05-15.元連隊長、情報を得る
その日の夕暮れ、タモツはいつも通り中庭で押井商会からの念話通信を待っていた。
つねに行商のために動き回っている押井たちのほうにこちらから呼びかけるには居場所が特定できないため、タモツのほうが同時刻に同じ場所で待機するという形をとっていた。
バルゴサ国内に駐留している押井からは、その日も連絡があった。押井の連れている黒魔導士が現在地を知らせてきて、タモツがそれを逆探知する形で押井に念話を送り込んだ。
(押井くん! 今日は大変なことがあった。バルゴサ軍がボルハン城上空から爆撃を試みたんだ)
(なんですって!? それで、被害は防げたのですか?)
(うん、何とか間に合ったよ。爆槍と呼ばれる破壊兵器と思われるものを投下されたんだけど、成層圏の彼方まで転送して破壊した)
(そうでしたか――。その、爆槍というのは?)
タモツは簡単に説明した。古代イムル王国時代に使われた呪詛と爆発の術式が込められた恐ろしいもので、何者かがそれを模倣して作ったものではないか、ということを押井は飲み込んだようだった。
(この兵器の開発に、カディールが絡んでいるのではないかと国王は見ている。僕もそう考えていたところだ)
(カディールからそんな危険なものを輸送してきたとは思えないですね。そうなるとカディール出身の魔導士がバルゴサに駐留して、それを長年にわたって開発してきたのか……)
(カディールから渡ってきた魔導士なり、集団の噂を聞いたことは無いかい? カディール帝国が国を挙げて今回の戦乱に加担しているのか、あるいはバルゴサが一部のカディール人を引き抜いて味方につけているのかも今のところ分からないんだ)
(カディールから渡ってきた人間、ないしは集団ですか……)
押井はしばらくの間考えこんでいたが、再び念じた。
(望星教団、という団体の噂を聞いたことがあります。カディールから流れてきて急速に信者の数を増やしているとか)
(なんだって!?)
(ご存じなのですか?)
(僕は最近知ったばかりなんだけど、その宗教団体にはいろいろと怪しげなところがあって学院でも警戒をしていたらしい)
(輪廻転生を肯定するという点で、バルゴサ人には受け入れやすいところがあるようなのですが、食糧難や生活苦にあえいでいる民衆の中には教団が行う炊き出しがありがたいようです。また、<教祖には来るべき未来が見える>とする、望星教団の神秘性が魅力に映るようですね)