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1、悪役令嬢に転生したみたいです……?

ばっしゃーーーーーん!と噴水から盛大な水しぶきが上がった。


「エリザベスお嬢様…!!!!」

「エリザベス!!」

「エリザベスちゃん!!!」


目の前が一面水だけになる直前、メイドとお母様、それから王妃様に呼ばれた気がした。

初めての王宮に浮かれていた私は、はしゃぎ過ぎたのだ。



その日は王妃様にお招き頂いたお茶会に、お母様と共に参加していた。

お茶会の途中で飽きた私は、庭園を見せてくださいとお願いしたところまではよかった。


近くにあったとっても大きな噴水に興奮してしまった私は、六歳とはいえ淑女らしからぬ行動をしてしまったのだ。

噴水の縁に登り、中を覗き込んだり縁を走り回ってしまった。

そして足を滑らせたのだ。

どう考えても自業自得である。


その後私はしばらく熱を出して寝込んだ。


寝込んでいる間に不思議な夢を見た。

それはとってもとっても不思議な夢だった。


夢の中の私は十六歳で身体が弱く入院していた。

子供の頃から入退院を繰り返し、入院中の楽しみはゲームをすることだった。

そして亡くなる直前、私はとある乙女ゲームにハマっていた。


「うぅ…ん。エリザベス…ゲーム…」


目を覚ました私は気がついてしまった。

自分の名前が亡くなる直前にハマっていた乙女ゲームの悪役令嬢と同じである事に。


「お嬢様!目を覚まされたのですね!」


メイドが慌ただしく部屋を出て行ったが、私はそれどころではなかった。


「うぇえ?もしかして私、悪役令嬢に転生した…?」


思わず顔を手で覆って唸ってしまう。

ふと鏡が目に入ったところで違和感に気がついた。


「あ…れ…?悪役令嬢エリザベスって赤い髪に黒い吊り目じゃなかったっけ…?」


ベッドを降りて全身鏡の前に向かう。


「え?えぇー?」


私の名前は間違いなくエリザベス。

でも鏡に映る私はふわっふわの茶色い癖っ毛に緑の瞳だった。


鏡を見て呆けていると、お父様とお母様、お兄様が慌てて駆け込んできた。


「リズ!大丈夫かい!!」

「エリザベス!目を覚ましたのね!」

「あぁ、よかった。一週間も寝込むから心配したよ」


声をかけられても私は鏡の前で固まっていた。


「リズ?」


そんな私に不思議そうな顔でみんなが近づいてくる。

私は困った顔で機械のように首を向けた。


「わ、私…エリザベスだよね…?」

「ん?そうだよ?エリザベスだよ?」

「え、でもなんで?エリザベスと顔が違う」

「「「顔が違う???」」」


3人が同時に声を発した。

そしてお母様がハッと気がついたように言った。


「エリザベス…あなたもしかして『花恋』を知ってる?」


『花恋』こと『イケメン王国〜花園で恋して〜』は私が前世で亡くなる直前にプレイしていた乙女ゲームのタイトルである。


「お母様がなぜそのタイトルを…?」


私が問いかけるとお母様は、ぱあっと輝く笑顔で語り始めた。

そう。めちゃくちゃ早口で、語り始めたのだ。


「やだー!エリザベスちゃんも転生者なのぉ?しかもしかも『花恋』プレイヤーだったなんて!!神様ありがとう!ちなみにちなみにエリザベスちゃんは誰推し?私はエリザベス様推しでね、エリザベス様が好き過ぎてー」


私とお兄様は驚き、目を皿にしてお母様を見る。


「ハリー!二人が驚き過ぎて困っているからそこまで!!」


お母様と私たちの間にお父様が両手を広げて入ってくれた。

我に返ったお母様は頬に両手を当てて顔を赤くした。


「あら、やだわ。私ったら興奮して語っちゃった!」

「そんな君が面白くて大好きだけど、まずはゆっくりエリザベスの話を聞きながら、これまでのことも話していこう」


お母様の肩を抱いてお父様が落ち着かせるように話した。


「そうね!そうね!うふふ、ワクワクしちゃうわ」


そう言うとお母様はメイドにお茶の準備をさせた。

長丁場になるからとお菓子とポットを用意させて、メイド達以外を下がらせた。


「さて!まずはエリザベスちゃんも転生者ってことでいいのかしら?」


お母様はパチンと手のひらを合わせてキラキラした瞳で私に聞いてくる。

その顔はワクワクを抑えきれていない。


「も、ということはお母様も転生者なのですか?」


私の言葉に待ってましたとばかりに身を乗り出して、お母様はまたまた早口になり話出した。


「そうなのよぅ!私は26歳の時に事故で亡くなったんだけどねっ、OLをしてて『花恋』がめっちゃ好きなオタクだったの!それでねそれでねっ」

「ハリー、一旦落ち着こうか」


お父様の言葉にハッとして前のめりだった姿勢を正す。

お兄様は怪訝な顔でその様子を見ていた。


「ハリーでは話が進まなさそうだから私が話そう」


お父様が言うには、お母様は私と同じく転生者で生まれた時から前世の記憶があったのだそうだ。

前世で『花恋』のガチオタクだったお母様はすぐに自分がエリザベスの母親に転生したのだと気づいたのだそう。


「私ね、『花恋』キャラでエリザベス様がいっちばん大好きで!好きすぎて同人誌も書いてたの。もちろんゲームも何回もプレイして、設定資料集やファンブックや公式の情報も読み込んで、ネット上の色々な考察も見て回って、しっかり世界観を壊さないようにエリザベス様が幸せになるストーリーを書いていたの。だからゲーム上では出てこないけれど、母親の名前も知っていたからすぐに気づいたの!」


そして母親に生まれたからには絶対エリザベスを幸せにしたい!悪役令嬢になんかさせない!!と奔走していたのだという。


「だってね、エリザベス様はヒロインに貴族として当たり前の注意をしていただけじゃない?それなのに酷いことを言うとか苛めるとか言われて…ヒロインを苛めたのはエリザベス様じゃなくて他の取り巻き達や攻略キャラの婚約者達なのに!ぜーんぶエリザベス様のせいにされて断罪されるなんて酷すぎると思わない?!」


だからお母様はまずどうすればエリザベスが悪役令嬢にされずに済むかを考えたのだそう。

でも一人では良い案が浮かばなくて、幼馴染だったお父様達に相談したんだそうだ。


「えっ…父上は母上の話を信じたのですか?」


兄が信じられないという顔でお父様を見た。

ちなみに私も同意見である。

突然自分は転生者で…なんて話をされたら頭は大丈夫かと思わなかったのか。


「あはは!最初は私も全く信じてなかったよ!でも意味がわからなさ過ぎて、面白すぎてハリーに興味を持ったんだ」

「えぇ!!信じてなかったの?!ひどいわ!!」


お母様はお父様をポカポカと叩いて怒っているが、私もお兄様も当たり前だという視線でそれを見つめていた。


「お父様()というと他にも知っている、というか聞いた方々がいらっしゃるのですか?」

「確かハリーがあの話をした時は…四大公爵家の面々が居たのだったかな?」


でもお父様以外はやはり、この子は何を言っているのだろうかと相手にしなかったのだそうだ。

それはそうである。

逆に興味を持ったお父様はかなり変わっていると思う。

当時を思い出して笑いながら話を続けた。


「年頃の有力貴族の子供達が集まるお茶会で突然その話だったものだから、みんなすごい顔をしていたのが忘れられないなぁ」

「失礼しちゃうわよね!頭は大丈夫ですかー?なんて言ったり、可哀想な目で見てきたり」

「「いや、普通の反応では…」」


思わず私とお兄様はハモってしまった。

ぷんすこ怒るお母様はそのままに、お父様は話が逸れたなとまた続きを話す。


「自分にはエリザベスという娘ができるのだが、悪役令嬢にしたくない、どうしたらいいと思うか?と聞かれて私も一緒に考えたんだ」


そしてああでもないこうでもないと二人で考えて、ふと気がついたのが、そもそもエリザベスは誰の子供なのかということだったそう。


「エリザベスちゃんは気づいてないみたいだけど、『花恋』のエリザベス様の家名はブローディアではないのよ」

「家名…?」


記憶を辿るが、そもそもゲーム内でエリザベスの家名など出てきただろうか?

思い出そうとうんうん唸っているとお母様がクスっと笑った。


「最初の自己紹介でしか出てこないから忘れられちゃうのも無理ないわ。ほとんどのプレイヤーはエリザベスって名前しか覚えてないみたいだったもの。」

「自己紹介ってスキップモードで飛ばせたものね」

「そうなの。ほとんどの人は初めてプレイした時しか見ないでしょう?私はエリザベス様を見るために毎回見ていたけれどね!」

「それで…『花恋』のエリザベスの家名はブローディアではなかったの?」


待ってましたとばかりにお母様は人差し指をビシーっと出して言った。


「エリザベス様の家名はダイアンサスだったのよ!エリザベス・ダイアンサス!!」

「…ということは、お父様とお母様は本来結婚されるはずではなかったということですか…?」


お兄様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。

私もお兄様の顔を見てから、同じような顔でお父様とお母様を見た。


「そうなの!『花恋』の私はダイアンサス公爵と結婚することになっていたんだけど、ヨハンと結婚しちゃいましたー」

「「えぇえー」」


本来ならば政略結婚でダイアンサス公爵夫人となるお母様が別の人と結婚してはどうだろうか?と提案したところ、それは良い考えね!と乗っかってきたので、ならば自分と結婚しないかとお父様からプロポーズしたのだそうな。


ちなみにお茶会でヤバい女認定されていたお母様と、そんなお母様を馬鹿にしていたダイアンサス公爵はめっちゃ仲が悪くて、結婚したくなかったからラッキーとお母様は思ったらしい。

というか面白いからとプロポーズするお父様も大概変である。


「私はダイアンサスの傍系侯爵家の令嬢だったから、ブローディアに嫁ぐのは大変だったのよー!でも家族にも変だと思われていたから、今では厄介払いできてよかったって思われてるはずよ」


あっけらかーんと言うが、だからお母様方の親族との関わりがないのかと今更ながらに納得した。

そしてお母様は更に驚くべき真実を告げた。


「ヨハンは本来はヒロインの父親なのよ」


ボーン、ボーンとちょうどよく柱時計が鳴った。

私はまたまた目を皿にして、口をあんぐり開けたまま固まってしまう。

時計が鳴り止むと同時にお母様が続ける。


「ヒロインはブローディア公爵家の庶子だと発覚して、公爵家に引き取られることになるって設定だったの。でも私、あれだけは信じられないのよねー。だってこんなに真面目を絵に描いたような人がそんなことする?いくら面白いことが好きだからってそれはないと思うのよー」

「さすがに私もいくら面白いことが好きでもそんな面倒事になるようなことはしないなー」

「「ダイアンサスならまだしもねぇ?」」


ねーと二人で分かり合っている。


いや、もう…ちょっと色々と情報過多である。

ゲームの『花恋』では悪役令嬢の母親だったはずのお母様がヒロインの父親だったはずのお父様と結婚したということ?

なぜそんなことに?

あ、お母様が面白すぎてプロポーズしたんですよね。

そう言ってましたね。

いやいやいや!!

なにそれ!

頭を抱える私をよそに、テヘペロ〜とお母様は言った。


「悪役令嬢の母親とヒロインの父親が結婚したら、見た目はヒロインの悪役令嬢(エリザベス)が生まれちゃいました〜!」


病み上がりだったこともあってか、私の記憶はそこで途絶えた。

微笑みながらソファに沈んだらしい。



目を覚ますと自分のベッドに寝かされていた。

たぶん病み上がりの頭では処理しきれずに倒れたんだと思う。

今度は一日で目を覚ませてよかった…。

お父様とお母様はいっぺんに色々話してごめんねと謝っていたけれど、そもそも私が顔が違うと言って始まった話だし、知りたかったことはわかったから気にしないでと伝えた。


驚くことが多い話だったが、私のためにお母様がしてくれたことなんだもの!

お母様の努力を無駄にしないためにも、私は絶対に悪役令嬢にならないと心に決めた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



悪役令嬢にならないと決めてから十年が経った。

今日は王立学園の入学式である。

そう、とうとう『花恋』が始まるのだ。


しかしながらゲームとは違う部分が多すぎる。


まず私の見た目はヒロイン仕様である。

ボンキュボンでセクシーなお母様の子には変わりないので、成長とともに悪役令嬢らしい見た目になってしまうのでは?と思っていた頃もあった。

が、残念ながら私はちんちくりんのままだった。

お母様に似たのはふわふわの癖っ毛とちょっと大きめのお胸だけ。

そこだけ遺伝したのは嬉しいやら悲しいやらである。

ちなみにお兄様曰く、中身も悪役令嬢とは言えない残念さだそうな。

解せぬ。


それからゲームのエリザベスは王太子の婚約者だったが、私はもちろん違う。

お母様が王妃様と仲が良いので、いっときは婚約者候補に名前が上がってしまい焦ったが、お母様の努力もあり話は立ち消えた。

そして現在、王太子に婚約者は居ない。


けれどゲームと変わらないこともある。


昨日お父様に聞いた情報では、本来ヒロインだった女の子も今日学園に入学するらしい。

どんな子なのかワクワクするわ〜とお母様が言っていた。

私は正直会いたくも関わりたくもない。

だって関わったが最後、断罪されてしまうかもしれないのだから。


ぽへっとそんなことを考えながら、入学式が行われるホールの前で立っていると後ろから声をかけられた。


「ちんちくりん邪魔だぞ」


聞き慣れた声にムッして頬を膨らませ、振り返る。

すると鈴のなるような声が聞こえた。


「お兄様なんてことを言うのですか!エリザベス様に失礼ですわっ!」

「リーゼロッテ」


名前を呼ぶと、はいっ!と嬉しそうに顔を綻ばせた。

私をちんちくりんと言ったのはエラムルス公爵家の令息ラインハルト、もちろん攻略対象者である。

そして鈴のような声の女の子はラインハルトの双子の妹であるリーゼロッテだ。


年頃の子供達のお茶会で知り合ってから、同じ公爵家ということもあり仲良くなった。

お兄様も含めてよく一緒に遊んでいる。


「入り口でぼーっと突っ立ってるから邪魔だと言っただけだ!」


ラインハルトはぷんぷんしながら通り過ぎていく。


「もう!お兄様は本当に口が悪いんだから」


リーゼロッテはラインハルトを睨みつけて言った。


「私が入口で立ち止まっていたのがいけないんだもの、でもありがとうリーゼロッテ」


そう声をかけるとリーゼロッテは嬉しそうに微笑み、一緒に行きましょうと隣に立った。


ふと視線を感じたのでそちらを見遣ると王太子と目が合った。

ひいっと声にならない悲鳴をあげて顔が引き攣ってしまったが、目が合ってしまったのでニコリ…とぎこちなく笑っておく。

すると王太子が嬉しそうに破顔した。

リーゼロッテも私の様子で気が付き、淑女の微笑みを向けた。

毒舌を吐きながら。


「あのポンコツ王太子殿下はまだエリザベス様を諦めてくださらないのね。早く見た目に騙されたバカなご令嬢と婚約なさればよろしいのに」


ひくっと私の笑顔はさらに引き攣った。

そう。リーゼロッテは間違いなくあの兄の妹なのである。


「リーゼロッテ、言葉が過ぎるわ」

「そうでしょうか?これでも優しく言っておりますのよ!」


王太子とも同じ年頃の子供たちのお茶会で出会った。

お母様が王妃様と仲が良く、二人のお茶会で会って遊んだこともある。

でも私もお母様も悪役令嬢のエリザベスを回避したいので、婚約者候補にあがりそうになるたびに回避してきた。


「さあ、まいりましょうっ!」


私が王太子を苦手としていることに気がついたリーゼロッテは、いつも回避するべく動いてくれる。

ありがたい。


入学式では特段ゲームの始まりを彷彿とさせるような出来事はなかったのでホッとした。

このままゲームが始まらなければいいと思っていたが、現実はそうもいかなかった。


クラスでの自己紹介でヒロインをみつけてしまった。

ただ…見た目がヒロインな私がいる所為か、ヒロインは見た目が悪役令嬢そのものだった。

濃いストレートの赤髪に黒の吊り目、身長も割と高めでナイスバディ。

そして本来お母様が嫁ぐはずだったダイアンサス家のご令嬢だった。


カーラ・ダイアンサス。

彼女の自己紹介は元々庶民だったので、貴族的な礼儀作法に疎い部分があるから色々と教えてほしいというようなものだった。

やはりゲーム通りに貴族になったばかりのようだ。


そして私が自己紹介をするとカーラは黒曜石のような目玉が飛び出るんじゃ無いかというくらいに驚いた顔をしていた。

その表情で気がついてしまった。

あぁ、彼女も転生者なのだと。


今日は入学式だけなので、自己紹介が終わると教師が解散を知らせた。

するとものすごい勢いでカーラがやってきた。


「エリザベス……ブローディア様」


なんだろう、今の間は。

そしてなぜかものすごいキラキラした目で見られている。


「あの!お話ししたいことがあるのですが……この後のご予定は空いておりますか?」


話しながらジリジリと近づいてくる。

思いのほか強い圧に驚いてしまったが、私も話したいと思っていたのと、お母様からヒロインに会ったら絶対に会いたいから連れてきて!と言われていたのでお茶へ誘う。


「特に予定はありませんわ。あの、よろしければ我が家でお茶をしませんか?ぜひ私もお話したいことがあるのです」

「まぁ!よろしいのですか?うれしいです!!」


カーラはとてもうれしそうに、しかし妖艶に笑った。

悪役顔だとうれしそうに笑っても悪役感が出てしまうのだな…と思った。


お母様にはヒロインを連れて帰るからお茶会の準備をしておいて欲しいと使いをやり、私達はゆっくり馬車で向かった。

車内では当たり障りのない学園についての話題をふってやり過ごす。


家に着くとお母様が興奮した様子で待っていた。


「おかえりなさいエリザベスちゃん」

「お母様ただいま戻りました」

「そちらがカーラ・ダイアンサスさんかしら?」


ええ、そうですとお母様に紹介する。


「カーラ・ダイアンサスと申します。突然お邪魔して申し訳ありません」


カーラはとてもしっかりしたお嬢さんだった。

そんな様子をお母様はキラキラとみつめる。

挨拶もそこそこにお茶会の用意がされたサロンに向かった。


さて、どう切り出そうかと考えているとお母様が早速話し始めた。


「カーラさんは『花恋』という言葉に覚えがあるかしら?」


『花恋』という言葉を聞いてカーラは驚いた顔をして私とお母様を交互に見た。


「なぜ、それを……?」


やはりカーラも転生者だったようで、キョロキョロと落ち着かなくなった。


「やっぱりそうなのねぇ!!」


あ、まずいと思ったが間に合わなかった。


「エリザベスちゃんが見た目ヒロインで驚いたでしょう?あ、でもそもそも自分の名前がヒロインなのに見た目が悪役令嬢で驚いたほうが先かしら?なんにせよ、どちらも私が原因なのよ〜!実は私も転生者でーーー」


興奮して早口になったお母様を目を皿にしてみつめるカーラ。

そして私は途中でお母様の言葉を遮る。

正確には大きな身振りでお母様とカーラの間に入って物理的にも遮る。

そうしないとお母様は止まらない。


「お母様!突然色々と話してもカーラさんが驚いてしまうわ!!」

「やだ!また興奮しちゃったわ!」


私達のそんなやりとりにカーラも少し気が緩んだようで言葉を発した。


「私以外にも転生者がいたの…?」


くるりと頭を回してカーラを見た。

お母様も私の頭からひょいと顔を出してカーラを見遣る。


「うふふ。そうよぉ〜!私があなた達より前に転生したの。」

「あなた達…?エリザベス様もなのですか?」

「ええ、私も転生者よ」


カーラは驚きすぎて処理落ちしているようだ。

顔を俯けてブツブツと繰り返し始めた。

突然二人も転生者にあったのだから無理もない。


「あなた達の顔が真逆になっているのは私が原因なの。ゲームのエリザベス様が好きすぎて悪役令嬢にしたくなかったから、本来とは違う相手と結婚したらこうなっちゃったの」

「違う相手と結婚……」

「そう。ヒロインの父親だった人と結婚したの」


私の勝手であなたには申し訳ない事をしたわーーとお母様が言いかけたところでカーラはバッと顔を上げて破顔した。


「ありがとうございます!!」


今度は私とお母様が目を皿にしてカーラをみつめた。

カーラは気にせず続ける。


「私!私も『花恋』ではエリザベス様が大好きだったんです!だけど転生してヒロインになってしまったって気がついてからはエリザベス様を悪役令嬢になんかさせない、絶対に断罪なんかしない!って思っていて!でもなぜか私の容姿がエリザベス様みたいで!しかもしかもダイアンサス家の庶子だと言われてすごーーーく驚いたんです!でもでも私の見た目がエリザベス様なら悪役令嬢のエリザベス様は居ないのかもって期待して今日学園に行って!!」


カーラがわあっと話す姿に私は思った。

あ、この子お母様と同類だわ…と。


その後はもうお母様とカーラのエリザベス様語りがすごかった。

カーラは前世のお母様の同人誌のファンだったらしく、神と話せるなんて…!と泣いて喜んでいた。

おいてけぼりの私は紅茶をすすりお菓子を食べて空気に徹していた。


「なるほどなるほど」


お母様から今どのような状況かを聞いたカーラがぐりんとこちらを向いたので私はビクッとしてしまった。


「エリザベス様は……。」


名前を呼んだところで止まってしまった。

何やら悩み始めている…。


「えぇと、カーラさん?」


こてりと首を傾げると意を決したように言い始めた。


「エリザベス様!ゲームのエリザベス様と混ざってしまうので、愛称でお呼びしてもよろしいでしょうか?私のこともぜひカーラと呼び捨てにしてください」

「え、えぇ。もちろんかまわないわ。お好きに呼んでくださいな」


私の言葉にカーラは目を輝かせてわぁ、なんて呼ぼうかしら〜と呟いている。


「カーラさんはエリザベスちゃんに聞きたいことがあったのではなくて?」


お母様に言われてカーラはそうでした!と私に向き直る。


「リズ様は婚約者は居ないと先程伺いましたが、想いを寄せている方はいらっしゃるのですか?」


「………ふぇ?」


リズと呼ぶことにしたらしいカーラの予想だにしなかった質問に私は変な声を出してしまった。


「私はリズ様のお役に立ちたいのです!見た目が入れ替わっているのでどうなるか予想がつきませんが、どなたか好きな方がいらっしゃるなら協力をしたいのです!!」


カーラは鼻息荒く拳を握る。


「え…と、カーラの気持ちは嬉しいのですが、私はそういった方はいないです…」


そう、悪役令嬢になるのが怖くて恋愛ごとは避けてきたのだ。

だから王太子も怖いし、幼馴染やら、顔の良い攻略対象になりそうな人物達も怖くて避けてきた。

なぜなら私は王太子以外攻略してないので、誰が攻略キャラなのかわからないからである。

ここにきて早死にが悔やまれる。


「そうなのですか?うーん、気になる方もいらっしゃらない?」


こくんと頷く。


「なるほどー。みなさんリズ様に片思いってわけですねー」


………ん?

カーラがぼそっと不吉な事を言い出した。


「なになに?エリザベスちゃんモテモテなのぉ?」


お母様がキラッキラした瞳で見てくる。


「私が今日見ていただけでもわかるくらいリズ様はめっちゃモテています!」


カーラが親指を立ててめっちゃいい顔をした。


「そっ、そんなことないでしょっ!嘘は良くないわ!」


わたわたとする私にカーラはまさか!と言う。


「え!リズ様本当に気づいてないんですか?まさか天然…?新生エリザベス様もおいしすぎる。」

「エリザベスちゃん可愛いでしょお?小さい頃からこうなのよぉ。あ、でも王太子様の事だけは気づいていて避けてるわ」


カラカラと笑いながらお母様が言った。


「王太子様はねー、エリザベスちゃんが好きすぎて追いかけ回すから嫌われてるのよ!」


とうとうあははと笑いだす。

不敬ではないのか。

女子会だから大丈夫なのかしら。

いや、そういえばいつも王妃様と一緒に笑って見ていたな。


「あはは!王太子様のことは確かに避けてました!」


つられてカーラも笑いだす。


「だ、だって王太子様の婚約者になったらまんま悪役令嬢になっちゃうじゃない!そんなの嫌だもの!」


笑われて恥ずかしくなった私は半泣きで二人に言う。


「やだ!泣かないでください!リズ様は悪くないですよー!王太子様がアホすぎて笑ってるだけですから!!」


カーラがめっちゃ不敬である。

半泣きの私にあわててかけ寄り、よしよしと頭を撫でた。


「私はただカーラやお友達やお母様と楽しく過ごしたいだけだもの…」


そう言うと二人は顔を見合わせてからぎゅうっと私を抱きしめた。

うぅ、少し苦しい。


「リズ様可愛すぎますー!」

「私たちもエリザベスちゃんと楽しく過ごしたいと思っているわ!!」


とりあえず私の気持ちは伝わったようでよかった。

心配なのは明日からの学園生活だ。



翌日、教室に入ろうとして早速頭が痛くなった。

私の隣の席に王太子様が座っている…。

なぜ…。

席順は名前の順だったはず。

昨日は絶対に違う人が座っていたのに。


教室に入ろうとしてそれに気がついた私は扉の前で隠れていた。

早く自分の席に戻れと王太子様に念を送っていると、カーラが登校してきた。


「リズ様どうされたのですか?」

「カーラぁ…」


私は涙目でカーラに訴えた。

王太子様が私の隣に座っていて…と言うとスンッと真顔になったカーラはここでお待ちくださいねとズンズンと教室に入って行った。


「おはようございます王太子殿下。そちらは殿下の席ではないと思うのですが?」


カーラは仁王立ちで王太子様に向かって言い放った。

つ、強い。


「やぁ、おはようカーラ嬢。この席に座っていた子から譲ってもらったから、今日からここは僕の席になったんだよ」


王太子様の言葉に私の喉がひゅっとなった。

え、譲るとかありなのですか?

それなら私もあなたの隣になってしまったその席をどなたかにお譲りしたい。


「まぁ!王太子殿下それはいけません!ご事情があるにせよ、そんなことを王太子殿下だけがされては王族だけが許される特権のようではありませんか?まさか平等を謳う学園でそのようなこと王太子殿下がされるはずありませんよね?」


カーラの言葉に王太子殿下はひくっと口端を引きつらせた。


「……僕もちょうどそう思っていてね。返そうとしていたところだよ」


カーラはにっこりと笑ってそうでしたか、と言うが目が笑っていない。

怖い。怖すぎる。


そして元々座っていた人に席が返され、カーラから目で合図された私は何もなかったように教室に入って行った。


ありがとうカーラ。

あのままだったら私は登校拒否するしか無くなっていた。



昼休み、カーラと学食でランチを食べていた私は朝のお礼を言った。


「カーラありがとう!どうしようかと思っていたから本当に助かったわ」

「いいえ!あんな卑怯な方だとは思いませんでした!困った時はいつでも私に言ってくださいね!絶対にリズ様をお守りしますから!」


とっても頼もしい味方ができてうれしい。

と、楽しくランチしていたのに、思わぬ邪魔者が現れた。


「カーラ!友達が出来たなら俺に紹介しろよ」

「ロート兄様…」


カーラより少し薄い赤髪に黒い吊り目の美青年が突然私の後ろに現れた。

私の座っている椅子に手をかけ、覗き込んでくるが近い…怖い…。


「おやめくださいロート兄様。リズ様が驚いています」

「へぇ、リズって言うのか。なかなか可愛い顔してるじゃん」


ロート様は私の顎を掴んでグイっと自分の方に向けた。

ひぃっ!顔の良い人怖い!強引な人はもっと怖い!!


「ロート兄様!!!!!」


私が本気で怖がり顔を引き攣らせたので、カーラは立ち上がって怒鳴った。

すると彼はパッと手を離した。


「はは!俺の妹は怖いな!じゃあまたな、リズ」


ロート様はそう言うとウインクをして去っていった。

チャラい。あの人絶対攻略対象者だと思う。


「リズ様、お気づきの通り兄は攻略対象者なので気を付けてください。ちょうどその話をしようと思っていたところだったのに、もう!」


やっぱりカーラの兄は攻略対象者だった。

今後は絶対に近づかないようにしようと心に決めた。


「ねぇ、カーラは全クリしたの?」


私は気になっていたことを聞いた。


「ええ。隠しキャラまで全てクリアしました!リズ様は王太子殿下しか攻略されていないと伺ったので、攻略対象者を教えてさしあげなければと思っていたのです」

「カーラ、ありがとう」

「ちなみに通常の攻略対象者五人に隠しキャラをプラスして六人です!」


カーラがひとりひとり教えてくれた。


「まずは王太子殿下、それからロート兄様、そしてリズ様のお兄様であるミハエル様、幼馴染のラインハルト様、一学年上のヘルムート・リンファンダマーク様、クラウス・ミュラー先生です」

「お、お兄様もなの…?」

「ええ、残念ながら。血は繋がっているのでヤンデレ監禁ルートです」


かなり衝撃の事実だった。

まさかお兄様まで…しかもヤンデレ監禁だなんて。


「やはりラインハルトもそうなのね…」


顔がやたら良いからそうじゃないかとは思っていた。

というか四大公爵家の子息は全員攻略対象者じゃないかと思ってはいた。


「ミュラー先生は隠しキャラなのかしら?」

「はい!全員をクリアすることで攻略できるようになるのです」


なるほど。

とりあえず教えてもらった方々とはこれから距離をとりましょう。


「カーラありがとう。その方達には近づかないようにするわ」

「それが良いと思うのですが…、そうはいかなさそうですね」

「え…?」


カーラが意味深な言葉を言ったと思った瞬間、背後から鈴の音のような声がかけられる。


「エリザベス様!お隣よろしいですか?」

「リーゼロッテ!……とラインハルト」

「何?俺が居たらいけない?」

「そんなことはないわ……」


リーゼロッテに笑顔で振り返ったが、ラインハルトを見つけて笑顔がひきつり、声も小さくなってしまった。

リーゼロッテはエリザベスの隣に座り、ラインハルトはリーゼロッテの隣に座ると思いきや、なぜかエリザベスの反対隣に座った。


(え、なんでわざわざ私の横座るのよ〜!)


「エリザベス様、いつの間にかカーラ様とお友達になられたのですね」

「えぇ、そうなの。カーラはとっても頼りになるお友達よ」

「そうなのですね。カーラ様!ぜひ私とも仲良くしてくださいませ」


リーゼロッテがニコリと笑ってカーラに言う。

するとラインハルトが悪態をついた。


「ダイアンサス嬢はどこでエリザベスと知り合ったんだ?ここで知り合ったにしては昔からの知己のように見えるが」

「ええ。学園で知り合いましたが、色々と共通点が多くすぐに打ち解けましたの」

「へぇ。とろいエリザベスと一緒に居られるなんて危篤だね」

「なっ……!?」


私がなんてことを言うんだと言い返そうとしたが、カーラの反撃の方が早かった。


「あらぁ、エラムルス様こそエリザベス様と幼馴染と書いてありましたが、そんなことを仰るだなんてなぁんにもエリザベス様のことをご存知ないのですね?」


くすくすと笑い悪役顔で挑発しているカーラはなんだか楽しそうだ。

するとリーゼロッテも援護する。


「お兄様おやめください!エリザベス様のことをそんな風に仰るならば席を移動してくださいませ!!」

「はぁ?なんで俺が移動しないといけないわけ?」

「なぜかはお兄様が1番良くおわかりだと思いますが!」


いつもこのパターンである。

はぁ。とため息を吐いて席を立った。


「エリザベス様っ」

「私は食べ終わりましたのでこれで失礼しますね。リーゼロッテ、またお茶会で会いましょう」

「はい…」


リーゼロッテには申し訳ないけれど、ラインハルトとこれ以上関わりたくない。

逃げるように食堂から立ち去った。


「リズ様〜!待ってくださ〜い!」


カーラが慌てて追いかけて来た。


「あ!ごめんなさいカーラ!」

「いえいえ!間に挟まれて言い争いが始まったら誰だって嫌ですよ〜。私もイラっとして思わず言い返してしまいました」


てへへと困ったように笑いながら言うカーラに、ラインハルトの代わりに謝罪した。


「ラインハルトはいつもあぁなの。嫌な気持ちにさせてごめんなさい」

「いえいえ!リズ様が謝ることじゃないです!エラムルス様はツンデレですからね〜」

「ツンデレ」


幼馴染として長く関わって来たが、攻略対象者だとも気づかなかったし、ただの口が悪い意地悪な子だと思っていたが…ツンデレだったのか。


「ミハエル様がヤンデレ、ロート兄様がチャラ男、王太子様が粘着、エラムルス様はツンデレ、リンファンダマーク様は堅物、ミュラー先生はお色気担当だったかと」

「皆さんキャラが濃いのね。普通の方はいないの……?」

「元がゲームですしね。普通の方はいないですねー」

「嫌だわ。攻略対象者とは関わらずに楽しい学園生活を送りたい」


ただただ普通の生活がしたいだけなのに。

今後、攻略対象者との関わりを避けていくことはできるのだろうか…と肩を落として教室へと戻るのだった。



授業が終わり、教室を出ようとしたところで声をかけられた。


「すまないがこの書類を生徒会室まで持って行ってもらえないだろうか?私はこのあと急な会議が入ってしまって急いで移動しなければならなくてね」


声をかけて来た教師がミュラー先生だったので少し身構えてしまったが、お使いを頼まれただけだったのでホッと胸を撫で下ろした。


「生徒会室ですね、生徒会の方にお渡しするだけでよろしいのですか?」

「あぁ。渡すだけで大丈夫だ!すまないがよろしく頼むよ」

「かしこまりました」


書類を受け取り生徒会室のある特別棟へ向かって歩き始めた。

カーラはどうしても外せない予定が入っていると急いで帰ってしまった。

何もないと良いが…。

ゲーム的なことが起こっても一人で対処しなければと気合を入れ、少し挙動不審になりながら生徒会室を目指した。


コンコンと生徒会室と書かれた札が掛けられた扉をノックすると、どうぞと返事があったので中へ入った。


「失礼いたします。ミュラー先生より書類をお預かりして参りました。お渡しするだけで良いとのことでしたが、確認して頂けますか?」

「あぁ、ありがとう。こちらへ。確認する」


低い声に無駄のない言葉選びで声だけ聞くと怖い印象だが、その声と対照的な甘いマスクに驚いてしまった。

金の髪に濃い深い青の瞳。

先程カーラが堅物と言っていた攻略対象者、ヘルムート・リンファンダマークが居た。

そういえば彼が生徒会長だった。

すっかり忘れていた。


「よろしくお願いいたします」


攻略対象者には関わりたくないと思っていたのにすっかり彼のことを失念していた。

やってしまった…が、ただ書類を渡すだけだ。

さっさと頼まれごとを終わらせてしまおうと手渡した。

じっと渡した書類を見る顔はとても絵になっていて、思わず見つめてしまった。

読み終わって顔を上げた彼と目が合ってしまいドキッとした。


「ふむ。届けてくれてありがとう。内容も確認できたしもう大丈夫だ」

「はい。それでは」


ペコリと一礼をして部屋を出て行こうとしたが、突然腕をつかまれた。


「ひゃっ!?」


驚いて振り返ると、思いのほか近くに彼が立っていた。


「す、すまない。その………」


あうあうと口を開け閉めして視線をキョロキョロと動かす。

そして意を決したようにリンファンダマーク様は声を発した。


「実は……茶会などで君と会ったことがあるのだが、覚えているだろうか?その…あまり話したことはないと思うが」

「え、えぇ。はい。リンファンダマーク様のことはお見かけしたこともありますし、存じております」


私の返答にリンファンダマーク様は嬉しそうに破顔した。


「そ、そうか!よかった!!えぇと、よければ…その」


しかしすぐにもにょもにょと口籠もってしまう。

んん?もしかしてゲーム的な事が起こっている?

私の予感はどうやら当たってしまったらしい。


「と、友達になってもらえないだろうか」


真剣な顔で正面から私を見て言うリンファンダマーク様は確かに堅物かもしれない。

でもとても真面目な方なんだなぁとつい頬が緩んでしまった。


「ふふ、友達になろうと面と向かって言われたのは初めてです。」

「す、すまない。おかしかっただろうか?だが今言わなければ次またいつ会えるかわからないし、その……」


視線を泳がせてまたもごもごとしてしまった。

それにちらちらと捨てられた子犬のような視線。

なんだか耳も見える気がしてきた…。

その様子がなんだか可愛らしくて、私は思わずOKしてしまった。



帰りの馬車の中、私は手で顔を覆い反省していた。

なぜOKしてしまったのか………。

子犬の耳が見えた気がして、あの視線でみつめられたら断れなかった。


「お友達と言っても学年も違うし、きっとそんなに関わることもないはずだわ!大丈夫!」


不安な気持ちを誤魔化すように自分に言い聞かせた。



翌日、生徒会室での一件をカーラに話した。


「あらまぁ。もう攻略対象者全員と会われたんですね。これはもう乙女ゲームが始まっちゃってますねー」


カーラの言葉に私は顔色を無くした。


「やっぱり……は、始まっちゃってるのかしら?」

「色々とゲームとは違うところもありますが、私が見た限りでは始まってますね」


私は両手で顔を覆い、机に突っ伏してしまった。

乙女ゲームをするつもりもないし、恋愛をするつもりもない。

私はただ健康な体で学園祭方を楽しみたいだけなのに!


「大丈夫ですよう!リズ様が乙女ゲームをする気がなければ全員スルーすれば良いのです!!イベントが起こってもゲームの様に行動しなければ平気ですよ!」

「私が行動しなければ……?」

「そうです!ノーマルエンドになるだけですよ!」


ノーマルエンド。

誰とも結ばれずに終わることかしら?

カーラに聞くとその通りです!とノーマルエンドについて教えてくれた。

まとめるとノーマルエンドはみんな幸せに暮らしました的な終わりを迎えるらしい。


「そんなルートがあるのね。それなら…私、ノーマルエンドを目指すわ!」


乙女ゲームの見た目がヒロインな悪役令嬢に転生した私は、ノーマルエンドを目指して頑張ることにした。


せっかく健康な身体を手に入れたんだもの!

ノーマルエンドにしてみせます!!





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