです」
「カーラぁ、ありがとうぅ」
「ちなみに攻略対象者は隠しキャラをプラスして全部で六人です!」
カーラがひとりひとり教えてくれた。
「まずは王太子殿下、それからロート兄様、そしてリズ様のお兄様であるミハエル様、幼馴染のラインハルト様、一学年上のヘルムート・リンファンダマーク様、クラウス・ミュラー先生です」
「お、お兄様もなの…?」
「ええ、残念ながら。血が繋がっているのでヤンデレ監禁ルートです」
かなり衝撃の事実だった。
まさかお兄様まで…。
しかもヤンデレ監禁ルートだなんて。
恐ろしすぎるわ。
「やっぱりラインハルトもそうなのね…」
顔がやたら良いからそうじゃないかとは昔から疑っていた。
というか四大公爵家の子息は全員攻略対象者じゃないかとは思っていたのだ。
だからリーゼロッテとは仲良くしていたが、ラインハルトとは仲良くなり過ぎないように気を付けていた。
「ミュラー先生が隠しキャラなのかしら?」
「はい!全員をクリアすることで攻略できるようになるのです」
なるほど。
とりあえず教えてもらった方々とはこれから距離をとりましょう。
「カーラありがとう。その方達には近づかないようにするわ」
「私もそれが良いとは思うのですが……。なかなかそうはいかなさそうですねぇ」
「え……?」
カーラが意味深な言葉を言ったと思った瞬間、背後から鈴の音のような声がかけられる。
「エリザベス様!お隣よろしいですか?」
「リーゼロッテ!……とラインハルト」
鈴の音のような声に振り返るとリーゼロッテがランチトレーを手に笑顔で立っていた。
そしてその後ろにラインハルトを見つけて笑顔がひきつり、声が小さくなってしまった。
「何?俺が居たらいけないわけ?」
「そ、そんなことないわ……」
リーゼロッテが隣に座る。
そしてラインハルトはリーゼロッテの隣に座ると思いきや、なぜかエリザベスの隣に座った。
(え、なんでわざわざ私の横に座るの?!)
「エリザベス様、お友達ができたのですねっ」
なんでなの?と頭の中でぐるぐる考えていたが、リーゼロッテの声に意識が戻される。
「あ、えぇ、そうなの!クラスメイトのカーラ・ダイアンサスさんよ!」
私がカーラを紹介する。
カーラも紹介を受けてよろしくお願いいたしますと挨拶をした。
「カーラ様!ぜひ私とも仲良くしてくださいませ」
リーゼロッテはニコニコと笑って申し出た。
するとラインハルトが意地悪い顔をしてカーラに問う。
「ダイアンサス嬢はどこでエリザベスと知り合ったんだ?ここで知り合ったにしては昔からの知己のように話していたが」
「学園で知り合いましたが、色々と共通点が多くすぐに打ち解けましたの。知己のように見えるのでしたらとても嬉しいですわ」
カーラがラインハルトの毒舌にさらりと笑顔で切り返す。
おぉ!カーラ貴族になりたてなのに、貴族的な対応力がすごい!
前世で大人だったからこういう対応ができるのかしら。
ラインハルトはそれが気に入らなかったようで更に悪態をついた。
「へぇえ〜。とろいエリザベスと仲良くできるなんて危篤だね。変わり者だな」
「なっ……!?」
私がなんてことを言うんだと言い返そうとしたが、カーラの反撃の方が早かった。
「あらぁ、エラムルス様こそエリザベス様と幼馴染とお聞きしましたが、そんなことを仰るだなんて。ふふ、実のところはなぁんにもエリザベス様のことをご存知ないのでしょうか?」
くすくすと笑い悪役顔でラインハルトを挑発しているカーラはなんだか楽しそうだ。
するとリーゼロッテも援護する。
「お兄様おやめください!エリザベス様やカーラ様に失礼なことを仰るのなら席を移動してくださいませ!!」
「はぁ?なんで俺が移動しないといけないわけ?」
「理由はお兄様が1番良くおわかりだと思いますが!」
いつもこのパターンである。
はぁ〜、とため息を吐いて席を立った。
「エリザベス様っ」
「私は食べ終わりましたのでこれで失礼しますね。リーゼロッテ、またね」
「はい…」
リーゼロッテには申し訳ないけれど、ラインハルトとこれ以上関わりたくない。
私は逃げるように食堂から立ち去った。
「リズ様〜!待ってくださ〜い!」
すぐにカーラが慌てて追いかけて来た。
一緒にランチしていた相手を置いてくるなんて。
いくらラインハルトが嫌だったからといって私ったら最悪だわ。
私はすぐに謝った。
「ごめんなさいカーラ!置いてきてしまうなんて」
「いえいえ!間に挟まれて言い争いが始まったら誰だって嫌ですよ〜。私もイラっとして思わず言い返してしまいました。すみません」
困ったように眉を下げて笑いながらカーラは言った。
「ラインハルトはいつもあぁなの。嫌な気持ちにさせてごめんなさい」
「いえいえ!リズ様が謝ることじゃないです!エラムルス様はツンデレですから、仕方ありませんね〜」
「ツンデレ」
幼馴染として長く関わって来たが、ただ口が悪い意地悪な子だと思っていたけれど。
……ラインハルトはツンデレだったのか。
「そうです!ミハエル様がヤンデレ、ロート兄様がチャラ男、王太子様が粘着、エラムルス様はツンデレ、リンファンダマーク様は堅物、ミュラー先生はお色気担当だったかと」
「……皆さんキャラが濃いのね。普通の方はいないの?」
「元がゲームですしね。普通の方はいないですねー」
「うぅ。攻略対象者とは関わらずに楽しい学園生活を送りたいわ」
ただただ普通の生活がしたいだけなのに。
今後、攻略対象者との関わりを避けていくことはできるのだろうか…と肩を落として教室へと戻るのだった。
お読みくださりありがとうございます。