2、悪役令嬢にさせたくなくて
2話目、早速タイトルの理由がわかっちゃいます。
のんびりペースの更新ですが、よろしくお願いします。
「わ、私……エリザベスだよね……?」
「ん?そうだよ?エリザベスだよ?」
お父様が肯定してくれる。
お母様とお兄様もウンウンと頷いている。
「え、でも……なんで?エリザベスと顔が違う」
自分の顔に私は呆然として立ち尽くした。
「「「顔が違う???」」」
3人が同時に声を発した。
そしてお母様がハッと気がついたように言った。
「エリザベス……あなた、もしかして『花恋』を知ってる?」
『花恋』こと『イケメン王国〜花園で恋して〜』は私が前世でハマっていた亡くなる直前にプレイしていた乙女ゲームのタイトルである。
「お母様、なぜそれを…?」
私が問いかけるとお母様は、ぱあっと輝く笑顔で語り始めた。
そう。めちゃくちゃ早口で、語り始めたのだ。
「やっだー!エリザベスちゃんも転生者なのぉ?しかもしかも『花恋』プレイヤーだなんて!!神様ありがとう!きゃー!ちなみにちなみにエリザベスちゃんは誰推し?私はエリザベス様推しでね、エリザベス様が好き過ぎてねーーー」
私とお兄様は驚き、お互いの顔を見合った。
そして瞬きを繰り返し、再びお母様を見た。
「ハリー!二人が驚き過ぎて困っているからそこまで!!」
お母様と私たちの間にお父様が両手を広げて入ってくれた。
我に返ったお母様は頬に両手を当てて顔を赤くした。
「あら、やだわ。私ったら嬉しすぎて興奮しちゃった!」
「そんな君が面白くて大好きだけど、まずはゆっくりエリザベスの話を聞こうじゃないか。それから私たちのことを話そう」
お父様はお母様の肩を抱いて落ち着かせるように話した。
「そうね!そうね!うふふ、ワクワクしちゃうわ」
お母様は子供のようにはしゃぎ、メイドにお茶の準備をさせた。
そして長丁場になるからとお菓子とポットを用意させて、メイド達を下がらせた。
「さて!まずはエリザベスちゃんも転生者ってことで間違いないかしら?」
お母様はパチンと手のひらを合わせてキラキラした瞳で私を覗き込む。
その顔はワクワクを抑えきれていない。
「も、……ということはお母様も転生者なのですか?」
私の言葉に待ってましたとばかりに身を乗り出して、お母様はまたまた早口になり話だした。
「そうなのよぅ!私は26歳の時に事故で亡くなって転生したのよ!前世ではOLをしてて『花恋』がめっちゃくちゃ好きで、花恋オタクだったの!それでね、それでねっ」
「ハリー、一旦落ち着こうか」
お父様の言葉にお母様は前のめりだった姿勢を正す。
そしてお父様に勧められるままに紅茶をすすって一息つく。
お兄様は怪訝な顔で同じように紅茶をすすりながらその様子を見ていた。
「ハリーでは話が進まなさそうだから私が話そう」
お父様が言うにはお母様は私と同じく転生者で、しかも生まれた時から前世の記憶があったのだそうだ。
前世で『花恋』のガチオタクだったお母様は自分の名前ですぐにエリザベスの母親に転生したことに気がついたのだそう。
「私ね、『花恋』キャラでエリザベス様がいっちばん大好きで!好きすぎて同人誌も書いていたの。ゲームは何回も何回もプレイして、設定資料集やファンブックや公式の情報も読み込んで、ネット上の色々な考察も見て回って、世界観を壊さないようにエリザベス様が幸せになるストーリーを書いていたの。だからゲーム上では出てこないけれど、母親の名前も知っていたからすぐに気づいたの!」
そして母親に生まれたからには絶対エリザベス様を幸せにする!悪役令嬢にはさせない!!と奔走していたのだという。
「だってね、エリザベス様はヒロインが貴族として当たり前の事ができていないから注意をしていただけじゃない?それなのに酷いことを言うとか苛めるとか言われて…。ヒロインを本当の意味で苛めていたのはエリザベス様じゃなくて取り巻き達や他の攻略キャラの婚約者達なのに!全部!ぜーんぶエリザベス様のせいにされて断罪されるなんて酷すぎると思わない?!」
だからお母様はまずどうすればエリザベスが悪役令嬢にされずに済むかを考えたのだそう。
けれど一人では良い案が浮かばなくて、幼馴染だったお父様達に相談したんだそうだ。
「えっ…父上は母上の話を信じたのですか?」
兄が信じられないという顔でお父様を見た。
ちなみに私も同意見である。
突然自分は転生者で……なんて話をされたらドン引きではないだろうか。
「ははは!最初は私も全く信じてなかったよ!でも意味がわからなさ過ぎて、面白すぎてハリーに興味を持ったんだ」
「えぇ!!信じてなかったの?!ひどいわぁ!!」
お母様は隣に座るお父様をポカポカと叩いて怒った。
しかし私もお兄様もそれは当たり前だと思う…という視線を向けた。
「お父様達というと他にも聞いた方々がいらっしゃるのですか?」
「確かハリーがあの話をした時は…四大公爵家の面々が居たのだったかな?」
でもお父様以外はやはり、この子は何を言っているのだろうか、と相手にしなかったのだそうだ。
それはそうである。
逆に興味を持ったお父様はかなり変わっていると思う。
お父様は当時を思い出したようで笑いながら話を続けた。
「年頃の有力貴族の子女が集まるお茶会で、突然その話をし始めたものだから、みんなすごい顔をしていたのが忘れられないなぁ」
「失礼しちゃうわよね!頭は大丈夫ですかー?なんて言ったり、可哀想な目で見てきたり」
「「いや、普通の反応では…」」
思わず私とお兄様はハモってしまった。
ぷんすこ怒るお母様を横目に、お父様は話が逸れたなとまた続きを話し始めた。
「自分にはエリザベスという娘ができるのだが、絶対に悪役令嬢にしたくない。どうしたらいいと思うか?と聞かれて私も一緒に考えたんだ」
そしてああでもないこうでもないと二人で考えて。
ふと気がついたのが、そもそもエリザベスは誰の子供なのかということだったそう。
「エリザベスちゃんは気付いていないみたいだけど、『花恋』のエリザベス様の家名はブローディアではないのよ」
「家名…?」
記憶を辿るが、そもそもゲーム内でエリザベスの家名など出てきただろうか?
思い出そうとうんうん唸っているとお母様がクスっと笑った。
「エリザベス様の家名は最初の自己紹介でしか出てこないから忘れちゃうのも無理ないわ。プレイヤー名もエリザベスと書かれていたから。当時もほとんどのプレイヤーはエリザベスって名前しか覚えてないみたいだったもの。」
「確か自己紹介のあるプロローグはスキップモードで飛ばせたもんね」
「そうなの。プロローグなんてほとんどの人は初めてプレイした時しか見ないでしょう?私はエリザベス様を見るために毎回見ていたけれどね!」
「それで…『花恋』のエリザベスの家名はブローディアではなかったの?」
待ってました!とばかりにお母様は人差し指をビシーっと前に出して言った。
「エリザベス様の家名はダイアンサスだったのよ!エリザベス・ダイアンサス!!」
「…ということは、お父様とお母様は本来結婚されるはずではなかったということですか…?」
お兄様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。
私もきっと同じ顔でお父様とお母様を見ていたと思う。
「そうなの!『花恋』の私はダイアンサス公爵と結婚することになっていたんだけど、エリザベス様を悪役令嬢にさせない為にヨハンと結婚しちゃいましたー」
「「えぇえー!!!」」
本来ならば政略結婚でダイアンサス公爵夫人となるお母様だが、別の人と結婚してはどうだろうか?と提案したところ、それは良い考えね!とお母様が乗っかってきたので、ならば自分と結婚しないかとお父様からプロポーズしたのだそうな。
ちなみにお茶会でヤバい女認定されていたお母様を馬鹿にしていたダイアンサス現公爵とはめっちゃ仲が悪くて、絶対に結婚したくなかったからラッキーとお母様は思ったらしい。
というか面白いからとプロポーズするお父様も大概変である。
「私はダイアンサスの傍系侯爵家の令嬢だったから、ブローディア家に嫁ぐのは大変だったのよ!でも家族にもずっと変な子だと思われていたから、今では厄介払いできてよかったって思われているはずよ」
お母様はあっけらかーんと言うが、だからお母様方の親族との関わりがないのかと今更ながらに納得した。
そしてお母様は更に驚くべき真実を告げた。
「ヨハンは本来はヒロインの父親なのよ」
ボーン、ボーンとちょうどよく柱時計が鳴った。
私は目を皿にして、口をあんぐり開けたまま固まってしまう。
時計が鳴り止むと同時にお母様が続ける。
「ヒロインはブローディア公爵家の庶子だと発覚して、公爵家に引き取られることになるって設定だったの。でも私、あれだけは信じられないのよねー。だってこんなに真面目を絵に描いたようなヨハンが庶子を作るなんて。そんなことする?いくら面白いことが好きだからってそれはないと思うのよー」
「さすがに私もいくら面白いことが好きでもそんな面倒事になるようなことはしないなー」
「「ダイアンサスならまだしもねぇ?」」
ねーと二人で分かり合っている。
いや、もう…ちょっと色々と情報過多である。
ゲームの『花恋』では悪役令嬢の母親だったはずのお母様がヒロインの父親だったはずのお父様と結婚したということ?
なぜそんなことに?
あ、お母様が面白すぎてプロポーズしたんですよね。
そう言ってましたね。
いやいやいや!!
なにそれ!
頭を抱える私をよそにお母様は言った。
「悪役令嬢の母親とヒロインの父親が結婚したら、見た目はヒロインの悪役令嬢ちゃんが生まれちゃいました〜!」
そんなラノベのタイトルみたいな!と思ったところで、私の記憶は途絶えた。
病み上がりだったこともあってか、処理落ちしたようだ。
生ぬるい微笑みを浮かべながらソファに沈んだらしい。
目を覚ますと自分のベッドに寝かされていた。
お父様とお母様はいっぺんに色々話してごめんねと謝っていたけれど、そもそも私が顔が違うと言って始まった話だし、知りたかったことは聞けたから気にしないでほしいと伝えた。
驚くことが多い話だったが、私のためにお母様がしてくれたことなんだもの!
お母様の努力を無駄にしないためにも、私は絶対に悪役令嬢にならないと心に誓った。
お読みくださりありがとうございます。
テンション高いお母様が大好きで、お母様が出てくるとものすごくお話が書きやすいです!