05-19.格闘王、竜王を捕らえる
アガシャー王はボルハンのロトムの剣戟を受け流しざま、しゃがみ込むようにしてロトムの脛めがけて切り付けてきた。
「ぐあっ!」
ロトムは短い叫び声をあげて一歩後ずさった。
「ロトムっ!」
岡崎は叫び、思わず前に出た。
魔剣の鋭い一閃は、ロトムの脛あてごと下腿部を切り裂いていた。
ロトムの左後ろから戦いを見守っていた岡崎の目には、出血部位が見て取れた。
「くっくっくっ。うぬは体格の良さが自慢のようだが、小兵には小兵の戦い方というものもあってな。余は自分より上背のある戦士たちとの戦いには慣れておるのだ」
血色の良くない悪相の王は、魔剣ゲライオンに付いたロトムの血をぺろりと舐めて笑った。
「ロトムっ! 竜王は強いっ! 卑怯と言われようとなんだろうと、二人でかかるしかないぞっ!」
「黙れチヒロ! この程度の怪我なんでもないっ!」
ロトムは剣を構え直して岡崎に向かって叫んだ。
「威勢だけは良いな、ボルハンのロトム。お前たちを倒してトラホルンの雑兵どもを何百人か屠れば、血路は開かれるようだな!」
バルゴサの竜王アガシャーは嗤った。
「かかってこいっ、雑兵の頭目よ!」
「ぬかせっ!」
ボルハンのロトムは左脛の痛みをこらえて再び剣をふるった。
ロトムの剣は勢いの乗った剛剣であるが、それに対するアガシャーの剣は流麗で優雅な動きであった。
魔剣の切れ味からすれば、撫でるように切りつけるだけで敵の鎧を切り、肉を割いて骨を断ち切ることもできるのだろう。
岡崎は決断した。この戦い、一対一ではロトムに勝ち目はない。
ロトムとアガシャーが剣と剣をぶつかり合わせて対峙している中、岡崎は素早く駆け出してアガシャー王の背後に回り、その右腕を両手でロックした。
「チヒロ、お前っ!」
「手段は選んでいられないっ! こうしている間にも死ななくていい人間たちが何人も死んでいるんだっ!」
「はははははっ! 臆病で卑怯なトラホルン人に相応しいやり口よのっ! よかろう! 余の首を刎ねよっ!」
「ちいっ!」
ロトムがアガシャーにとどめを刺そうとしないので、岡崎は抵抗するアガシャーの右手から魔剣をもぎ離した。
魔剣は床に倒れているトラホルン兵の死体の上に落ちた。
それから岡崎は素早く腕を組みかえてアガシャーの背後から持ち上げ気味のスリーパーホールドを決めて、その意識を奪った。
「恨むぞ、チヒロっ!」
ロトムは岡崎をにらみつけて吐き捨てるように言った。
「ああ、恨んでくれても構わないさ!」
岡崎は高級客室のカーテンを切り割いて布紐を作り、アガシャーの両腕と両足を縛り付けた。