ヒロインと悪役令嬢とお母様
のんびりペース週末のみの更新ですが、よろしくお願いします。
とうとうヒロインと悪役令嬢が出会いました。
今日は入学式だけなので、自己紹介が終わると教師が解散を知らせた。
するとものすごい勢いでカーラがやってきた。
「エリザベス……ブローディア様」
なんだろう、今の間は。
そしてなぜかものすごいキラキラした目で見られている気がする。
「あの!おっ、お話ししたいことがあるのですが……この後、空いておりますか?」
話しながらジリジリと近づいてくる。
強い圧に驚いてしまったが、私も話したいと思っていたし、お母様からもヒロインに会ったらお家に連れてきて!と言われていたのでお茶へ誘うことにした。
「特に予定はありませんわ。あの……よろしければ急で申し訳ありませんが、我が家でお茶をいたしませんか?私もゆっくりとお話したいと思っていたのです」
「まぁ!よろしいのですか?うれしいです!!」
カーラはとてもうれしそうに笑った。
私はその笑顔を見て、失礼かもしれないが悪役顔だとうれしそうに笑っても妖艶さというか、悪役感が出てしまうのだな…と思った。
お母様にはヒロインを連れて帰るからお茶会の準備をしておいて欲しいと使いを遣り、私達は馬車でゆっくりと向かった。
車内では学園についてなど、当たり障りのない話をして過ごした。
家に着くとお母様がキラキラした目で私たちを待っていた。
「おかえりなさい!エリザベスちゃん!!」
「お母様、ただいま戻りました」
「そちらがカーラ・ダイアンサスさんかしら?」
ワクワクを隠しきれずチラチラとカーラを見ている。
ええ、そうですとお母様にカーラを紹介する。
……お母様、カーラさんが驚いているからもう少し抑えて。
「公爵夫人。カーラ・ダイアンサスと申します。突然お邪魔して申し訳ありません」
カーラは最近平民から貴族になったとは思えないくらいにとてもしっかりしたお嬢さんだった。
そんな様子をお母様は更に目を輝かせてみつめた。
挨拶もそこそこにお茶の用意がされたサロンに向かう。
さて、どう切り出そうかと考えていると待ちきれなかったお母様が早速話し始めてしまった。
「カーラさんは『花恋』という言葉に覚えがあるかしら?」
えぇー?!お母様!!来て早々に??と私は驚いてぐりっとお母様に顔を向けた。
カーラは驚いた顔をして私とお母様を交互に見た。
「なぜ、それを……?」
やはりカーラも転生者だったようで、『花恋』の単語が出ると落ち付きがなくなった。
「やっぱり、やっぱりそうなのねぇ!!」
あ、まずいと思ったが間に合わなかった。
「エリザベスちゃんが見た目ヒロインで驚いたでしょう?あ、でもそもそも自分の名前がヒロインなのに見た目が悪役令嬢で驚いたほうが先かしら?なんにせよ、どちらも原因は私なのよぅ!!実は私も転生者でーーー」
興奮して早口に話し始めたお母様を目を皿にしてみつめるカーラ。
そして私は途中でお母様の言葉を遮った。
大きな身振りでお母様とカーラの間に入って物理的にも遮る。
そうしないとお母様は止まらない。
「あの!お母様!突然色々と話してもカーラさんが驚いてしまうわ!!」
「やだっ!私ったらまた興奮しちゃったわ!カーラさんごめんなさいね!」
私達のやりとりにカーラも少し気が緩んだようで言葉を発した。
「私、以外にも……転生者がいたの…?」
私は遮った格好のままくるりと頭を回してカーラを見た。
お母様も私の後ろからひょいと顔を出してカーラを見遣る。
「うふふ。そうよぉ〜!私があなた達より前に転生したの。」
「あなた達…?エリザベス様も、なのですか?」
「ええ、私も転生者なの」
その言葉を聞いてカーラは瞬きもせず動かなくなってしまった。
驚きすぎて処理落ちしているようだ。
そして少しすると顔を俯けてブツブツと独り言を繰り返し始めた。
突然二人も転生者に会ったのだから無理もない。
しかしそこで止まるお母様でもなかった。
「あなた達の顔が真逆になっているのは私が原因なの。ゲームのエリザベス様が好きすぎて悪役令嬢にしたくなかったから、本来とは違う相手と結婚したらこうなっちゃったの」
お母様が話し始めるとカーラは再びお母様をじっと見て話を聞いていた。
「違う相手と結婚……」
「そう。ヒロインの父親だった人と結婚したの」
私の勝手であなたには申し訳ない事をしたわーーとお母様が言いかけたところでカーラは破顔し、頭を下げた。
「ありがとうございます!!」
今度は私とお母様が目を見開いてカーラをみつめた。
カーラは気にせず続ける。
「私!私も『花恋』ではエリザベス様が大好きだったんです!だけど転生してヒロインになってしまったって気がついて!こうなったらエリザベス様を悪役令嬢になんかさせない、絶対に断罪なんかしない!って思ったんです!でもなぜか私の容姿がゲームのエリザベス様そっくりで!しかもしかも本来悪役令嬢が居るはずのダイアンサス家の庶子だと言われてものすごーーーく驚いたんです!でもでも私の見た目がエリザベス様なら悪役令嬢のエリザベス様は居ないのかもって期待して今日学園に行って!!」
カーラがわあっと話す姿に私は思った。
あ、この子お母様と同類だわ……と。
その後はもうお母様とカーラのエリザベス様語りがすごかった。
しかもカーラは前世のお母様の同人誌のファンだったらしく、神と話せるなんて…!と泣いて喜んでいた。
おいてけぼりの私は紅茶をすすりお菓子を食べて空気に徹していた。
「なるほどなるほど」
お母様から今までのことを聞いたカーラがぐりんとこちらを向いたので私はビクッとしてしまった。
「エリザベス様は……。」
名前を呼んだところで止まってしまった。
何やら悩み始めている…。
「えぇと、カーラさん?」
こてりと首を傾げると意を決したように言い始めた。
「エリザベス様!ゲームのエリザベス様と混ざってしまうので、愛称でお呼びしてもよろしいでしょうか?私のこともぜひカーラと呼び捨てにしてください」
「え、えぇ。もちろんかまわないわ。お好きに呼んでくださいな」
私の言葉にカーラは目を輝かせて、うわぁ、嬉しすぎる。なんて呼ぼうかしら〜と呟いている。
「カーラさんはエリザベスちゃんに聞きたいことがあったのではなくて?」
お母様に言われてカーラはそうでした!と私に向き直る。
「えっと、婚約者は居ないと先程伺いましたが、想いを寄せている方はいらっしゃらないのですか?」
「………ふぇえ?」
カーラの予想だにしなかった質問に私は変な声を出してしまった。
「私はリズ様を悪役令嬢にさせないためのお手伝いがしたいのです!見た目が入れ替わっているのでどうなるか予想がつきませんが、どなたか好きな方がいらっしゃるなら協力をしたいのです!!」
愛称をリズ様に決めたらしいカーラは鼻息荒く拳を握る。
「え…と、カーラの気持ちは嬉しいのですが、そういった方は特にいないです…」
そう、悪役令嬢になるのが怖くて私はずっと恋愛ごとを避けてきた。
だから王太子も怖いし、幼馴染やら、顔の良い攻略対象になりそうな人物達も怖くて仲良くなりすぎないよう必死に避けてきた。
私は前世で王太子以外攻略できなかったので、誰が攻略キャラなのかまったくわからないからである。
ここにきて早死にが悔やまれる。
そして攻略対象者についてお母様に聞いても、教えたらつまんないじゃなーい!断罪されないようには協力するけれど、それはヒミツよ⭐︎と教えてもらえなかった。
もしものことがあったらどうするつもりなのだろうか。
「あら、そうなのですか?うーん、気になる方もいらっしゃらない?」
こくんと頷く。
「なるほどー。みなさんリズ様に片思いってわけですねー」
………ん?みなさん?どういうこと?
カーラがぼそっと不吉な事を言い出した。
「なになに?エリザベスちゃんモテモテなのぉ?」
お母様がキラッキラした瞳で見てくる。
「私は今日初めてお会いしましたが、それでもわかるくらいリズ様はめっちゃモテています!」
カーラが親指を立ててめっちゃいい顔をした。
「なっ!何を言ってるのカーラ!!う、嘘は良くないわ!」
顔を真っ赤にしてわたわたとする私に心底驚いたという顔でカーラは言った。
「え!リズ様本当に気づいてないんですか…?まさか天然…?やだ、新生エリザベス様もおいしすぎる」
「エリザベスちゃん可愛いでしょお?小さい頃からこうなのよぉ。あ、でも王太子様の事だけはしっかり気づいていて避けてるわ」
カラカラと笑いながらお母様が続ける。
「王太子様はねぇ、エリザベスちゃんのことが好きすぎて子供の頃から追いかけ回しているから、ものすごーく嫌われてるのよ!」
とうとうあははと笑いだす。
不敬ではないのか。
女子会だから大丈夫なのかしら。
いや、そういえばいつも王妃様とも同じことを言って一緒に笑って見ていた。
「あはは!王太子様のことは確かに学園でも避けてました!」
つられてカーラも笑いだす。
「だ、だって王太子様の婚約者になったらゲームと同じ悪役令嬢になっちゃうじゃない!そんなの嫌だもの!」
笑われて恥ずかしくなった私は半泣きである。
ひどいやい!
こっちは悪役令嬢になるのを避ける為に頑張ってるのにぃ!!
「やだ!泣かないでください!リズ様はちっとも悪くないですよー!王太子様がアホすぎて笑ってるだけですから!!」
カーラがめっちゃ不敬である。
半泣きの私に慌ててかけ寄り、よしよしと頭を撫でた。
「すんっ。わっ、私はただ、カーラやお友達やお母様と楽しく過ごしたいだけだもの……。前世では入院ばかりで学校生活をまともに送れなかったから……」
そう言うと二人は顔を見合わせてからぎゅうっと私を抱きしめた。
うぅ、少し苦しい。
「リズ様が可愛すぎますー!」
「私たちもエリザベスちゃんと楽しく過ごしたいと思っているわ!!」
とりあえず私の気持ちは伝わったようでよかった。
心配なのは明日からの学園生活だ。
何事もありませんようにと祈る。
お読みくださりありがとうございます。
次回から学園生活が始まります!