05-18.格闘王、戦いを見守る
「チヒロ、ここは俺に手柄を譲ってもらう!」
ロトムが岡崎を制して前に出た。
「バルゴサ王アガシャー陛下、お初に御目通りいたす! 我が名はボルハンのロトム。トラホルンの勇士ロトムの孫にして、ギスリム国王の婿なりっ!」
名乗りを上げて、ボルハンのロトムは右手に剣を構えた。
「気をつけろロトム! あの魔剣は切れるぞ!」
「分かっている!」
「ボルハンのロトム? うぬが祖父ロトムの勇名は聞き及んでおる。だが、孫のほうの名はとんと聞かぬな」
アガシャーは嘲りを込めてわらい、ロトムを挑発した。
まだこれといった武功を打ち立てたことがない、というロトムの焦りを察知したものだろうか、と岡崎は考えた。
ロトムが功を焦ってしまうことがないように願ったが、口に出して言えば逆効果になると思いなおし、岡崎は黙った。
ロトムは足元に敷かれた屍の絨毯を踏み、血の池に足を浸して、一歩一歩慎重に竜王に近づいていく。
入り口の扉を大きくあけ放たれた寝室の窓際に半身で立ち、アガシャー王は魔剣ゲライオンを構えている。
(ここは卑怯と言われようと何だろうと、二人で襲い掛かるべきだろうか?)
岡崎は迷った。後でロトムに恨まれようとどうなろうと、ロトムを死なせたくはなかった。
戦いの趨勢によっては加勢に飛び込もう、と岡崎は心を決めて、ロトムの背をゆっくりと追った。
「後ろの大男は何という? ボルハンのロトムとやら、その男と二人で同時にかかってきても良いのだぞ?」
アガシャー王は余裕があるような口ぶりで、冷やかすようにロトムに言った。
「後ろに控えているのは同じくトラホルン国王ギスリム陛下の婿、オカザキチヒロ! あの高名な<竜殺し>の一員だ!」
ロトムは竜王に言葉を投げ返し、岡崎の方を振り返らないまま、
「手出しは無用だぞ、チヒロ! 竜王アガシャーの首は俺がとるっ!」
と言った。
(なるほど。俺が加勢できないように上手に牽制されてしまったか)
まだ若く経験の少ないロトムに対して、竜王アガシャーは経験豊富で頭も切れるようだ。そして、右手には魔剣を携えている。
「まいるっ!」
攻撃できる距離まで近づいたとみるや、ロトムが仕掛けた。
片手剣を真一文字に、アガシャーの頭上に振り下ろすように鋭い斬撃を放った。
アガシャーは魔剣ゲライオンでそれを受け止め、右に受け流しつつ左に体をかわした。
そして、そのまま体を沈み込ませるようにして、ロトムの脛を切りつけにかかってきた。